遠山村 開拓地へ4
1万PV突破してて嬉しかったまる
朝早くに出発し、森での死闘を制したが力尽きて逃げ回っている17名。つい先程もあわや妖怪達と鉢合わせする所まで接近してしまい必死に逃げた後であった。そんな中、地図と睨めっこしていた長貴が大きく溜息を吐き呟く。
「迷った……」
「………嘘だろ、長貴?それはマジで言ってるのか?」
「あぁ、妖怪達から逃げるために組合から出ている地図に乗ってない所まで来てしまって……もうどこにいるのか分からない…」
「うぬぅ、仕方が無いだろうな。俺も地図を見てたが……今何処にいるか皆目検討つかん。どの地形も地図にはのっていないものばかりだ」
「ごめんなさい…私も分からないわ」
長貴だけでは無い。チームのリーダー格の人全員が組合から販売される地図を持ちそれぞれ見ていたのだ。責任は長貴だけにある訳では無い。仕方が無いといえばそうなのであろう、元を正せば実力不足から招いた危機だ。それを責めることはできない。
しかし、怒りに震える男がいた。源六である。
「……ふざけるな!!迷っただぁ!?テメェらはどれだけ俺の脚を引っ張れば気が済むんだ、えぇ!!無能共が!いい加減にしろしやがれ!!」
肩で息をし激情に身を任せる源六。拳を振るい隣にあった木を殴りつける。殴られた箇所が抉られ古い大樹がメキメキと音を立てて倒れる。
「ふ、ふざけるんじゃないわよ!アンタなんて地図すら持ってないじゃない!そんな奴に言われる筋合いは無いわよ!」
キッと表情をキツくして猛然と反撃に出る千雪。確かに1度も地図を見るそぶりがなかった源六、千雪の言う通りである。
「好きで持ってないんじゃねぇよ!クソ組合の奴らが俺に売らなかった!しょうがねぇからテメェらについて行ってみたらこれだ!!少しでも信じた俺が馬鹿だったぜチクショウ!」
多分今回、このような男が何故直家達と一緒に行動することになったか。組合の意図だということは分かっている。地図を売らなかったというのは、地図を持ってしまうと早々に咲を連れて喧嘩別れのように単独行動をしてしまうと考えたからだろう。この天才ゆえに他の人と関わろうとしない性格を矯正し、少しでも協調性をつけて欲しいという組合の願い、直家達からすれば迷惑なものだが。
「もういいだろ。いい加減うるせぇよ。結局どうしたいんだ?喚き散らしても結果は変わらねぇぞ?ガキじゃねぇんだからよ。なんかあんだろ?」
そこに冷えきった猿吉の声が、熱く怒り狂う源六を冷やす。剣呑な目で猿吉を睨みつける。
「あぁ?チビが調子乗ってんじゃねぇぞ?舐めた口をきいてるとその身長を頭一つ分低くしてやっぞ?」
いつの間に抜いたのか腰に差した双剣を抜き猿吉の首に鉄のヒンヤリとした冷たさが伝わるほどの距離に刃が触れる。あまりの速さと唐突さに直家他、ほとんどが反応が出来なかった。
「テメェ……は、ほんとに生意気な奴だな」
しかし、猿吉は微動だにせずに見下すように源六を見る。猿吉の手には刀が握られ源六の心臓に刃を当てていた。猿吉は一切油断せずに構えていたのだろう。
「猿吉!大丈夫か!?」
「うるせぇ直家!黙ってろ!」
流石に仲間内で武器を抜き合っている状況では黙っていられない。長貴も刀を抜き源六の隙を見ているし、青海も詠唱を小声で始めている。そして、直家も猿吉に刃を当てた瞬間槍を抜き源六に向けている。玄武組は総臨戦態勢だ。
「あ、あんた達!やめてよ!」
「落ち着くのだ!今はそんなことをしている余裕は無いだろう!」
それを慌てて止めようとする千雪と岩蔵。せっかく回復した妖力を失うわけにはいかない。それに源六は強い。玄武組が総出でかかったとしても被害が大きいだろう。第一こうして喧嘩している間にも索敵はおろそかになっているのだ。早く辞めさせなければ全滅の危機がある死活問題である。
「「あぁ!うるせぇ!全員1回黙れ!!」」
「っな!!?」
しかし、止めようと躍起になっている全員に猿吉と源六のセリフが被る怒声が響く。油断なく武器を構える直家達は動じなかったが、まさかこの状況で逆ギレされると思わなかった千雪、岩蔵達は面食らっている。
