休息
少し長めです。
その後、無事に大蜘蛛の討伐証明や価値のある部位の剥ぎ取りを終えて朝井村に帰える事となった。
「すいません。動けたら手伝うんですけど」
「いいよ、頑張ってくれたし青海さんがいなかったら僕達は死んでいたよ」
「直家は手伝いに来てもよかったのによ」
「だから、無茶言うなよ、こっちだって骨折れかけているのを妖力不足で治せていないんだから」
大蜘蛛を倒した位置は朝井村のすぐ近くだ。直ぐに、朝井村が見えてくる。ほとんどが、これから森に入って妖怪を狩ろうと門から出ていくのにたいし、玄武組はボロボロの体で身体を引きずるように門の中に入っていく。
「……みんな怪訝そうに見てるな」
「そりゃそうだろ。こんな時間に村に帰る奴なんか深層にいって、何日か帰ってこないヤツらくらいだからな」
「それに、そんな人は滅多にいないからね」
それもそうか、ここは開拓者初心者向けの村だ。それに、深層に行けるだけの力があるなら他の村に拠点を移す人が多いのだ。何故なら、朝井村から距離が離れていて2日3日は帰れない。それならば、もっと拠点が近く稼ぎのいい所はいくらでもあるのだ。わざわざここに留まる必要は無い。大体中層で安定して稼げるようになったら、他の土地に移るらしい。なので、朝帰りの開拓者は朝井村では珍しいのである。
「そういえば、大蜘蛛の死体をあそこに置きっぱなしで良かったのか?いくら何でも村に近すぎるだろ?」
「あんまり良くは無いけども、僕達じゃ移動出来ないしね。それに価値のある部位は持ちきれなくて置いてきたのもあるから、それで許してもらうしかないね」
「絶対驚くぜ。見てみてぇよその姿を」
まぁ、確かに初心者のグループが大蜘蛛を見つけたら半狂乱だろうな。死んでるとわかると、群がるだろうけど。
「あとよ、大蜘蛛は妖怪からするとうめぇらしいな。だから、大量の小鬼が寄ってくるぜ。人間か小鬼か、先に大蜘蛛を手に入れるのはどっちかってな。おもしろそうじゃねぇか?」
「悪趣味な野郎だな。まぁ、見てみたい気もしなくはないが」
そんな、結構酷い会話をしているうちに開拓者組合に着いた。大蜘蛛の討伐証明を見せて討伐金、銀判1と銀銭5を貰い、更に価値のある部位や、小鬼の討伐証明を換金して銀銭2。合計銀判1と銀銭7を手に入れた。
「うっしゃ!大量だぜ!」
「死ぬ思いをして1人あたり大体銀銭4と、銅判2とちょっとか……。割に合わないような…」
「まぁ、あの状況じゃ生き延びれただけマシだと思わないとね……」
色々と複雑な胸中で、改めて開拓者という職業のキツさを実感した。そのあと、4人で分配して今日は解散となった。朝もいいところでこれからほとんど人は仕事なんだが玄武組は全員まだ寝ていないのだ。解散ということになったが、全員がいつも寝泊まりしている宿屋に移動する。猿吉ですらそれだ。
「…………」
「…………」
全員が無言だ。皆無言で宿屋に向かっている。換金している時はまだ少し元気があったが、お金を貰い更に村に入って安堵したからなのか急速に眠気が襲ってきてもはや喋るのも億劫と言った感じで歩いていく。途中すれ違った人はそんなゾンビ見たいな4人組をギョッとした顔で見ていたが誰も気にする人はいなかった。
そうして、宿屋につき全員が一緒に雑魚寝する四人部屋をとり、そのまま倒れ込むように眠りについていったのであった。
3刻程の時間が過ぎ、午後の一番高く日が昇る時間。むくりと直家の身体が起きた。周りを見渡すが誰も起きてくる気配は無い。すぐ横を見てみると猿吉が上にかけた藁をグチャグチャにしながら爆睡していた。寝相が悪いんだよなこいつ、と思いながら身体についた藁を払い立ち上がる。
「…んっ、んぅ」
声が聞こえて、もしかして起こしてしまったか?と思い声のした方を見てみる。青海さんが少し直家達と離れて、長貴の隣で寝ていた。幸い起きてはいないようだ。
