29、留学生
ムージマハル国から留学生がくる事になった。
パトロシス王子殿下と同じ学年、アシェリの一つ上にくる事になった急な留学だった。
実際に来た留学生は2人、褐色の肌に艶やかな黒髪に琥珀の瞳の野生の獣のように警戒心の強い黒豹のような男性と同じく褐色ながら金髪にスカイブルーの瞳を持ち生まれながら支配者 獅子のような風格の男性だった。
黒豹の方がカラバスク・パーマシー、そして獅子の方がダリウス・トラガルト。
2人共 ムージマハル国の伯爵家の人間で、各国に留学しているらしい。何事も自分の目で見て経験する事を父親の方針でこちらに留学する前も各国を漫遊?していたらしい。
パトロシス王子のいなくなった学年に新たなスターの投入で女性たちは騒がしくなった。
アレクシス王子殿下にも挨拶をし学園で話題の人となっていた。
「アシェリ・ガーランド公爵令嬢とはどんな人物ですか?」
アレクシス王子殿下はピクリと反応した。
「何故そんな事を聞くのか、聞いてもいいかな?」
「んーーー、このスターチス国だけではなく我が国でも他国でもガーランド公爵家の名は有名です。同じ年頃の娘がいると聞いてどんな人物か会えるのを楽しみにしていたのですが、ちっとも噂を聞かない。あれほどの家柄であれば学園を取り仕切っているかと思っていたのですが全くその気配もないので学園には来ていないのか気になったのです」
「んー、なるほどそうですか、確かにガーランド公爵家は有名でしたね。ええ、学園に来られていると思いますよ。私は学年が違うので詳しくは知りませんが、とても物静かな方です」
「そうなのですね、出来れば紹介いただきたいのですが、どなたか親しい方はいらっしゃいませんか?」
「アシェリ・ガーランドは私と結婚し今はアシェリ・スタッドとなっております。
人見知りで上手く会話は出来ませんが、紹介だけでしたら出来ますよ?」
「えっ!? 既に結婚をされているのですか!?」
「はい、彼女は私の最愛の人です」
「へぇ〜〜〜」
上から下までねっとりと見ている。
「あ、失礼。私たちはまだ若い、もう結婚し1人の女性に決めてしまうには早計ではないかと思いましてね。 この国は一夫多妻制ではなかったですよね? 結婚してどのくらいですか? まだ私たちは若い、色んなタイプの女性と付き合って結婚という牢獄まで自由にしたいとか、他に運命の女性がいるとは思わなかったのですか? どうせ結婚なんて政略的なもの、そんなに急いだってメリットが有るとは思えないな」
「考え方は人それぞれですので否定はしません。ただ私は彼女と結婚できて幸せです」
「……そう…なんですね」
「失礼ではないか? セルティスの言う通り彼らは国にも認められた正式な夫婦なのですから」
「はい、申し訳ありません。文化の違いでしょうか、我が国は一夫多妻制ですが、1人の女性をこんなにも若い時に決めてしまう事が信じられなかっただけなのです。他意はないのでお許しください」
「お気になさらず、私は気にしていませんし、学生結婚自体が稀ですのでし、相手がアシェリ・ガーランドでしたのでそう言った質問もよく受けます」
セルティスは珍しく普通に受け答えをしている。
「あなたから見たアシェリ嬢はどんな方ですか?」
「可愛らしい人です」
「それだけですか?」
「彼女の魅力は私だけが知っていればいい事ですから ひけらかす必要はありません」
「スタッド伯爵は存外に独占欲がお強いようだ」
ニヤニヤ意地の悪い笑みで舐め回す。
「はい、そうですね」
相手の煽りにも一切動じないセルティス。
「………それで、アシェリ嬢とは会わせていただけますか?」
「そうですね、本人に確認してみます。ですが、先ほども申し上げた通り彼女は人見知りが激しいので会話ができるかはお約束できません」
「…なるほど。 主導権はアシェリ嬢なのかな? ふふ」
馬鹿にしたような笑い、明らかな挑発だったがそれにもセルティスは反応しない。
「私にとって妻は所有物ではありません。私の立場よりも彼女の意思を尊重したい、それだけですよ。主導権…主導権か、いいですね ふふ」
「それは何に対する笑いですか?」
ヒクりとしている。
「あ、いいえ 彼女が主導権を持って私の側にいる、それは嬉しいなと思いまして」
「惚気か? これは意外なものを見た。このセルティスは普段はここまで感情を出さないので…、そう言えばアシェリ嬢と2人の時は表情豊かになっていたね、羨ましいな」
