同郷2
「君!!日本っていう国を知ってるかい!?」
「はぁ?何言ってんだ?」
「あぁ、そうか…日本人に限らないから…えぇと、JAPAN!わかる!?」
「何言ってんだ!?日本?知らねぇよ!だいたいこの指の意味だって直家から教わったんだ。俺はなんもしらねぇぞ」
「直家?もしかして君のことかい?」
まさか、もういらないと思っていた前の世界の記憶がこんなところで通じるとは思わなかった。
「あぁ、俺だ。日本…知ってるぞ。松永 直家、平和な2017年を生きた日本人」
呟くように、思い出すように喋る。
「そうか、そうか!僕は、高橋 タケル。君と同じ時代を生きた日本人だよ!」
「さっきから意味わかんねぇな。日本?平和な2017年?同じ村の出身か?」
当たり前だが、話についていけない猿吉は意味がわからないという顔をしている。
「同じ村…、そうだね。似たようなものだよ。遠い遠い村…会えただけで奇跡なくらい」
「けっ、直家お前どんだけ遠国から来たんだよ。それか、辺境か?ま、いいや。後は同郷の2人でやってくれ。俺は飲み足りねぇから他の酒場に行くぜ」
そう言って、さっさと行ってしまう。こちらはひとしきり喜んだ後に野次馬が見ているのに気がつく。
「あんなに興奮している凛丸様は初めて見るぞ…」「あの男が何かしたのか?」「怒ってるふうには見えないな?」「なんか、同じ村の出身らしいぞ?」「へぇ、でも、凛丸様は生まれながらに武家の家だぞ?」
「有名人なんだな…」
「ハ、ハハ。嫌われるている訳じゃないからいいんだけど…流石にこれじゃゆっくり話せないよね?これから時間があれば僕の屋敷に来て話をしない?」
「屋敷ってことは、武士様か?凛丸様と呼んだ方がいいかだろうか?」
「公の場じゃない限りそれは必要ないよ。それに君は僕の家臣って訳じゃないしね。それに、どうも君と僕とじゃ境遇が違う見たいだ。それ含めて話す為に一旦屋敷に行こうか」
「ふむ、いったい何から話せばいいか…」
屋敷の部屋に案内された直家。屋敷自体はあの場所からそれほど距離は離れておらずすぐに着いた。しかし、どうしても直家には聞きたいことができた。
「いや、待ってくれ……。この屋敷…大きすぎない?」
そうなのだ。案内されたこの部屋もかなり広い。比べては悪いかもしれないけども正勝様の屋敷より遥かに立派で豪華な作りだ。
「そりゃそうさ。これでも僕は家老の家系だからね。このくらいの見栄は張るのさ。僕個人はいらないと思うけどね」
「お前が当主なのか?」
「違うよ。父上も母上もいる。今は家にはいないけどね」
「父上に母上?家族ごとこの世界に来たのか?」
「何言ってるんだい?僕はこの世界で生まれ育った。君は……どうも違うみたいだね」
この世界で生まれ育った。ということは、つまり。
「転生…したってことか?」
「そういうことになるね。日本の高橋タケルの記憶を持ってこの世界に転生した。それが僕、坂下凛丸だよ。君は?」
「俺は二年前にこの世界に急に呼び出された」
「二年前…か。こういっちゃ悪いけど…よく生きてたね。しかも、開拓者なんて職業で」
「何度も死にかけたよ。でも、俺みたいな得体の知れない奴を面倒見てくれた人がいたんだ。その人のおかげで今日まで生きてる」
「そうだったのか。地方の村の武士にはまだそれだけの人格者がいるのか…」
「こちらにはいないのか?」
「いないことは無いけど…。少ないね…今日騒ぎを起した正利見たいな奴らが沢山いるんだよ。悲しい事に。特権階級の形骸化による弊害だね。世襲制の1番悪いところが出ている」
「そうか……」
あいつ1人がおかしい訳では無いのか。多かれ少なかれああいった腐った精神を持った武士がいるというのは嫌な話だ。正勝様の人格を知っている直家からすると信じたくない話でもある。
「あぁ、すまないね。話の腰を折ってしまった。話を戻そうか」
「話か…とりあえず元の世界でどんな人だったか聞いてもいいか?」
