聖騎士の頼み
異世界転生をした元魔術師の俺は、赤子の俺でも魔術が使えるこの世界のすごさに感動して”最強の魔術師”と言う夢を目標にしていきることにした。
友人のカノン、恋人のアリシャ、後輩のクリームと共に日々切磋琢磨している。
そして俺は現在、国の最高戦力の1人であるアルトに土下座して”聖女を助けてほしい”とお願いされている。
「頼む!アグラを救ってくれ!」
俺の泊まっている部屋に来て、いきなり土下座をして頼むアルト。
正直状況が分からない。
「すまん。どういう状況か分からん。」
「そうですね。現状の情報提供も無しに救ってくれと言うのは無理がある話でしょう。」
「ああ……分かった。情けない話になるがきちんと聞いてくれるか?」
「聞いた上で協力するか決めるがな。」
「ああ。よろしく頼む」
「私の父、バランドのことは知っているか?」
「めちゃくちゃ怪しい人」
「話を聞く限りでは売国者」
「あんまりよい印象は無いかな……」
「その父から、共に聖女を攫いロックへ亡命しないか?と言う誘いが来た。」
「完全に駄目じゃないか!」
「これはやばいですね。カノン先輩の言っていることを信じて大丈夫でしょう。」
「と言うより……何でロックに亡命することになったの?」
「確かに。今の地位を捨ててまで他国に行く利益が思いつかない。」
バランドは名誉ある近衛騎士で義理の娘は第三騎士団長。
バウンドが危機的状況かと言えばノーだし、正直ロックに亡命するメリットが一切思いつかない。
「亡命とか売国ってのは、物語のような深い理由とかであるわけではないですからね」
「ほんのちょっとのことが引き金となって始まったのかもしれません。」
「ああ……?まあそういうことだ。」
「なんか納得いかないような歯切れの悪さだな。」
「いやすまない。所謂方言のようなものだろう」
「この辺ではあまり聞かない言葉遣いだったから驚いただけだ。」
クリームの発言は俺には違和感が無かったが、あまり絡んでいないだけで同じ村出身だからだろう。
「まあそこはいいや。急ぎの用はバランドが亡命する理由じゃない」
「アルト。お前はどうしたいかということだ。」
はっきり言おう。聖女を奪われて他国に亡命なんてされればこの国はかなりの危機となる。
もちろん戦力的な危機ではないが、聖女が奪われたということは警備がザルな上に”聖女がいない”と言う状態となっている。
実際はアルトがいるので聖魔術の使い手自体はいるにしろ、他国からすれば聖魔術の使い手はいないと思うだろう(この世界でもトップクラスの国であるバウンドですら、聖魔術使いが2人いるのは奇跡とまで言われるほどに貴重な存在)。
と言うより、アルトも亡命すれば普通に聖魔術の使い手いないしな。
そんな状態になればもちろん戦争は起こるだろう。
そう、バウンドVSバウンドを潰したい国の連合という戦争が。
勝てるわけないだろう。いくらうちの国が戦争で強くても、内部から魔術師の腐敗が進んだ上での複数の国との戦い。
バランドによって内部の戦力を把握されているだろうしな。
聡明な彼女がそのことを分からないと思う。
故にここに来たということは、その亡命を阻止してほしいということなのだろうが……ならそのことを王様に言えば良くないか?。
いくら王が無能とはいえアルトが言えば警戒はするだろうから、アグラを連れて亡命はできないだろう。
正直言葉足らず過ぎるがそういう意味での質問をした。
いや違うか。近衛騎士という誉ある役割の人間が国を裏切ったのだ。
王本人以外の誰を信用すればいいか分からないのが現状。恐らく今王の近くにいる人間は誰も信用できなく、騎士関係も誰が裏切り者か分からない疑心暗鬼状態なのだろう。
故に他国の息がかかっていなさそうで、その上実力もある俺に相談してきたと……。
もし俺がスパイだったらどうするんだこいつ。
「私は……アグラを助けたい……!」
「が……すまないが私にはできないんだ。」
「何故できないんですか?」
「私は……父に逆らうことができない……!」
これはあれか。幼少期に親から虐待を受けていて逆らえないってやつ。
「親から虐待を受けていて逆らえないってやつですかね?」
「おおう。普通に言うのな。」
「いや違う……父は厳しくはあったが暴力などは使わずにきちんと育ててくれた」
「子供のころから……私のような人間を養子にしてくれ、育ててくれた常に正しい父……だから逆らえない。逆らおうと考えるだけで手が震え足が動かなくなる……。」
「要するに一種の依存症と言ったところか。」
「良くある話ですね。今まで言うことが正しかった人間が間違ったことをしても、その正しさを近くで見ていた人間が混乱するというのは。」
