出陣2
更新が遅れてしまい本当に申し訳ありません!!
「なに?義元様に指揮権が奪われただと?」
義元が指揮権を奪い取ってから数時間。日暮れ頃に所用で城から離れていた山中虎助が帰ってきた。屋敷の前で待っていた部下が馬に乗る山中に近づき起こった事の報告をする。
「はい、宮川がそのような報告をしてきました。いささか、無能がすぎましたでしょうか?」
「いや、義元様が相手ではあの宮川じゃ歯が立たない…俺の油断ミスだな」
「………義元様の事を随分と買っておいでですね…。あのお方はうつけと評判でしたが?」
「ハッ!本当のうつけ共の評価などがあてになるものか!よく覚えておけ、あの馬鹿どもは人を評価するに当たってたった一つの物差ししか持っていない。その、小さき物差しで物事を測るのだ。己の持つ小さき物差しが測れないものは全て無駄だと切り捨ててな。それこそが、本物のうつけ、大馬鹿者だ。まぁ、義元様に関しては巧妙に才を隠してた所が会ったが……」
鼻で笑い、馬から降りる山中。その馬を馬屋に戻すように指示し屋敷に向かい歩き出す。そこから、半歩下がった位置で部下も歩く。
「とは言っても、だ。まだまだ若造。爪が甘い。隠してるつもりであったろうが分かる。そのような事にも気が付かぬからうつけと言っておるのだ」
「な、なるほど……して、いかが致しますか?」
「捨て置く」
「えっ?」
「秀三が死に、宮川を配置したことで足軽隊は見る影もないほど弱体化した。目的はとうに達しておる。弱った足軽隊がそれほど欲しければくれてやればいい。あの規模では、戦に影響を与える影響はごく小さいだろうからな」
力の無いものの足掻きを嘲笑うように、口元を歪ませる。それは、己の描いたシナリオはどうしようと変わらないという自信の現れでもあった。
「どうせ、川上家を完全に滅ぼすには3人を全員殺さねばならん。自分から死地に向かってくれるのであれば、後で殺す手間が省けて逆に好都合だ」
「な、なるほど…流石は虎助様。知略は並ぶ者なしですね」
「ふん、俺を煽てる暇があったらさっさと戦の準備を進めろ。一応俺らも出なければならないのだからな。わかっていると思うが……」
「はい。なるべく速い馬ですね」
「馬術に長けているという条件も忘れるなよ。馬の速さは操者の妖力と上手さが大事だからな」
「かしこまりました。皆に伝えて参ります。……それと、もう一つ虎助様にお伝えしなければならない事が」
それまではハキハキと答えていた部下であったが急に言いにくそうにし始める。それを見て何を言うかを察した虎助。
「沈みゆく川上家にまだ忠誠を向ける愚か者がいるのか」
「申し訳ありません。最後の最後になり村下勝真について行くという者が少数ですがおります」
「ふん、皮肉なものだ。愚かだと思う反面、本当に欲しいと思うものが村下のもとについて行くというのだからな」
「………………」
日暮れ時も終わり、月と星が輝き出した。不思議なもので暗くなればなるほど輝く存在もある。それは、太陽という全てを塗りつぶす程の光がいなくなって初めて輝くもの。今は夜。闇が支配する時間。太陽など存在はしないはずなのに、太陽がいた痕跡が至るところにある。夜の僅かな光さえ太陽の残りカス。
そこに雲がかかり、僅かな光さえ遮られた。
「しかし…邪魔をするなら容赦はしない。全てを根こそぎ消し去り、木板様が……いや、いつかはこの俺がこの国を…くっくっ…」
「私は最後までお供いたします」
あらゆる所で野心が、欲望が戦を起こす。僅かな火種さえ、油をぶち撒いて業火に変えるのだ。それを操るもの、振り回されるもの、踊らされるもの、傍観するもの。戦という大火はそれらを一切合切巻き込み更に大きい火種を各地にばら撒く。
戦が始まるまであと半日。出陣は明日の早朝だ。全ては川上家を潰すため、村下を殺すための大火。己の策略の集大成。
「時代に取り残された古き強者よ、次代の炎に抱かれて灰となれ」
山中虎助が用意した速水家はまさに次代の軍隊。新戦力である、足軽隊を初めとして圧倒的な数で敵を倒す。それに対し、少数精鋭の武士。今なお一騎打ちなどという幻想をいだく、古き強者達だ。奢り高ぶり力に酔う様はまさに時代に取り残された遺物。この国の遺物の集大成といってもいい村下勝真を殺すことによって完全に今の時代の害にしかならない旧勢力を駆逐できる事だろう。
