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14、伯爵

「何を言って! 証拠があるのか!」

「くっくっく、おかしなことを言うね、それならばスタッド伯爵の証明である、爵位の継承に必要な魔法印をここへ出してみなさい、それで全てが解決だ」

「と、突然 兄夫婦が事故で死んでどこにあるか分からなかったのです」

「そうです! ですから仕方ないのです」


「あはははは、それで色々調べたんだろう?

そう、魔法印が不慮の事故など紛失し見つからなかった場合、どうだったかな〜? ん?

まずは 国に紛失の届出をする、そうなると3年間資産の凍結が国によりなされる、それからその3年間で新たな当主が爵位を継ぐのに足る人物か調査が行われる、問題がなければ仮の当主として仮魔法印が授与される、そこでやっと資産凍結が解除される1年後正式に魔法印が継承者に渡される、そうだっただろう?

魔法印が見つからなかったのに君たちは紛失届を何故出さなかった? 見つからないのに何故これらの書類はある? お前たちが偽造したからだ! 違うか?」


2人は蛇に睨まれた蛙のように身をカタカタと震わせている。


「君たちは借金返済とギャンブルにすぐにでも金が必要だった…、だから魔法印を偽造してすぐに爵位を受け継いだ。さてここで問題点、お前たちが犯した罪は何だ?」


「わわわわわ私たちそろそろ失礼します。これ以上はお邪魔でしょうから。

ほ、ほらお前も…い行くぞ」

「まあ、待ちなさい。今日はゲストを呼んでいるんだ。

そしてこれが兄夫婦殺害の証拠、幼いセルティスの虐待及び殺人未遂、魔法印偽造の証拠、その偽造魔法印で勝手にスタッド伯爵家のものを転売、ああ、その前に爵位の詐称もあったか、まだあるぞ?子供たちを売り払った者たちとの黒い癒着、最近では夫婦で茶会や夜会に出ては窃盗もしていたか…。

さて、勝手に売ったものも含めて返してもらいたいものだな、正しい場所にセルティスを戻してやらねば」

「違う、違う…、スタッド伯爵家は私のものだ! 何故! 何故嫡男しか爵位が継承されないのだ!! 私でも良かった筈だ! 1番か2番か順番の差だけなんて不公平ではないか! 私こそがスタッド伯爵なのだ!!」


「お前は随分不勉強だな。このスターチス国では爵位継承者は長男でなくとも良いのだぞ?

子供がいても養子を迎えその者を後継者に据えてもいい、勿論弟を指名してもいい。要は後継者指名を書類として残しているかどうかだ。 

少しは勘が働くか? ん?

そうだ、スタッド伯爵家に於いては後継者指名を既に3歳のセルティスに行い残している。そして次期当主指名の魔法石も作って届け出てある。つまりセルティスの父が取り消しの申請をしなければお前が爵位を継ぐ可能性は万に一つもなかったのだ」


「そんな…そんな…」

「ですがそれも…魔法石あっての事では? それもなければ証明の必要がある訳ですよね? 他の子をセルティスと騙る事ができないように…、セルティスは魔法石を提示する必要がある、それに申請がなされてもそれまでにセルティスに何かあれば結局はロータス様のものですわ」

「へぇー、ロータスよりお前の方が頭が回りそうだ。ああ、そうか 自分のいいなりになるように薬漬けにしたんだったか…。ああ、大丈夫その証拠も全て揃っているから、勿論 前伯爵の魔法印も後継者の魔法石もここにある」

「く、薬漬けとは何のことだ? サンドラ ああああアイツは何を言っている?」

「くっ! 私はこれで失礼させて頂くわ! さっ、行くわよ!」


「残念ながらそうはいきません。あなたたちには詳しく伺いたい事があります」

「知らないわ! さっ帰るわよ!!」

「ですから そうはいかないのですよ!」

そう言うと壁際に立っていた使用人だと思っていた者たちが突然ロータスとサンドラを取り押さえる。

「無礼者! 触るでない!!」

「大人しくしないともっと痛い目に遭いますよ?」

「公爵! 何のつもりだ!」

「さあ、私とは関係ないので私に言われても…。ああ、誤解させてしまったかな? 彼らは私の部下でも使用人でもない。彼らは憲兵で、お前たちを逮捕する為にここにいた。 もう、二度と会うことはないだろうがお元気で。そうそう、私の大切なセルティスにも二度と会おうなどと思ったりしないことだ。恐らく良くても身分は剥奪される、伯爵に気軽に会えると思わない方がいい、さようなら犯罪者諸君」