「たいした人じゃないよ。僕は地元を大学に進学するために勉強中の受験生。18歳だったね。確か…持病の心臓の病が急に酷くなって、元から長くないって言われいたけど…そこで死んじゃったはず。もっと長く自由に生きたいなって思って死んだ気がするね。それで、目が覚めたら巨人に担ぎあげられていて、ビビって泣いたね。いや、赤ん坊になっただけなんだけどさ」
「へぇ。じゃあ今何歳なの?」
「今はこの世界じゃ19歳だね。新米もいいところさ」
「そんなに若いのにあれだけ有名なのか…」
「世界は違えど、人として生を得たんだ。生き方は他の赤ん坊より心得ていただけ。誰だって物心つく前から妖力や妖術の勉強をしていたらそれなりにはなるものだよ。僕からしたら、君の方が凄いよ」
「全然凄くないぞ?死なないようにのたうち回っていたらここまで来ただけ…。それにしたって運が半分以上ある」
「それが凄いんだよ」
「そうかね?まぁ、俺の話は後にして。さっきから気になっているんだけど…お前は女なのか?男なのか?前世は男っぽいが」
前世は完全に男の名前だ。それはわかるが、どうも見た目では性別が判断出来ない。男といえば華奢な男で通じるし、何より言動がそれっぽい。これめちゃくちゃ失礼な質問だが。
「…………それは非常に難しい質問だ。元の世界ではLGBTという言葉が流行っていたが心と身体の性が会わない状態の場合どちらを優先するべきか…僕は「あー、いやそういう面倒な事じゃなくて。付いてるの?ついてないの?」
つい、理屈っぽい言い方に面倒くさくなり先をせかす。直家も男っぽい凛丸に影響され、猿吉と喋ってるような気分になり物凄い失礼な事を言ってしまう。
「…………………………無い」
「え?」
「僕の身体には男の象徴は無いって言ってるんだ!これで満足か!くそぅ!」
急に顔を真っ赤にして叫びだした凛丸。ここでようやく、ハッときずく直家。いくらなんでも今のはデリカシーが無さすぎた。それに、多分地雷を踏んだ。
「す、すまん!今のはデリカシーが無さすぎた!それに、気にしてるところ悪い!」
手を合わせて平謝り。ここで、追い出されたあまりにもアホらしい。
「もういいよ。僕も過剰反応しすぎた。割り切ったはずなんだけど…はぁ、やっぱり男に戻りたいよ…」
もういいよ。の所は口を少し膨らまし顔を赤らめて少しそっぽを向いているが、すぐに申し訳なさそうになり、今度は哀愁が漂ってきた。
「救いはこの世界の女性は昔の日本のように社会に出るなって言う社会じゃない事かな?女性差別者はいるけどそれは気にする数じゃない」
「確かにこの世界の女性はたくましい人が多いな。開拓者も女性多いし……俺多分勝てないし……」
今度は直家が落ち込む番であった。同期の中ではそこそこ行っているが、上位陣の女性にはもちろん勝てない。前の世界の価値観をもっている直家からすると女性に力関係で負けるのは少し落ち込む。
「まぁまあ、そんなに落ち込まないで。そんなことを気にする人はこの世界にはあんまりいないよ。じゃ、今度は直家の事を教えてよ!」
「俺か……。お前に比べると言うのが恥ずかしくなるくらいだな…」
「なんだよ、焦らすなよ。気になるじゃないか、早く言ってくれ」
「焦らしているわけじゃないけど…まぁ、一言でいうと不登校かな?」
「あ……。ごめん…思ってより重かった…」
反応は素直でいいのか悪いのか…。嬉嬉として不登校話を聞いてくるよりマシだろうけど。
「引っ込み思案でな、しかも根暗君のデブ。もーいいとこなし、友達も出来なかったし学校が辛くなって1日休んだらもう行かなくなった。それで惰性の日を過ごしてたらそんな自分も心底嫌になって他の世界に行きたいって願ったら」
「この世界に来たと…。偶然かもしれないけども二人とも何かをこの世界に来る前に願ってるね」
「そうかもな。だとすれば感謝すればいいのか恨めばいいのかわからない」
「天国があるのだとすればそっちの方がいいね。ここはどうも微妙だよ。転生させて貰って何だけとさ」
「違いない」