「……この状況はお前が一番嫌ってる無駄な時間のはずだろ?言えよ、どうしたいかを。これ以上お前に構うのは面倒なんだよ」
「はっ、決まってんだろ?無能のテメェらともう行動したくねぇんだよ。後は咲を連れて行動する。そのために……」
「ほらよ」
猿吉が油断なく開いている左手で腰辺りに動くのに支障のないサイズの袋からコンパクトに折られた紙を源六に差し出す。
「………なんだお前、地図持ってたのかよ。これさえあれば、後はテメェら用はねぇよ。咲行くぞ!」
「……はぁ、何となくこんな感じになる気がしてたけど……」
双剣を腰にしまい地図を手に持ち直家達から離れていく。咲も溜息を吐き、青海や千雪の方に申し訳なさそうな表情をして源六について行く。
「源六!ここは地図にのっていない土地!地図を得たところで、変わらぬぞ!」
「それでもテメェらと一緒にいるよりマシだっていう俺の判断だ。凡人には分からないだろうがな。群れる事しかできない凡人とは格が違ぇんだよ。じゃあな」
そう言い捨てて森の中に消えていく。そうして、やっと武器をしまう玄武組の面々。憮然とした猿吉が直家達の方を向く。
「お前ら騒ぎすぎなんだよ。俺に任せときゃ万事上手くいくのによ」
「何処がだよ!一触即発だったろ!」
「そうだよ猿吉くん。ヒヤヒヤしたよ本当に」
「ちょっと妖力無駄にしちゃったよ…」
「しかし…これで貴重な戦力がいなくなった…。もしもの時はもっと厳しい戦いになるだろうな」
「いいわよ、そんなの。私達だけで何とかなるわ。それに、強力な敵より信頼の置けない仲間の方が危険よ」
元よりこのチームに不満を持っていた男だ。何かがあれば1人で抜けている可能性があった。戦闘中逃げられて隙が出来るという不安がある状態で戦う直家達も負担が大きい。
とはいえ、やはり源六は優秀な人材ではあった。その大きな穴を埋める必要があるが…人手が足りない中、陣形である程度自由に動けるのは
「これは私の出番っすね!私の本当の実力を見せてやるっす!」
蛍である。底なしの不安が直家を襲う。が、実際先の戦いでは遊撃として優秀な働きを見せた蛍。直家以外の信頼は厚い。胡散臭そうに蛍を見る直家。その視線に頬を朱色に染め照れる蛍。やはりどこかズレている。
「本当はその実力を見ないで済む方がいいんだが……そうともいかない見ないだな」
岩蔵が赤く染まり始めた空を見上げた。陽の時間が終わり陰の時間の始まりを告げる夕焼け。その日に限って血のように紅く木々を照らす。
「夜……が来るね」
「嘘……もうそんな時間…」
妖怪達の時間。より妖怪達の活動が活発になり一体一体の妖力が増える。昼間でギリギリだと言うのに夜の時間帯に妖怪に遭遇したらかなり冗談抜きに全滅だ。そして、遭遇しない可能性はゼロに近い。夜は猿吉達の妖気を見る目が無いためより索敵能力が著しく落ちるのだ。
「なってしまったものはしょうがない。もっと見晴らしの良い高所に今のうちに移動してしまおう」
「警戒する場所を絞った方が負担が少ないほうがいい。獣道をよく見てある程度索敵しやすいように場所を絞るのも必要だね。地図が無いから場を見てやろうか」
「時にゃ攻めることも必要だ。奇襲に適した位置取りも考えろよ」
「食料の確認もしたほうがいい。もしかしたら長くなるかもしれないからな。水場の確保は重要だな」
岩蔵、長貴、猿吉、直家と慣れた様子で夜の時間帯の生存策を話し合う。それを見て理解できないという表情をする千雪。
「なんであんた達、そんなに冷静なのよ…。夜よ?妖怪の時間、開拓者の生存率が著しく低い夜になったのよ!?」
取り乱す千雪達。それに直家が苦笑しながら答える。
「俺達何回か夜の開拓地で狩りをしていたからな」
本当かと、青海の方を見る千雪。
「はは………大変だったよ…」
「岩蔵達もなの?」
「熟練開拓者を自負している我らは経験では負けん。夜の開拓地など数え切れんわ」
「なんであんた達生きてんのよ……」