「叔父上に叔母上 私はあなたたちには殺されかけた思い出しかありません。二度と会わないで済むと思うと清々します。永遠にさようなら」

「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! 俺のものだ! 俺の俺のもの俺の! 俺の家でもあったんだ、何でお前なんかにやらなければならない! ふざけるな!」


サンドラはくるっと身を翻して拘束から逃れると扉目掛けて走り出した。

「おい、待て!」

追いかける憲兵、扉の前にいたハーヴェルに足をかけられ扉に顔面から突っ込んだ。

ガゴン!   ドサッ!

「往生際が悪いな! ほらっ! 大人しくしろ!!」

連行されて行った。



「公爵様、ずっとお見守り頂いていたのですね、感謝申し上げます」

「ああ、ケンスレットに頼まれてお前に会ったが、私自身が気に入ったのだ、今までよくやっている、それに期待もしている。

さて、ここに法務省の人に来て貰っている、爵位相続の手続を進めよう」

「あの、これって…」

「そうだ、お前が唯一あの家から持ち出せたものだ。お前はただの母の宝石だと思っていたようだが、これが中に入っていた。これが魔法印でこれが魔法石だ」

「あぁぁぁぁ これが……」

魔法印は思っていたより小さいものだった。

ツル薔薇の模様の中に真ん中に術式が刻まれている。そして裏側にはスタッド伯爵家の紋章 ボーダーコリーと麦とカラスと梅の花が刻まれていた。それは2×3cmの小さな薄い緑の宝石みたいなものだった。印とあるから印章だと思っていたがそうではなかったらしい。

そして魔法石 こちらも大きな宝石をイメージしていたが、8mmくらいの石ころみたいだった。


「不思議か? 魔法印と魔法石がこんなちっぽけで」

「はい。正直言うと、この母の指輪の宝石みたいなモノを想像していました」

「これらは魔法印と魔法石だからね、これに魔力を流すと形態が変わるのだ。そしてこれらも長い年月をかけて魔法省で魔法陣が組まれ作成される、魔法石は元は魔石だ、それに同じように魔術で魔法陣が刻まれている。この形は統一するためにこうしているだけで別の形も取れるんだ」

「これにいつ気づかれたのですか?」

「お前がこの家に来た時だ」

「えっ!?」

「お前はボロボロの服で意識朦朧として我が家にやってきた。それで着替えさせた時にね」


「……長い間、あんな人間を監視させ手間をかけさせ申し訳ありません。それも私のためですね?」

「ああ、そうだ。お前が社交界にデビューし正式に爵位を継げる年になるまで待っていた。まあ、私が後ろ盾と言う形で継がせても良かったのだが、あの者たちのせいで苦労するのは好ましくないからね」

「何と言っていいか」

「ガーランド公爵閣下、書類が作成出来ました。これで正式にセルティス・スタッド伯爵となりました。この魔法石をもって爵位譲渡の手続きが整い、魔法印の所有者となって不要となったので回収していきます」


「ああ、あとこれも頼みたいのだが」

「はい、何でしょう?」

「これは元のスタッド伯爵家所有の資産だったのだが、ロータスが売り払ってしまったからね全て買い取った。これも全てスタッド伯爵のものと登録願いたい」

「はい、承知しました」

「公爵様! ああそんな! ああ私はこのご恩をどうお返ししたら?」


「セルティス、いやスタッド伯爵 これから殿下の側近となる、そして自領を持つことによりかなり忙しくなる。その上 爵位を持ち殿下の側近となった君には甘い汁を吸おうと寄ってくる者もいる。これからが正念場だ、いいね? 私はいつでも相談に乗るつもりだ、だから思いっきりやってみなさい」