「新しい物好きのあの家には最近南蛮から来た新兵器もあると聞くしな」
くっくっと笑う山中。その額には余裕そうな言動とは裏腹に冷や汗が浮かんでいた。まだ、心どこかであの化け物のような男を討ち取ることが出来るのか、確信が持てない自分がいたのだった。
翌朝、川上家の全軍が招集された。総大将は当主である義持様。山中虎助、村下勝真など有力者も勿論その他の武士達も皆それぞれきらびやかな鎧を着用し騎乗して参列していた。武士達総勢250人奮って参加していた。
対して、義元様が率いる足軽隊は高額でこの戦に参加する旨の張り紙をして人がある程度もどり、何とか秀三がいた頃よりも少し数が多い位まで持ってきた。足軽隊総勢620人。数はいささか水増しは出来たが、その分新兵が増えてこの戦が初陣という者も少なくない。また、金に釣られて来た者も多く、戦になるとどのくらい使えるのか、最悪すぐに逃げるのではないかと色々と不安が多い。監視の目を細かくする必要があるがそのための人員がいない。
そのため、二百人ずつ三部隊に分けた。義元が当主である兄に直訴して許可を得たらしい。まず第一部隊、本隊と言ってもいいのを率いるのは義元様、比較的に川上家に思い入れのある人達が集まった。第二部隊は猿吉、直家、蛍が率いる比較的に好戦的な人員を集めた部隊。第三部隊は長貴達が率いる、あまり激戦地には行きなくない消極的な人が多い部隊。部隊を細かく分けた為に監視の目が行き届きやすくなり、逃げる者を止めることができるようになった。
なった、のはいいのだがこのことをつい昨日聞いたばかりなのだ。急に現れた義元様がこのことを話して、もう許可すら取っているという。断れなくなった直家達は引き受けるしかなかった。正直、農民など戦闘経験が少ないものが多いために回ってきた役割だが、将来武士になると息巻いている猿吉などはむしろ息巻いて志願したくらいだ。開拓者である直家達は人を率いる事など早々ないのだから、猿吉の気持ちは分からなくはないのだが。
「聞け!皆の者!我は現川上家当主である川上義持!敵は多いと聞いた!しかし、我々には長き歴史と高貴な武門の血が流れている!聞くに相手のほとんどは足軽と聞くではないか!奴らは我らとは違い何の力も持たない下賎の民!ひとあたりするだけで敵の部隊は四散!壊滅だ!」
総大将の義持様の演説が始まった。宮川よりは、遥かに論点がまとまり士気を上げるという効果があったのだろう。我ら足軽隊以外はだが。なにより、義持様が演説中にこちらを見て鼻でお笑いになられた。足軽隊のほぼ全員がムッとした顔をして、猿吉に至っては頭に血管が浮きまくってキレる一歩手前くらいの顔だ。そういう直家にしても面白くは無い、別に川上家に忠誠心などは無い。しかし、一応は命懸けで戦うのだ。それだと言うのにこの対応は無いだろう。
「はぁ、兄上は相変わらずだね…」
「昔からアレなのか?」
「まぁね、でも身内には優しいし武士達の中では評判は悪くは無いんだよ。兄上には兄上の確固たるお考えがあるんだ。まぁ、それが硬すぎて融通が効かない所があるんだけど」
「確固たる考えね……そりゃあるだろうな」
猿吉が意味深そうな事を言いながら話に入ってくる。眉間にシワを寄せていた先程とは違い皮肉気な顔で。
「武士の高貴さ武門の血とかとかいうやつが絶対で、それを持たない足軽をとるにならない下賎な存在だという確固たるお考えがな」
そういう考え方で考えてみるとあの演説は効果がある。足軽達をこき下ろして武士達の士気を上げる。別に足軽隊は数だけで役には立たないのだから別にどう思われようが知ったことではないということだろう。
「……まぁ、そうだね。その通りだよ。僕はその考え方は間違っているとは思うんだけどね」
「ハッ!ここまでくると逆に憐れだぜ。間違った考えが正解だと本気で思っているなんて不幸以外の何物でもない」
「兄上は…嫡男の重圧が、期待があったからね。僕にはそれが無かった。その違いは大きいよ」
「俺は教育係の違いだと思うけどな。秀三様のような人ってそうそういないから」
「ふふっ、ありがと。親父の実力を認めてそう言って貰えるのって自分のことのように嬉しいよ………だからこそ、親父を殺した奴を…」
「義元!」
「はい!?」
