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22、カップケーキの行方

マリアの行動に悩まされながらも周りのサポートもあり最近は接触なく過ごせていた。

そしてその分、アレクシスはパトリシアと一緒に過ごした。

「へぇーパティは優秀なのだね」

「いえ、それほどでも。ただ私には魔法は発現しませんでしたので淑女コースとなりました」

「そんな顔をする必要はないよ。魔術コースも魔術が発現したと言っても魔術師団に入れる様な力を持つ者はいないよ。ここだけの話…私もパティも大して変わりない」

「クスクスクス アレクシス様ったら…お優しいのですね」


「パティと話をしていると落ち着く」

「まあ嬉しいことを。お疲れなのですか?」

「ん? んー、マリア嬢と初めて話した時、歯に衣着せぬ物言いが面白く感じて楽しかった。周りは私の持つであろう権力にしか興味がない、取り入ろうと耳障りのいいことしか言わない。だからはっきり物を言う彼女が新鮮だった。だけど次第にそれは危険なものに感じた。今となると貴族としての資質がない、不勉強なだけだと分かったからね。だからパティの正しい言葉遣いや行動を見ていると安心するのだ」

「そうだったのですね、お寂しかったですね」


「ふふ、そうだ、王妃教育が始まったとか…。問題ない?」

「ふふふ、ここだけの話、アレクシス様と歳の近い女性は皆小さい頃から王妃教育を受けております。辛いのには慣れております。でも…他の令嬢はその努力が報われなかったのですから、彼女たちに比べれば私は報われた分幸せです」

「なるほど…」

アシェリもしていたのだろうか? それとも選ばれないためにしなかっただろうか?


「アレクシス王子殿下―!! アレクシス王子殿下どこですかー!!」

遠くでマリアの声がする。大きな声で名を呼ぶなど貴族あるまじき、がっくり肩を落とす。


「なるほど アレクシス様の懸念通りでございますわね」

「当事者にならなければ気にならないのだが」

「左様でございますね」


「あー! 見つけたー!!」

今日は庭の四阿にいたので気づかれてしまった。だが、急用でもなければ婚約者と2人でいるところに近寄ってくるなど普通はない。アレクシスはあからさまにゲンナリした顔をする。


「ねぇー! アレクシス王子殿下はそこで何してるの? お茶? だったら私も一緒に飲みたーい!」

マリアの前に護衛が立ち塞がり先に進めない。

「ねえ、また意地悪するの? いい加減怒るよ!」


「お帰りください。現在殿下はご婚約者様とご歓談中でございます」

「いいじゃない、私も入れてくれたって! お話ししているだけなんでしょう?」

「聖女様は最近勉学にあまり身が入らないと魔術師団長がお嘆きになっているとか…。お戻りになって予習をなされるべきかと」

「酷い! 何でそんな意地悪言うの? うぅぅぅ、それもアシェリの指示なの? そういう風に言えって言われているのね! 本当に嫌な人!!」

「あなたは無関係な人を悪人に仕立てる才能がお有りですね、その上、意地が悪くて嫌な人ですね」

「ひ、酷い!! これは虐めだわ!!」

「へぇ〜、あまりに言葉が通じないから伝わらないかと思ったが、自分に置き換えると通じるんだ。

兎に角 邪魔なので帰って下さい。恋人同士の時間を邪魔しないでください」

最近は護衛たちも あまりに話が通じないので嫌味も込めてはっきり言う。


「聖女の力であなたを治してあげる! 元気になぁれ!」

ピカーーーン

「はいはい うわーーー、元気になったー! アリガトウゴザイマス セイジョサマー

さあ、帰ってください」

「もう有り難みのない! ぷんぷん あっ、ねえ!このカップケーキアレクシス王子殿下に渡して! 絶対! 絶ー対! 渡してね!!」



「という事で 何とか帰ったのですが、このカップケーキを置いていきました」

「怪しさ満点だね。媚薬とか混ぜられてたら困るからあげるよ」

「いえ、結構です」

「なら処分して」

「はい」

マリアの行動のせいで学園内は聖女様の地位は地に落ちていた。



今日は魔術訓練がある。しかも王宮の訓練場で行うのだ。

学生の中には制御が上手くいっていない者もいるので設備の整った王宮を借り、魔術師がサポートにつく。

カミラの話では今日はイベントがあるらしい。

そこでドナルドの魔力が暴走してアレクシス王子殿下が巻き込まれて怪我をする。そこに聖女マリアが傷ついた人々を回復魔法で癒す。そして聖女マリアは絶大な信頼を得るのだ。

つまり 今日はマリアの見せ場! ニマニマ

カップケーキも食べたはずだし、これでアレクシス王子殿下は私の事を好きになる! よし、間違いなし!!


