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隣国へ1



この山城国に国境を接する国は多く5つほどもある。ちょうどこの東北地方の国の中では唯一海が無く、中央に属しているため隣接する国が多いのだ。他の国の海産物や特産品などが東北の中央にあるため物流の拠点となり、商業的に潤い。また、山に囲まれているため川も豊富で農作物もよく取れる。


そのおかげか、全国的に不作の多いこのご時世でも比較的に食べるものに困らず平和にやってこれた。


しかし、1歩この国の外に出ると状況は全く違う。東北地方にはまだまだ本格的な戦争の波は来てはいないが、どの隣国も不作が続き魚も多くは取れないという。そんな中、困窮に耐えかねた農民やその領主の武士が略奪に走ったりすることが頻繁に起きている。このため戦になる一歩手前と言っていいほど治安も人心も荒んで来ているのだ。いま、東北地方は本格的な戦が無いだけで不満が渦巻く火薬庫の体をしていた。


そして、何より最近妙な噂が流れている。東側の隣国である陸後国で武器や傭兵、食うに困った農民まで集めている領主がいるらしい。もはや陸後国では守護大名の権威など皆無で、それぞれの武士がすき放題やっているらしく、この手の話は尽きない。


そういった情報をある程度知っていた猿家は隣国と聞きどこに行くのか、何を調べに行くのかピンと来た。


「………陸後か」


「ほう。よく分かったな。いや、分かって当然か」


「……たりめぇだ。商人共がよく騒いでいやがる。陸後に物を持っていけば高く売れるってな」


当たり前だが、戦争には物資が必要だ。食糧からそれを運ぶ人手、また戦闘、非戦闘員に必要な娯楽であったり生活用品であったり多種多様の物が必要であるのだ。普通の戦争は。


神室家が天下を統一してからいわゆる足軽と呼ばれる下級兵士は姿を消した。数が多いというのは維持費がかかるということ。長期間の支配を実現するために神室が実行したのは各地に少数精鋭の戦うことを生業とした領主と兼任の武士を配置したのだ。


これにより、100年前にあった戦乱の時代の大量の足軽達の維持費が消えて財政が一挙に楽になった神室家。失業した足軽達の反乱も残った優秀な武士たちで鎮圧していき、一つの政権の全国支配が成し遂げられ、比較的に長い平和を保つ事が出来たのだ。そのため、少し前までは強い権勢を誇っていれた。


しかし、それがここ10年は続く農作物の不作により長く続いた平和にヒビが入る。各地で食糧不足により農民が困窮し、それは領主である武士達の困窮に繋がる。元々武士達は城づかえの高級武士や、都にいる貴族達から領地を預かっているという立場なのだ。そのため、取られる税は変わらないのに取れる物が少なくなりどんどん追い詰められていく状況が各地で起きたのだ。


そんな状況に我慢ならなくなった中央や西国の領地を預かる武士達は一斉に蜂起を起こした。都の貴族に払われていた税が払われなくなり催促を送っても帰ってくるのは使者の首ばかり。既存権力に胡座をかいていた貴族は一気に困窮しだす。とはいえ貴族。金はあり私兵も持っていた。それを引き連れて領地を奪い返そうと動き出す者も多かったが、所詮は武士と傭兵では話にならない。初めて行った自分の領地の領民に串刺しにされ殺される貴族がほとんどであった。


また、幕府から任命された守護大名も領主からの税が手に入らなくなり、配下であるはずの武士から離反され滅びる家も増えた。中央では神室家以外はほとんど下克上により身分の低かった武士が大名となり、それぞれの覇権を求めてそれまで禁止されていた足軽を大量に雇い戦をする。少数精鋭の武士とはいえ不死身とはいえず数の力には勝てないのだ。それゆえに、戦を起こさないために幕府が禁止していたのだがその幕府の権威が失した今一昔前の戦乱の時代、血で血を洗う凄惨な地獄が到来してしまったのだ。


これが今の情勢である。


「物資を集めているってのは戦をしようとしているってことか?」


「たりめぇだろ。今のご時世そうとしか考えられねぇよ。この国にもよく山賊や傭兵らしい連中が来てただろ?あれらは陸後に限らず戦目当だろうな」


それには覚えがある。村にいる時に何度かお世話になった。それほどで頻繁に来るというのはいつ戦が起きてもおかしくはない状態なのかもしれない。


「この、山城国以外はどの国も最近は不作になってきているようでな。酷いところでは飢餓で消滅した村もあるらしい。そんな状況だ。そろそろこの地方でも戦が起きてもおかしくはあるまい」


