遠山村 忍者の里
遅れてすいませんでした!!
逸る気持ちを隠さずに走る。辛く、何度も死にかけた開拓地の夜を越え殆ど賭けである提案を信じここまで進みようやく見つけた希望の光だ。だからか、その僅かな引っかかりをわざわざ言うという事が躊躇われてしまった。
その躊躇われた短い時間が直家達を取り囲む何かの存在を気づかせるのを遅らせてしまった。
「……っ!?みんな待つっす!!」
「どうしたんだ?そんな声を出し………ん?」
傷ついた身体を癒せるとそればかり考えてその他は思考停止して進んでいた直家が蛍の切迫した声を聞いて足を止める。異変に気づき周りを見渡し始める。何故か、妖怪の気配が感じられない。周りに仲間達の妖気しか感じられないのに妙な圧迫感があった。
「いや…いるのか」
目を凝らして自然に上手く同化している妖気の気配がいくつか見つかった。猿吉はとうに刀を右手に持ち油断なく構えている。
「チッ!やっぱりどっかおかしいと思ったぜ。何もんだこいつら…?」
「地図に載っていない山の奥の森の中にある村……私の故郷と同じっすね…」
「ってことは…忍者!?嘘っ…ここまで来て………」
「ぐっ!これは俺の責任だ…。冷静さを忘れてこのような自体を引き寄せるとは…。未熟であったわっ…」
ここに来て皆が囲まれていた事が分かり、疲れ傷だらけの身体に力を入れてそれぞれの武器を構える。
「待つっす!皆が思ってるより数が多いっす!絶対敵わないっすよ!」
「でもよ、聞いた話によると忍者の里の場所は秘中の中の秘中らしいじゃねぇか。それを知った俺達は生かしてもらえねぇんじゃねぇか?」
「そ、それはそうっすけど…。でも、1度攻撃すると忍者の里を滅ぼすか全員死ぬまで続くっすよ!まだ、話し合いの可能性があるっす!」
「その女の言う通りだ。我々は貴様らなど一瞬で皆殺しに出来る。だが、それは互いにとって良い事ではあるまい」
蛍がそう言って懸命に武器を構える猿吉達を説得する。その時今まで何もいないと思っていた直家の隣にあった木の上から1人の男が飛び降りてくる。
飛び降りる時も着地する時も音がしない。まったくの無音である。喋る時に聞こえる男の声だけが唯一発生している音というある意味不気味で異様な男。全身が黒い布地の服を着用しており背中の腰の当たりに短刀を1本身につけていた。
「テメェ…舐めすぎじゃねぇか?俺達が一瞬で皆殺しにできるってのか?」
「おい!やめろ猿吉!」
「ふむ。わからぬか。仕方ない」
忍者の男が手を上げる。その瞬間木の上、草むらの中、土の中などから飛び出して直家達を目に見えるように直接囲む。人数は30人は優に超える。もしかしたらもっといるかもしれない。
「なっ……」
「これで分かってもらえたかの。この程度の隠密にも気付かぬ未熟者よ。まぁ、1人は気がついていたらしいが」
言葉を失う猿吉。猿吉に限らずこれ程の至近距離にこれだけの数に囲まれていたという事実に皆唖然とする。やっと話が出来ると溜息を吐きそうな雰囲気の男がチラリと蛍を見る。
「…当たり前っす。この程度の隠密なら元忍者の私ならすぐ分かるっす」
「ほう…。他の里の忍者か…。開拓者なぞと一緒にいるということは抜け忍…それすら隠れ蓑にして我々の里の場所を探す任務中か…どれなのであろうな?」
「どっちにしても念のために殺す…ってなりそうっすけどね」
「ほう、よく分かっているではないか。本当に元忍者である可能性が高くなったな」
会話の流れが不穏だ。このままではどちらにしても蛍が殺されてしまう。周りを囲んでいる忍者達はいつの間にか手にクナイを持ち蛍の方を凝視していた。
「ちょっと待てよ!いや、待ってください!俺達をすぐ殺せるのに殺さないのは何か理由があるからですよね!教えてください!」
「違うっすよ…直家。すぐに殺さないだけっす。何かの情報を聞いたら……」
「皆殺しって訳か……流石忍者嫌らしいじゃねぇか」
改めて猿吉が刀構える。もはや言葉は不要ということだろう。その姿を見て笑い出す男。
「ふっ、ハッハッハ!!潔よし!だが、安心せい。今は貴様らを殺したりなどはしない。場合によってはそこの忍者共々全員生かして返そうではないか」
「………………」
「勘違いするなよ?貴様らに選択の余地は無いのだ。我々の提案を受け入れなければ死ぬのみ」
「……ッチ!」
舌打ちをして刀をしまう猿吉。それを機に皆がとりあえず武器をしまった。男の言うとおり直家達に選択の余地は無いのだ。
「理解してくれたようでなにより。それでは我らが里に案内しよう。お前ら、もういい。散れ」
そう男が言うと周りを囲んでいた大勢の忍者達がまるで煙のように消え去る。これも妖術なのだろう。いや、この場合は忍術か?名称はよく分からないが、妖力を使って起こしている力ではあるようだ。
「それで、あの。俺達はどうしたらいいんですか?」
