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遠山村 準備



「テメェ直家!遅ぇじゃねぇか!何してやがった!」


「悪い悪い、変な忍者に絡まれていたんだよ」


「嘘つけ!」


まぁ、そういう反応が帰ってくるとは思ってました。俺も猿吉がそう言ったら信じないし。でも、本当なんだからしかたない。


「本当だよ。野垂れ死にかけてたんだ」


「忍者が野垂れ死ぬわけねぇだろ。あいつら一種の精鋭だぞ、んなマヌケいるかよ」


可哀想に間抜けとまで言われている。弁護は出来ないが。


「まぁまぁ、その話はこのくらいにして宿屋に行こう」


この手の掛け合いは時間がかかることを知っている長貴は2人の会話をきる。直家もそれに賛成なのでその流れに乗ることにした。


「見つかったのか?」


「うん、青海さんが見つけてくれた。値段とかも聞いてくれたんだよ」


「そうなのか。青海さん助かるよありがとう」


「いえ、たいしたことじゃないですよ」


とは、言うものの褒められて嬉しそうだ。多分長貴にも褒められていたのだろう、口元がにやけている。


「長貴と、猿吉はどんなかんじだった?こっちは、食堂とか酒場とかがあったな」


「こっちにも酒場はあったぜ。値段は高かったがな。あとは、色々な店が並んでたな。少し入るといい店も沢山あったぜ」


後半はゲスな表情をしながら直家の方に目を向ける。アイコンタクトで俺も行くと返しておいて次は長貴。


「僕の方には開拓者組合があったよ。すぐ近くに開拓地に出る門があったし。そのくらいかな?」


「なるほどね。やっぱり朝井村よりかなり規模が大きい」


「不便は感じなさそうだね」


早速、宿屋で長期滞在のお金を先払いし部屋を確保する。もちろん、一人一部屋だ。


「んで、これからどうするよ」


長期滞在なので部屋のセッティングや必要な物を買い揃えてひと段落ついて猿吉がいう。もう時間も遅く出歩くには向かない。これからというのは明日からという意味だ。


「一応予定は組んであるんだ」


「どんな予定なんだ?」


「えっと、ここは僕達みたいに他の開拓地から来たばかりの開拓者はここの強力な妖怪達に対抗出来ないのが多い。だから、最初は他の開拓者達と一緒に開拓地に行くらしいんだ」


「えっ…ということは私達以外の人達と一緒ですか」


「まぁ、そうなるね」


「そ、そうですか…」


青海はあまり人と話すことが得意ではない。玄武組のメンバーは流石に一緒にいる期間が長いので大丈夫だが、全くの初対面の他人を前にすると挙動不審になる。とくに男性が苦手なようで直家や猿吉と慣れるのもかなり時間がかかったのだ。そんな青海にとって今回の話はあまり嬉しくない事だろう。


「別に青海が今ならいいんじゃねぇか?俺も別に他の開拓者らと一緒にやる必要はねぇような気がするしよ」


「いや、それはいくら何でも危険だろ。俺らじゃまだ荷が重いかもしれないし。とりあえず1回くらいは安全に行けるなら行くべきだ」


「俺達は他の開拓者が安全じゃないって事はよく知っているはずだ、直家」


猿吉が言っているのは随分前に襲われた初心者狩りの時の話だろう。確かに同じ開拓者とはいえ他人だ。勿論悪意を持っている人もいるだろう。しかし


「そんなこと言ってずっと関わらない事も無理だろ?信じなければ相手も信じてくれないし味方も出来ない。俺達は他の開拓者との繋がりがただでさえ弱いんだから、少し積極的になったほうがいいんじゃないか?勿論、最低限の警戒は解かない」


「僕も同じ考えだ。朝井村では色々あって僕達は他の開拓者との交流は皆無と言ってもいいくらい少ない。青海さんには辛いかもしれないけど必要な事だと思うよ。それに1回試してダメだったら次から僕達だけで行けばいいしね」


