傾き始める川上家
更新遅れてすみません!
密談の日から3日。速くも秀三様を失ったことによる異変が出てき始めていた。
「給与の支払いがねぇってのはどういう事だ!!」「食料の配給がすくねぇよ!」「一昨日も昨日も逃げ出してるぞ!数を増やせよ!」「怪我人の治療期間もねぇのか!まだ、動けない奴だっておおいんだぞ!」
「ええぇい!うるさい!黙れ蛆虫共!」
「「「……………」」」
「前の戦でも騎馬隊の援軍が無ければ敗れていたと言うではないか!そんな無能共に払う金などないわ!食料など、そこら辺の山にでも行って食ってろ!数などいくらいても雑魚は雑魚!それに、時がたてば金に困った奴らが来るわ!怪我ぐらいで甘えるな!お前らはその程度しか役に立たんのだ!せめて文句を言わぬという気をつかえ!」
ゼェゼェと叫び終えて肩で息をする男。宮川というらしく、秀三様の後任で足軽隊をまとめるように言われたという。聞いた話によると現当主である川上義長に長く仕えるそこそこの重臣であの傲慢な次期当主、川上義長の教育係だった男らしい。この男あってあの男ありという感じがする。ちなみに推薦したのが山中虎助だという。
この男が来て2日。率直に言うと、無能、である。癇癪持ちで、なにかあれば足軽達に当たり散らし、事務作業もあまりやっていないようだ。早々に混乱が起き始め今日に至っては本来払われるはずの金すら無くなったらしい。兵糧の手配や、何やらは秀三がおかしいから1人でできた。それにしても、宮川は部下を何人も連れてもろくに出来ていない。
秀三様がいない所に用は無いと消えた者。宮川の態度に我慢しきれず去るもの。そして、今日もまた多数の足軽が隊から抜けるであろう。それを止める術は直家達には持ち合わせていない。
宮川が後任になってまだ3日。しかし、規模や質は目も当たられないほど低くなっていた。推薦人が山中虎助というのが思惑が透けて見える。無能を配置して、足軽隊の存在を極限まで小さくするつもりなのだろう。
「無能共がっ………」
そう吐き捨てて去る宮川を見る目は秀三様を見る目とは違い敵意と諦めに満ちていた。もはや、足軽隊の修復はあの男では不可能だろう。
「首尾はどうだ?」
「ハッ!虎助様の予想通りでございます!」
「そうか…ックックッ!無能というのは使いやすくていい、そして、狙い通り働いてくれる」
「しかし…結果が出ないままだと推薦した虎助様のお立場が…」
「なぁに、この家の評判などもはや気にならぬ」
「……そうですね。もうすぐでございましたからね」
山中虎助が部下から足軽隊の報告を受けて笑を浮かべる。全ては思い通りに進んでいた。山中虎助の屋敷の中、ドカドカとこちらに近づいてくる足音が聞こえる。
「お主は下がれ」
「ハッ!」
部下が下がっていき。邪悪な笑みは消えて、いつもの愛想の良い笑顔に変わった。
「邪魔するぞ虎助」
「おぉ!これはこれは、勝真殿ではないですか!どうしたのです?」
「殿のご容態が気になってな。お前の部下がご病気で面会が叶わぬとの一点張りで通してくれぬ。会えぬのであれば仕方がない……が、ご容態だけは知りたくてな」
「そうでしたか…我が部下がご失礼を申し訳ございません…」
深々と頭を下げる虎助。村下勝真の見えないところで舌を出す。
「謝罪はいい。ただ容態が知れればよいのだ」
「……そうですね。率直に言うとかなり危うい状況にあるとしか……病には詳しくないので詳細まではお許しください」
再度頭を下げる山中虎助。その顔は本心とは裏腹に悲痛に押しつぶされそうな、どうにもならない天命を悔しそうにする1人の忠臣に見えた。
「……なるほどな。どのような病すら分からないわけか…。もう何度も医者を変えていると聞いている。それでもダメだとすれば殿はもう逝かれる運命なのだろう」
腕を組み静かに目を閉じる村下。その様子を表情を変えずに注意深く観察する山中。腰の刀、壁に飾っている槍、胸にしまっている暗器。
「……無理か…」
そのどれを全てを駆使しても、この油断しきっている男は殺せない。足軽隊を大幅に弱体化させた山中虎助にとって残る障害はこの男だけ。間違いなく山中虎助は川上家では2番目に強い。しかし、それでも山中虎助は村下勝真に届きはしない。それほどの差があるのだ。
事実上、川上家を支えているのはこの男だ。最後の柱である。その最後の柱が異様に太く、用意には折れない。
山中の額から1滴の汗がポトリと畳の上に落ちる。部屋の中で2人、畳の上に正座し目を閉じ腕を組んでいる村下。本人は無意識だろうが、凄まじい重圧感が近くにいるものを襲う。
「……………分かった。すまんな突然、俺はもう帰るとしよう」
この男を殺さねばならない。そうしないと川上家を潰すことは叶わないだろう。
「いえ、元はと言えばこちらの不手際です。お送りします」
「すまんな」
広く、大きく、発達した背中の筋肉が見える。この男には普通の武士の攻撃は意味を為さないだろう。毒すら効果無かった。なら、この男を殺すには…