ドナルドは父が魔術師団長になった事で自分も跡を継ぐべく精進していた。もっと強くもっともっととその思いが強くなりすぎて暴発するのだ。


授業が進むとカミラが言っていた場面に差し掛かった。

マリアは爆発に巻き込まれない様にそっと距離を取る。


「それでは皆さん、対象物にご自身の持つ魔法で攻撃を仕掛けてみてください!」

「「「はい!」」」


ここでは殆どの者がタクトの様な魔法の杖を持っている。

初心者には魔法の杖を持って魔法を行使する方が座標も定りやすく、目標に命中しやすいのだ。

3グループに分かれて5m先の目標物に攻撃する。

風魔法・火魔法・水魔法 魔法属性ごとに分かれて狙う。


アレクシスとドナルドは火魔法、セルティスは水魔法だ。因みにマリアは光魔法で攻撃魔法は向いていないので見学し後で個別指導だ。

魔法訓練と言っても殆どの者が初級魔法しか使えないので、攻撃をしても対象物の的に当たるかどうか程度の実力しかない。


皆が持っている魔法の杖は自前なのだ、それぞれ相性があるので学園側から支給もできない。それぞれが力を発揮できる物を購入してくる、だがこの杖の選定は非常に重要で素人はつい高級な素材や高価な魔石がついている物に頼りがちになる。実際 高級品は使いやすく魔法の威力も増すと言う。ただ それは自身の魔力制御が完璧にできる様になってからの話だ。ここにいる者たちはまだ未熟で完璧とは言い難い。増大された魔力を制御出来ない、つまりはドナルドの暴走はそれが原因なのだ。まずは自分に合った杖を選ぶそれが必要だった。早く成果を出そうと焦ったが故だった。


アレクシスが火の魔法で的に向かって魔法でファイアボールを飛ばした。その横ではセルティスが水魔法でウォーターカッターを的目掛け飛ばした。大半の者が的まで届かない中アレクシス王子殿下とセルティスは見事命中し拍手喝采を浴びていた。

次はいよいよドナルドの順番だった。


ドナルドが杖を振ると、

「キャーーーーーーーーーーーーー!!!」

悲鳴に驚いてそちらを見るとマリアが頭を抱えて蹲っていた。

「どうした? 何かあったのか!?」

「えっ? ああ、いえ 何でもありません」


あ、あれ? 何も起きない。早すぎた?

「よし、気を取り直して もう一度!」

「「「はい!」」」

殆どの者たちは届かなかったが、ドナルドもちゃんと的まで届いて命中させることができてご満悦。変な横槍は入ったが満足のいく結果だった。セルティスとドナルドは互いを称え合った。


「セルティスのお陰で調子がいいよ!」

「うん、この間の練習より使いこなしてる感じがある。良かったな!」

セルティスも普段は無表情なのに笑顔で称え合っている、それがレアで皆二度見した。


「何? どう言うこと?」

「先日2人で杖を買いに行ったのです。私はつい大きな魔法を扱いたくて高価な杖を買おうとしたのですがセルティスに、自分たちは初心者なのだから身の丈に合った相性の良い杖を選ぶべきだと諭されて…。セルティスの手前、相性のいい初心者用の杖を購入して帰ったのですが、気になって後日高価な杖もこっそり購入しました。

日々の鍛錬で両方使って試してみたのですが、恥ずかしながら 高価な杖は私には使いこなせませんでした。それからずっとこの杖で練習しています、セルティスが選んでくれた杖が使うごとにしっくりくる様になって魔法が扱いやすくなったのです。本当にセルティスには感謝してもしきれません、この杖に巡り合わせてくれた事に感謝しています」