千雪は優秀なリーダーなのだろう。時間管理をしっかりして仲間を危機に貶めないようにしたのだろう。運もあるが、それで1度も夜の開拓地を経験した時が無いのだろう。というか、経験がある開拓者は少ないだろうが。
組合にも口酸っぱく言われているが 夜の開拓地は危険でさんざん脅されている。事実生存率は昼間に比べかなり低い。誰も好んで夜の開拓地に行こうとしない。それが普通だ。千雪から見て慣れた様子でというのは信じられない光景だ。
「あぁ…」
しかし、合点もいった。岩蔵達の丈夫さと直家の異常な回復の速さと玄武組の図太さに。
「………青海…なんかやばいと思ったらウチに戻ってきなさい。頭おかしいわよあいつら」
「…うん。知ってる。でも、大丈夫。私も図太くなってる自覚あるし…」
「……そういえばそうね。だいぶ逞しくなってるわよ青海は…」
疲れた様子で大人しくなった千雪。たった1年でこの遠山村まで辿り着く開拓者はかなり優秀である。千雪は比較的に安全な道を通って、色々あったがここまで来ることが出来た。妖術使いとしてまた開拓者として才能があったからだろう。
たが直家達、玄武組は違う。実力不足も承知で無茶に無茶を重ねるような毎日を送ってきた。死にかけた回数など千雪達とは比べ物にならないだろう。なんの自慢にもならないが。
しかし、そのおかげでまともにやっていれば直家達の才能では届かなかった遠山村まで辿り着く事が出来た。玄武組は実力以外にも不測の事態に対応する力が付いていたのだった。
「ふむ……大体方針は決まったな。長貴よ、近くに妖怪の気配は感じるか?」
「夜が近いから増えた感じはするけど……大丈夫。道はあるよ」
「なら、さっさと行こうぜ?時間が無ぇからな」
「分かっている。用意が出来次第ここから出立するぞ」
岩蔵の言葉が合図になり、テキパキと準備を始める玄武組と岩蔵達。千雪達、妖術使い組は少し慌てて遅れ気味だがそう時間はかからなかった。蛍に関しては持ち物は武器以外何も無いのでずっとそこら辺をうろちょろしていた。
「ごめんなさい。待たせたわね」
千雪達はこういった状況に不慣れである。明るい性格の小春やずっとニコニコ顔の多美は疲れた様子で、静かにいたってはもうフラフラだ。初期の青海並に体力がない無いようだ。千雪が静を支えているが、千雪とてそれほど丈夫な訳ではない。
無理も無いであろう。こういった長期の狩りは初めてだろうし、妖術というのは高い威力の代わりに消耗が激しい。もとより、長期間の戦いに耐えられるものではないのだ。
「大丈夫?」
「私は平気だけど。静が限界ね。でも、大丈夫。私が支えるから心配しないで。ちゃんとついて行くわよ」
「…………そうか」
小春や多美に関してはまだ少し歩くぐらいは大丈夫そうだ。しかし、静は目に見えてキツそうだし、常に気を張って今も肩を貸している千雪の消耗も激しいだろう。弱みを見せないように気丈に振るっているが時折足が震えている時がある。限界なのはもう分かっていた。
だが、大丈夫と言われてしまえば直家は何も言うことが出来ない。千雪にとっても他人から心配されるというのはあまり気分のいいものではないだろう。
「千雪ちゃん!何でそんなに無理するの!駄目だよ!私達が倒れたら大変なんだからちゃんと無理しすぎないようにしないと!」
「あ、青海…。大丈夫よ、別に無理なんてしてないわ」
諦めて定位置に戻ろうとした直家だが、すぐに青海が怒った顔で千雪の手を掴む。青海の急な登場で戸惑う千雪。
「嘘っ!足が震えているの分からないと思った!?」
「……………」
「なんで強がるの……。無理して倒れたら意味無いんだよ?他人に頼れ、なんて言わないけど。私には嘘つかないでよ」
「……私はリーダーよ。無理の一つや二つこなさないでどうするのよ。……ずっと他の人の後ろについて行くだけの青海には分からないでしょうけど……」
つい悪態をついてしまった千雪。言ってからしまったと、苦しそうな表情になるが顔をうつむかせるだけで何も言わなくなった。
「……分からないよ。分かりたくもない。そんなされても嬉しくないことなんて私は知りたくない。でも………今のが本音なんでしょ?」
