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21、誰が悪役令嬢?

アシェリとの婚約を発表してからセルティスを監視する者が増えた。

だからセルティスもアシェリに気づかれないように護衛を増やした。

そしていつも通り学業とアレクシス王子殿下の側近の仕事もこなした。


無表情なセルティスが偶に思い出し笑いをするところを見かけた。アレクシスはそれを見ると胸をギュッと掴まれたように苦しくなった。そこにいるセルティスと自分を重ねて見てしまう。苦しい…理性で何とか平静を保つが『アシェリを私に譲ってくれ!』そう言ってしまいそうだった。だが次の瞬間、無表情のセルティスを見て正気を取り戻した。

自分の恋心を自覚して、それを失いまだ気持ちに整理をつけられない、砂を噛むような心地で過ごした。


「アレクシス王子殿下! どうしたの? 元気ないよ!」

出た! またマリアだ。最近彼女の存在が心底煩わしい。

「マリア、仕事中だ 許可なく部屋に入られるのは困る」

「どうして? 昔はそんな事を言わなかったわ! アシェリのせいなのね? アシェリがアレクシス王子殿下に私を無視しろって言ったのでしょう!」

「またそれか! いい加減にしてくれよ! 何故いつも君の話にはアシェリ嬢が出てくるのだ! 私は君が迷惑だと言っているのだ、理解できない? それに敬称をつけないのは不敬だと何度も言った! それに私には婚約者がいる、もう君とは今までのような付き合い方は出来ない、分かったら出て行ってくれ」

「酷いわ! 私のこと責めるのね! 何もかも全部アレクシス王子殿下が冷たいからじゃない! これも全部アシェリの陰謀なんだわ!」

「はぁぁぁ、その頭は空っぽなんだな、どうしてそんなに理解力がないのだ! 私は君に近づいて欲しくない、こんなにハッキリ言っても分からないなんて!もういい、うんざりだ。

マリア嬢、二度と私に近づくな! お前たち用件がない場合マリア・パードックを近づけるな、いいな!」

「「「「はい、承知致しました」」」」

「いやよ! 何でそんなこと言うの! 酷い! 全部あの女アシェリのせいなのね!!」

「出て行け!」

冷たく言い放ったのはドナルドだった。

ハワードやヒューゴもマリアが可哀想になったが、あまりに言葉で意思疎通出来ないことに呆気に取られていた。


「セルティスすまない。私が謝罪することでもないが、無関係なアシェリ嬢を巻き込んだみたいで申し訳ない」

「はい、殿下のせいではありませんが、気になりますね。マリア嬢は何故あんなにも妄想に固執するのですかね? アシェリと彼女が会ったのは1度きりだと言うのに」

「えっ!? 1回しか会ったことないの?」

「ええ。その時も挨拶している時にいきなり髪を掴もうとしたりして…、常識のある方の行動とは思えませんでした」

「ええ!? 何だよそれ! 前から変わった子で面白いと思っていたけど、ただ単に常識のない子だったのかぁ〜」

「最近の行動は目に余るな。まるで刃こぼれした刃のようだ、煩わしい」


「皆も聞いて欲しい。平民からいきなり聖女となり貴族の常識に疎い彼女を見守るように言われてきたが、数ヶ月経ってもあれとは…付き合いきれない。私も婚約者ができた身だ、今後は彼女と距離を置く、そのつもりでいてくれ」

「「「「はい、承知致しました」」」」



殿下たちには言わなかったが あれもカミラの影響なのだろう。

まあ、距離をとるに越した事はない、はーー厄介だな。


ところが昼休みになるとまたマリアはやってきた。

「こんにちは」

「………こんにちは、マリア嬢」

「……………。」

「……………。」

「ねえ、何で入れてくれないの?」

「ご用は何ですか?」

「えっ? 用なんてないけど?」

「……ではお帰りください」

「どうして?」

「殿下よりご用件がない場合はお通しするなと申しつかっております」

「じゃあ、殿下に会いに来たの。ね、用が出来たわ、さっ開けて頂戴!」

「お帰りください」

「…うぅぅ、どうして? どうしてそんな意地悪するの? ヒックヒック」


「殿下のご指示です」

「……酷いわ、私たちいいお友達なのに。殿下の指示って言うけど本当は別の人なんじゃない? ねえ、本当はアシェリの…アシェリ様の指示なんでしょう? 分かってるんだから! 酷い! 酷い! わぁぁぁぁん!」