「後で説明する。それと、名が無いのは呼びにくかろう。そうだの…お主は名をなんという」
「……直家と言います」
「お主は?」
「…猿吉だ」
「では猿家と呼べ」
「………これほど、偽名だって事を隠そうとしない偽名も珍しいな…」
「忍者に名は無い。あるのは己の存在のみ。それ以上は必要無い。気に食わなかったら好きに呼べ。返事するかどうかは分からんがな」
そう言ってしっかりとした足取りで直家達の先導をする。きちんと地面を踏みしめているはずなのに音がしない。それどころか、目の前にいるはずなのに時々見失いそうになる背中を追いかける。
「ここからは少し迂回するぞ」
「何でだ?真っ直ぐ行けば着くじゃねぇか。もう目の前だろ」
「身体に無数の穴を開けた死体になりたいならそれでもよいがの。そうなりたくなければ着いてこい」
そう言い試しに猿家が1歩進んでみると竹の先端を鋭くした簡素の槍が沢山突き刺さっている板が起き上がる。確かに知らずに進んでいたら身体中傷だらけ、下手したら即死である。
「では、行くぞ」
猿家の言葉に逆らう者はもう誰もいなかった。しかし、これは逆に帰ることが出来ない事を意味する。猿家が進んだのは今まで直家達が歩いていた道のりだ。もう既に罠が多く存在するという事実は自力でも帰ることが難しくなったということだ。
もはや逆らう事は完全に出来なくなっていた。
歩いて10分もかからない距離を半刻(一時間)程もかけて忍者の里にたどり着いた。
「うぐっ…。やっぱりちょっと似てるっすね…。トラウマが…」
同じ忍者の里ということで似ている部分があるのだろう苦虫を噛み潰した様な渋面をしていた。
「へぇ、でも蛍がいた里はかなり遠いんだろ?それでもある程度似るものなのか?」
「忍者って基本簡素なものなんで、必要最低限ってやってくと置いてくもの、場所が似ていくものなんじゃないっすか?。私も初めて他の里に来たっすからよく分からないっす」
「そういやそうだったな。てか、さっきから気になってたけど聞いていいか?」
「なんすか?」
「忍者に名はいらぬっ!って猿家さん言ってるけど蛍は蛍って名前があるだろ?地域差か?」
「……蛍って可愛いっすよね。私好きなんすよ」
「…あぁ、なるほど。自分でつけた名前か…」
少し納得する。たまに、名前を呼んでも反応してもらえない時があったのだ。それに自身に名前を付けるというのはもう忍者ではないっていう自分なりのケジメ見たいなものなのだろう。
「よくアンタ達はこの状況で気の抜けた話が出来るわね…アンタ達の組は皆こうなの?」
「一緒にすんな。アイツが図太すぎるだけだ。まぁ、俺もこの程度は余裕だけどな」
一緒にされたくはないが、変に対抗心がある猿吉に苦笑いする。千雪からすれば青海も猿吉も寝ている長貴も同類に見えてしまう。感覚が狂いそうになるが、岩蔵達か口をつぐみ油断していないところを見ると危機的状況だとい事がわかる。
その時今まで無言だった猿家が口を開く。
「……………さて、まずどうしようかの……まずは俺の家に来てもらうか。そこで本題を話そう
「家つっても…小屋しかねぇぞ…」
里の中は色んな訓練をする為の器具や不思議な地形になっている。そこで同じく黒い服に身を包む人達が逆立ちしたまま片腕で腕立てをしたり、片手のみで崖を登ったりと訓練にいそしんでいた。
あるのは家というより小屋の様な簡素な作りの建物のみ。荷物入れといわれた方がしっくりくる様な建物しかない。この猿家という男はこの里でもかなりの高位の忍者なのだが、見た限りそれに見合う大きさの家は無かった。
「こっちだ、来い」
そう言い歩き出す猿家。その足は先ほど猿吉が小屋だと言った建物に向かっていた。
「…本当にここなのか?」
「そうだ。いいから入れ」
「全員入ら無いだろ…。入っても座れるのか?」
「無理だな。せいぜい座れるのは2人くらいか?まぁ、それはその担いでいる男を寝かせるのに使ってやろう。お主らは立て」
「分かりました。長貴を休ませてもらってありがとうございます」
本来であれば家の主である猿家が座るべきなのだが怪我人に譲ってくれた。とは言っても中は土の上に藁が敷きつめられた簡素な床で、長貴を寝かせたら本当に身動きが取れないくらい狭い。
「忍者の家ってこんなに狭いのか…」
「そんな訳ないっす。私の里は武士様より立派なお屋敷があったすよ。どうも少し私の里とは違うっすね」
「忍者に大きい家などいらぬ……などと言えれば格好がいいのだがな…。蛍と言ったか。貴様の里は大名の支援を受けていただろう?」
「……そうっすね。先々代の棟梁が腕を買われて八杉家に仕えてからずっと里は八杉家の支援を受けてるっす」
「ほう、八杉か。また大きな家が出てきたの」
