15、王妃様のお茶会−1
王宮からの招待状が届いた。王妃陛下主催のお茶会、これ断れないヤツ。
アシェリの顔があからさまに曇る。
はぁーー、面倒 いやー またか。なんだかんだよくあるよねー、お茶会って。
伝統菓子って甘すぎて正直しんどいし。やる事ないからお茶飲みすぎるとトイレが近くなる。だからトイレの場所チェックは欠かせない。前髪の中にカップを入れてお茶を飲むと笑われるし。やだなー。
でもここも乗り切らなければならない壁である。しかも何度もある。高さもある。ぼっちの難関。
今回は何故か年齢指定があった。
9歳〜14歳…?
ああ、これ王妃陛下の罠か。
ガッツリ王子殿下の婚約者候補のロックオンってやつか。
仕入れた情報では第1王子、第2王子、第3王子まで参加されるとか…、流石に自分の子のためだけど、王妃陛下が第3王子だけハブるとかできないよね。人格を問われるっす。年齢制限しているだけにね、おう自爆!
くっそー、アレクシス王子をなんとかしても第2、第3の刺客って感じ、乗り切れるのか。
はっ!? 不味い!!
今回お兄様は参加できない! あれ? これってわざと? 私がいつもお兄様の腕に抱っこちゃん人形するから引き剥がした??
意図的に? やばいよやばいよ!
ピコーン!
そうだ! セルティスお兄様が正式に伯爵になったのだったわ!
セルティスお兄様にエスコートして頂きましょう!
ふぅー、危ない危ない!
でも兄妹じゃないからあまりくっついていると迷惑かけちゃうかな…。
今回はお外でのお茶会だからまだ隠れる場所があるかな?
「お嬢様、午後から採寸の上、ドレスを決めなくてはなりません。それから奥様からマナーの講師をお呼びになっているのでチェックを受けて頂きます。それから旦那様から課題が出ております、もし苦手科目があるようであれば家庭教師を増やすと仰っておいででした。
そろそろオタク活動から令嬢へお戻りください」
カンナには私の趣味を『オタク活動』と教えた。
この世界にオタクと言う言葉は存在していないので、すんなり受け入れられた。
カンナには怪しげな活動と言う認識だったが、主人の行動に意見できるはずもなく黙って受け入れている。
という事です令嬢モードに切り替えて採寸。
「お嬢様はどう言ったものがお好みでしょうか?」
オールワンレングスに扇で顔を隠すアシェリ、カンナを呼び囁く。
「カンナ…私には似合うものなんて分からないし、ましてや流行なんて分からないわ。
いつも通りカンナが決めて頂戴」
「旦那様からは今回あまり地味にするなとお達しがございました。悪目立ちさせるなと。
なんでもコークス公爵がご令嬢のことを引き合いに出し、お嬢様を貶されたそうで…癪に触ったらしく…恐らく今回は地味にとオーダーしても変更されていると思います」
「まあ、コークス公爵と言うとチェルシー様だったかしら?」
「左様でございます」
「おいくつだったかしら?」
「お嬢様の1つ下で11歳でございます」
「チャンスね」
「ゴホン!お嬢様」
「だってそうでしょう! アレクシス王子殿下には聖女マリア様、パトロシス王子殿下にはチェルシー様、後はペトローシス王子殿下ね…誰かいい人いない?」
「他にも狙っていらっしゃる家は多いですよ? 寧ろお嬢様が変なんです。どこの家も王家と繋がりを持ちたくて同じ年頃の娘を持とうと躍起になっていたりするんですよ?」
「へぇ〜、でも王族って窮屈そうだし、今のままがいいわ」
「まったく うちのお嬢様ときたら…」
「今回は旦那様からのご指示がありますのでこの様なイメージでお願い致します」
カンナは主人を呆れて見ていたが、振り返ると何事もなかったように侍女然として対応する。
「ああ、はい 畏まりました」
本人のいないところで勝手に決められていく。まあ、いつもの事、着せ替え人形も面倒である。
ふーん、お父様も私が王家と婚姻を結びたくないとご存知で色々免除して下さったのに…、変に対抗意識で目覚めないといいけど……。何かやらかしそうで怖い。
無事にお母様からのマナーの試験にもお父様からの教養試験にも合格し事なきを得た。
これはバーバラちゃんが大活躍! そりゃそうだよね! 小さい頃から王妃教育を施され自由もない生活を強いられ、完璧令嬢って呼ばれてたんだもんね!
立ち姿からお辞儀の一つとってもすんごい綺麗! いよ! スターチスの完璧令嬢!
って脳内で応援してたよ。
お父様の試験はとっても難しかった?らしい。コレもバーバラちゃんが大活躍!