互いに笑うしかないのだろう。が、こんな事で笑い合えるのは多分凛丸しかいない。互いに初めて出会った同郷の人なのだ。価値観か同じというのはそれだけで安心する。それに、直家もそうだが、19年も他の世界の記憶があったのだ。それがいかに鮮明な記憶だとしても自分しか無い記憶だとすれば、もしかしたら自分がおかしいのかもと思ったこともあるだろう。
それは、共感者のいない孤独。それはまだ2年程しかこの世界来ていない直家にはわからない。
「あれ……涙が…おかしいな」
「……」
心底ホッとしたのだろう。何せ、本当にあった記憶かすらわからない状態で長い間過ごして来たのだ。異常に大人びている子供、多分他の人に賞賛されただけ、気味悪がられただろう正利が捨て台詞で吐いた悪魔も陰で言われている言葉の一つなのかもしれない。
「ごめん……すぐ…終わるから」
そんな中を生きていたのだ。しかも性別も変わって。直家にはわからない程の苦悩があったのだろう。
「………俺が言うことがいい事か分からないが、よく頑張ったな19年間も。すげぇよお前は」
「!?……フフッ、ありがとう。元気出たよ」
泣いているなか肩がビクッと震えてうつむいている顔をゴシゴシと擦って涙を拭き取り、顔を上げ真っ赤に腫れた目を細め笑う。
それからしばらく。泣き止んだ凛丸と更に話が盛り上がり同じく好きなテレビやアニメの話。また、凛丸は歴オタだということがわかり、松永 直家という名前に大笑いしていた。理由は最後に教えてくれたけど、急に恥ずかしくなったったりもした。名前負けもいいところだ。
時間は一瞬で過ぎ去り、部屋の明かりをつけてまだ喋り続ける。同郷ということもあるが、何より凛丸とは気があった。価値観が同じということより、気質が昔からの親友のようにガッチリとはまったような気さえした。
そこからの記憶はもう無い。覚えているのは翌朝布団の中に寝ていたということだけ。
「…あれ?寝たのか…」
部屋を見渡し隣に畳まれた布団がありその上に手紙が置いてある。
「昨日は楽しかったよ。出来ればまた屋敷にきてくれると嬉しい。すまないけど、僕は用事があるので先に行っている。君は気にしないでゆっくり休んでいってくれ。あと、布団はそのままでいいよ、女中が片ずけるから。では、また次の機会に
凛丸」
「……この文章は天然なのか…何なのか…」
机の上に乗っている丸められて捨てられた紙を一枚拝借しそれにしばらくは来れないけど必ず顔をまた出すと下手くそな字で書き置いておく。そして、支度を整えて部屋からでる。
「さて、俺は俺で開拓者としての仕事に戻りますか」
凛丸との会話は今まで溜まっていたこの世界のわだかまりが一気に無くなり心が随分と軽くなった。そのおかげで、気持ちの切り替えが早くなった気がする。
まだ、集合時間には早いが足を早め向かう。無意識に妖力が身体に充満してきているのは開拓者の生活が長い弊害か、本人は認めないが身体がウズウズしてきているのだ。
そして、それは直家だけではない。
「遅せぇぞ!直家!」
「なんだ、みんなもういたのか。あと、集合時間よりかなり前だろ…」
「ハハッやることなくてね。久しぶり直家くん」
「久しぶりです。直家さん」
「ああ、久しぶり長貴、青海さん」
「あぁ?テメェ、遅刻した分際で俺様に挨拶無しかコラァ」
「さっ、朝早いからね朝食を食べながら話をしよう」
「あ、テメェ!無視すんな!」
懐かしい会話。1週間会わないだけで懐かしいと感じるのはこの玄武組での生活がいかに濃かったかがあらためて実感できた瞬間であった。
凛丸との会話の1幕。
「そういえば凛丸って前の世界で友達とか多いほうだったか?」
「……何故そんなことを?」
「いや、ただの興味本意だけど…?」
「そう…だね。友達とはなんだろうね?どこから友達と断ずる事が出来るのだろうか?極端な人は一言話したら友達など世迷言をのたまうが…………」
あ、多分これも地雷だ。
「あ、もういいです。大丈夫です。頑張りましたね」
「まて!友達とは何かを明確にしたら、もしかしたら!いるかもしれないだろ!」
「もうその時点でいないって言ってるじゃない……」
「くっ!」
あれ?コイツ思ったより残念な奴か?
「そんな目で僕を見るなぁぁぁ!」