「はい、感謝致します公爵様」


「こうしていますと本当の親子のようですな」

「ふむ、そうだな…『公爵』はいい加減もう止めようか? んー、『父上』はどうかな?」

「宜しいのですか? うっくうっく 私はずっと心の中では『父上』って呼んでました。優しくも厳しい父上は私の道標です。感謝しています、あの日私を連れ出してくださり、温かい家族と教育を与えてくださったこと生涯の宝となりました。心から…心から感謝…くぅぅ」

「泣くなセルティス、私も感謝している…… アシェリが全てを拒絶した時、セルティスの献身がなければ今のあの子にはなる事ができなかっただろう。君はアシェリの恩人だと思っている。しかも私は次期伯爵と知りながら侍従になってくれと頼んだのだ、酷いだろ? それでも君は文句も言わずにアシェリに付き合ってくれていた、アシェリの側にいてくれて有難う」

「私は! 私がアシェリの傍にいたくてしたことです! あんな状態の彼女を放っておけなかった、あれは全て自分のためにしたことです!」

「そうか、それでも有難う。ふっ。その顔…くっくっく 酷い顔しているぞ? 私もお前を息子と思っているセルティス。

さあ、時間は有限だこれくらいにして、仕事に戻ろう」

「はい、精一杯頑張ります!」

「ああ、期待しているよ」

ポンと肩に手を置いて送り出した。

ロータスたちが売ってしまったスタッド伯爵家の領地は、ガーランド公爵に買い戻され、ガーランド公爵家の手の者が派遣され管理していたので、セルティスが爵位に就いた時には既に統制がとられ落ち着いていた。セルティスはガーランド公爵に深く感謝し忠誠を誓っていた。




セルティスは3ヶ月後いよいよ貴族学園に入学となる。

本当にいくつ体があっても足りないくらい大忙しとなった。

その頃のアシェリはと言えば夜中にいそいそと漫画を描き、その一方で 

ふっふっふ、グッズ作り!! イエーい!


だってだって、昔のアパートは漫画、DVD、ポスター、缶バッチ、フィギュア、カード、ソフビ人形、ありとあらゆるグッズに手を出していた。懐中時計…いつ使うかなんて関係ない そこにキャラクターがいるから手に入れてお家に迎えたくなる。お気に入りは埃かぶって欲しくないからDIY!アクリル板で専用に収めるお家も作った。見るからにバッタもんって分かっても『ウケる〜、何これ! おもしろ』って購入、後で出来の悪さに萎えつつも収納BOXにしまって保管した。紙のトランプだってキャラクター違いのキーホルダーだって、バスタオルの肌触りがイマイチでもUFOキャッチャーで取れるまでつぎ込んで店員と仲良くもなった。どれも思い出と共に勿体無いから使用なんて出来ない。1番多かったのはなんだかんだ言ってもマグカップだったかも…、どの作品も一度は通る道って感じで案外嵩張る、これらも勿論大切に保管した。一度実家で母親が『そんなにあるんだから使いなさい!』ってワカメスープ飲んでた時は殺意が芽生えた、その洗ったカップにばあちゃんの入れ歯が浮いてた時は涙にくれた。だから同じモノを買い直した…収集それが自分の性だと思い知る日々だった!!!


だーかーらー、漫画、漫画喫茶とくれば次はグッズ! これは必然でしょ!

えっ? 必然ではない? 

まあ、引きこもりだし 折角なら面白おかしく生きたいじゃない? 好きなものに囲まれてると幸せなんだもん! 今や私 結構な収入がある、十分国外追放されても自分の収入で生きていける。そして余力があるならやっとかないとでしょ!


って事で、陶器職人にマグカップ作らせてみた! 今まで作ったことない形に悪戦苦闘したが諦めなかった。そしてお約束の 絵付職人に私がデザインしたモノを描いて貰った! あははは、いっぱいあって困ったけど やっぱりグッズのイロハといえばコレ。それからフィギュアも作りたい! まだコレは依頼先が見つけられていない…だから情報を探って貰っている。

そうそう、ポスターも作った! 等身大サイズで妄想パーティー、掌サイズ 持ち運べるサイズはどこでも一緒に連れて歩ける、妄想恋人の2人は肌身離さずどこでも一緒。


キーホルダー…、その技術が難しくその上べらぼうに高価になってしまう。貴族相手ならいいかとも思ったが、キャラクターをキーホルダーサイズの極小に精密に描くのも至難の業、別の形を考えよう。

そうだ! イメージカラー! 