大昔の歴史は一緒だからね! ここ40年くらいの事を除けばガッツリ覚えてるって。
三つ子の魂百まで? 死ぬほど叩き込まれたから忘れたくても忘れられないってさ。
はぁー、そう聞くと可哀想だよね! あのムカつくウィリアム元王子、うっかり会ったらグーで殴っちゃいそうだよね! それは無理でも影からバーカバーカとかは言いたい! プンスコ。
算術とかは楓おばちゃんも役に立てたけど、アシェリちゃん自力で問題なし、余裕だよね。でもまあ、教養科目も淑女教育もバーバラちゃんがいればOK! 脳内で特訓&カンニング&間違いを訂正がし放題。アシェリちゃんは3歳で私たちが入り込んだ訳だからまだまっさら。つまりは私とアシェリちゃんだけの場合、淑女教育とかスターチス国の勉強を一から学ばなければいけなかったけど、バーバラちゃんがいるお陰でだいぶ免除された感じ。有難うバーバラちゃん!!
ん? 何か重要な事を忘れている気が……? ま、いっか!
お茶会当日
コンコンコン カチャ
「アーシェ、準備は出来たかい?」
「セルティス様、はい出来ております、お入りください」
「うっ、これは…なんと美しい! まるで妖精だな」
淡い色のシフォンのドレープが幾重にも重なり妖精の羽根のよう1番上の布にはアシェリが確立したクズ宝石を砕いたモノをエンボス加工みたいに貼り付ける技術で煌めく宝石の花が咲いている、縁取りに使われているリボンも一つ一つに細かい模様が描かれている。コレもアシェリが考案したものだ。胸元の薔薇の飾りは本物と見間違うほどのクオリティー、淡いピンクのドデカイ宝石のチョーカーが引き締める、よく見ればどれもアシェリがこの世に生み出した物で構成されている……お父様ったら、ご存知だったのね。
うん、確かにアシェリちゃんは元が可愛い、前髪から少し覗く顔も含めて妖精みたいだった。
「これでは目立たないかしら?」
「旦那様曰く、妖精でいられるのは今だけ、すぐに女神となるその前に妖精を愛でる喜びを奪わないで欲しいと仰っておられましたよ」
「お父様ったら親ばかね」
やっぱりコンセプトは妖精なんだ…、中身アラサーと思うと恥ずかしくて死にそうだけど、確かに私のせいでアシェリちゃんには我慢させちゃってるからなぁ〜。
よっしゃ! やってやるぜぃ!!
「セルお兄様…その…わたくしお兄様にへばりついてご迷惑をお掛けするかも知れません。わたくし陰気な幽霊令嬢ですもの」
「アーシェ、こんなにも美しい妖精のような君が『陰気な幽霊令嬢』なんて呼ばれるのは不本意だ、でもアーシェの目的のためには仕方ないと思っている。いや、寧ろ誰にも見せたくない…。こんなにも素敵なレディだと他の人に気づかれたら もう私の腕の中にはいてくれないと思うと、このままの時間が続けばいいとも思う…自分勝手だよね? くっついていて迷惑かって? 迷惑どころかずっと傍にいて欲しいって思っているよ。ああ、それよりこんなにも輝き眩いアーシェを隠せるかなぁ? 私がいない間のことが心配でならない。どうか離れないでいて、ね?」
あまーーーーーーーい!! セルティスお兄様が激甘だわ!
おっそろしい破壊力! 憂い帯びて既に凄い色気! こんなん愛してまうやろー! 思い出せ自分の運命!
ふぅー、うっかり愛してしまうと、国外逃亡の時 切ないことになっちゃうからね。何でこんなに素敵なのに攻略対象じゃないんだろう?
「セルお兄様…嬉しい。1人は心細いから甘えさせてね?」
そっと腕に額をつけるともう片方の手が優しく背中に回り温かい手に安心感を覚えた。
さあ、出陣!
相変わらずオールワンレングス前2cmだけ開いている髪型、この国の最高権力を持つ公爵家の令嬢でありながら『陰気な幽霊令嬢』なんて言われるだけあって、影の薄い印象の残らない、いてもいなくても変わらない取るに足らない令嬢だった。貴族世界は弱肉強食、役に立たないものは淘汰される。弱みを見せれば徹底的に叩き潰される、そして潰し這い上がれないようにするまで。
「あら、そのお姿は……まさか、ガーランド公爵のアシェリ様かしら? 相変わらずもっさりした髪型ですのね…。本当にそれで公爵令嬢とかって…ふふ 恥ずかしぃわぁ」
「本当でございますね、チェルシー様とは大違い!」
「チェルシー様は美の化身って感じですのに、こちらは幽霊…ぷふふふ」
「ちょっと! ご本人前にそれを言ったら…!! ぷふふ 悪いわよぉ〜」
「ああ、失礼 コークス公爵家ご令嬢のチェルシー嬢、ブランシュ伯爵家のアニタ嬢、クリント伯爵家のメラニー嬢 ご挨拶させて頂きます、セルティス・スタッド伯爵です」
「えっ? 伯爵位をもう継いでらっしゃるのですか?」
「ええ、まあ。お見知り置きください、それでは。 アーシェ、さああちらへ行こう」
コクンと頷きセルティスにエスコートされて過ぎ去っていく。
今までセルティスの顔はイケメンなのでチェックしていた。だが、爵位を継げない立場でアシェリの従者のようだったため完全にスルーしていた。
