第75話
「明日、商品を見させてください。話はそれからです」
「これだ」
俺は異空間から片刃の曲刀、ジャビラ刀を取り出し、リンタロウに渡す。
「失礼」
リンタロウはゆっくりと鞘から抜き、刀身を見ている。
「レリア、ファビオ、毒味をしよう」
時間がかかりそうなので先に毒味を済ませてレリアとファビオには食事を楽しんでいてもらおうと思ったのだ。
「わかった。お願い」
二人の前に置いてあった物を全品、少しずつ食べる。タケルの記憶にある日本食だ。ちなみにお箸と言う二本の棒のようなもので食べるのだが、タケルの記憶通りに扱えた。
「問題ない。それになかなか美味しい」
「ほんとに?いただきます!」
ファビオは美味しいと聞いて食べようとしたがお箸の使い方が分からぬようで手で食べ始めた。
「レリアは食べぬのか?」
「これどうやって使うの?」
俺はレリアにお箸の使い方を教えた。レリアはぎこちないが、食事に支障がないくらいには扱えている。やはりレリアは俺などより賢いな。
「ありがと。いただきます」
レリアも食べ始めた。
「ジル殿、この刀と同じ品質であれば、三千人分全て頂きたい」
「では魔法を扱える兵、三千人を?」
「ええ、連れて行って構いません。家族も含めると一万五千人ほどだ」
「その中に農業はできる者はいるのか?」
「歩兵は皆、半農半兵です」
「ちなみに三千人に内訳は?」
「五百騎の魔法騎兵。残りは全て歩兵です」
「魔法騎兵か。馬に乗るのか?」
「いえ。そのようなことをしては馬が脅えて暴れてしまいますので竜に騎乗します」
「おぉ…ヤマトワには竜がいるのか」
「大陸の方の竜は既に全滅したと聞いております。ところで果物も売っているとの事ですが見せてもらっても?」
「ああ。これだ」
俺はみかんを取り出してリンタロウに渡す。
「食べてみても?」
「ああ。気に入れば差し上げよう」
「頂きます」
リンタロウはみかんを皮ごと食べた。こちらではそういうものなのか。
「これは…美味い」
「気に入ったか?」
「ええ。全て買いましょう」
「いや、差し上げよう。三万個はあるだろうからこの城の皆で食べてくれ」
「そういう訳には…」
「俺達がヤマトワに滞在する間、ここに泊めてもらうのだ。礼にはならぬかもしれぬが、受け取ってくれ」
「ではありがたく」
「ああ。俺は以上だ。ミミル、良いぞ」
「分かりました」
俺はミミルと交代して食べる。全体的にサヌストのものとは違う。ちなみにサヌストでは米はメインではなく、料理の引き立て役として出されることが多いが、ヤマトワでは米をメインとして米に合う料理が多くある。
その後、商談と宴を終えた俺達は与えられた私室に戻り、眼帯も外してゆっくりと休んだ。
翌朝。俺は目を覚まして最初に眼帯をつけた。この国では気をつけねばならぬ。
「レリア、朝だ。起きてくれ」
「んー…おはよう」
俺が和服に着替える為、レリアを起こすとレリアはゆっくりと起きて伸びをした。
「おはよう。まずは眼帯を」
「うん、ありがと」
レリアに眼帯を渡すとゆっくりとつけ始めた。
「ジル、お水ある?」
眼帯をつけたレリアがそう言ったので俺は創造魔法でコップを創り、そこに水魔法で水を注いでレリアに渡した。
「ありがと」
レリアはコップの中の水を一気に飲み干した。
「んースッキリした〜」
「それは良かった」
「和服だよね?ちょっと待って」
レリアはそう言うと屏風の向こう側から和服を持ってきた。
「じゃあ服を脱いで」
俺はレリアの指示に従い、服を脱ぎ、和服を着せてもらう。もう慣れたものでどこをどうすれば、楽に着せてもらえるのかを分かっているので初めて着る時よりも早く着れる。
俺に和服を着せ終えるとレリアは自分も着替えた。
「ではファビオを起こそう」
ファビオには完璧な兄と思われたいので着せてもらっている姿はあまり見せない。
「ファビオ、朝だ」
人狼は耳が良いので耳元でそう言ってやれば起きる。
「アニキ、おはよう…」
「おはよう」
ファビオも寝ぼけているが水を飲めば、スッキリするらしい。
その後、ファビオは自分で和服を着た。俺も甚平であれば、楽に着れそうである。
