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神に仕える黄金天使  作者: こん
第1章 玉座強奪・諸邦巡遊篇

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第74話

「ジル様、報告しておくべき事がひとつあります」


 ヨルクが近づいてきてそう言った。クラウディウスもついてきている。


「なんだ?」


「あのリンタロウと言う男ですがかなり怪しいでしょう」


「なぜ?」


「敵が攻めてきた可能性があるにもかかわらず、領主自ら赴き、事の判断をするでしょうか。それに兵士を尋問したところ、この国では禁止されている人身売買を行っていると言う噂があるそうです」


「安心しろ。あの男についてはアシルが調べている」


「そうですか」


「クラウディウスはなんだ?」


 クラウディウスが珍しく黙っているので話を振ってやった。


「いや、我は特にない。が、この国の剣には気をつけた方がよろしいぞ」


「と言うと?」


「この国の剣、ジャビラが伝えた『ジャビラ刀』と言うらしいが斬れ味重視だ。もし戦うことになれば、刃には触れん方が良い」


「気をつけよう」


 俺はヨルクとクラウディウスをエヴラール達の所へ行かせ、同じような報告をするように言い、レリアの方を見る。


「なに?」


「レリアが食べる物は俺が毒味をしよう。あの男は怪しいらしい」


「そんなことしたらジルが死んじゃうかもしれないからしないで。あたしよりジルのがサヌスト王国にとっては大事な人だから」


「俺にとってはレリアの方が大切だ。それに俺は毒などで死なぬ」


「…それならお願い」


「ああ」


 その後、俺はタケルの記憶を頼りにこの部屋の説明を二人にした。こちらの常識では間違っているかもしれぬがまあ良いだろう。


「ジル殿、報告だ」


 俺達が布団を敷いて寝転んでいるとアシルが来た。


「アシルの話を聞いてくる」


 俺は二人にそう言って廊下に出る。


「ジル殿、報告は主に三つだ。どれから聞く?」


「アシルの好きにしろ」


 どれから聞く、と言われても何も知らぬからそう言ってやった。ちなみにアシルとその部下は航海中、ずっとヤマトワ語を学んでいた。ロドリグに天界流の勉強法でしごかれていたらしい。そのおかげか、読み書きもできるようになっていた。


「ではあの男について。リンタロウは先々代の帝の娘と先代の将軍の間に生まれた。俺達を迎え入れたのは次の将軍の座を狙っているからだろう」


「武器を言い値で買うと言ったのはそれが理由か」


「そうなのか?」


「ああ」


「俺にも知らせて欲しかったが…まあいい、次だ。リンタロウは村や町ごと売買しているらしい。俺も良くわからんが、あったはずの村が翌日には無くなっている、ということが稀に起きるらしい」


