遠山村 開拓地へ3
「はっ!」
「起きたか…相変わらず回復は馬鹿みたいにはぇーな」
「嘘っ!もう起きたの!?」
「冗談だと思っていたが……本当に…」
「マジっすか……昨夜の絶倫状態もこれで……」
全員から驚きの言葉を頂戴し目が覚める。目が覚めただけで完全に回復した訳では無いが動くのには支障が無い。太陽の傾きを見て時間がどれ位たったのか確認してみる。
「……一刻半位か?……随分寝たな」
「まぁ、直家にしてはやや遅いくらいだな。シャキッとしろ!」
「無茶言うなよ…。俺の意思でどうにかなるものじゃ無いんだからさ」
そんな会話を聞きつつ若干引いた顔で青海に聞くリーダーA。
「ねぇ…。普通は妖力が無くなったら丸1日、目が覚めないなんてのが普通よね」
「私だってそうだよ…。直家くんが特別なの」
「一種の化物ね……」
そんな様子を直家が見て、あら?俺が寝ている時間に言葉を交わすくらいには関係が修復したのかなと思いつつ、やはり異常な早さなのを再確認した。というか、直家の長所などこのくらいしかない。もっと伸ばしていかないといけない部分だ。
しかし、化物呼ばわりは抗議させてもらおう。
「おい!お前!化物呼ばわりは失礼だろう!」
まさか聞かれていたのかと驚いた顔をするがすぐにキッと直家を睨みつけて言い返す。
「お前!という方も失礼でしょ!私にはちゃんとした千雪という名前があるの!ちゃんと名前で呼びなさい!」
「あ、ちなみに私は小春って言うの。前は色々あったけど今日はよろしくね」
リーダー格の女、千雪が猛然と反撃をしてきてそれに乗っかる形でもう1人の女も自己紹介してきた。直家としてはこれ程強く返されるとは思えなかったが、元々の気性を考えると当然の反応かと考え直す。
「あー、なになにー?自己紹介してるの?じゃ私も!名前は小夏ね!よろしくー」
「あら?なら私も自己紹介しようかしら。多美よ、よろしくね」
「そ、そんなほんわかした空気じゃ無かったような…」
「そぉ?イイじゃんどっちでも!」
「そうよ。ほらあなたも自己紹介しなさい」
「わ、私も?あんまり喋るの得意じゃないから…意味無いと思うけど…。静っていいます」
1番初めに喋ったほんわかした印象の小春、次に礼儀正しい細目のニコニコとずっと笑っている多美、どことなく雰囲気が青海と似ている静の三人が会話に乱入してきた。
「アンタ達……。急に話に入ってくるのは悪い癖よ」
「わ、私は止めようとしたよ?」
「分かってるわよ静。そんな泣きそうな顔しないで、ね?」
あれだけ当たりのキツかった千雪が仲間が現れた瞬間優しそうな表情に変わり泣きそうな静をあやす。
それをニコニコと笑い誤魔化そうとする細目の多美と、そっぽを向いて口笛をふく小夏。見ていて微笑ましくなる光景だ。
すぐにこちらを向き何見てんのよ!って顔になるあたり苦笑するしか無いが。結局化物呼ばわりについて謝罪は無かった。それほど気にしている訳じゃないが。
「ていうか、今いったいどんな状況なんだ?まだ、森の中みたいだけど?」
「我々は逃げ遅れたんだ。直家が頑張ってくれたおかげで妖怪らの囲みは無事に突破したが、すぐに他の妖怪の集団が襲いかかってきてな。それは何とか退けたが……これ以上の遭遇は危険だということで高所に上がって周りを見渡してみると妖怪の集団がウロウロといた事に気が付いてな」
「はぁ……それで今も逃げ回っているのよ。あなたが気絶して時間食わなければ逃げれたかもしれないけど」
そう嫌味な事を言ってくる千雪。若干イラッとしたが追求してもめんどくさいので流そうとする。