「あの……私は大丈夫です。気にしないのは無理かも知れませんけど……平気です」


「………わかったよ。別に俺は困ることねぇしな。何かあったらぶっ殺してやるけどよ」


猿吉はまだあの1件が強烈に残ってるようで、元からある人間不信に近い気質がより酷くなっているためかなり懐疑的だ。


「じゃ、決まりだね。早速組合に行って明日、僕達と一緒に開拓地に行く人達を探そうか」


開拓者組合所に移動し話を聞く。そしたら偶然、明日に初めて開拓地に出る開拓者が門の前に集まる予定があるらしくそれに混ぜて貰うことになった。


「気をつけてけよな。こうして、人数を増やしても妖怪にやられて壊滅したり、なんなら全滅したりして帰ってこない時も結構多いから。初めてなら特に気をつけな、妖怪の強さは今までとは格が違うぞ」


と、親切な組合の人が言っていた。こんな事をわざわざ言ってくるということは本当に多いのだろう。これで、玄武組だけで行っていたら本当に大変だったかもしれない。それに他の開拓者達と一緒でも少し心配になってくる。


「ま、気にやんでもしょうがない。明日に備えて今日はもう休もうか」


ということで、まだ日も落ちてない時間だが解散となる。全員で固まっていてもしょうがない。


「でも、やることも無いしな…」


「俺と一緒に色町いくか?」


「精力は明日の為にとっておくよ。酒も明日に響くと嫌だし」


「けっ、真面目な野郎だな」


そう言い、猿吉は1人で行ってしまう。長貴は宿屋にそのまま帰り青海はお菓子屋を見つけたらしくそこに行って来るという。


「…………」


直家も格好をつけてどこか食事をとってくるという体で歩いているが変な忍者に絡まれている時に食べたので食欲は無い。


ふと、忍者の別れる時の寂しそうな顔が頭をよぎった。頭のあまり良くない忍者だとは思ったが悪いやつではない。殺されかけた直家が言うことじゃ無いかもしれないが。


「探すか…」


暇つぶしにはなるだろう。そういう気持ちでピンク頭の忍者、蛍を探す事に決まった。
















「あ!直家さんじゃないっすか!こんなに早く再開するとは思わなかったっす!あれすか?私の事を忘れられなくて探したとかっすか!?いやー照れるっす。顔は別に好みじゃないんですけど、気持ちはうれ、うぎゃ!」


「うるさい!何勝手に勘違いしてんだ!偶然だ偶然!」


本当は図星だ。しかし、このテンションで言われると凄まじく癪だ。なので、アイアンクローをかまし誤魔化す。


「いたいっ!いたいっす!力、強いっす!乙女の頭をなんだとおもってるんすか!」


「ふんっ」


本気で痛がっている姿を見て溜飲が下がりアイアンクローの状態から解放する。


「酷いっす……。傷ものにされたっす………」


「人聞きの悪いことを言うな!」


「え?何で悪いんすか?私頭悪いからわかんないっす。教えて欲しいっす、ねぇ、ねぇねぇ!」


どうやら1回だけでは分かってもらえないようだ。ニヤニヤと笑いながら聞いてくる蛍の頭を無言で掴む。


「あ!やめっ!ぎゃぁああ!」


今度は念入りに力をじっくりと込めて握る。指が少しづつめり込んで行くのが分かる。


「ちょ!これ!ヤバいっす!死ぬっ!死ぬ!」


ジタバタと暴れ出す蛍。そろそろいいかという所で手を離す。


「ひ、酷いっす……。ちょっとした冗談なのに……。容赦無い人は嫌われるっすよ!」


「開拓者で容赦ある人はいない。それに、忍者に言われたくないな」


元の世界では忍者というのはあらゆる手段で目的を遂行し、達成するというイメージが直家にはあった。現実には農民の副業のようなものなのだがこの世界の忍者は直家のイメージに近い。


「まぁそうなんすけどね…よっと」


先程、頭を抱えて痛がっていた蛍が、何事も無かったようにひょいと立ち上がる。本当にお遊びというか冗談だったのだろう。しかし、ある程度手加減したとはいえ結構な力でやったのにまるで効いていない感じを見ると本当に鍛錬を積んだ忍者なんだなと思う。


「私はあんまり好きじゃ無いっすけどね」


「忍者がか?」


「そうっすね。なんか血なまぐさいんすよね一々。任務に失敗したら死刑とか掟を破ったら死刑とか、敵に捕まったら自殺しろとか」


へぇ~、鉄の掟って奴なのかな?確かに逃げ出したくなるような環境ではある。今までそんな環境にいたこのピンク忍者に少しは同情念がわく。


「それに手裏剣や妖術使えなかったら万年下忍とか嫌になっちゃうすよ!なんすか!そんなに手裏剣が大事すか!?どうせ逃げる時の奥の手じゃないすか!なんでそんなの練習しなくちゃならないんですか!壁上りもそうっす!なんすか!そんなに早くのぼれた方が偉いんすか!他の人より少し運動神経が悪いだけであれだけ馬鹿にされる忍者の里なんて滅べばいいっす!」