「悪人ではないか」


「ジル殿もだろう。ブロンダン領主にただの石ころを金貨五十万枚で買わせただろう。あれはただの詐欺だ」


「嘘は言っておらぬ」


「まあいい。ものは考えようだ。武器を言い値で買うなら町を貰えば良いだろう。こちらの技術が学べるぞ」


「何を学ぶのだ?」


「ジル殿は米という植物を知っているか?」


「ああ」


「あれは麦の十倍ほど収穫できるらしい。本当がどうかは知らんがな」


「それはすごいな。他は?」


「あとは…紙とかもそうだろう?この城を見た限り、紙はそれほど高くない。それにサヌストの王宮に比べて書物も多かった。ただの領主の居城にすぎんこの城が」


「それは…良いな。アシルの言う通り、町を買うのも良いかもしれぬ」


「それは良かった」


「で、次は?」


「俺達が攻撃されるのが早かっただろう?」


「ああ。船からは微かに見えるだけであった」


「ヤマトワを包むように結界が張られているらしい。たとえ霧が出ていても相手の位置が分かるようだ」


「なるほど。一発で攻撃が止んだのは当たったかどうか分からぬからか」


「その通りだと思う」


「分かった。報告は以上か?」


「ああ。どうするかはジル殿が決めてくれ。俺はあくまであんたの部下だ」


「そんな事を言うな。弟だろ?」


「そうだが。まあいい。交渉はジル殿に任せる」


「ああ。分かった」


 俺はアシルにそう言って後ろを向いた。ミシミシと音が鳴っていたので誰かいるのかと思ったが知らぬ者だ。船員の顔は全て覚えているから間違いないだろう。


「何者だ?」


「殿様の使いです。夕食の準備が整いましたので皆様をお呼びに参りました」


「どこから話を聞いていた?」


「『弟だろ?』というところから…」


「そうか。ならば良い」


「はは。夕食の際、幹部の方々は殿様の私室で商談があるようですのでそちらに行かれますよう」


「分かった。皆にも伝えたか?」


「はい」


「そうか。少し待て」


 俺がそう言うとリンタロウの使いの者は頭を下げて二歩下がった。


「レリア、夕食だ」


「わかった。今行くね」


「ああ。ファビオもだぞ」


「わかった!」


 扉を開けてレリアとファビオにそう告げる。


「ファビオ、おぬしはレノラ達と一緒に夕食を食べよ。レリアは俺と行こう」


「なんで?」


 ファビオが不思議そうに聞いてきた。


「ファビオはヤマトワ語が分かるのか?」


「分かるよ」


 ファビオは五歳にして二か国語を操るようだ。なかなかすごいな。


「ならついてきても良いぞ」


「やったー!」


 ファビオがヤマトワ語を話せないかと思っての事だったが心配無用であった。


「あたしは?」


「レリアは話せるだろう?」


「少しだけだけど話せるよ」


「やはりな。俺はレリアを信じていた」


「あたしは旅してたもん。話せるよ」


「そうか」


 俺達がそんな会話をしている間にアシルがミミルとフェリクスとショータ殿を呼んできていた。ちなみにだがフェリクスはミミルの旧友で、今回ミミルがヤマトワに行くと聞いて信頼出来る仲間を集めた張本人らしい。ショータ殿は二人の通訳と自分達の説明をするらしい。


「幹部はこれで揃った。案内してくれ」


「承知致しま…」


「ちょっとまって!」


 リンタロウの使いの言葉を遮ってファビオがそう言った。


「レノラ姉は?」


「呼んでいないのか?」


「呼んでくる!」


 ファビオはそう言って廊下を走っていった。と言っても隣の部屋だ。


「ジル殿、エヴラールを連れていかなくて良いのか?」


「なぜ?」


「一応いた方が良いだろう。護衛がいる、と思わせるだけで牽制できると言ったのはジル殿だ」


「そうだな」


 俺は念話で急いで来るようにエヴラールに伝えた。するとエヴラールはファビオ達とほぼ同時にやってきた。


「これで全員だ。案内してくれ」


「承知致しました。どうぞこちらへ」


 俺達は案内に従ってリンタロウの部屋へとやって来た。


「お待ちしておりましたぞ。どうぞ」


 リンタロウは先程とは違い、優しげだ。武装をしたら性格が変わるタイプか?


「リンタロウ殿、早速だが良いか?」


「ええ。どうぞ」


 俺は適当な席に座りながらそう言った。


「リンタロウ殿は将軍になりたいのか?」


「と申されますと?」


「いや、あなたは将軍家の血を引いていると伝え聞いたもので」


 俺はできるだけ優しそうに言う。


「いや、私などまだまだだ。将来的には、ということでしたら」


「そうであろうな。まあ良い。俺もあまり理解はしておらぬが将軍になるには、ある程度の武力が必要なのでしょう?」


「まあそうですな」


 適当に言ったことだが正解だったらしい。


「ならば、俺から武器を買うと良い。兵さえ揃えば五千の騎兵を二千の歩兵で打ち破ることができるでしょう。それも正面からぶつかって」


「相当な自信があるようだ」


「ああ。ところでリンタロウ殿、ミスリルはご存知か?」


「聞いたことはある。ミスリルはジャビラ様が使われたジャビラ刀の素材だったそうで何百、何千と戦を重ねたジャビラ様だが一度も刃こぼれなどを起こさなかったらしい」


 そのジャビラ刀にも驚きだが何千もの戦を生き抜いたジャビラの方が恐ろしいな。


「まあそんなところだ」


「で、そのミスリルがどうかしました?まさかミスリル製の武具が…?」


「ああ。全てミスリル製だ。三千人分はあるだろう」


「ど、どれほどの対価を払えば…」


「三千人。三千人の魔法が使える兵士でどうでしょう。もちろんその家族も俺達の方で養おう」


「三千人…」


 ───ジル殿、待て。伝え忘れていたがリンタロウが所有する兵力は騎兵五千、歩兵七千だ。魔法を使えるとされているのは一万二千のうち四千弱だ───


 そうか。だが問題ない。この条件に従わなければ、武器は売らぬ。もう金はあるし、問題ないだろう?


 ───…まあいい。ジル殿に交渉を任せると言ったのは俺だ───


 感謝する。


 アシルの情報によると俺に三千人の兵士を対価として払えば、この地の戦力は確実に弱まる。

 さてリンタロウはどうするか。

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