「千雪ちゃん!直家くんのせいみたいに言わないで!直家くんがいなければ私達がやられてたんだよ!」
「あ、青海……」
「謝って!直家くんに!」
急に話に入ってきた青海。直家が見たことが無いくらいに怒り、直家のために昔いじめられていた千雪に詰め寄っている。顔を赤くし頬を膨らませて千雪を睨みつける。
「ちーゆーきー。今のは千雪が悪いよ!変に意地をはるの悪い癖!」
「ダメですよ?青海ちゃんの言う通り謝らないと」
「あ、青海ちゃん怖い……」
「……千雪」
続々と小春、多美、静、小夏が入ってきて千雪の態度を咎める。
「い、いや、そんなに気にしてないから別に大丈夫だ。青海もわざわざありがとうな」
「………直家くんがいいならいいんだけど」
直家としては元から流すつもりだったのだ。青海の仲間を思う気持ちの強さが嬉しかったので本当にもう気にしなくなった。
「……………いえ。謝らせてちょうだ……下さい。あなたが頑張ってくれたおかげで今こうして生きてるのに……あんなことを言ってごめんなさい」
そう言って頭を下げる千雪。直家としては元からそれほど怒って無いので、苦笑いし頬をかく。
「さっきも言ったけど気にしてない。頭を上げてくれ、千雪さん達の妖術が無いと元から全滅なんだからさ。千雪さんも気にしないでやってくれると嬉しいよ」
「そう……良かった。小春の言う通り意地をはっちゃうのが悪い癖なの……それで仲間を…青海も…そうだし…」
最後の方はよく聞こえないほど小さな声で何言ってるのか分からなかったが、表情が暗く身体を抱くように身を掴み震えている。心配そうに青海がのぞき込む。
「千雪ちゃん?どうしたの?」
「………青海…ごめんね。ありがとう」
「昔の事?良いよ、もう。私、今幸せだもん」
そう言って千雪に抱きつく青海。あやすように小さい声で千雪の耳元で喋る。
「千雪ちゃんは色々考えすぎなの…もっと肩の力を抜いて…ね?」
「………フフッ、子供の頃いたずらしすぎて怒られた時の事を思い出すわね」
「本当に昔の話し…まだ、覚えてたんだ…」
「忘れた時なんて無い……って言えればカッコイイんだけど」
そんな光景を直家が見て今日の久しぶりに会って千雪と青海の確執なんかあったのが信じられないくらいに仲直りしていて驚いた。小春達はニコニコと微笑ましそうにしているし。小夏は何とも言えない顔をしている。一緒に青海を虐めていた自分も謝らないと行けないがタイミングを逃したっていう感じだ。
「ありがとう、青海。楽になったわ…」
「おい!お前ら!そろそろ話をおわらせろ!移動するぞ!」
突如木の上から猿吉の声が聞こえた。見張りに回っている猿吉が妖怪達の集団を確認したのだろう。こうやって体力が回復するまで逃げ回る作戦なのだ。時間さえ経てば妖力が回復し、また戦えるようになる。夜までという時間制限はあるが。
「直家!動けるか!?ダメそうなら俺が担いで行くが?」
岩蔵は元より直家とは妖力量が違う。深い傷を負ったがそれもすぐに持ち前の妖力で完治しているのだ。今まで意識の無くなった直家を担いでくれたのは岩蔵達。まだまだ丈夫さでは岩蔵には敵わない。
「いや、大丈夫だ。動くのに支障は無い」
ここで黙っていた源六が口を開く。
「ならさっさと動け!俺を待たせるな!」
「だ、ダメだよ!そんな事言っちゃ!」
「ノロマだからあんな攻撃が当たるんだ。何故俺がそのノロマのために待たなければならない。その男の身から出た錆のツケを何故俺が払う?おかしいだろう!」
苛立ちを隠せない顔で直家を見る源六。傲慢さがにじみ出る発言で場が一気に凍る。少し前まで戦線構築に役立っていたため1目置かれていたが、これでこの男がどういう男か思い出させた。