ゼェゼェと息を荒らげる蛍。途中から完全に個人的な文句にシフトした。しかも、かなり溜め込んでいた様子、目がかなり剣呑になってる。蛍も里の中ではかなり苦労していたのだろう。別の意味で同情の念が強くなった。


息が荒い蛍の肩に手を起く。


「お前も大変だったんだな…。俺が奢るから飲みに行くか?」


嫌な事は酒で流した方がいい。今日はあまりのつもりは無かったが気分が変わった。


「わ、分かってくれるっすか!あと、奢ってくれるならどこにだっていくっす!」


直家は優しいっすねぇ!なんていいながら直家の後ろについて歩く。先程食事をしたので足取りは軽やかだ。本当に忍者なのか疑わしくなるほど単純な奴だ。これが演技ならかなりのやり手なんだが……それだったら里から逃げ出す自体になることなど無いだろう。


「そういや、お前開拓者として働きに来たんだろ?宛はあるのか?」


「いやー、それが何も無いんですよ。こっから他の村まで丸1日以上しますし……必然的にここでやるしかないんすけど、よくわからないっす」


「ここでやるしかないんだったら明日の集団の狩りに一緒に行かないか?」


「え!そんなのあるんすか!?いくっす!それ勝手に参加していいやつすか?」


「一応、組合で申請した方がいいな。登録はしてるか?」


「なんすか?登録って?」


「…………………」


情報収集のプロフェッショナルにして、暗殺から謀略、影に隠れ目的を遂行する忍者のはずなのに…。開拓者になりたいって言う割にはなんにも調べて無い蛍に、任務失敗して里から逃げ出すしかない状況に陥った理由が見えてきた気がした。


この後、酒場を後に回し開拓者組合所にもう1度行き、そこで蛍が開拓者登録をする。勿論最初なので10等級からスタートである。ここの妖怪はほぼ7等級以上あるが。


「あ、そう言えば今の所参加する人達って何人位いるか聞けますか?」


ふと、蛍が開拓者登録している時に明日の集まる人数が気になり担当のゴツイおっさんに聞いている。


「あぁ、そのくらいなら別に問題ねぇぞ。そうだなぁ…今登録した奴を入れて17人だな」


「結構いますね。知らない人が10人以上いるわけか…」


「ま、大体こんな感じだ。後は運だな。上手くハマれば生きて帰ってこれるし、最悪足の引っ張り合いで実力的には申し分ないのに壊滅する奴らもいるからな。死なねぇように頑張んな」


軽く言うがこの人は何十人もこう言って次の日に帰ってこない人を見てきたのだろう。いくら軽く言ったとしても結構重い。開拓者としては何処でもそうなのだが。


「どうしたんすか?私は早く酒場に行きたいっす!」


こういう所に鈍感なのは忍者からなのか元からの性分なのか。わからないが、一々反応してしまう直家としては少しありがたい。


「そうだな。行くか」


「おっ酒!おっ酒!久しぶりに飲むっす!」


元の世界だったら見た目的に絶対にお酒などは買えないだろう人がウキウキと酒場に向かっているのに違和感を感じるのは直家だけなのだろう。いや、凛丸がいたか。


女性に年齢を聞くのはアウトだと聞くが容姿のあまり変わらないこの世界ではその意識は薄い。一応聞いてみよう。


「お前、今何歳なんだ?」


「私っすか?えーと、20はいってないはずっす。忍者は歳を数える習慣は無いっすからよくわからないっす」


あ、じゃあどっちにしても元の世界じゃアウトだわ。いや、まあ俺もアウト何だけど。


「ま、いいだろ。開拓者なんて飲まないとやってらんねぇんだから」


「?よく分からいっすけど…、そうすっね!飲みましょう!」


その後、互いに顔を真っ赤にして酒瓶を両手に持つ蛍を肩車している直家が酒場が集まる往来をフラフラしながら歩いているのを目撃した猿吉がこの時ばかりは他人のフリを決め込んだのだった。

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