20、婚約発表
正式にアレクシス第1王子殿下とクーゲル公爵家のパトリシアとの婚約が発表された。
これにより様々な動きが出てきた。しかし、自国の王子の婚約より、ガーランド公爵家の婚約と動向の方が気になっていた。
正直言ってスターチス国の第1王子アレクシスよりガーランド公爵家の次期当主ステファンの方が余程結婚相手としては人気があるのだ。
それに国内外の王侯貴族揃ってアシェリを取り込もうとせっせと小さい頃から、父や祖父であるガーランド公爵に不屈の精神で打診し続けていた。
他国の王族であっても退けられるほどの力を誇示していた。
当然アシェリについては調査済みで顔を出さない引き篭もり、顔に醜い傷がある、馬鹿にされても黙って泣くだけの女など事実からただの噂まで幅広く伝わっていたが、それらを差し引いてもガーランド公爵家の財力とアシェリの結界魔法は魅力的だった。
一斉にセルティス・スタッド伯爵について調査が始まった。
入学以来大変優秀だが、常にアレクシスの次、2番手に落ち着いている。入学当初は満点であったにも拘らずだ。
ただガーランド公爵が幼少から引き取り娘の婿にと英才教育を施して育てた逸材と評されていた。そして誰とも親しくならないアシェリが唯一心を許す存在と。
アシェリはガーランド公爵家から出ることはないが、セルティスならと狙う者たちも出始めた。
ねえ どうしてよ!!
アレクシス王子殿下が婚約って…なんで!?
しかも相手はアシェリじゃなくてパトリシアって誰よ!!
「カミラ! カミラ!! ねぇ! 話が違うわ! しかも肝心な1番大事な話が違う!!
ねえ、あなたの予言…嘘だったの!?」
「そんな訳ない! 間違いないのにどうして! キャストだって! 時期だって! イベントだって! 全部合っているのに なんでそこが違うのよ! ブツブツ
ねえ、アシェリとアレクシスの婚約は何故整わなかったの! 調べた?」
「分からないわよ! だって誰もアレクシスとアシェリが婚約することが当然なんて話しないんだもん! 2人が一緒にいる所なんて見たこともないないって、アシェリは王家主催のお茶会以外屋敷の部屋からも出てこないって言うのよ? それによく分からないけど王家が婚約を望んでもガーランド公爵が了承しなければ婚約に至るはずがないって言うんだもん!」
「それじゃあどこで捻れたか分かんないじゃない!!
そうだ! ねえカップケーキはどうした? ちゃんとアレクシスに食べさせた?」
「……食べさせてない」
「何やってるのよ!! あれ手に入れるのすっごく大変だったのよ!」
困っている人20人も助けないとアイテムゲット出来ないのに!!
「だって、あの後すぐにクラスに戻っちゃって渡そうとしたら王宮に帰っちゃってるし、他のメンバーに渡そうとしたらアレクシスがいないと全員バラバラで集まらないんだもん。気づいたら皆いなくていそうな場所に行ったけど 誰も会えなかったの…仕方ないでしょう!!」
「じゃあ、カップケーキどうしたの?」
「勿体ないからちゃんと食べたわよ!」
えーーーー! どう言うこと!? マリアはマリアを…つまり自分が大好きになったってこと!? 勘弁してよ! なんでこう上手くいかないのよ!!
「どうして次の日にでも渡さなかったのよ!」
「美味しくなくなったら勿体無いからよ!」
あーーー、こう言うところが元平民出ちゃうんだよなー!
「ねえ、本当にアレクシスと結婚したいのよね?」
「当たり前じゃない!」
だって貴女が王子と結婚したら幸せになれるって言ったのよ!
「じゃあ、ちゃんと言われた通りの行動してくれる!」
「言われた通りしても上手くいかなかったじゃない!」
「あなたがいつも失敗ばかりしているからでしょう!」
「あなたの予言だって大したことないじゃない!!」
「じゃあ もうやめる?」
「意地悪言わないでよぉ〜、私はカミラを信じてる…だからそんなに怒らないで、ね?」
「ちゃんと指示した通りにしてよね!」
「分かったわよぉ〜」
ここがどこかも忘れて言い争っていた、それを聞かれているとも知らずに。
セルティスとステファンに自宅へ戻るよう手紙が届いた。用件は分からないが授業が終わると家に急いだ。
家に帰ると、どことなく忙しなかった…何かあったのだろうか?
アシェリに何かあったのか!? 婚約が発表後何かあったのかも!
