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深層の脅威2


「ぐぅっ!こいつ!力強すぎだろ!」


「うるせぇ!黙って歯ぁ食いしばってろ!」


「小鬼も結構ッ!強い!ね!」


直家と猿吉で鬼を抑え、ちょこまかと動く小鬼は直家が片ずける。流石深層、小鬼ですら一味違うのであろう。長貴であれば小鬼など20体きても問題無いが、ここでは10体でかなり苦戦している。青海の方に小鬼を通さないためというのもあるがかなり時間はかかりそうだ。


長貴が参戦するまで、それか青海の妖術の詠唱が完成するまで猿吉と直家で1歩間違えれば即死の死闘。


2メートル近い身長に引き締まった身体から繰り出される素早い連撃。それを避け、受け流す。


「グォオォオオオオオ!」


「ぬぅおおおおぉ!」


そんなに直家に苛立ち、強引に近づき両手を直家に真上から叩きつけてくる。避ける事が間に合わないと判断し槍をを頭上に掲げ受ける。


「直家!そのまま受けてろ!俺が攻撃する!!」


無茶いうな!という声は出ない。全身の妖力を掻き集め、身体の限界を超える量を一気に使う。そうやって初めてこの一瞬の均衡が出来るのだ。喋る余裕など無い。


「ぐぅっ!ぬぉぐぉおおおおお!」


しかし、それすらさらに凌駕する膂力で直家を押しつぶしにかかる。頭上に上げた槍は肩にくい込み足、身体から筋繊維がブチブチときれる音すら聞こえてくるような力。何とか、根性で立ってはいるがもう数瞬も持たない。


「よくやったぁ!直家!くらぇ!」


もうダメだ、と思った瞬間。直家の前から声が聞こえた。腕にこめられる力が急に緩くなった。これだったら!


「ぬらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


両手を槍で払いがら空きとなった綺麗に割れた腹筋に槍を全力で突き刺す。否、刺さらなかった。全力の一閃は厚い腹筋を抜けること無く穂先がわずか数センチ刺さっただけだった。


「チッ!」


鬼の背中から猿吉の声が聞こえる。猿吉も多分攻撃したが有効な傷を負わせる事ができなかったのであろう。


「クソッ!こいつ硬すぎるだろ!」


すぐに槍を引っこ抜き距離をとる。猿吉も距離をとったみたいだ。


「グァァ!グガァァァアァァァァ!」


有効な一撃では無かったが充分な激痛なようだ。瞼がぐちゃぐちゃで眼球の形が分かる目でこちらを見る。どうやら、青海より先に直家達を殺すことに決めたのであろう。


「狙い通りなんだけど、全然うれしくないな」


そうボヤキながら槍を再度構える。今度はもっと激しい打ち合いになる。死と隣り合わせどころか、今度こそ死が顔を出してるレベルだ。もう、笑うしかない。


「頼むぜぇ!猿吉!お前が攻撃しねぇと本当に死ぬからな!」


「何笑ってんだ気持ち悪ぃ!テメェがどうなったって知らねぇが。まぁ、任せろ!」


そう言う、猿吉も自分の顔が笑ってるのは気がついているのだろうか?まさか、こんな状況で笑えるようになるとは。ついに頭がおかしくなったか?まぁ、開拓者なんて頭がおかしい連中の職業だ。染まってきたのだろう、悲しいことに。

身体中から血は止まらない。限界を越えた妖力の供給に身体が耐えられなかったのだ。もう限界、今が限界。でも、限界からが本番だ。いつもそうだった。


虚勢だ、やけっぱちだ、勇気ですらない蛮勇。それにまかせて吠える。じゃないとやってられない。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「クゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!」


妖術の詠唱はまだ終わらない。











早く、早く、早く!


「水よ……」


もっと早く!遅い!早くしないと…。


「我が求めに応じ……」


詠唱というのはたんに、早口言葉にすればいいという訳じゃない。一文字一文字に、妖力を込めて練り出すもの。決してパッと出るものではないのだ。だからこそ、あれだけの高威力を誇るのである。


しかし、高位の妖術師というのは無詠唱で強力な妖術を行使したり、それこそ一文字一文字に妖力を込めるのが速くて早口言葉のような詠唱でも妖術を行使できるのである。


つまり、ここで遅いのは自分の実力不足のせい。前の村の女人達で固めたチームの時は私が1番弱かった。詠唱も遅く、威力も弱い。だから努力するとか考えずに私はこれでいいと、現状に甘えていた。だからだろう、酷い扱いを受けはじめたのは。今考えればもっと頑張れば、練習すれば、努力をすれば、態度は変わっていたかもしれない。


要は全て努力不足なのだ。そのツケが今に至るまで力不足として青海を苦しめる。成長著しい玄武組の面々についていけてるかどうかすら怪しい。私以外は死ぬ気で頑張っているのに、私は猿吉くん、直家くん、そして長貴さんのように頑張れているだろうか?