「ちょっと言っている意味が分かりません。お帰りください」

「私負けない! 私と殿下は愛し合ってるんだから! アシェリ様! 聞いてる? 私 あなたの妨害になんて負けないんだから! わぁぁぁぁん!!」

泣きながら走って帰って行った。

部屋の前の護衛とのやりとりは部屋の中まで聞こえていた。殿下を含む側近たちは戦慄していた。

「何なのだ? 意味が分からない!」

「マリアっち…解釈が独特だなぁ〜」

「彼女は…同じ土俵では戦えない御仁であったか…」

「殿下、アシェリ嬢がいない状況でこうなのですから彼女が入学したらどうなるか…」

「ドナルド…、私に何ができると言うのだ! 私は彼女が怖くて仕方ない。

セルティスすまない、私は彼女に近づきたくないのだ…」

アレクシス王子は本気で震えている。


「彼女はともかく、殿下はパトリシア様とご婚約されているので、お耳に入ると厄介かもしれませんね。アシェリの前にパトリシア様がご入学となられます」

「くっ! 何なのだ! 彼女と私の仲って何なのだ! 今後私と接触しないように手配を頼む」

「そうは言っても同じクラスです、限界があると思いますよ?」

「今日は授業が終了次第 王宮へ行く」

「畏まりました」



思ったよりマリアの押しは強くアレクシスは恐怖を覚えるほどだった。

このままパトロシスと結婚しても今と同じように纏わりつかれたら、下手すれば…立場を失うかもしれない、そう思うと別の恐怖も湧いてくる。

王宮で母に相談したが、母はアレクシスの進言からパトロシスの妃の件は一時保留とし、聖女を王族に加えられないならどう自分の元に置くかに腐心しておりアレクシスの苦悩については理解されなかった。


部屋でマリアが近づいてくるだけで恐怖を覚える、危害を加えられる訳でもないのに名前を聞くだけで全身にゾワゾワっとしたものが走る。ただ心の中では近づかないでくれ! もういい加減にしてくれ! 放って置いてくれ! そう叫んでいた。

何の解決策もないまま、マリアを避ける日々が続いていた。



そしてその状況は改善されないまま、パトロシス王子殿下とパトリシア公爵令嬢が入学した。事前にパトロシスにはマリアの話は伝えていた。

アレクシスもパトリシアとの婚姻はアシェリが消えた今、逃すことができない相手だと認識していた、それにマリアと結婚するより百倍マシだった。

パトリシアは至って普通で言葉も通じるし、こちらの意図することも理解してくれる。物腰も物言いも上品で教養もありヒヤヒヤする事もない。

2人で会い親交を深める中で、自分の妻として迎える事に安心できた。アレクシスはパトリシアをパティと、パトリシアはアレクシス様と呼び合えるようになった。アレクシスはマリアがいない場所に安らぎを感じていた。



「パティ、入学おめでとう! 待っていたよ」

「アレクシス様」

「パティ 紹介するね、私の側近たちだよ。 セルティスに ドナルドに ハワードに ヒューゴ、彼女が私の婚約者のパトリシアだ、宜しく頼むね」

「パトリシア・クーゲルでございます、殿下同様お願い申し上げます」

流石は公爵令嬢と言う美しい淑女の礼と威厳すら感じる笑顔だった。


互いの紹介がすみそれぞれの仕事に戻る。

パトリシアはアレクシスの側に残って様子を見ている。


「セルティス様はあまり表情のない方なのですね?」

「ん そう? 男同士なんてこんなものだよ」

「セルティス様はアシェリ様とご婚約なさっているのでしょう? そう言ったお話などはなされないのですか?」

「んーそうだね、聞かれればセルティスも答えるけど、我々はここに仕事をしに来ているからね、それほど無駄話はしないよ? はは」

「それは失礼致しました、やはり女性とは違うものなのですね。ふふ お2人の婚約関係に少し興味がありまして要らぬ好奇心を抱いてしまいました。では私もそろそろ失礼」

と言いかけたところでけたたましい声が聞こえる。

「アレクシス王子殿下!! この人たちが入れてくれないの! もう!どいてよ!! 私は聖女マリアよ! 私とアレクシス王子殿下はすごぉぉぉく仲がいいの! だ・か・ら! 中に入れてってば!!」

「何度も申し上げますが、関係のない者、ご用のない方はお通しできません」

「だから会いに来たの! それがご・よ・う・じ!! 分かった!?」


「アレクシス様 あれは何ですの?」

「パティに誤解されたくないから言うけど、彼女はマリア・パードック侯爵令嬢であり聖女だ。彼女は平民から急に貴族になった為この貴族社会で孤立していたし頼る者もいなかった。だから偶に王宮で会うと話をしていたんだ。でも貴族と平民の常識・距離感はだいぶ違うみたいでね…。私は少しでも力になれればと思ったのだが、私にもパティが出来たから、今後は普通の貴族の距離感を保って欲しいと話しているのだが、理解してもらえないのだよ」

「まあ、大変なのですね」

確か報告にあったわね…、これが聖女と崇める方だなんて、驚きだわ。


「ねえ! 入れてってば!」

「現在婚約者様がおいでですのでお帰りください」

「婚約者!? アシェリね!」

「違います。それから敬称をつけよと言われているのにまだできないのですか?