「殿下は何が羨ましいのですか? 愛する人がいる事ですか? それとも主導権を持つ相手に愛されることですか?」
まただ、性格悪いなこの男…。
「我々はあまり感情を出す事を良しとされないからね。素直な感情に憧れがある」
「確かにそうですね、失礼致しました」
ダリウス・トラガルトとカラバスク・パーマシーが出ていくと皆が嘆息した。
「セルティス、よく堪えたね」
「ああ、本当に! あれはわざとだろう? なんかムカつくやつだったな!」
「ヒューゴはあの2人を知っている?」
「いや、直接取引でもしたないと分からない」
「そうか、なんだか尊大でとても放蕩伯爵子息には見えなかったな」
「ところでアシェリ嬢を紹介するのかい?」
「そうですね」
「アシェリ嬢が怖がるのではない?」
「恐らく。ですが彼らは最初からアシェリが目的のようだったので今回断っても同じ事だと思いました。ガーランド公爵家の娘ですから利用価値は色々とありますからね」
「随分冷静だな」
「ははは、アシェリと結婚してから私自身もよく狙われますからね、ただまたか…そんな印象です」
アレクシス王子殿下の元にも襲撃や拉致未遂の報告は入っている。
「何か相談に乗れることがあれば言いなさい」
「はい、そう致します」
「あのセルティスって奴は食えない奴だな」
「ああ、思っていたより厄介だな。情報を何も得られなかった」
「まあガーランド公爵家のアシェリ嬢の婿に収まった人物だけのことはあるわけだ」
「さて、アシェリ嬢に会わせて貰えるかな?」
「まあ、今のままでは無理だろう」
「だな。まあ時間はまだある、様子を見よう」
「ああ」
「聖女マリアにも会ってみるか」
「そうだな、こちらはすぐに会えそうだ」
「聖女様はどんな男が好みかな?」
「野生的な男の方が刺激があると思うが どうかな?」
「この国にはない野生味で翻弄してやればいい。それが目的なんだろう?」
「ああ、面白い女がいればいいのだがな ふふん」
悪い顔をしている。
今日はイベントの日だ。
だが確定ではない。と言うのもどのルートか確定していないからだ。まあアレクシス王子とも、決定的な心を通わせるイベントを出来ていないので、まだどのルートにも変更ができる。元より物語はアシェリが入学してから本格始動するからだ。
アシェリの悪役令嬢はアレクシス王子殿下たち攻略対象と学年が違うので、ヒロインのマリアと攻略対象者たちとのイチャラブ親密度アップイベントは休憩中に時々発生する…、本来はそこにアシェリが突撃する。
今回あるイベントは食堂で悪役令嬢アシェリがヒロインに絡む。
お約束の男爵令嬢であるマリアが公爵以上の家格のロイヤルエリアで食事をする事に嫌味を言いながら近づくアシェリ、言いたい放題言っていると後ろにはアレクシスが立っていて、
『あらあら、文字も読めないのかしら?』
とマリアの頭に水をちびちびと流していく。
『私が許可したのだ、私たちと共に食事をしようと誘った! 貴様こそ何様のつもりなのだ、これが淑女のする事か!私の友人に礼を尽くせ!』
となって…
『何故 婚約者である私ではなくその元平民の女を食事に誘うのですか!?
殿下は、それがどう言う結果を招くか理解なさっているのですか?』
ワナワナと震え睨む、はい! 1カメアレクシスを引きからアップでバーン!
『私は間違った事をしたとは思っていない。改めるべきはそなただ、マリア嬢に謝罪せよ』
震える手でドレスを握るアシェリの手のアップ からの〜 真っ赤になって憤怒に燃えるアシェリのアップ
『わたくしは謝罪など致しません!』
『先程 身分がどうとか言っていたな、では私が第1王子として命令する 今すぐマリア嬢に謝罪しろ!』
『くっ!』
そこでヒロイン はい!
『アレクシス様! もういいのです、私はいいのです。アシェリ様… 今後はアレクシス様がいない時に1人では使用致しません、お許しください』
『何故、そなたが謝るのだ! 悪いのはあの者だ!』
周りは優しい聖女マリアに涙し、アレクシス王子とマリアは2人のイチャコラする、アシェリは1人プライドをズタボロにされ、唇を噛み締め人混みを縫うようにして去っていく。
ゲームの時は はい ここでバーン! とかチャチャ入れて見てたけど、アシェリちゃんがこんな目に遭ったら可哀想で抱きしめたくなっちゃうよなー!
