23 秋の〆月 1
今回も短めです
そうして、秋の〆月、社交シーズンの終わりの月にして年末がやってきます。前世で言うところの12月に該当するのですが、冬至が元日のイルフカンナですから、今は気候的には日本の11月の終わり頃でしょうか。
あと二週間ほどで、社交シーズンの最後を飾る大夜会が行われます。
そして、大夜会で。
わたくしと、イングラム王太子殿下の婚約が公表されるのです。
わたくしが学園にいること、お兄様とメアリー様が婚約されていることなどから、貴族の間では一月の間にもはや既定路線の認識でございます。
貴族令嬢は卒業と同時に結婚することも多うございますから、誰も不思議にも思いません。
「卒業式の迎えの馬車は殿下の馬車なのですか」
と突撃質問をしてきた方もおられましたわね。新聞部の方でしたわ……。
ちょうど近くにおられたローズマリー様がにこりと微笑まれ、花の薫りを満たしながら、
「もう一度言ってくださる?」
と問われると、
「あるぇー? なんだったっけ、失礼をいたしました」
って帰っていかれました。間違いなく花の魔力ですわね、とわたくしがローズマリー様をみやりますと、ローズマリー様はにこりと微笑まれて
「我が君が気を病まれることではございませんわ」
ですって。個人の忠誠ってこんなに騎士や従僕染みたものでしたかしら。
ああ。そう。従僕です。ことここにいたり、メアリー様の従者は決まっておりません。いい加減お世話されることに慣れていただかないと! わたくしにかまけていないで!
そのメアリー様は、公示以来毎週末、お兄様との逢瀬を繰り返しておられます。やだぁ、青春ですわぁ。
となると、ますますお世話されることに慣れて頂きたいのですが。
従者専科の方々を、フィリィ様の侍女であるお二人にご紹介願ったのですが、なんというか、わたくしのお眼鏡に叶いませんでしたの。
メアリー様を託せる方でなければ! なりませんので!
エステルの親戚筋を頼っても良いのですが、あくまでもわたくしは、メアリー様に選んでいただきたいのです。
お兄様はそばに居るでしょうが、やはり、わたくしにとってのエステルのように、頼れる同性は必要だと思うのです。
ええ、もちろん、お嫁入り頂けたなら、我が家の使用人たちは心からメアリー様にお仕えするでしょうけれど、嫁入り前から連れていく侍女というのは婚家にとっても重要な位置付けなのです。一人身一つで嫁ぐ女性の、心の拠り所として、尊重されるものなのです。
そんなある夜。
「いっそわたくしが侍女になればよろしいのでは」
「なりませんよ」
自室での呟きにエステルは静かに答えます。
「良い案だと思ったのですが」
「現状はメアリー様がお嬢様に付いていきそうと伺っておりますわ」
「そうなの?」
「はい。兄から聞きました。閣下とのお茶会でも、話題は基本的にプリム様のことだとか」
ええー。
「お二人の仲も深めていただきたいのですけど」
「それは問題ないかと存じます」
「そうなの?」
「ええ」
お二人の仲が順調ならば、わたくしは侍女選びを進めるだけですわね。メアリー様の貴族的保護者として振る舞わさせて頂きましょう。わたくしの審査は厳しくてよ。
ふんすふんすと気合いをいれますと、エステルがものすごくこう、微笑ましい眼差しでございました。
解せません。
***
社交シーズン、とはいえ、学生の間はパーティーや夜会、茶会は免除される慣わしです。とはいえ、参加を咎められるものではございません。出なくても良いよ、くらいのものですので、社交好きな方々は学生でも頻繁に出歩かれるようです。
特に、下級貴族となれば尚更。顔繋ぎが将来を左右しますのでたとえ学生でも上位貴族の招待は基本断れない、断らないと聞いております。
ですので、隣のクラスは最近空席が目立つ、とローズマリー様とナハトが魔力学の時間に申しておりました。