ホッとしながら、よくよく考えてみると男3人に女1人で同じ部屋で雑魚寝というのはかなりよろしくないだろう。いま、玄武組はお金が無いからということで、青海さんが遠慮して一部屋で大丈夫だということでこういう形に決まった。だが、やはり少し不味いだろう。お金に余裕が出てきたらまず、部屋をわける必要がある。
「幸せそうな顔してるな…」
女性としては安心できる環境ではないはずだが、どことなく長貴の隣にいれて幸せそうだ。無理に部屋を分けるのが悪いような気もしてくる。しかし、部屋に異性がいて困るのは女性だけではないのだ。男も色々と処理する必要がある、それも出来れば個室がよいのだが…。お金に余裕が出来たら猿吉と長貴を誘って童貞卒業しに行こうかな、部屋じゃ処理できないんじゃそうするしかないだろう。元の世界でも春を売る女なんて腐るほどいるのだ、この世界ではもはやだろう。そういう意味では困らない。勿論いい女は高いのだが。
「って、何考えてんだが」
下世話な考えを振り払い、部屋からでる。いくら女に飢えているとはいえ仲間である青海の近くでこのようなことを考えるのは失礼だろう。どうも寝起きで、頭がシャキッとしないから変な考えが浮かぶのだ。外の風をあびたら忘れるだろう。
少し村の中を歩き回り、働いている人を尻目に散歩と洒落込む。この村に来てからはそのような余裕など一切無かったので中々新鮮な気持ちで村を回る。
「…ん?この匂いは…?」
そんな中、村の一画に入ると香ばしい美味しそうな臭いが漂ってくる。団子を焼いて味噌を付けたものや、おにぎりに味噌をや醤油を付けて焼いた焼きおにぎりの様なもの、またこの村では高価な豚や鳥など(普通の鳥や豚)の肉が焼かれていた。その他にも、汁物類もあり食事処が集中している所らしい。
「へぇ?こんな所があったんだ?」
いつもは安宿屋に近い安食事処ですませていたのでこのような場所がある事は知らなかったのである。値段を見てみると確かに少し高い。が、この耐え難いほど暴力的な香ばしく美味しそうな匂いには勝てそうにない。
それに、匂いを嗅いでいるうちに隠れていた凄まじい空腹感が直家を襲うのである。もはや我慢出来るわけなく。
「あれだけ頑張ったんだ。少しくらい贅沢してもいいよな?うん」
自己弁護だと言うのは承知している。両手一杯に抱える食料品の数々に凄まじい自己主張に敗北したと言う事も。しかし、死力を尽くして戦い抜いた後だ、腹が減るに決まっている。身体は寝ているうちに完全に回復したが、それに使われた妖力をすぐさま補給せよと身体が抑えられないほど主張しているのだ。
「まぁ、何が言いたいかって言うと食欲に負けたってことなんだけど」
適当な場所に座り、手当り次第に買ってきた食べ物を頬張りながら自己弁護にケリをつける。こんな事をいくら考えても目の前の美味なる物にとっては意味の無い事だ。
「モグモグ、しっかし美味い!高いだけあるな!」
いつもの食べている安食事も悪い訳では無いのだ。が、やはり腹が減っていたというのもあるが、味は比べ物にならないくらい美味い。それこそいくらでも食べれるくらいに。
「そういや、この世界に来てから結構痩せたけど、食べれる量は増えているんだよなぁ」
お菓子やジュースなど、そういったものを食べた後に普通より多いご飯を食べる生活を送っていた。元から結構な大食漢だったが、この世界に来てからはそもそも食べ物が無いので思う存分食べられない時の方が多かったのを抜いても、こういった沢山食べる機会が来るとそれこそどこまでも食べ続けることが出来るようになったのである。
勿論味に関しては元の世界の方が遥かに美味しい、それでも食べる事が出来るというのは妖力を回復するのに沢山のエネルギーを使うからなのか?それとも、筋肉が付いたからなのか。ただ言えるのが、このまま元の世界に帰ったら大食い選手権に出ても優勝出来そうだ、という事だ。