急いでアシェリの部屋に急いだが入れて貰えなかった。
「アーシェ、私だ! 無事なのか!」
「はい、ご無事です。ですからもう少しお待ちください」
「セルティス様 帰ったばかりですよね? 一度お戻りになりお着替えになってください」
「そんな会えないのか…、分かった そうするよ。でも何かあったらすぐに言って」
「はい、承知しました」
セルティスが部屋で着替えているとステファンも戻ってきた、ステファンはガーランド公爵の執務室に行ったらしいと聞いた。くそっ! 話を聞きたかったのに…。
侍従のヴェルクに聞いても侍女に聞いても詳細は知らないと教えてくれない。
ああ、焦れる 気が気ではない。なんだって言うのだ! いつもは明解にズバッと説明してくれるし、聞いてないことまで言ってくるくせになんだって言うんだ!
ん? なんだ この服…、どこかに出かけるのか?
コンコンコン
「お支度整っておいでですか?」
「ああ…」
「おいでくださいませ」
「ああ、ねえどこに行くかは教えて貰えるの?」
「勿論ですよ、ホールでございます」
「ホール? うちの?」
「はい。ではそのまま進みください」
「えっ!? ああ…ああ」
カチャリ
何だこれ?
屋敷中の使用人達が集まってる?
様子を見ながら先に進むと人が分かれその先にいたのは ガーランド公爵ご夫妻やアシェリやステファンがいた。目を見張った!
「アシェリ! ああぁぁ、なんて美しいのだ!」
「ふふ 驚いた?」
「ああ、勿論だよ!」
吸い寄せられるようにアシェリに近づいていく。
「おい、お義父様に挨拶はなしか?」
「そうだぞ、お義兄様にも挨拶をしたまえ」
「わたくしにも挨拶をしてくれると嬉しいわ」
とケンスレット夫人も揶揄うように言う。
因みに祖父母は別のガーランド公爵領地にいてここにはいない。
「すみません、…コホンお義父様、お義母様、お義兄様 ただいま戻りました? それで えっと何でしたっけ? いや、それよりアーシェ! 顔が出ているよ?」
アシェリはいつもオールワンレングスで前2cmくらいしか開いていないので、アシェリ専属の侍女カンナくらいしか顔をちゃんと見たものはいない。それが今日はハーフアップに纏めティアラをつけ軽く化粧も施されている。薔薇の妖精のように美しい。
「それよりだと? コイツめ ふふ」
「正直者め、 でも まあその気持ちは分かるか。 私たちも驚いたからね」
「ずっと こうしている貴女に会いたいと思っていたのよ」
「本当は怖かったの、でも今日くらい…家族だけだから…頑張ったの。だって、皆に私たちのことお祝いして欲しかったから…えへ」
「私たちの?」
「もう!婚約したでしょう? 私セルティスお兄様の人生を丸ごと貰うのですもの、正式にプロポーズすべきかと思って…」
「えっ? プロポーズ?」
プロポーズって何だ?
「プロポーズって言うのは セルティスお兄様! 私と結婚して下さい! と希う願うことです!」
「ええ!! それって普通男性がするものじゃないの!?」
貴族は家同士で婚姻を決めるため、個人的に結婚を希うことがない。
「いえ、私がセルティスお兄様を貰うのですから私がします!
セルティスお兄様、私を妻にするには面倒が色々あると思いますが、2人で幸せになれるよう努力します! 一生セルティスお兄様離しません! 私と結婚してください!!」
「アーシェ…キャラが違くない? ああ、心臓が爆発しそうだ…。嬉しい、嬉しすぎる。
アシェリ、私はアシェリを一生守る覚悟を侍従になる時にした。一生離さない? 望むところだ! 私はずっと前からアシェリを愛している、喜んでこの身を貴女に捧げる、結婚しよう!」
パチパチパチパチ
皆微笑ましそうに見ている。
「アシェリ、顔はこれからどうするのだ?」
「はい、結婚が整い落ち着くまでは今まで通り隠したいと思います。出来ればずっと家族以外には晒したくはないのですが…、必要な時は頑張るつもりです…セルティスお兄様に恥をかかせられません」
「ほぉ、良い心がけだな」
「アシェリ、あなたの顔をよく見せて頂戴、ああ 奇跡のようだわ!私の可愛いアシェリ」
「お母様…心配をかけてすみません」
「アシェリ、あなたはどこに出しても恥ずかしくない美しい娘なのよ? この花の盛りに勿体無いとは思わないの?」
「自分を美しいとは思えないので勿体無いとは思いません」
「アーシェ! アーシェは誰よりも美しいよ! ああ、そんなくだらない思考になるのは全て殿下たちのせいだ! アーシェは外に出れば攫われてしまうほど美しいよ!」
「そうだぞ、本当なら私だって私のアシェリを見せびらかしたいがそうするとくだらない連中が次から次へと湧いてくる。アシェリを危険な目に遭わせるくらいなら隠し守っていきたいと思っているだけだよ? ああ、無自覚も良し悪しだな…。今後は他者から見た自分は理性を失わせるほど美しいと自覚した方がいい」
「ゴホン そうだぞ、顔を隠す事を許容したのは、危険だからだ。ガーランド公爵家と言うブランドにその美しさは毒だ。ステファンとセルティスの言う通り外は危険だと認識しなさい」
「アシェリ…あなた賢いのに…美的感覚がおかしいのかしら? 同年代であなたと勝負になる子はどこにもいなくてよ? 普段絡んでくるチェルシーだって、今のあなたを見れば尾っぽを巻いて逃げていくわよ? 困った子ね…、ハルク、グレンあなた達がよく気を付けておくのよ?」
「「ここまで疎いとは…はい、承知致しました!」」
くぅーん、身内贔屓がひどい!