「いや、やっぱり巡り合わせだよ! あの時ドナルドに会えてこの杖も喜んでいると思う! 良かったな!」

「ああ!」


「そうか、なんだか羨ましいな。でもドナルド良かったな」


遠くでは

「何でよ! 何で何も起きないのよ!! ドナルドが暴発するはずでしょ!! おかしいわよこんなのー!!」

とマリアが騒いでいた。

それが聞こえるとそこにいた全員がマリアを白い目で見ていた。

一生懸命に頑張っている仲間の失敗を願うなど人格を疑う出来事だった。

この頃になると、見目の麗しいマリアだったが貴族学園全体を敵に回す様になっていた。



王宮では王妃陛下にパードック侯爵が謁見を求めていた。

「どうかなさったの?」

「実はマリアの事です。貴族学園でも素行の悪さからあちこちの家から苦情がきています。そして1番懸念しているのが…、妄想に取り憑かれている事です。

貴族としての品格がないとか頭が悪いくらいは多少我慢が出来ますが、ガーランド公爵家のアシェリ嬢を敬称もつけずに名指しで非難する事だけは許容できません」

「どう言う事なの!?」

「耳を疑う内容ですが…、アシェリ嬢を悪役令嬢と言い放ち悪し様に言っているらしいのです。

殿下には婚約者がいるから執務室に度々来られるのは迷惑だと伝えると『アシェリの仕業ね! アシェリに命令されて言わされている』だの、その…『殿下の婚約者はアシェリでしょ? 私とアレクシス王子殿下の仲を嫉妬して邪魔してるんだわ』などと触れ回っているらしく、万が一の事があってその責任を取れなどと言われるのは納得がいきません。養子縁組を解消させてください!」

「待ちなさい! それは早計ではない? 大体マリアには恩があるのではない? パードック侯爵領の病をあの子が救ってくれたのよ? それをガーランド公爵家が怖いと言う理由で解除するには義理が通らないわ、違う?」


「それについてなのですが…、マリアが回復魔法で領民が回復したことは事実です。ですが、根本の原因は不明のままでした、マリアの回復魔法で当初は回復したかに思われましたが、その後また症状が出て多くの者が命を落としました。マリアの回復魔法は一時的に体力を回復させただけで、根本の治療は出来ていなかったのです」

「まあ、なんて事なの!? それで病はどうなったの? まさかまた広がっているの?」


「いえ、…それが症状を聞いたガーランド公爵が今回の病は病というより中毒かもしれないと助言をくださったのです。確証はないと仰りながら2種類の薬を提供頂きました。

1つは解毒薬、もう1つは痛み止めです。すると10日後位で皆回復致しました。

自分たちでも解毒薬を調達し処方してみましたが同じ結果は得られませんでした」


「まさか! ガーランド公爵に仕組まれたのではない?」

「………、私も当然疑いました。そしてそういった結果を招く恐れもあったのにガーランド公爵が手を差し伸べた意図も…考えました。ですが結果として違いました。愚かな私をガーランド公爵はあくまでも善意で救ってくださったのです、自身の経験からもしやと、助言下さった…なかなか出来ることではありません」

「何故 そう言い切れるのです?」

「原因が究明できたからでございます。原因は我が領の鉱山の鉱物にありました。

ガーランド公爵は断定は出来ないがその鉱物ではないかと仰られて、我が領の収入源で閉鎖出来ないかも知れないが、そこに原因があるならば鉱物を隔離しなければ今後もっと原因不明の病に犯される領民が増えるだろうと。そしてそれは現実のものとなった。

私は鉱山の崩れた場所に人をやりその鉱物を隔離し、ガーランド公爵から購入した薬を処方し様子を見たところ、現在は症状を訴える者はいなくなりました」


「まあ!信じられないわ……。何故 ガーランド公爵は分かったのかしら?」

「何でも以前、自分のところで新たに出土した鉱物を調べていたところ、鉱物には毒があると発見したそうです。残念ながら実際にご覧になっていないのでそれが何の鉱物かは分からないが、そう言う可能性もあるのではないか、と進言してくださったのです」

「何故 普通に解毒薬では効果がなかったのかしら?」

「伺ったところ、一般で出回っている解毒薬ではなく、鉱物の毒を排出するための解毒薬だと仰っていました。ご自分の鉱山で必要になった場合を感じて用意したと言っておられました。

ですから私は恩義のあるガーランド公爵家のご令嬢を悪し様に言うマリアを許せません。王妃陛下のご命令でしたので引き受けましたが、これ以上は我慢なりません。手続きに入らせて頂きます」

「お待ちなさい、パードック侯爵 もう少し猶予をあげては?」


「ふぅ、聞いておりますよ、アレクシス王子殿下もだいぶお困りで最近は護衛に言って近寄らせないとか…、やはりマリアは平民から貴族になり、貴族社会に慣れるには時間が足らなかったのではないでしょうか。失礼致します」


その足でパードック侯爵はマリアとの縁組を解消した。

これによりマリアはマリア・ダラス男爵令嬢に戻ったのだった。

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