だが既に伯爵位を継いでいるという…考えてみればあのガーランド公爵の息子と娘にただのなんの肩書きもない人間を近づけ気安くさせているわけがなかったのだ。
コークス公爵家であるチェルシーには取るに足らない相手だろうが、アニタとメラニーにとっては自分の結婚相手となる可能性もある。だからすぐに態度を変えた。
「お、お待ちください! スタッド伯爵 もう少しこちらでお話ししませんこと?」
「そうですわ、折角ですからもう少しお話をしましょう?」
「申し訳ありません、先約がありますので失礼します」
そう言うと行ってしまった、その傍にはアシェリを伴い甘く優しい微笑みを携えて。
「ちょっとあなたたち 何を勝手な事を! 何故あの男に声をかけたりしたの!」
「「すみません」」
「あなたたちはあの程度の男で満足なの? 嫌だわ、アシェリ様の侍従でしょ? それなのに媚び売るような真似して恥ずかしくないの!?」
「「………………。」」
あんたはいいわよ、だって公爵令嬢でしょ! でも私たちは違う!! 結婚相手に少しでもいい相手を見つけなきゃいけないのに、あんたの太鼓持ち! それであんたが私たちの結婚の世話してくれんの? さっきの相手以上の人紹介してくれんの? 態度ばっかりデカくて。なんのメリットもない。
何かというとアシェリアシェリアシェリ!対抗意識燃やしてるけど、向こうは気にも留めてない! 幽霊幽霊ってディスってるけどそんなに悪くない…。って言うか、顔が見えないだけで悪くない。あっちは無害だけどあんたは有害!
お父様たちに言われてなければ誰があんたなんかと!
だけどそれが言えない。ぐっと堪える。
エリザベート王妃陛下はアシェリを目の端で見ている。
相変わらずおどおどして誰かの腕にぶら下がっている、あの前髪で前が見えているんだか。
確かに最初はうちの子供たちがあんな小さな子供相手に度が過ぎていたのは認めるわ、でももう10年よ?10年!いい加減これ見よがしにあんな格好でビクビクするのは、こちらに対する当てつけかと思うわよね。
…………可愛くない。
かと言って、結界魔法は捨て難いわ……。せめてパトロシスにと思っていたけど、全く社交性もないと言うし…、王族の妻は家柄だけでは務まらないわ。
やはり、アシェリのことは諦めるしかないかしら…、ふぅ。
そこでアシェリが『陰気な幽霊令嬢』と揶揄されているのを聞いた。他にも令嬢に絡まれているのもみた。あれくらいの事自分で上手くあしらう事も出来ずパートナーの腕に隠れてビクつかせている。
残念だけど、王家の妻になる資質はない。コレが結論ね。
結界魔法を留めおくのは陛下のお仕事ね…。
今日のお茶会にはマリア・ダラス男爵令嬢も呼んだ。
『聖女』と呼ばれ平民には人気があるが、貴族の中では、男性陣にはその容姿から人気がある、だが女性陣からは相手にされていない。まあ、それは仕方のない事だ。
ついこの間貴族になったばかり、毛色が違って興味はそそられるが貴族としての常識があるかと問われれば否、今は勉強中だ。よく努力はしているが生まれた時から努力してきた令嬢には敵わない、それでも手放せないのは、回復魔法を持っているという事実。
取り込みたい人材である事は間違いない、王妃の能力はないが王家に繋いでおく必要はある。
お茶会のすみでダラス男爵と話をする王妃陛下。
まだマリア1人では心許ないだろうと、後ろにダラス男爵を呼んでいた。
「ダラス男爵、ねえ見て頂戴。 あなたの娘マリアの事だけど…、元平民でまだ貴族としての素養がないの。その上…ねぇ? 男爵だから下に見られやすいの、分かるでしょう?」
「は、はぁ」
男爵は汗を拭う。
「暫く王家で預かるわ、素養が身に付いたら そうねぇ、どこかいい家柄に養子に出すのがいいと思うのだけれど…如何かしら?」
如何なんて言っているが決定事項だ、ダラス男爵に拒否権、元より意見など言えるはずもない。ダラス男爵は自分の娘が聖女と言われている事を知って金になると思って引き取ったのだ、こんなにも早く手放してしまうとメリットがない。だが、ものは考えようだ。
マリアに必要な教育を与えてくれるって言うのだからそれらが身につけば、更に高値で売れるかも知れない、そう考えた。
「王妃陛下に全てお任せ致します」
「有難う」
王妃陛下はほくそ笑みダラス男爵は真顔だった。
「マリア、 どう 楽しんでいるかい?」
「アレクシス王子殿下! はい、以前よりは作法が気になりませんが、そうなると別のものが気になってしまって」
「別のもの?」
「…ここにいるのは皆さん本物のご令嬢、私とは違います。ここでこうしている事が場違いな気がして…。私とあそこにいる彼女だけがそぐわない、そんな気がします」
マリアが言った彼女とは…アシェリ・ガーランド公爵令嬢 この国で最もこの場に相応しい筈の人だった。