「情けない話だがそういうことだ……」
「頭では分かっているのだが……情けないことに体が動かない……。」
そういうものなのか。確かに親に直接的では無いとはいえ裏切られるのはきついだろう。
俺はそういう目にあったことが無いので分からないし、むやみに発言するのはやめておいた方が良いな。
「じゃあ動けないアルトさんの代わりに、私達が命をかけろとそういうことですか?」
「おい、言い方よ。」
「事実でしょう!私こういう人情に問いかけるの嫌いなんですよ。」
「落ち着いて……感情的になるのは良くないよ。」
「すみません……。」
「いや、そちらの利益も無しに頼んだこちらにも非がある」
「我が全財産に、私自身を好きなようする……何でもしてもらっても構わない、それで契約魔術を結ぶというのはどうだろうか?」
「なん……でもだと!」
「リーシェ?」
「冗談です。」
俺の下心がばれてしまったようだ。
「まあ成功すれば国を救った英雄ですし契約としては悪くないんじゃないですかね。」
「ハ!元より報酬なんぞいらないけどな!」
「わーお善人。」
「ただの偽善だよ。目の前で困ってる人を見捨てれるほど合理的な人間にはなれないだけだ」
「ただ1つ確認だ。もしこれが成功したとしても俺の扱いはどうなる?」
「と……いうと?」
「アルトが弁護できないというのなら、もしアグラを救いだした?としても俺はただの誘拐犯だ」
「その上失敗したら聖女の誘拐に失敗した魔術師となる。流石にそこを放置して協力するわけにはいかん。」
「今日の動きから考えて、アグラは神託で他国に連れて行かれることが分かっている……から全力で抵抗した。だから成功すれば問題は無い」
「もし失敗した場合は私が……命に変えてでも弁護する。」
上の人間に伝えることすらできない状態で、弁護はできるのか?と思った。
まあアルトなりの精一杯の抵抗なのだろうと思っておく。
もしかしたら何か裏があるかと考えたがそこを考えていても仕方ない。
目の前に助けを求めている人間がいれば助けたいものだ。
「分かった、とりあえず何をすればいい?」
「ありがとう……ありがとう……」
「アグラを連れて帰れば問題ない、詳しい間取りなどは今から説明する。」
そうしてアルトは説明を始めた。
~説明終了後~
「よし、じゃあ細かい作戦整理をするか。」
「うん……頑張ろう!」
「ああ、ちょっと大事なことがあるから防音魔術を使うぞ」
「部屋強化」
術式を展開する。
部屋の防音性、耐久性の強化をしておきたかった。
「まず戦う前にアリシャに渡しておきたいものがある、手を出してくれるかい?」
そういってアリシャの手を出させる。
「とても楽しみ……。」
「ヨシ!」
油断したアリシャの手を掴み俺の近くに持ってき、手持ちの魔術収納袋から手錠を取り出してつける。
「え!?」
「クリーム!手伝え!」
「ちょっと展開が急すぎますよ!」
クリームに手伝ってもらいアリシャを拘束することに成功した。
魔力を死なない程度に吸って手錠を強化する、という対魔術師用の特殊な手錠を学園長からもらっていたのでそれを使った。
「思ったよりすんなり行ったから魔術使う意味なかったな。」
「ねえねえ……リーシェ?これどういうことかな?」
「リーシェさん。絵面がそこそこ危ないことをやってますが何でですか?」
「だってこうでもしないとアリシャはついてくるだろ?」
「何言ってるの……ついて行くに決まってるじゃん!」
「これは俺の偽善だ、我がままだ」
「だから愛するお前を巻き込みたくない。分かってほしい。」
「でもこれでリーシェが帰ってこなかったら後悔する!取り残されたくないの!一緒に行きたい!」
「そういってくれるのは嬉しい……けどな」
「アルトから聞いただけだと潜入するから、正直アリシャには向かない。」
「あ……確かに。」
「納得してるようですし、手錠をつける意味なくなかったですか?」
「いや、アリシャのことだから拘束してないと『もしものことがあったら困るから……近くまで行っておく』ってなると思う。」
「ギクッ。」
「正直そうなるとこっちも困るし、アリシャは割と感情的なところがあるから予想外のことが起きるかもしれない。」
「そうですかね?割と冷静な人間だと思ってましたけど。」
「表情に出ないだけで割と感情的な人間だよ。そういうのも可愛くはあるんだけどな」
「ということでクリーム。もし何かあった時にはアリシャを頼む。」
「分かりました!」
「じゃあ行ってくる!聖女奪還計画の始まりだ!」
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