「モグモグ、………ん?あれ?もう全部食べちまったか?」
どうでも良い事を考えながら食べていたが、ついに買ってきた食べ物類は全て食べ尽くしてしまった。まだまだ腹に入るのだが、空腹感は紛れた。これ以上お金の無駄使いは良くないだろう。
「はぁ、銅判2枚も使っちゃったか。もう無駄使い出来ないな…」
食べてある程度欲望を満たしてから感じることは、罪悪感。お金の無駄使いはしないように心がけていたが、今回それを破ってしまった。お金分の価値はあったが節約している時にやってしまうと少し落ち込んでしまう。
「これじゃいかんな、他の所を見て回ろう」
ここにいてはまた、無駄使いしそうだと思い、ここから離れようと立ち上がる。そのとき、また1人この区画に入ってくる人を見つける。不釣り合いに長い刀に、低身長。
「げっ!直家!てめぇ、こんな所にいたのかよ!」
そして、運の悪い事にこと時間帯は人が少なく立ち上がった直家に気が付いてしまった。正直、直家も、げっ!と言った心境だ。1人で気持ちよく散歩していたのに嫌な奴に出会ってしまった。猿吉も1人ということは青海さんと長貴を置いて出てきたのだろう。
「ここは誰にも教えてねぇはずなんだけどなぁ?よりによって直家に見つかっちまったか」
「なんだ?俺がここにいちゃ悪いか?」
「ふん、お前もうまい飯を見つけると沢山食べるだろ?そうしたら俺だけ伸びていくって言う計画が崩れるじゃねぇか。それに、いっつも昼飯用はここで買ってるからな真似されたくねぇんだよ」
理由がすげぇ子どもじみている。聞いた俺がバカだったような気もしてくる。
「あー、そうかよ。わかった、わかった。俺はもうここには用は無いから。後はお前1人でゆっくりしてくれ」
休みの時くらい猿吉とは別でいたい。一緒にいるだけで、結構体力を使う。ゆっくり休ませてもらうため早々に退散する。
「まてよ、お前どこに行く気だ?」
「何処って、もう少し回って宿屋に戻るつもりだが?」
「バッカ!お前、折角青海と長貴を2人きりで残したのに戻るとかアホか!いま、戻ると2人ともいい所をお前に邪魔させる感じになるぞ!それどころか、ハッスルしてる時に鉢合わせかもな!」
「そ、そうなのか?、お前が出た時にはもう全部2人とも起きてたのか?」
「いや寝てたが。2人きりだとその可能性が高ぇに決まってんだろ!お前はそんな中に入りてぇのか?」
それは嫌だな。青海さんが長貴の事が好きそうなのはもうバレバレだし、気が付いていないのは張本人の長貴くらいだ。しかし、2人きりの状況が長く続けは何か、変化があるかもしれない。
「うーん、確かに猿吉の言う通りだな。はぁ、暫く宿屋に帰れないか…」
「まぁ、どうなっているかを見に行くってのもわるくはねぇがな!」
さっきからどうもニヤニヤしながら楽しそうに語っている。意地の悪い事だ。その提案を非常に魅力的に感じる直家も同類なのだが、意地と良心と正義感を総動員して断る。
「……………それは、駄目だろ。信頼関係に傷が付く…」
「まぁ、そうなんだけどよ。でも、暫く帰れねぇだろ?どうだ、此処で飯食った後少し付き合えよ」
「えぇ………。何処にだよ…」
「長貴もしっぽり楽しむかもしれねぇんだったら、俺らも楽しみに行くんだよ。わかるだろ?なぁに、場所も値段も分かってるしいい所あるんだよ。どうだ?」
下品に鼻の下を伸ばしながらニシシと笑う。いつか、直家から誘おうと思っていたことを先に言われたが、確かにいいタイミングというかチャンスだ。猿吉の言う通り暫く帰れないのだったら、そういうのも悪くは無い。というか、素晴らしい。
それに猿吉は事前リサーチが得意だ。誘うということはもう大概の情報は調べてきたのだろう。猿吉の情報は信頼できる。
「………コクリ」
