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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第580話

 衛兵大隊本部の視察を終えると、アズラ卿の手配した汎用魔導車の後部荷室に乗り込んだ。俺の他、アズラ卿やアキ、エヴラール、リンが後部荷室に乗り込み、車長席にはアガフォノワが乗り込む。


「それでは出発します」


 アガフォノワがそう言って荷室の扉を閉め、車長席に乗り込む音がした後、汎用魔導車は動き始めた。

 乗り心地としては、下手な馬車に乗るよりも圧倒的に心地良いが、座面が木製であるから、長く座っていたら痛みが生じかねぬ。とはいえ、布などで覆うと整備や清掃の手間がかかるうえ、兵士の装備品ですぐに傷むため、木製が良いそうだ。


「ジルさん、どうです?」


「移動手段として考えるならば上出来でしょうな。何台か帝室に献上すべきでしょうか」


「献上したとして、宮内省に運用できると思いますか? 魔石や整備の費用、さらに運用する人員も必要です。移動しなくても、年間千オールは必要ですよ。それなら馬を十頭飼った方が汎用性も高いでしょう。ですがまあ、皇帝陛下がお望みなら、献上する用意はありますよ」


「一度お話してみようと思います」


「それなら実物があった方が分かりやすいでしょうから、この車両と操縦手をジルさんに預けます。しばらく使ってくれて構いませんし、何ならジルさんの愛車にしてもいいですよ」


「愛車云々は別としても、しばらくお借りします」


 エジット陛下がどう思われるか分からぬが、陛下のお気に召すのであれば献上しても良いだろう。宮内省には運用できぬとアズラ卿は言うが、同時に宮内省が運用できるよう家臣を出向させる用意も整えているのだろう。寧ろ、家臣を宮内技官として仕官させて、宮内省内における発言力を強化する好機であると考えているかもしれぬ。いや、それ以上の事を考えているだろうし、そうあってほしいものだ。


「さて、ジルさん。視察についてです。次はジルさん一家が住む屋敷を見に行きましょう。ロード公爵邸です」


「遠いのです?」


「血閥本邸のすぐ裏ですよ。でも正面から行こうと思うと回り道をしなくちゃいけないので、車に乗ったんです」


「そうでしたか」


 アズラ卿はそう言い、俺にモレンク血閥特区の地図を見せた。

 モレンク血閥の屋敷は、一辺が表通りに面し、残りの三辺が路地に面するよう配置されており、屋敷と屋敷が直接隣り合う事はない。路地は使用人の移動や生活物資の輸送などに用いられ、裏門を通じて屋敷の敷地に出入りできる。これは表通りに関しては華冑院の指導で、ある程度の景観を保たねばならぬためである。


 しばらく進むと、魔導車が止まった。どうやら目的地に着いたようである。


「ロード公爵邸に到着しました」


 アガフォノワがそう言って後部扉を開けたので、俺達は降車した。

 俺達が降りたのはロード公爵邸の正門前で、正門の両脇にはモレンク血閥の紋章旗とロード公爵の紋章旗が掲げられていた。

 正門から玄関までは石畳の道が続いており、玄関の前で円を描き、小規模ながら交通広場のようになっている。本来であれば、正門から入って玄関前まで車両なり馬なりで近づけるが、今回は正門を見るために正門の外で降車した。

 正門から玄関までしばらく歩くが、両脇には庭園が整備されているので、視覚的には暇をせぬ。まあ毎日のように見ていたら飽きるかもしれぬが、それはそれで構わぬ。


「それじゃあ私は自分の屋敷を見に行くので、失礼しますね。また後で合流しましょう」


 アズラ卿がそう言って片手を上げると、先程の汎用魔導車が迎えに来て、アズラ卿を車長席に乗せて颯爽と立ち去った。


「ここからは私がご案内しますね」


「おぬし、分かるのか」


「領主府参事官を舐めないでください。毎日どれだけの資料が送られてくると思ってるんですか。まあいいです。行きますよ」


 リンはそう言うと、玄関に向かって歩き出した。

 リンが玄関近づくと、扉の両脇に控えた歩哨が扉を開けた。アガフォノワによる事前の説明によれば、彼らは衛兵大隊第一中隊第二、第四小隊の兵士で、扉の開閉のみを任務とする。この任務のため、各小隊に四名からなる歩哨班が二個ずつ編成され、彼らが交代で任務に就く。ちなみに、小隊は五十名からなり、小隊長、小隊軍曹、各定員四名の二個歩哨班、各定員十名の四個分隊で構成される。