直家以外の全員が蛍の経歴に驚いている。忍者であったということではなく八杉家に仕えていた忍者の里の者であったという事に。知ってて当たり前くらいの有名な家らしい。直家が知ってるのはこの国の守護大名である柳川家と将軍家である神室家くらいしか知らない。
「………なぁ、八杉家ってどんな家なんだ?」
聞くは一時の恥じ聞かぬは一生の恥と聞いてみる。流石に知らないままで話が進んでいくと訳が分からなくなる。
「……馬鹿だ馬鹿だと思っていたがここまでとはな…。呆れ返るぜまったく」
「直家ってもしかして世の中に疎い感じっすか?」
「それにしても流石に疎すぎよ…」
「やはりこの間の傷がまだ癒えていないから頭が混乱しているのか…。無理はするなよ直家」
散々な言われようである。しかし、猿吉は俺が記憶喪失設定だということを知っているはずであるので分かっていて馬鹿にしているのであろう。青海は苦笑いしている。
「いい?八杉家っていうのは武家の名門中の名門。この山城国より都に近い、かなり西の方にある国の大名の家の事。ここは都から東にだいぶ離れていてまだ大丈夫だけど、神室家の威信が低下して都を中心に中央の方では色んな家で国の覇権を争って戦が沢山起きているの。八杉家は落ちぶれた将軍家を立て直そうと神室幕府の意向に従わぬ家を征伐しているので有名ね。都からは少し遠いんだけど2カ国を支配し、強力な軍事力を持ち将軍家の守護神とも呼ばれているわ」
「凄い家じゃないか!」
「だからそう言ってんだろ。ちなみに、八杉に最近睨まれている武達家っていうこれまた八杉家ほどじゃ無いけど名門の家があるらしい。この武達家は元々1国も支配しきれてなかったけどよ最近急に勢力を伸ばして2カ国半も抑えている家。将軍家から何度も戦を止めるようにいわれたが無視して戦を続けているから近く八杉家と衝突すんじゃねぇかっていう噂だぜ。ちょうど武達家が進行中の国を支配すれば隣国になっちまうしな。そのアホな女が抜け忍にならざるおえなかった理由もそこら辺じゃねぇか?」
「あ、あほって言うなっす!武達家め!最近急に沢山の忍者の里を支配下に起きやがって!その嫌らしい嫌がらせのせいで失敗したっす!私がアホなせいじゃないっす!ちくしょうっす!海を知らない山猿めがっす!」
猿吉の言葉に失敗した時の事を思い出したのかおんおんと泣き始める。しかし、海を知らない山猿って……。山国を支配している家なのだろうか?逆に八杉は海を知ってるというのは海に国境が接しているのだろうか?分からないが有名な所でこの二つの家が存在するらしい。
「………そろそろよいか?」
「あ!すいません!」
長々と話の腰を折ってしまった。空気を読んで黙っていてもらったのはありがたいと言うより、申し訳ない。
「まぁ、まったく関係の無い話ではないのだから良い。中央の戦がどんどんと広まって来ていてな。ついに我々の仕えていた家が滅んでしまったのだ。もとより小さな家であったが名家ではあったが元々家臣であった者にやられてな。下克上と、最近の言葉では言うらしいが…」
家が滅びた。ということは、元々他国の忍者達なのだろうか?と、話を聞いている皆がそう思う。
「滅びてしまってはもうその国にはいられん。その滅ぼした家臣は他に忍者の里を支配下に入れたのでその里から日々刺客の来るのではいつか我々は全滅してしまう。そこから、国から国へ流浪の旅を里の者達で送ってきたのだ」
「なるほど……では我らをわざわざ生かして命令したいこととはなんなのだ?」
「この国はまだまだ平和だ。それはこの国に来て色々と探索者したからわかる。戦乱の時代兵士の数が少なく武士のみの軍団構成などこの地方のみだろう。しかし、だからこそ忍びの里が小規模である。もはや、戦乱の魔の手は隣国にまで届いておる。このような状況を知らぬはずがない。手持ちの以上の忍びの手を借りたいはずだ」
「つまり、この国の柳川家に仕えたい…ってこと?」
「そうだ。そこで貴様らの出番だ」
「出番つっても俺らにゃ武士へのツテなんてねぇよ…。いや?直家はあるな」
「でも、流石に知らない隣国の忍者達ですってやっても雇ってくれないと思うけど」
同郷のよしみとはいえそれだけで後は他人だ。会ったこともあるのは一度きりだけ。それだけで、ただでさえ怪しい忍者達を推挙するのはかなり無理がある。
「いきなりは無理だというのは我らも重々承知。しかし、我々は困窮を極めている。後が無いのだ。ならば、いきなりは無理なら実績を上げればよい。認めざる負えないような実績を」
「実績って………どういった?俺達は何を?」
直家達がその実績を上げるのに、何に使われるか。不安になってくる。猿家は目に確かな覚悟を秘めたハッキリとした口調で言うのだった。
「貴様らには隣国に行ってもらう」
この国は日本と少し似たような地形です。ちなみに山城国は東北の方にある国です。今で言う山形の東側当たりくらいの感覚ですかね。