兎に角 邪魔になりますのでお帰りください」

「前はそんなこと言わなかったじゃない! ど・い・て! 訴えてやるんだから!」

「はぁー、誰に訴えるんですか?」

「えー? 考えてなかった。じゃあ王様に!」

「はぁー、王陛下には気軽に会えませんよ。大体執務の邪魔をしているのはあなたなので、捕まるのはあなたでは?」

「えっ? 私!? 何で私が捕まるのよ!」

「はぁー、いい加減邪魔なので帰っていただけますか?」

「邪魔ってなに!? 酷いわ! それも全部アシェリに言われているのね!? 酷い女! 私をこんなにも傷つけて平然としているなんて!」


「アレクシス様、あれは何ですの?」

「あの調子で参っているのだ。お陰で休み時間も教室で過ごすこともできない」

「あの方の言うアシェリってアシェリ・ガーランド公爵令嬢の事ですわよね? もしかして…私の知らない事実があるのですか?」


「やめてくれよ! ふぅ〜、私は過去にアシェリ嬢と会ったのは3回しかない。神に誓って彼女とは何の関係もない」

「では何故あの方はあんな物言いをなさるの? 本当は…!」

「パティ! ……パティ、ここにセルティスもいるから話しておこう。アシェリ嬢が人前に出られなくなったのは私たちに原因があるのだ。

私たち… 私とパトロシスは…彼女に深い傷を負わせたのだ。私たちとアシェリ嬢が会った3回とは、1回目は彼女が3歳の時、王妃陛下と彼女の母とお茶会をしている時だ、私たちは当時どうしようもない悪童でたった3歳の彼女に不細工、馬鹿、間抜けそんな言葉を大人が見ていない場所でずっと言い続け泣かせたのだ。それを教育係に嗜められた。

私たちは、王子である私たちに意見する者たちが疎ましかった。泣いている彼女にお前が泣いたせいだと八つ当たりをして、更に大声で泣き出した彼女の声によって、それを聞きつけた王妃陛下たちがやってくれば…私たちは更に叱られる事はわかっていた。だからパトロシスは煩い黙れと彼女を突き飛ばした。そして打ちどころが悪く彼女は気を失ってしまった。

何の罪もない公爵令嬢に突き飛ばし怪我をさせ意識を失わせた、それで私たちは牢屋に入れられた。彼女は目を覚ますと酷く人を恐れる様になってしまった。牢屋の中で流石に反省し、私たちは自分たちの愚かな行いを省みて彼女に謝罪しようとしたがその機会は訪れなかった。それは彼女が私たちの名を出すだけでも怯えるようになったからだ。

そして2回目 1年後王家主催という事で無理やり王宮に引っ張り出し彼女に謝罪の場を設けようとした。だが彼女は私たちを見ると酷く泣いて暴れ…取り乱した。近づくことさえも出来ず、結局この時も謝罪はできなかった、そこで少し時間が経ち落ち着いたら話す機会が得られるかとそのまま王宮に留め置いたのだ。4歳の子供だからお腹がすけば食事もするだろうし、お腹が満腹になれば機嫌も良くなるはずだと安直に考え親や使用人と引き離したまま保護という名の監禁をした。その3日間彼女は食事どころか水すら飲まずに衰弱してしまった。

謝罪どころか彼女の私たちに対する拒絶は悪化するばかり。

そして3回目が前回の王家の主催のお茶会。

私たちは自分たちが楽になるために謝罪を受け入れさせ区切りをつけたかった。

そこで周囲に『陰気な幽霊令嬢』と揶揄され傷ついてセルティスの胸の中にいる彼女に無理やり謝罪したのだ、自分たちが楽になる為に。彼女は謝罪を受け入れるから自分を放って置いて欲しいと言った。それができないのならいっそ修道院に入るとも…完全なる拒絶だ、だから私は誓った、もう二度と彼女を傷つけたりしないと。

だから私たちとアシェリ嬢がどうにかなるなどないのだ。

彼女にとって私たちは恐怖に対象で、政略結婚の相手にもなり得ないのだから。


彼女が反論しないのは王家の失態を明かさない為、今ああして人を恐れるのは人と言うより私たちを恐れてのことなのだ、謝っても取り返しのつかないことをしたと深く反省している。

申し訳ないがこの事は秘匿してく欲しい、私は公には自分の非を認められない立場となってしまったのからな、これが真相、扉の前で叫んでいる彼女の言う事は全て虚偽だ」


「アシェリ嬢が お可哀想だ」

「ああ、弁解もできないまま 部屋に閉じ篭るしかなかったなど…すごく可哀想だ」

「アレクシス様…正直に言ってくださり感謝します。ですが、わたくしも…やはりアシェリ様に同情致します」

「ああ、自分自身が1番分かっている。何故 話したかと言えば扉の外でマリア嬢はなにかと言うとアシェリ嬢の陰謀を訴えるが決してその様なことがあるはずないって事を知っておいてもらう為だ。彼女が1番に望む事は私たちとの関わりを避ける事、それを理解して惑わされないで欲しいと言う事なのだ」


「「「「はい、承知致しました」」」」


扉の外では今なお押し問答を続けるマリアの声がしていた。

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