どこか嬉しそうに猿家は喋る。


「まるで戦になるのを待ち焦がれていたような言い草じゃねぇか」


「そりゃそうだろう。我々は忍者だぞ?世の中が混乱した時でないと出番が少ない。これより我々の仕事が増えるわけだ。嬉しくないわけないだろう?」


「戦を喜ぶとは……」


「伊達に嫌われている訳じゃねぇな」


猿家の言動に岩蔵が眉をひそめ、猿吉が納得げに頷く。直家も笑顔にはなれない。他の面々もあまり変わらないようだ。


「なに、忍者というのは昔から鬼畜な手ばかり使ってきている者共だ。毛虫の如く嫌われてもしょうがあるまい。しかし、だからこそ必ず成功させるという思いがある。どんな手を使っても許されてきたのは成功しているからだからの」


「ふんっ、忍者の美学か?」


「それほどではない。単なる心得くらいのもの」


「………あの。具体的に陸後で何をすればいいんですか?」


話がそれてきたのもあるが全員が疲労困憊の状態で集中力が長く持たなくなってきたのだ。話を早く本題に入れた方がいい。


「そうだったな。まぁ大方予想は出来ているとは思うが」


そう言ってチラリと猿吉を見る猿家。直家達は固唾を飲んで猿家の要求に備える。


「貴様らは陸後国の守護大名である新名家の足軽としてこれから起こる戦に参加してもらいたい。そこで分かった事を我々に流すだけだ。期間は1ヶ月」


「なるほどな……確かに1番危険な役。知らない死んでもいい奴らに任せたくなる気持ちもわかる……が。それを知って俺達が素直にやると思うか?逃げるぞ?」


「無駄っすよ。逃げたら忍者の里を滅ぼさい限りずっと殺しにくるっすよ」


「その女の言う通りだ。何度も言うが貴様などすぐに殺せるのだ。まぁ、もし完遂したら約束通り全員帰してやろう」


「っけ、どうだか」


「まぁ、信じられるのも無理はない。しかし、そこの直家という男には武士とのツテがあるらしいではないか。それに、里の場所は近々変える。貴様らの知らない場所へな。それに関しては貴様らをわざわざ殺す必要はなくなるのだ」


ここまでの会話を黙って聞いて思うところが無い訳では無いが。しかし、それを拒否出来る立場ではない。文字通り選択肢は無いのだ。


「ねぇ、やるしかないんじゃない?もう、完全にそれしか手は無い感じよ…」


「そうっすね。まぁ、今すぐ殺されないだけでも御の字ってヤツっす」


その通りかもしれない。忍者からすればただでさえ数が少ないのに足軽として志願し死んだら情報も手に入らず目も当てられないが、使い捨ての俺達ならばもし逃げたとしても排除は簡単。死んでも困らないという優れもの。


しかし、命がかかってなかったら絶対に受けない内容ではある。足軽として戦に参加するというのは場合によっては武士達と戦う時も出てくるかもしれない。そうなってしまえば、まだまだ未熟な開拓者である直家達で誰1人死なせずに戦うことが出来るのであろうか。


答えは否である。もしそうなってしまえば全滅すら充分ありえる未来として存在するのだ。いや、だからこそ直家達より強い忍者達ですらこういう手法を取ったのだろう。


「チッ!やるしかねぇって訳かよ…」


「そうだな…やらなきゃここで殺されるわけだし…」


皆一様に不安な表情。ここで、長貴であったら嘘でも明るいことを言って全員を鼓舞するはずだ。と思った所で千雪と岩蔵が声を上げる。


「皆のもの!これさえ乗り越えれば生きて帰れるのだ!なに、我々は開拓者だ!そこらの農民共には負けん!武士と言っても玉石混交!我々でも勝てる!」


「そうよ!こんな所で死んじゃうなんて絶対にイヤ!私達は希少な妖術使い!武士にだってやりようによっては勝てるわ!それにたった1ヶ月でしょ?楽勝よ!」


この2人の鼓舞でそれぞれの組の表情が少し明るくなる。強がりだとは分かっていてもリーダーの励ましに心が軽くなったのだろう。流石組を引っ張ってるリーダー。このような状況でも仲間を鼓舞しようとする姿勢は心構えからして違うとしか言えない。