義持の演説中に違う話をしすぎた。それが目に止まったのか分からないが突然義元の名前が義持から告げられた。突然といっても話など途中で聞くのを辞めていた直家達、話の流れがわからないので本当はちゃんとした順序があったかもしれないが。
「分かっているのは思うがお前はこれから足軽隊を率いる!我が弟であるお前が率いることで下賎の民の軍もそこそこ使えるようになるだろう!しかし、無理はいかんぞ!足軽隊はお前を置いて逃げ出すかもしれんからな!」
「ハハハッ……分かりました」
苦笑しながら答える義元。兄弟思いではあるのだろうが、それを率いて戦う義元の事を考えると正直配慮が足りていない。
「よし!では皆の者!出陣だ!」
「「「「「オォォォ!!!!」」」」
拳を掲げ義持様の期待に答えようとする武士。中でも人一倍大きな声を上げた村下勝真は闘気に満ち、周りにいる武士があまりの覇気に後ずさりするほどであった。
「村下勝真つったか?すげぇ気合い入ってるな…」
「ここまで妖気が洩れてきてる…化け物だな本当に…」
武士の集団の先頭にいる村下勝真と山中虎助と、足軽隊の先頭ににいる直家達では距離がかなり離れている。だというのに、ビリビリとした妖気の波動を感じるというの直家達では考えられないことだ。文字通り格が違いすぎる。
「あれは一種の突然変異のような存在だよ。僕らからしてもあの力量は理解の範疇外にある。なぜ彼があの強さを手に入れるに至ったかは僕には分からない。昔聞いた話では天賦の才を持っている訳では無いらしいってこと」
「なのにあの強さって……」
「彼も齢が80を超えるからね…長く厳しい鍛錬の賜物なのかな?どんな鍛錬か想像がつかないけど」
「はちじゅう!?嘘でしょ!どう見てもまだ30後半に見えるけど!」
「それだけ濃密な妖力を持っているんだろうね……突然変異とはよく言ったものだね」
直家が驚異の事実に開いた口が塞がらなくなり、長貴も冷や汗が流れる。
「相手との人数差はこちらの数倍だ。しかも速水家の選りすぐりの武士と足軽隊がこちらに来る。あんまり大きい口では言えないが僕達の足軽隊じゃ足止めがせいぜいだ。だからかこそ、勝てるとすれば………」
義元がチラリと高密度の妖気を放つ村下勝真を見る。
「村下勝真…彼が敵の大将を討ち取るしかない。そうでもしなければ勝てないほどの戦力差があると分かっているのは何人か…」
「ふんっ、うちの総大将は何も分かってなさそうだがな…」
猿吉の言うとおり、これから死地に向かうというのに何処か楽観的に見える義持様。馬廻り隊、隊長の山中虎助と談笑している。
「というより、騙されていると見た方がいいだろうね。山中虎助を余程信用しているみたいだし。じゃなきゃ、あの顔を見て何も感じないわけが無い」
出陣していく部隊の真ん中にいる山中虎助と義持様。談笑の途中、ふと義持様が視線を外すと笑顔の表情が消えて驚くほどゾッとする顔、無表情になる瞬間がある。そこには、忠誠心など欠片も感じない無慈悲な本性を出す。
「……彼がこの戦場で何か必ず戦況を左右する、何か、を仕掛けて来るかもしれない。こちらの敗北を決定ずける何かを…彼が何もせずに終わるわけがない」
ギリッと歯を食いしばり、憎々しそうに山中虎助を見る。義元からすれば親父と慕っていた秀三様を殺されたのだ。憎悪は深いだろう。
「彼が…裏切ったとわかった瞬間に殺しに行きたいけど…僕、君たちじゃ彼には敵わない…村下勝真程じゃないけど彼は強いからね…村下がいなければ彼が文句無く最強なんだから」
義元が悔しそうに言う。確かに蛍が見た山中虎助の強さの片鱗はは、蛍が顔を真っ青にして逃げ出すほどなのだ。直家達とはまた格が違う。というよりまだまだ直家達は武士には敵わない。直家と猿吉が2人がかりで、長貴ならば何とか互角にと、武士の中で最強とされる者と比べるのもおこがましいレベルだ。
結局は全員弱いのだ。今は臨時で指揮官に格上げされたが、それも奇跡のようなものだ。戦場で逃げ回り生き残れればいいものを義元様に目をつけられて簡単に逃げれない立場になってしまった。直家達が逃げる足軽達を見張るように直家達も足軽達に見張られている。いつの間にかこの戦に命を掛けざるおえない状況になっていたのだった。
2日も更新が遅れた理由は初めてコミケに行って疲れたからとか言ったら怒りますかね?はい、本当にすみません……。