今のわたくしたちの課題は、魔石を動力とした日用品の改善です。それを成しながら、自分の属性と向き合うことをアンドン先生は教えておられます。
何せ、属性や魔力の癖が其々異なりますので、そもそも画一的な指導ができるのは最初だけなのだそうです。
今では、ローズマリー様もナハトも、魔石を煌々と光らせることはもちろん、己の属性に応じた多少の魔法を使えるようになっています。
メアリー様は特に癒しの魔法を伸ばすべきだとわたくしは考えていたのですが、何故か拳を強化する方法を考え付いてしまわれて、専らそちらです。具体的にはわたくしの感覚で言えばバリアのようなものを拳にまとわせて、殴る、だそうです。アンドン先生は、繊細な防御魔法で拳というピンポイントを保護=強化して武器として用いる、という新たな用法に息を荒げておりました。
わたくしは炎と熱風について、かなりの制御が出来るようになったと思います。具体的には鉄板があれば魔力でこんがりハンドトスが焼けます。画期的! 野営にぴったりでしょうと胸を張ったのですが、先生は面白味がない、とスンとしたお顔でした。楽しいのに。
ナハトは空間収納に才を発揮したのですが、今のところ納められるのは大体60cm四方までとか。
ローズマリー様はあまり実践はなさいませんが、先生との一対一の指導で大分繊細な制御をなさるとか。先日も実践で見せていただきましたわね。ええ、敵には回したくございません。
わたくしたちの学園生活も半分以上が過ぎ、在学期間で言えば残り3ヶ月もありません。
悔いの無いように、とは申しますが、一年はやっぱり短く感じます。
「なんでも、大夜会をデビューになさる令嬢がいらっしゃるとか」
魔力学の実習道具を片付けながら、ローズマリー様が仰います。
「ほぼ全ての貴族が集まりますし、それは構わないのではなくて? 陛下や殿下にお目通り叶う機会ですもの」
わたくしが答えると、ですが、ローズマリー様は眉間に皺を寄せました。
「こちらのクラスの噂、なのですけれど」
「ええ」
「庶民から、男爵に引き取られた方なのだとか」
「わたくしも庶民でしたから、それは不思議ではないと思います」
メアリー様が首をかしげますと、ローズマリー様は意を決したように告げられます。
「それがその、以前のわたくしがそうだったように、どうも……」
──あの時のわたくしと、同じようなことを口にしているようなのです。
その言葉に、事情を知るわたくし、メアリー様、そしてアンドン先生が一斉にローズマリー様を見詰めました。
わたくしは、ご同類かと思いましたし、残りのお二人はやはり『前世の記憶持ち』が複数いることに驚かれた様子です。ここにもおります。
そして大体、前世の記憶持ちを自覚される方というのはこの世界が『輝きのソナタ』またはそれに類する世界であることを察しているはず。いえまさか未プレイだったりエアプの方が御自身の前世を口になさるとも思えませんし。となれば、ほぼ間違いなくプレイヤー転生者です。
「魔力持ちの可能性があるのか」
あ、そういう見方が出来ますね、確かに。
アンドン先生のお言葉に、わたくし、目から鱗です。
「お困りで無ければ良いのですが」
わたくしがそう呟きますと、メアリー様もローズマリー様も頷かれました。
そう。ローズマリー様のように戸惑って困ったり苦しんでいなければいい。この世界に足を付いて生きていけるならばそれで。
ですが。
なんとなく不安を感じるのは何故でしょう。
『輝きのソナタ』のヒロインは、メアリー様。メアリー様はお兄様ともう婚約なさっております。『ゲーム』としてのルートは既にありません。
ですがもし、ゲームのままと思っておられたら。
もし。何かをこの世界に願っておられるなら。
今は悩んでも仕方の無いことかもしれません。
「ともあれ、お会いしてみなければわかりませんね」
メアリー様のお言葉に、わたくしは頷くのでした。