やはり、リーダーとは仲間を鼓舞し導くもの。いるといないとでは仲間の士気が違う。改めてリーダーの大切さ重要さが理解出来た。


「ふんっ、俺らにゃ励ましなんて必要ねぇよ」


「そうだな。そんなもの無くてもやれる」


「ふふっ、そうですね。長貴さんが起きても恥ずかしくないようにしないと」


しかし、玄武組には必要ない。言葉の励ましなど無くとも直家達は諦めはしない。それは今までずっと危機的状況の中進んできた為に身につけた鋼の心。それは、まだ目が覚めぬ長貴の存在もあいまって更に強くあった。常に向く方向は上へ前へ、起きた長貴に胸を張れるように。


「ふむ、では出発は3日後」


そう言って出口の扉まで進み、そこでピタッと止まり後後ろを振り向く。


「分かってはいるだろうが…一応言うておくぞ。常に監視の目はついている。逃げようとしたら死ぬだけだ。馬鹿な真似はしない事が身のため。あぁ後、この家は自由に使って良いぞ。出発の3日後まで身体を休めるといい」


そう言ってシュッと黒い霧のようなものと一緒に消える。


「3日つってもなぁ。やる事もねぇしよ。下手に動き回ると逃げたって扱いで殺されるかもしれねぇだろうし」


「気が滅入るのはしょうがない。元々我々は捕虜のようなもの。ある程度の自由を与えられただけでも運が良いと思わねば」


そんな会話する猿吉と岩蔵。その横で一旦青海と蛍に手招きして外に連れ出す。


「なんすか、直家?」


「どうかしましたか?」


「いや、提案というかお願いした事があってな。千雪達の心労が激しい。このままじゃ、3日持たずに緊張の糸が切れそうだ。それじゃ不味いから、俺と猿吉、岩蔵達はこの家から出て他の所で休む。この家自体が狭いから全員いたら横になることも出来ないし、男がいると安心できないだろう。それでなんだけどお願いってのが長貴をこのまま家で休ませて欲しいって言うのと、千雪達を励ましてもらいたい。青海と蛍も疲れてはいるだろうが頼む」


「……分かりました。長貴くんも任せてください」


青海は了承したが、蛍はどこか不満げだ。


「別にいいっすけど…。直家は忍者使いが荒いっす!私にも癒しが欲しいっすよ!」


「あー、わかったわかった、後で何でも言うことを聞いてやるから今は頼むぞ」


「何でも!今何でもって言ったっすね!いーや!聞くまでも無いっす!言いました!男に二言は無いっす!わかったっす!忍者は完璧に任務を遂行するっすよ!」


「…こういう時だけ忍者面すんな」


「あいたぁっ!


ドヤ顔をしながらピシッと敬礼のポーズのようになる蛍。イラッと来たので強めのデコピンを額に当てる。


「ふふっ、仲が良いですね」


「そ、そうか?」


よく考えてみると蛍はとは会って3日程しか経っていないのだ。3日と言ってもかなり濃かったので一概には言えないが、確かに相性もよかったのであろう。


「くぅー。何でも言うことを聞くって約束をしてるのを忘れるなよっす!」


「はいはい。本当に頼むぞ。妖術使いは俺達がの中でも結構な生命線だからな。万全の体制で来て欲しいんだよ」


「わかってるっすよ!」


「なら、頼むぞ」


そう言ってズンズンと家の中に戻っていく蛍。不思議だがあの姿を見てると不安になってくる。


そんな表情を見たのであろう青海が微笑みながら言う。


「大丈夫ですよ。蛍ちゃんはちゃんと役割は果たします。ああやって直家くんに甘えてるんですよ。今まで忍者で厳しい中をやってきてまだ甘え方をよく分からないだけですから、許して信頼して上げてください」


「……なんか、随分詳しいな」


「だって直家くんの前にいるときと直家君がいない時じゃあ雰囲気が少し違いますから。あんまり怒らないであげてくださいね」


「…………」


青海は家の中に戻っていく。早速持ち前の明るさで千雪に話しかけていた。少しうるさそうにしている千雪も徐々に緊張の色が無くなっていくのがわかる。


「…………言うことは出来るだけ叶えてやるか」


蛍は頑張ってくれている。それに応えるのも直家の役割だろう。


とりあえず、岩蔵達と猿吉にこの事を話して他の所に移ろう。3日は長くはないい。それぞれ体力回復をして戦に備えなければ。


やっと戦記ものっぽい話が出せました。話が長い?知らないなぁ。

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