「邪魔をした。……そうだ、一つ聞いておくが…お主は殿がお亡くなりになられたらどうするつもりだ?」
「それは当然嫡男である義持様が当主になられるでしょうから、それをお支えするだけです。今は家が混乱していて木板某とかいう不届き者に好きにさせていますが、義長様が当主になり落ち着いたらあのような者に誅を下す。それが今私が思い描く未来…村下様は?」
「俺か…俺は…変わらないだろうな。殿は敬愛していたが、俺は殿に仕える訳ではない。遥か昔に御先祖が川上家に受けたご恩に報いているだけだ。俺が仕える先は川上家そのもの…それを壊す者を俺は滅ぼすだけだ…死ぬまでな」
「なるほど…確かにそれでは何も変わりませんね」
ニコニコと笑う山中虎助。それを何か見透かすように目を細め僅かの間ジッと見て踵を返す。
「あぁ、何も変えさせはしない。俺の全てを掛けてな」
そう言い、その背中が遠ざかっていく川上家最強の男。たった1人で1軍を相手できる程の強者。その強者を殺すには同じがもっと強い強者を用意するか…
「…なら守って見せろよ。敵は多いぞ?」
圧倒的な物量差で押しつぶすか。例え一騎当千でも、1000騎を用意すれば討てるわけだ。ならば用意しよう、山中虎助の本分は武力ではなく策略と謀略である。こちらの手を汚さずに敵を打ち破って見せよう。それが己の仕事。
「出てこい」
「ハッ!」
「計画を進める。殿に盛っている毒を致死量に増やせ。殿にはそろそろ消えて貰おうじゃないか」
グシャリと顔が歪む。邪悪な笑みで村下の歩き去っていった方を睨みつける。
「まぁ、そのためには…だ。不確定要素を潰さなければならない。なぁ!?そこにいるんだろ!?」
「山中様の命だ!殺れ!」
木の上、屋敷の天井裏、瓦屋根、壁。そこからドシャドシャと、黒装束の者達が降ってくる。息はもう無い。首を掻っ切られて即死だ。
「ハハッハ!川上家は頭の硬い所でなぁ!この家は忍者を雇わない!随分やりやすかっただろう?しかし、我が山中家は違うのでな!」
シュタ!シュタ!と10人の忍者が山中虎助の後ろに頭を垂れて集まる。その手に持つ武器にはポタポタと垂れる血がが付着していた。
「……………そうか、貴様は木板則平側だったな。その後ろにいる者共は木板の忍者か」
「お前がそこの死体の長か?」
「不覚であったな。これ程同胞がやられるとは…」
「ふん、質問には答えぬか。まぁいい。目的はおおよそ検討がつく。お主、他国の忍者であろう?この国の戦の情報を集めに来た。その当たりだ、どうだ?」
「仕方が無い。ここは1度退くか…」
相変わらず最後まで話を聞く気がない猿家。飄々としているように見えて油断なく山中虎助を注視する。それは、山中虎助も同じ互の目が合う。
「逃がすか!お前ら!山中様の屋敷に侵入した者を逃がすな!」
シュッと黒い煙と共に消える猿家を追う10人の忍者達。
「逃げられたな」
「いえ、この家にはもう10人の忍びがおります。その者達がいれば1人くらい……っな!」
そう言い切る山中の部下の上から死体が降ってくる。それは、屋敷に在中していた山中虎助の忍びである。
「かなりの手練だ。無理する必要は無い。それに、川上家の忍びでなければたいした問題ではない。好きにやらせておけ。ただ、俺の屋敷に入ることは許すなよ」
「は、ハッ!」
その場で頭を垂れる部下。山中虎助は味方や敵の忍者の死体を石ころのように踏みつけながら屋敷の中に戻って行ったのだった。
「あの男……中々曲者だな」
猿家を追ってきた忍者を3人ほど斬り殺した後、敵が退いて行ったのでその死体を座布団替わりに胡座をかき静かに考える。
「仲間がかなりやられた…。山中虎助に仕える忍者もそうだが、村下勝真の屋敷に行き帰ってこないのも多い。しかし…有益な情報は手に入れた」
守護大名川上家は滅亡するだろう。あの山中虎助が何かの手段を用いて村下勝真を殺して。だとすれば、次にこの国を支配するのは木板則平という男。あちらは川上家と違い、忍者を多数運用していて猿家達が侵入するのは難しい。
「まぁ、もう対策はしているのだがな…」
ニヤリと笑う猿家の後ろにはいつの間にか集まっていたのか、猿家の仲間達が並んでいた。
「なぁ?咲よ?」
「ひっ……た、助けて源六……」
屈強な忍者達に囲まれるか弱き女。妖術など使う素振りなど見せた瞬間殺さる緊張感の中、咲の心は疲弊しきっていた。
「そう脅えるなよ…別に今は殺しはしない。源六が木板家で有用な情報を持ってきてくれさえすれば解放する。そういう約束だからな…」
川上家には直家達。足軽隊に組み込み何より知りたい川上家の戦力状況を知り、源六には木板家で猿家達忍者では出来ない情報収集をする。最大限こちらの被害は出さずにそれによって出る益は全て独り占めする。漁夫の利、これこそが忍者の策略の真骨頂。外道の業である。この点、忍者である猿家と武士の山中虎助は非常に酷似していた。
今回は短めです。