「何だ、この鹿は…」


「これは…俺があの時倒した鹿か」


 扉が開かれると、すぐ吹き抜けの広間があり、そこに巨大な鹿の全身剥製が置かれていた。これは俺がかつて倒した魔鹿で、確か後処理はトモエとアガフォノワに全て任せたような気がする。


「おい、あの時倒した鹿って何だ?」


「アンセルム同盟調印式に出席するために帰領した時に、魔物討伐庁長官として冒険者とはどういうものかと、依頼を受けて討伐した鹿だ。詳細が気になるなら、トモエに聞いてみると良い」


「浮気か? 浮気なのか?」


「いや違うが」


「それならいい。だが、こんな大きな鹿を臆病者が見たら泣くぞ。というか、姫の許可は取ったのか?」


「はい。長官の発案で、奥様のご許可も得ています。ほら、これをご覧ください」


 アキの疑問に、リンが書類を差し出して答えた。その書類には、巨大な鹿の剥製を玄関広間に置く事を、モレンク血閥総帥夫人として許可する、とあり、レリアの署名もあった。肩高五メルタ以上もある巨大な鹿であるから、一応レリアの許可を取ったのだろう。レリアの許可があれば俺が否と言うはずがないし、よく考えられているな。


「レリアが許可しているのであれば問題ない。次を見よう」


「はい。それじゃあ、まずは一階を見ましょう。右に行きますか、左に行きますか?」


「どちらでも構わぬ」


「右だな」


「分かりました。こっちですね」


「ワタシも右くらい分かる。馬鹿にするな」


「馬鹿にしてませんよ」


 俺達はアキが右と言ったので、玄関から右へ続く廊下へ進んだ。


 右側には舞踏室や晩餐室、遊戯室、それらの控室などがある。最大で百名の賓客とその随行者を招く事ができる設計だそうだ。

 左側に進むと、応接室や来客用の居間などがあり、最奥に書庫がある。この他、多少の来客が宿泊するための部屋もある。

 一階は主に来客に対応するための場である。


 一階を見終えると、二階に進んだ。二階も一階同様左右に分かれているようであった。

 右側は家族の私室や寝室、家族用の居間や談話室、食堂など私的な空間となっている。部屋数に基づけば、当主たるロード公爵とその夫人の他、二十名まで家族が同居できる。

 左側には、主だった家臣の個室がある。この個室は居住機能も執務機能もあり、つまりわざわざ邸宅街や住宅街から通わずとも良くなる。この他、俺の執務室もあるし、最奥の扉を開けば書庫にも通じている。


 一階に戻ると、今度は地下に案内された。

 地下は厨房などの作業場や使用人らの仮眠室、倉庫などがある。ちなみに、使用人は基本的に住宅街に住み、毎朝毎夕馬車によって送迎されるので、この仮眠室は夜間対応のために屋敷に残る者のための部屋で、共有である。

 金庫もいくつかあり、それぞれ別の使用人が鍵を管理する。この金庫には現金は当然として、各種の宝物であったり、厳重に保管すべき物をしまっておく。

 この他、ロード公爵が代々受け継ぐ、当主専用の地下室も存在する。正直、どう使って良いのか分からぬが、まあ何か良い使い方を思い付くまで放置で良かろう。


 今度は庭に出て、厩舎など各種の設備を見た。

 厩舎は五十頭の馬を飼えるようになっており、これはロード公爵家の面々や邸内に個室を有する家臣の馬を飼う想定である。ちなみに、馬車馬はモレンク血閥特区内の牧場で一括して管理され、必要な時のみロード公爵邸に連れられる。

 ちなみに、来客が連れてきた馬などが一時的に滞在する場合、百頭程度まで預かれる。


 庭を見た後、今度は屋敷の裏を見に行った。

 荷車が通れるほどの搬出入用の門や人の出入りにのみ用いられる門など、いくつか裏門があり、そのすぐ近くに屋敷の裏口がある。この裏口は搬出入口と出入り口とに分かれており、前者は荷車のまま出入りでき、後者は開けると地下へ続く階段がある。

 裏門から路地を覗いてみたが、表通りと違って舗装はされておらず、轍を除けば草も生えている。一応整備する予定はあるそうだが、まずは表通りが優先されているそうだ。

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