初めてなのだ。こんなに頑張っているのは。ついて行きたい、付いていくために必死に食らいついているのは。さんざん猿吉くんに警告された。それでも、私が私の意思で付いていくって決めたのだ。


「…敵を!打ち破れ!」


だから、常に今出来る最善を、最良を、最高を出し続けないと。猿吉くんのように勇気があって先頭に常に立って妖怪に突っ込むことはできない。直家くんのように自分の何倍も強い敵を何度も抑え込み傷だらけになりながらいつ倒れてもおかしくない状態で戦うこともできない。長貴さんのように、いつも堂々とチームを引っ張る人間にもなれない。そんな、私が出来ることは一つ。


「水球連弾!」


これしか無い、これを極めていくしか、玄武組に付いていく方法は無い。そこに迷いは無い、さまよわせていた視線は1点に絞られている。進むべき道は見えた。後は進むだけ。


案外、玄武組の中で1番心理的に成長したのは青海なのかもしれない。












「水球連弾!」


ようやく終わったか!もう少し遅ければ俺は大丈夫だが、直家がやられていた所だったな。まぁ、青海にしちゃあ早かった方だろう。


幸い今はちょうど直家が全身全霊を持って鬼と対峙しているところだ。完全に頭に血が上って青海の方を見ていない。直家もまぁ頑張ったのだろう。そのくらいは認めてやる。


青海の放った妖術が高速接近し気がついた時にはもう目の前にあった。3発とも直撃。胸、右腕、左足を確かに直撃した音と共に微かな余波が猿吉の身体を通り過ぎる。


完全に鬼の動きが止まる。胸は直家が刺した傷口を更に抉ってあばら骨が見えていた。右腕、左足は共に硬い皮膚が弾け飛び筋繊維と骨が覗ける。


致命的だ。ほっておいてもこの調子じゃ死ぬだろうが、俺らの勝利を確実にするために追撃する。


「よくやったぁ!青海!後は妖術はいらねぇ!ひっこんでろ!」


長貴の方を見ると小鬼の数はもう4体。じきに片ずくだろう。


「おい!いつまではぁはぁ言ってやがる!発情期かてめぇは!手伝え直家!」


トドメだ。俺ひとりでも出来るかもしれねぇが、手負いの妖怪の最後の足掻きは洒落にならない時がある。


「無茶、いうな!こっちはいろんな、とこ、ちぎれたり折れたり、してんだぞ!」


「うるせぇ!いいから立て!」


甘えてんじゃねぇよ。俺だって何本か骨がいかれてら。直家方が酷いかもしれんが、丈夫だしいいだろ。


俺は全然痛みは感じねぇが。不思議なもんだ。普段なら激痛でも、戦場だと血の垂れる事すら心地よい。先ほど、直家に何笑ってんだ、って言ったが、実は俺自身も笑っている事には気がついていた。


直家などんな気持ちで笑っていたかわからねぇけど、俺自身は分かる。喜びだ。強く、強く、今まで手も足も出なかった奴らと戦えている。正直に言えば快感だ。女を抱いても、美味い飯を食っても、何しても味わえないような快感を味わえている。


「ったく。相変わらず無茶苦茶な野郎だな!畜生が!」


なんだ、悪態つきながらテメェも笑ってんじゃねぇかよ。テメェどっちなんだろうかな?ふん、んなこたァどうでもいいか。


刀を構える。戦闘中に余計な事を考えると痛みが強くなる。


「直家!傷口だ!皮膚は硬ぇが中は流石に弱ぇだろ!」


「わかったよ!あぁ!痛てぇ!畜生!」


走る2人。それぞれ左右に別れ、互いに死角から攻撃する。猿吉と直家の定番連携パターンだ。


そんな近づいてくる音に気がついたのだろうか。鬼の身体がピクッと動く。


「何かやらせるな!一気に殺すぞ!」


「ぬぉらぁぁああ!!」


返事はない。いや、あの咆哮が返事なのだろうか?多分本当に痛いのだろう。それでも立って来るところが直家なのだが。無茶ぶりしたのは自分だが、あいつの丈夫さには正直引く。