「貴様……いい加減その態度を改めたらどうだ?」
静かな怒りを蓄えた岩蔵が源六を睨みつける。
「事実だろう?」
「源六!いい加減にしないと怒るよ!!」
「もう怒ってるじゃねぇかよ。というか、お前らこんなことを話している場合じゃねぇんだろ?こんな事で時間くって妖怪と鉢合わせでもしたら俺は咲を連れてここから逃げるぞ。馬鹿のせいで死にたくないんでな」
ここで黙って聞いていた千雪、長貴が立ち上がり源六に詰め寄ろうとする。
「ちょっとあんたねぇっ!…」
「聞き捨てならないな!……」
いきり立つ2人に両手を広げ止める直家。
「二人共!もういい!それに源六が言ってることも本当だ…。俺の実力不足も早く逃げなくてはいけない状況も…」
「ふんっ、分かってるなら速くしろ」
そう言ってさっさと背を向けて歩いて行ってしまう。気に食わない奴だが言っていることは正しいのだ。それに、こういった手合の発言は猿吉で聞き慣れている。源六が言わなければ猿吉が言っていただけだろう。
パパッと荷物をまとめて準備を整える。身体は問題なく動くのですぐに終わった。妖力量は流石に半分も無いがそれは仕方がない。
「全員いいかい?じゃあ行くよ!出来るだけ急いでね」
長貴が先頭を歩き次に源六と猿吉、蛍もそこにいる。その3人に囲まれるように妖術使いである青海と千雪達、咲が固まって動いている。最後に一番危険な殿の位置にいるのは直家と岩蔵達である。
この隊列を組むのに多少時間はかかるがバラバラに逃げてしまってはもしもの時、例えば追いつかれたりしたら一瞬で瓦解し全滅する危険がある。それを防ぐために隊列を組んでいるのだ。
「おい、長貴。前は大丈夫か?」
猿吉が周りを油断なく見渡しながら長貴に聞く。猿吉は直家と長貴のように妖気を見る目を養っていない。どこにどんな妖怪がいるのか視界の範囲内でしか分からないのだ。
「今のところはね。僕が見落としている場合も考えられるから猿吉も油断しないでね」
「しねぇよ。こんな所で気を抜ける奴がいたらただの馬鹿だ」
チラリと源六を横目で見る猿吉。顔を顰めて不満気ではあるが油断なく周囲を見渡す姿をみるとキチンとやってくれているのであろう。口を開かなければ開拓者として優秀だ。個人レベルではこの中で最強かも知れない。
「気になるかい?」
猿吉に問いかける。性格も言動も似ている所がある猿吉と源六。しかし一方で才能に恵まれた源六、一方で才能に恵まれなかった猿吉。ある意味対照的な2人である。と、長貴は考えていた。
「ふん、別に眼中にねぇよ」
「そうかい?そうには見えないけど…」
「ただ、ゾッとするだけだ。あぁなっちゃ終わりだなって」
「終わり?」
何に対して終わりだと言っているのか長貴には分からなかった。欠点も大きいが、それを上回る程の才能を持っている源六。何故、猿吉は終わりと断言したのか。
「開拓者止まりってことだよ。俺はそんな所で止まるつもりは無い。だから、眼中に無いって事だ。もういいだろ?戻るぜ」
そう言って持ち場に戻る猿吉。
「……開拓者止まり…ね。なるほど、確かにそれじゃあ眼中に無いか」
猿吉の言葉を心の中で繰り返し意味を理解した長貴がフフッと笑う。
ここで、ふと直家の事を思い出す。何かにつけて喧嘩をする猿吉と直家の関係を不思議に思っていた長貴だが、今の言葉で別の意味を持った気がした。
「眼中にあるっていうのも大変だ」
肩を震わせて笑う長貴。その姿を後ろから心配そうに見ている青海の姿があったのだった。