元はと言えば王子の浮気のくせしてさー!
ロイヤルエリアに1人マリアが座っていれば、『なにしとんねん!』と思う奴は1人2人ではない、それを代表して普段の鬱憤もあるからアシェリちゃんが言っちゃっただけやんかー。
婚約者蔑ろにしすぎやろがー!
アシェリちゃんとの婚約でいくらパパンからご祝儀に大金融通してもらったか知ってて婚約者アシェリちゃんの前でイチャラブしてやがんのかい!って話だよ、あー、本当アレクシスと婚約しなくて良かった!!
と言う事で当然今日は食堂には行きませ〜ん!
どうして今日と知っているかと言えば、テストの結果が出てアレクシスが『食堂で祝ってっやる』って流れだから。だから?私は午前中体調不良で学園をお休みしました。テヘペロ
ん? そう言えば私のテストの結果はどうなったんだろうか?
まあ、バーバラちゃんがいるから問題ないだろう。
さーて、遅刻してきた私が今どこにいるかと言えば…アレクシス王子殿下の執務室の前。
昼休みになってすぐの時間、イベントはこれから起きる…かも知れない。
「スタッド伯爵、アシェリ嬢がお見えです」
「えっ? ああ、分かった。殿下 少し席を外します」
「ああ? ああ、分かった」
「アーシェどうしたの? 午前中休んでたって? 大丈夫?もういいの?」
今日はセルティスは殿下のご用事で家を先に出ていたのだ。
そっと耳元に近づくと
「お昼 一緒に食べたいなって」
上目遣いがバリ可愛い。
「ちょっと待っててね」
「殿下、本日の昼休みは休みを頂けますか?」
何気に先程 『午前中休み』だったと聞こえていたアレクシスはアシェリ嬢の体調がよくないのではと気になったが、口を挟んではいけないと呑み込み
「ああ、構わない。我々も丁度食事の時間だ、一息入れよう。
セルティス、気にせず行って構わない。本日は…私も王宮へ行くのでこの後は戻ってこなくとも構わない、お疲れ様」
「はい、承知致しました、失礼致します」
セルティスは出て行った。その背中を見つめ切なそうに見つめるが…気を取り直し
「本日はテストの結果発表の日だったな。それを見てから食堂へ行こう」
「はー、食欲がなくなりますよ」
「あれ、ハワードはあまり良くなかったの?」
「毎回必死でやっているが…な。落ちるわけにはいかないとプレッシャーなんだ。どうしたって座学より剣術の方が力が入るからな。25番以下に落ちたら稽古の時間が勉強になってしまう。そうなれば泥沼の中で稽古をするようなものだ」
「ああー、なるほどね。ドナルドはどうなの?」
「まあ、私も似たようなものだ。魔術の勉強に当てたいが座学が15番以下に落ちれば、時間をそちらに取られる。ヒューゴは?」
「今回 正直自信がない。うちは30番以内なら問題ないけど、最近ライバル店の影響で家の中がピリピリしてるから成績が落ちたら何をさせられるか!」
「ああ…辛いところだな。殿下は如何ですか? 常に1番をお取りになっておられますが、1番でなければ何かあったりするのですか?」
「いや、私はないが…ただ立場的にね。変に気を遣われるのも気不味いし第1王子として気を抜けないかな…」
「はぁ〜ご立派ですね。入学以来常にトップなんて出来ることではないですよ!」
「それが違うのだ」
「違うとは?」
「入学の時 クラス分けのテストがあっただろう? あの時私は2番だった。恐らく1番はセルティスだ、だがそれ以来セルティスが1番になる事はない。あれは敢えて間違えて1番にならないようにしているのだな」
「なんでそんな事?」
「さあな、あまり目立ちたくなかったんじゃないかな」
「あー、なるほど…、そう言う理由なら分かります。普通ならアシェリ嬢の横に並ぶため最大限の努力を示しそうなのに」
「殿下の勘違いでは?」
「私の側近試験 覚えてるか? あの時ステファンとセルティスだけ満点だった…。
セルティスが1番を譲るのは私の為ではないことは間違いないが、何のためかは分からない」
「くっそー! 俺なんかいつも真剣なのにな!」
「ははは、それでいいんだ。はー、私も1度位実力で1番をセルティスから奪ってやりたいがな…」
アシェリは叶わなくても成績くらい…。
「はーーー、緊張する! サッサと見て食事にしましょう!!」
「ふふ ああそうだな」
皆で成績発表の場所を目指した。