「しゃりぁ!」


1番先に鬼の元にたどり着いたのは猿吉。動きの速さなら最早、直家は敵ではない。胸の方まで引き絞った刀の突き胸の抉れたところを突き破りかなり深くまで刀が到達する。


「グガァァァォァ!」


ここまで来ると激痛どころじゃ無い。皮膚の硬い鬼は内蔵に直接くるダメージなど受けたことなど無かっただろう。人間ならば痛みでショック死する人もいるくらいの痛さだ。


当然暴れるだろう。しかし、それまでに痛みで僅かに身体が止まり隙が出来る。素早く刀を引き抜き鬼の両目に一閃。腹を抉られ前屈みになっていた鬼が今度は目を抑えて仰け反る。


1人ならば更に追撃するとこらだが、こちらにはもうひとりいるのだ。


素早く鬼から一旦離れる。その次の瞬間に、鬼の前方から直家の槍が更に胸を突き刺すこと3回。また、前屈みにならざるおえない鬼。圧倒的攻撃の連打。一切の反撃を許さない連携。これも、青海の妖術が、作った傷口のおかげだ。


最早瀕死の体の鬼。俺様が引導を渡してやる。感謝しやがれ。と、刀を構えて突っ込む。


「りゃぁぁぁあ!」


皮膚が弾け飛び、再三の攻撃で更にグチャグチャになった胸に渾身の突きをお見舞いにする。その一突きは分厚い筋肉を越え心臓に突き刺さった。


また身体がビクッと震え、口から大量の血を流す。


「ふんっ!」


足で鬼の身体を蹴って刀を引っこ抜き、その反動で鬼が背中から倒れる。


勝利だ。俺らの勝ちだ。勝利のたびに湧き上がるこの気持ち。生き物として、俺らの方が上だという快感と、死闘を征した達成感。なにより、夢に1歩また前進したという実感。


「よっしゃあ!とりあえず、一体目ぇ!」


刀に上に掲げ吠える。勝利の雄叫びだ。これは、やめろと言われても止めることは出来ないだろう。相手を完全に征したという確認行為でもあるのだから。


身体が熱い、この調子なら何体でも行けそうな気分だ。


「ハッハッハ!よーし!次行くぞ!次!」


長貴の方を見てみると小鬼のかたもついた。ここで立っているのは俺達だけだ!ハッハッハ!最高だァ!ぁー



そこから先の記憶は、村の宿屋で目が覚めるまで存在しない。















バタリと鬼を打ち倒し勝利に酔っていた猿吉が急に倒れた。完全な妖力切れだ。当たり前だろう、攻撃し続けた猿吉の負担は直家が思っているより多い。


「ごめんね。怪我が多いのに猿吉くんを担がせて…」


「いいよ。丈夫さだけが取り柄だから、俺はもう戦えそうに無いし、非戦闘員がやるのは当たりまえだろ?」


ただ、気持ちよさそうに寝ているのは激痛の中担いでてイラってする。


今回の戦いは鬼の一グループを打ち破った所で終わった。初めてにしてはまぁ、上々だろう。消耗が激しかったのは鬼と直接戦った猿吉と直家。


青海さんは中層の事もあるから温存するように言ってあるし、長貴だってそうだ。


もはや、深層を抜けて中層を歩いているがまだまだ油断は出来ないのだ。しかし、どうしてもあの圧迫感から解放されただけでホッとするものだ。


「ごめんなさい。私がもっと早く詠唱を終わらせていれば……」


「青海さんは全然悪くないよ!実力不足なだけ。青海さんはこれ以上無いくらい良くやってくれてるよ!」


「…ありがとうございます」


顔色を見てみると、今の言葉で申し訳なさそうな顔が少し変わって決意を秘めた顔に変わる。あんまり気負わないで欲しいからああ言ったんだけど…。上手くいかなあなぁ。


「……もう一体。………次はもっと早く……」


背中から声が聞こえる。猿吉の寝言だろう。今日の戦闘内容でよくまぁそんなに前向きになれるものだ。


俺はなんど死を覚悟したものか。それほどギリギリの戦いであった。猿吉ほど、楽観的にはなれそうにはない。


「……明日も生き残る」


だが、強くなる為に必要な事だということは分かっているのだ。命くらい賭けてやる。幸い、それほど分の悪い賭けじゃないようだから。


感想よろしくお願いします。

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