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48 冬の寒月 3

 試験です。

 如何に国が動こうとも、いえ、だからこそ、次代への期待と責任は大きく重くなるのでしょう。要するに年度末、卒業試験でございます。

 卒業自体は来月、冬の明け月になってからですが、その後の卒業判定の期間のためにもう今月に試験が行われるのです。

 必須科目と選択科目それぞれで試験がございますので、およそ一週間、一日一教科ずつという日程です。

 礼儀作法などは実技ですので、一日一教科といっても本当に一日がかりです。ダンス、食事マナー、男子生徒はエスコート、女子生徒はカーテシーなどなどで終わった頃には冬の短い日が傾いております。


「疲れました」


 試験終了日の夕食の後、わたくしたちはまた、わたくしの部屋でパジャマパーティーをしております。追加のマットレスと毛布を敷いた上で、ぐったりとフィリィ様がお行儀悪くクッションに抱きついて居られます。

 今日はわたくし、メアリー様、フィリィ様、スノエル様の4人。ローズマリー様は以前の宣言通り、寮ではあまりお会いしなくなってしまいました。その分、学園では折りに触れ気遣ってくださるのですけれども、もともとクラスも違いますし、今まで通り、といえばそうなのです。


「フィリィ様、どうでした?」

「頑張りました! 多分大丈夫だと思います」

「よろしかったですわ。わたくし、やっぱりブリーム先生に詩作のレポートを追加で提出したほうがいいのかと不安ですもの」


 皆さんと勉強することも出来ないまま試験に突入してしまいましたから、文学の点数が怖いのです。試験は作品提出でない分、多少は点を取れるとは思いますけれど。


「わたくし、必須は文学のみですのにこの体たらくですわ……」

「プリム様は試験前お忙しくされていましたから」


 とフォローしてくださるのはメアリー様。お優しい。涙が出そうです。選択の経済はそれなり、魔力学は実技なしですから、こちらも問題なく。


「スノエル様は?」


 わたくしが明らかに落ち込んで見えたのでしょう、フィリィ様がスノエル様へ話題を変えてくださいます。


「多分大丈夫だと思います。プリム様も、なんと申しましょうか、落第、にはなりませんよ」


 そして加えられるフォロー。うう。心が痛い。


「だといいのですが」

「えっと、あ! 皆様、卒業されたらどうなさいますか?」


 メアリー様からまた追加フォローです。申し訳ないですわ。ここは率先してお答えし、空気を変えなければ!


「わたくしは、しばらくお城に通うことになると思います」

「王太子妃教育ですよね」

「はい。それからその、婚姻の、用意、だそうです」


 きゃあ、と途端に女子特有のきらめいた声があがります。恥ずかしながら宣言してようございました。これで空気が変わったはず――!


「わたしもです。ひとまず実家に戻るのですが、準備が整ったらすぐ、フォルバレイ様のご自宅に引っ越します。式はまだやるか決めていなくて、結婚申請書だけ先に貴族院に提出するんです」

「わたくしは1年は実家にいる予定です。クレイン侯爵様はすぐにでもとおっしゃってくださっているんですが、兄が嫁いだばかりですから」

「寂しくないですか? せっかく一緒に居られるのに」

「今もとてもまめに手紙をくださるのですが、それよりもっと会いに行けると言ってくださって、その、『恋人期間』を楽しみにしてくれ、と言ってくださっていて」


 えへへと笑うフィリィ様と頬を赤らめてぽつぽつ口にされるスノエル様、おふたりとも可愛らしいですね。にやけて目がとろけてしまいそうです。溶かしませんけれども!


「メアリー様は? お兄様と婚約なさっておりますけれど、兄はきちんと今後のことなど話しておりまして?」


 お兄様がヘマをするとは思えませんが、メアリー様を煩わせているようでしたら容赦なくいきますわよ、と意気込みますと、メアリー様ったら、顔真っ赤。


「メアリー様?」

「えっと、その、あの。卒業式には迎えに来てくださるそうです」

「まあ!」

「もうそんなお約束まで!」


 慣例でそうなるので、あまり約束まで交わすことはないと伺っていたのですが! 予約済みとはさすがお兄様です。


「それで、プリム様付きの女官になる予定ですから、先に届けだけ出してしまおうということになりまして」


 おにいさま?


「卒業式の後両家にご挨拶させていただいた後、すぐに届けを――」

「お兄様性急過ぎませんこと!?」

「一番最初に結婚するのがメアリー様ってことですね!」

「まぁ……」


 真っ赤なメアリー様が慌てて手を振っていますが、何を否定したいのでしょうかもはや事実しかございませんけれども。


「でもその! ふう、ふになるのは! まだ先といいますか! わたくしのお城での立場のためにもと言っていただいていて!」


 慌てるメアリー様もとても可愛らしいのですが、兄の外堀の埋め方の酷さにちょっと心配になってきました。


「メアリー様、おそらく、おそらくですけれど、籍を入れましたら、兄のことです、籍を入れたのだから我が家からお城に通えば良いと仰ると思います。兄もイングラム様の側仕えですし、わたくしも通うわけですから、同じ馬車で登城したほうが効率が良い、などと言って。そのままなし崩しに同棲に持ち込むと思います」

「ふぇ」

「ですから、嫌なことは嫌と、おっしゃってくださいね。お兄様は、わたくしが止めます」

「羨ましくなっちゃうほど熱烈ですね、リバート様」


 真っ赤なメアリー様に、真剣なわたくし。そして羨ましいとつぶやくフィリィ様。スノエル様も顔が真っ赤です。ええ本当に、箱入りのご令嬢相手の手とは思えません。兄もわりと箱入り貴族嫡男だと思うのですが。


「もちろん、メアリー様が我が家に嫁いでくださるのはわたくしとても嬉しいです。お義姉(ねえ)様になっていただくんですもの。ですが、それとこれは話が別ですわ」


 わたくしがふんす! とお伝えいたしますと、メアリー様がきょとんとしたあとにふんわりと微笑まれましたそーきゅーと。


「ありがとうございます、プリム様。でも、わたくし、恥ずかしいとは思うのですけど、そこまで乞われて、むしろ申し訳ない気持ちです。きちんと、同じだけのことを返せるかわからなくて。

 もしジンカイイ家のお屋敷に住まわせていただくならば、その――次期夫人として夫人にきちんと教えを請いたいと思いますし、プリム様にもしっかりお仕えしたいです!」


 きりっと口元を引き締めるメアリー様にメロメロしそうになります。スノエル様が目を丸くして、それから感じ入るように頷かれました。


「仰るとおりですわね。わたくしも、クレイン侯爵様の気遣いにきちんとお応えできるようにがんばります」

「わたしもです!」


 皆様きちんとこれからを見据えて居られて、流されるばかりのわたくし、少し恥ずかしくなってまいりましたわ……。

 モブとして眺めていたいだけだったはずなのに、欲張りになってしまいました。でも、それを悔いてはおりません。

 だって、わたくしも、皆様と居たいのですもの。


「――これからも、皆様とお友達で居させていただきたいですわ」


 ほうと溜息を吐くように呟いてしまいます。

 三人の視線がわたくしに集まりました。え?


「もちろんです」

「是非」

「わたくしも」


 そして三者三様に、肯定を返してくださいました。それから、オチを付けるようにフィリィ様が微笑まれます。


「だって、王太子妃のご友人、なんて、騎士爵夫人には大事な繋がりですもの!」

「まあ!」


 それから4人で笑い合って、他愛もなく話し合って。夜は更けていったのです。

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