無言で頷き同意を示す。
「よっしゃ、決まりだ。精力の付く飯を食わねぇとな!」
直家もそういうことならと、精力の付く物を追加で買う。途中でへばったりしたら格好が悪い。童貞を捨てに行くのだ、気合を入れねばならない。
更に2刻程が過ぎて、空が赤く染まって来た時間帯。妙に顔艶が良い直家と猿吉が並んで歩いていた。
「最高だったな…」
「あぁ、結構取られたが、癖になるのも分かるぜ……」
直家の方は綺麗なお姉さんでもなかったし、年上で可愛くも無かった。年は20前半位の容姿は普通の女だったが、流石商売でやってるだけあってあるだけ搾り取られた。最近自慰行為か出来なく、かなり溜まっていたのでスッキリ出来てかなり満足だ。
「流石に毎回ってなると金が足りなくなるけどな」
「はっ、次には俺達の収入も変わってる!そんときゃ、もっと高ぇ女買うぞ、直家!」
「そうだな、破産しない程度にだが」
「金なんてこの仕事やってりゃいくらでも入ってくるに決まってんだろ!」
「まぁ、それが理想だけど。そういや、猿吉の予想じゃ2人ともいい所なんだろ?今帰っていいのか?」
「流石に長貴が、絶倫野郎じゃなければ終わってるはずだ」
もしそうなら、数時間もヤリっぱなしだと先に青海さんが力尽きそうだが。まぁ、あの2人の事だから何もないかもしれない。最初から猿吉の決めつけだ、本当にそうなるかは分からない。まぁそれでも、青海さんを応援しているから仲が進展している事を願うばかりだ。長貴の鈍感っぷりはかなりのものだから青海さんがどれだけ積極的に行けるかだけど。どんなものか。
「そろそろ付くな。さぁ、どうなっているか。ふっふっ、楽しみだなぁ」
コイツついに楽しみだって事すら隠そうともしなくなったな。まぁ、分からなくもないが。
どうなっているか、猿吉の事を言えないくらい楽しみにしながら宿屋に入り部屋に向かう。
「…………音は聞こえねぇな。事後か?」
「知らん。入ればわかる。音が聞こえないなら入っても大丈夫だろ」
部屋の前で壁に耳を当て音を聞き出そうとするも何も聞こえない。ナニをするのであれば薄壁1枚、聞こえるものだから今は何もしていないのだろう。
「けっ、拍子抜けだな」
「もしかしたら、2人ともどっかに行った可能性もあるぞ?」
何も聞こえないってことは部屋にいないってことだ。それだったから、部屋に入るのを躊躇う必要はない。確かに猿吉の言う通り拍子抜けしながら部屋の戸を開く。
「………………」
「どうした?早く入れよ」
「いや、2人ともいたんだけど……」
「だけどなんだよ?」
「いや、寝てる」
「はぁ?あれから何時間たったと思ってんだよ?」
訝しげに部屋を覗き込む猿吉。部屋を出た時と何も変わらない体制で寝ていた青海と長貴が並んで寝ている。勿論ちゃんと服を来ているし事後と言った感じではない。2人のことだから並んだ状態で目が覚めると青海は恥ずかしがって距離を置くし、長貴も青海に気苦労させないように離れるだろう。
「マジかよ。こいつらどんだけ疲れていたんだ?」
まぁ、青海さんは限界以上に妖力を使ったから仕方が無い。しかし、長貴も今に至るまで寝ているのは以外だ。思った以上にリーダーというのは重荷なのかもしれない。考えてみれば、大蜘蛛に追いかけられていた時は常に選択の連続だった。重圧は今までの比では無いだろう。
「しかし、流石にそろそろ起こすべきだな」
「はぁ、なんかつまらねぇな」
「まぁ、否定はしないがな」
苦笑いしながら猿吉の答えに同意する。なんだかこちらも馬鹿みたいだ。変に力が抜けた。その後長貴達を起こし、恥ずかしがる青海さんと寝過ぎたことを謝ってくる長貴。予想通りの反応に忍び笑いを猿吉としながら、一日が終わっていく。
たまにはこういった時間、ゆとりを持つのも悪くは無いなと思いながら。
感想よろしくお願いします。