キャラクターにはイメージカラーがあったりする、そのイメージカラーで衣装が作られたりグッズが作られたり…あっ! でもテレビないからアニメ化でカラーのイメージつけにくい。ああ、それにイケボ!! コレ重要! 頭に中で再生する時そこにイケボがいるいないは全然違う! まあ女性の可愛い声や甘い声に凛々しい声も私は必要だと思う! 

はっ! 永山楓の世界は女の子の割合が多かったけど、この世界はどうか分かんないか! 貴族ってある意味抑圧されてるから男性にだって陰で漫画に夢中になってオタク仲間増殖計画が思ったより上手くいくかも!って思ったのにぃぃぃぃ、くっそぉぉ、でも! アニメも声優もいない だがパラパラ漫画のような事は出来るかも! まあ それはおいおい。


そーーーう、今はグッズで気分を盛り上げる!

マグカップ、ポスター、……ああ、シールとかもいいのになぁ、はっ! クッション! 案外良い…ふっふっふ 枕元に置いて夢に見ようとするのは仕方ない事。ハンカチ、タオル、テッシュ、等身大クッション、プレート、Tシャツ、メモ帳 くぅぅ、まだまだ道のりは遠い。だが諦め〜ん!そしてある程度 商品が確保でき目処が立てば次はグッズショップ!

ほぉー! 漫画喫茶の横にはグッズショップ! 素敵な関係になれるだろう、くふふふ。

 


今後のオタク増殖計画に夢中ですぐ後ろにカンナが立っていることにも気づかなかった。

カンナは深いため息をついていた。


「はぁー、うちのお嬢様はどうしてこうなっちゃったのでしょうか……」

「ん? あれカンナどうしたの?」

「はぁ〜、皆さんお嬢様に幻想を抱いてますよね?」

「何が? 幻想って?」

「今のご自分の姿、ご存知ですか? 髪型は頭の上でぐしゃぐしゃのお団子…それ解し梳かすのすっごい大変なんですよ! それにもう12歳だと言うのにコルセットもせず猫背でナイトドレスみたいなだらしない格好して…偶に鼻と唇に間にペンを挟んでいるのすごーーーく変ですよ!

世間では心に傷を抱えた消え入りそうな深窓の令嬢? 顔を隠してるのは顔に傷があると思ってる。まあ、それは王子殿下と結婚したくないっていうご意思として百歩譲ります、でも! 部屋で気を抜きすぎです! セルティス様もなんかフィルターかかってるのか真実を隠すスキルでもあるんじゃないかって感じですよね? 何をしてもどんな姿でも愛おしそうな目で見て全てを許してる。この姿を私がどれほど気を配って隠しているかご存知ですか? 最近は夜だけじゃなくて日中もされることがあるから…全く」


「そうなの!」

ビクッ!

「な、何がですか?」

「髪が長くて全部お団子にすると重くて肩が凝るのぉ〜、カンナぁ〜邪魔にならない髪型ってなーい?」

ふむふむ これはこのヘンテコな髪型を変える良いきっかけかも!

「そうですね、もう 1つのダンゴに纏めるのは無理ですね。ですからやはりポニーテールでいきましょう! お嬢様は全ての髪が同じくらいの長さですから後ろに纏めるだけでもスッキリしますよ? はい、こちらに座ってください」

丁寧に髪を解かしブラッシングする。

そうそう、この艶ピカサラサラストレート! ダンゴに纏めてると癖がついて戻す時大変なんですから! はぁー、この手触りしっとり滑らかで柔らかい、よし!コレでこそ私のお嬢様!


「はい、出来ましたよ。お邪魔にはならないでしょう?」

「うん、いい感じ! 自分でやるとカンナみたいに綺麗に出来ないし途中で疲れちゃうんだ。有難うカンナ!」

「はい」


コンコンコン

「アーシェ入るよ。はっ! はぁわ〜」

セルティスはアシェリのポニーテール姿に心臓撃ち抜かれ暫く惚けていた。

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