俺達は一旦廊下に出た。昨日の夜、リンタロウがそうするよう言っていたからだ。
「「「おはようございます」」」
廊下で待機していた侍女達が頭を下げた。
「朝食の準備が出来ておりますのでご案内致します」
侍女の一人がそう言って歩いていったので俺達はついて行く。
「ジル様!おはようございます」
エヴラールは既に来ていたようだ。
「ジル様の部屋の前で待っていたら有無を言わさずここに連れられまして…申し訳ありません」
「良い」
俺は話しながらエヴラールの隣に座った。すると待っていたかのように朝食が運ばれてきた。
米を三角に固めた料理、おにぎりと言うらしい。中には魚などが入っているらしい。
俺達は談笑しながらおにぎりを食べた。
その後、リンタロウがやって来て練兵場へ案内された。
レリアはキアラと共に街へ出かけて行った。もちろん護衛を連れて。
ファビオはレノラと一緒にどこかへ行った。
エヴラールは俺と来ている。
「ジル殿、おはよう」
「おはよう」
アシルは既に来ていた。
「ジル殿、昨日言っていた魔法騎兵と魔法歩兵です」
リンタロウが手招きをすると二人の男がやってきた。白髭を生やした初老の男とたくましい若い男だ。
「ジル殿に挨拶せよ」
「私は魔法騎兵隊の隊長、キイチロウと申します」
「オ、オラは魔法歩兵の隊長、リョウです」
白髭の男、キイチロウは慣れたように挨拶したが、若い男、リョウは慣れぬように挨拶した上、少し訛っていた。もちろんヤマトワ語なのでサヌスト語になれば、訛らないだろうから気にせぬ。
「ジル殿、商品を頂けますか?」
「ああ。ここに出して良いのか?」
「はい。お願いします」
俺はリンタロウに許可を貰ってから三千人分の武具とみかん三万個を出した。
「「「おぉ…!」」」
三人は驚いていた。ついでに言うと遠くから見ていた兵士や竜も驚いていた。ちなみに竜は馬より一回り大きく、それに騎乗する者は薙刀を使うらしい。もちろんジャビラ刀も携帯しているらしい。
「キイチロウ、リョウ。お前らはこれからこの方に仕える事となった。ジル殿に忠誠を誓え」
「はは。ジル様、この命、ご自由にお使いください」
「オラの命もご自由にお使いください」
命を自由に使えと言われても俺は命を無駄にするような男ではないのだが、まあ良いだろう。こちらでは忠誠を誓う際、こう言うと思っておこう。
「おぬしらの魔法の腕を見ておきたい。ここで使っても良いのか?」
「魔法騎兵隊は海上で訓練を行っております。海に行きましょう」
「分かった」
俺達は海に行った。街の住人が何事か、と驚いていたが素通りしてきた。リンタロウが何とかするだろう。
ちなみに俺達の船がある場所とは別の場所だ。
「キイチロウ、リョウ。まずは普段の訓練の様子を見せてくれ」
「「はは」」
キイチロウとリョウはそれぞれ部下に指示を出した。キイチロウ率いる魔法騎兵隊は竜に騎乗し、海上へ飛び立った。
しばらく旋回したところで海に向かって魔法を撃った。すると俺達の船よりも大きな鮫のような生き物が飛び出してきた。その鮫は空中のキイチロウ達を目掛けてジャンプした。否、空中を飛んでいる。
「あれは…」
隣でアシルとエヴラールが驚いていた。俺も驚いている。
「リンタロウ殿、あれはなんだ?」
「この辺りで暮らしているメガロドンと言う魔物です。水中はもちろん、空中でも無類の強さを誇ります。稀にはぐれた個体がこの辺りにやってくるので頃合いを見て彼らが討伐します」
「訓練と言っていなかったか?」
「ええ、訓練です。あれはまだ幼体ですから」
それを聞いてより驚いた。あの大きさで幼体なら成体はどれほどの大きさなのだろうか。
そのメガロドンは雷魔法をその体に纏っている。迂闊に近づけば、感電死するだろうがキイチロウ率いる魔法騎兵隊は目にも留まらぬ速さで近づき、薙刀で斬りつけている。
その者らが離脱したところで別の魔法騎兵が火魔法を撃ち込む。
そうして陸の方へと誘導して行き、魔法歩兵隊が一気に魔法を撃ち込んだ。魔法歩兵隊は戦闘開始からずっと魔法の準備をしていたようだ。
メガロドンは気を失い、そのまま地面に叩きつけられ、絶命した。