あーん、小っ恥ずかしいっす。しかも皆に責められてるし…。
「女性の美醜に疎いようです、宜しくご指導ください」
「そうね」
「ああ、あんなに可愛いのに」
次々納得している。
くすん、だってだって根暗なオタクには縁がない世界だったから、その中に入る勇気がないんだよー! でもこのままじゃダメなんだよね? 私は今アシェリちゃんだから私が前面にでてヤダヤダ言ってるとアシェリちゃんに迷惑かかっちゃう。どの道学園に入れば隠せない事も出てくるんだからリハビリと一緒! 少しずつ慣れていかないとね!
セルティスとアシェリの婚約パーティー&大プロポーズ作戦は皆で楽しく和やかに過ごした。何だか皆はしゃいでいた。
アシェリお嬢様が顔を晒して笑っていることがとても眩しかった。3歳のあの日帰ってきてから部屋に閉じ籠り泣きくらし出てきたアシェリお嬢様、愛くるしい天使が失われ、まるで別人になってしまったかのようだった。それから10年…ここまで来るのはとても長かった。今 笑って下さっているのを見ると使用人一同ホッとし涙が流れた。
顔を隠して部屋に閉じ籠りがちだが、他所のお嬢様方と違い使用人に無理難題を押し付ける事も、暴力もない、普段の言葉遣いにしてもとても丁寧だし、気遣いまで頂ける。ガーランド公爵家はとても働きやすい職場なのだ。皆が笑顔でいることは使用人にとっても嬉しいことなのだ。
部屋に戻るとセルティスとアシェリは話をした。
「驚いた?」
「うん、誰も何も教えてくれないから、アーシェに何かあったかと気が気じゃなかったよ」
「ごめんなさい。思いつきで皆に協力してもらったの」
セルティスはそっとアシェリの髪に触れそれから頬に触れた。
「こんなに綺麗な人が私の奥さんになるんだな…」
濡れた瞳が怪しく光る。
「こんなに素敵な人が私の旦那様になるのね!」
元気いっぱいに答えるアシェリに内心…邪な気持ちを持った事を見透かされた気がして焦る。思考を切り替える。
「何も持たない私を選んでくれて嬉しい。アーシェならどんな人間をも望める、その中から私を選んでくれて有難う、アーシェ大好きだ。
アーシェは私の身を案じてくれるけど、こんな宝を手に入れたんだ、男として奪われないように心して臨むよ」
「そんなに気負わないで。私はそんな立派な人間じゃない、ただガーランド公爵家に生まれたってだけの小娘だから」
「そうか…宝石は自分が光り輝いていることに気づかないものなんだな」
「セルお兄様ったら。そうだ、待っていて」
そう言うと引き出しから1対のペンダントの入った箱を出してきた。
コインサイズのペンダントで円の縁には魔術刻印が施され中央にはアシェリの瞳の色のコバルトブルーの宝石がついていた。そしてもう一つはセルティスの瞳の色の青緑色の宝石になっていた。
アシェリは自分の色のペンダントを取り出すと、セルティスの首に着ける。セルティスは感動で言葉が出ない。
「セルお兄様は私のものよ、外さないでね」
「………上手く言葉が出ないよ。…うっく アーシェ、私にもつけさせてくれる?」
「勿論 お願い」
震える手で自分の瞳色のペンダントを手に取ると、アシェリの柔らかな髪とほっそりした首の間に手を入れる。
「あれ、上手くいかない」
そう言うと後ろに周り髪を前に避けて真剣に金具と向き合いやっとのことではめた。
「全然格好つかないや、ごめん」
「セルお兄様、ぎゅってしてもいい?」
驚いたけど自分こそが望んでいることだった。
「時々アーシェは僕より大人だ」
そう言うとアシェリを引き寄せ抱きしめた。
お兄様ったら僕になってる…可愛い。
「幸せに長生きしましょうね」
「うん、うん大好きだ、私に出来ることなら何でもする。絶対にアーシェを奪われたりなんかしない!」
「うん、大好きセルお兄様」
この胸のペンダントに誓う 絶対に離しはしないと。
その夜セルティスは夢か現か信じられず、幸せな眠れぬ夜を過ごした。