「…………………」
否定しないというのは青海の言う通り本音なのだろう。元々それほど自分に厳しい人では無かったはずだ。自制心がもっと強ければ青海を虐めるような事をしでかさなかったはず。しかし、一年前と比べて随分と変わってしまったのには、何か大きなきっかけがあったのだろう。
時折、心配そうに千雪を見る小夏の姿を見るともう1人いた仲間の事なのだろうか?それは傍から見ている直家にはわかりはしない事だ。青海も察して聞きはしない。
正直、直家には無理を通す千雪の気持ちは分かる。自分がやらなければ仲間が死んでしまうかもしれないという気持ち、その焦燥感に似た、時には仲間を鼓舞する役目を担っている直家には分かるのだ。
「ち、千雪ちゃん……わ、私は大丈夫だから。む、無理しないで……」
そんな会話を横で聞いていた静が申し訳なさそうに肩を貸す千雪を仰ぎみる。
「静さん。話聞いてた?無理しちゃ駄目だって言ったでしょ?」
その発言に怒った様子で静の方をみる。
「ひっ、ご、ごめんなさい…。怒らないでぇ…」
頭を抱え縮こまる静。
「……怒らないから、ほら!肩貸して!」
「えっ…あ、はい!」
千雪が抱える逆の方を肩を支える。
「あ、ありがと……ございます」
「いいから、無理な時は遠慮なく言って。妖術使いなんて他人に頼って初めて力が出せるんだから」
「あ、青海……」
急に肩の重さが軽くなり尻餅をついてしまった千雪。それだけの事でバランスを崩すほど疲労が溜まっていたのだ。
「直家くん、千雪をおぶって貰っていい?」
「俺でいいのか?」
「人を背負うの直家くんが一番上手いから。お願い」
そういう意味ではなく男の俺でいいのかという意味だったが…。それに、青海にではなく千雪が嫌ではないかどうかだろう。
「わ、私は大丈夫よ!このくらい…」
そう言って急いで立つが、すぐに立ちくらみだろうか?フラッと倒れそうになる。本人の思っている以上に疲労があったというより今までの蓄積のような感じだ。それが今回の初めての狩場に不測の事態と立て続けに起きたため、張り詰めていた糸がプツンと切れたのだろう。
「おっと、大丈夫か?」
近くにいた直家が倒れそうになっていた千雪を支える。
「千雪!……あの、直家さん。千雪をお願いします」
慌てて小春が駆け寄る。そしてすぐに千雪の顔色を見て直家に背負うように頼みこんだ。
「ちょっと小春まで!」
「いいから!お願いだからっ……あんまり無理しないでよ…」
「小夏……」
「千雪。本音を話してくれた事は嬉しかったよ。でも、千雪が頑張りすぎて心配する人の事も、できれば考えて欲しいな…」
そう言って、静に肩を貸した青海は事の成り行きを見守る岩蔵の所へ歩いて帰る行った。もう大丈夫だということを伝えに言ったのだろう。
そんな青海の後ろ姿を見送り、俯き唇を噛む千雪。
「直家…さん。ごめんなさい。お願いします…」
「……分かった」
若干涙目の千雪の前まで行き背中に背負う。
「……私ってば、ほんと馬鹿ね…」
「…………そんなこと無いさ」
何があったのかは知らない。千雪の苦悩の全てを知ることは出来ないが、でも確かに共感できる部分はある。そこからでた直家の本音であった。
「青海はこう言いたかったんじゃないか?身を削って頑張るのは悪いことじゃ無い。けど、少し周りを見て心配してる人、頼りになる人、千雪さんが思ってるよりずっと色んな人がいるって事を分かって欲しかっただけだと俺は思うな。でなきゃ、青海の言い方だと独りよがりに勝手に責任感じてた俺は嫌われてしまう」
ハハハと笑い飛ばして岩蔵の方に大丈夫だと合図を出す。岩蔵は頷き長貴が先頭で歩き出した。
「……………………ありがと」
フッと表情が楽になった千雪が、背負っている直家にも聞こえないような声で呟きは誰にも届かなかった。
そういえば、千雪の容姿を細かく書いてませんでしたね。千雪は茶色い短いくせっ毛のクルクル髪に鋭い目。身長は青海より高く165cmくらい。スタイルがよく、顔も整っている美人さんである。青海や静などは可愛い系。




