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中層へ2

「直家くん。いるかい?」


「ああ、あっちの方に小鬼が20体程いる」


指を指して方角をしめす。見えているのは妖気であって妖怪本体ではない。なので、相手の妖怪からもこちらは見えない。少なくとも小鬼レベルではこちらを見つけることは出来ないだろう。


「早速行こうぜ」


「いや、待って。……近くにもう1組あるな」


「2組は荷が重いな、奇襲で一気に決めようか。少し近くまでよって適した場所を探そう」


「奇襲かよ。ッチ、まあ仕方ねぇ。どこら辺にいる。案内しろ」


「はいはい。じゃ行こうか」


小鬼がたむろする地点の近くまで移動し猿吉が目ざとく奇襲ポイントを見つけてそこに隠れる。


時は昼食を取り一休みをして午後の稼ぎを始めたばかりの昼下がり。昨日、話し合った結果中層に行くのはしばらく延期となり、その不満を直家との稽古でスッキリさせた猿吉は大人しくなっていた。


「準備」


小鬼の集団が近づいてくる。小さな声で長貴が武器を構えるように促す。


「青海さん」


「はい」


青海に妖術の行使を促し、それに応えて青海が小声で詠唱を始める。


「水球弾!」


直径一m半近くの水球3つが物凄い勢いで小鬼の集団の真ん中に当たる。その衝撃で5体の体が弾け飛び、その周りにいた小鬼も体が吹き飛ばされる。その余波からも逃れた小鬼はいきなり起きた惨状に目を白黒させている。


「行くよ」


そこに武器を携えた直家達が一気に小鬼の元まで走り蹂躙する。一切小鬼本来の戦いをさせずに一気に押し切る。小鬼も我に返った時はもはや立て直せるだけの数は残ってはいなかった。もはや逃れる事もできはしまい。このまま全滅を待つのみとなったのである。


しかし、小鬼達に取っては幸運な事にそこに小鬼の集団がもう1組あった。小鬼同士あらゆる集団があり、小鬼同士争うことも珍しくはない仲でほとんど助け合いなどはしない。だが、今回のような場合は別だ小鬼の外敵となるような存在に関しては確執を忘れ徒党を組んで戦うことが出来るのである。この方法で小鬼は妖怪としては弱者ながら生き延びるのである。そして、経験を積み上位種になるために、これは全くの余談だが。


「長貴!新手!」


「わかってる!」


もう1組現れた。しかし、ある程度予想はしていた。2組を相手にしたくないから片方を先に潰して返す刀でもう1組を潰すつもりだったが間に合わなかったようだ。


「青海さん!もう1発!」


「はい!水球弾!」


しかし、この可能性は最初から分かっていたことだ。勿論対策はしている。青海さんにもう1発いつでも打てるように準備をさせていたのだ。新手の小鬼の集団に元の戦っていた小鬼達が逃げ込み一緒になってこちらに押し寄せてくる。その小鬼の集団は殺られた同胞の恨みを晴らすためか怒りの声を上げながら猛然と突撃してくる。しかし、この出鼻をくじくように青海の妖術が先頭を走っていた小鬼を吹き飛ばし絶命させる。


「さぁ、もう一度だ。行くよ」


毎度ながら圧倒的な威力で小鬼達の足が止まり前に転がっている同胞だった死体を見て足が竦んでしまっている。そこに猿吉を先頭に直家達が小鬼に突撃する。


瞬く間に数を減らされていく小鬼。もはや小鬼では、玄武組のを止めることは出来なかった。


「はっはっはぁ!弱ぇ!弱ぇ!」


「小鬼はもはや敵じゃないな!」


「こら!2人とも油断しないように!」


など言いつつ少し前まで、戦闘中に無駄口を叩く余裕など誰もありはしなかったが今では余裕と油断が見え、無駄口をたたいている。それは注意した長貴も戒めてはいるが、無意識で思ってしまっている事だった。


小鬼の全滅はもはや秒読みであった。2組が合流した幸運も、周到な準備をしていた長貴にはすべて無駄に終わった。


筈だった。知識としては皆知っていた。物事慣れてきたあたりに痛い目を見ると。それは開拓者にとって致命的である事も。知ってはいたのである。油断はしていないはずであった、しかし無意識の中でもそれを行うのは難しい。この時いつも欠かさずにしていた戦闘中の索敵を怠っていた。直家も長貴も初期は一切気を抜かずに妖気の気配を察知するように心がけていた。しかし、ここら辺の妖怪は敵ではないという驕りと油断。それは死に直結する程致命的な油断であった。


何かが近づいてくる。濃密な死の気配があたりにし始めて、カサカサと足音が聞こえてきた。もはや足音が聞こえて来るような距離にまで近づいてしまった。


「っ!!まずい!逃げるよ!早く!!」


「あ、ああ!」


「クソッ!なんだ!?」


「大蜘蛛だ!下層に降りてきた!」


「んな馬鹿な!ここは中層から降りてくるなんて、滅多に無いぞ!」


「そんな事どうでもいい!早く逃げるぞ!」


先程まで戦っていた小鬼も今まで見たことが無いくらいの慌てようで散り散りになって逃げ出していた。その流れに乗り青海さんがいる所まで必死になって足を動かし、突然現れた大蜘蛛に呆然もしている青海をちょうどいい位置にいた直家が抱え上げて全力で逃げる。へたりこんでいた青海を抱えあげるように持ち上げて逃げているため色々当たってはいるがそんな事を考えるような余裕は一切無く、青海も文句も言わずに必死にしがみついている。


「直家くん!絶対に離さないでよ!」


「わかってる!」


「な、なんだよ!あいつ!化物じゃねぇか!」


すぐ後ろでは逃げ遅れた小鬼を8本ある大きな足で踏み潰し肉塊にして小鬼を食べていた。あれが、中層の初心者殺しの大蜘蛛。凄まじい迫力と膂力だ。あれには中層でも滅多に合わないらしいが会ったら最後、ましてや奇襲を食らうと死ぬのみの妖怪。本能でアイツには勝てない、死ぬ未来しか想像が出来なかった。


方向なんて一切考えていない。ただ一刻も早くあの大蜘蛛から距離を取るために全力で走る。どれくらい離れたか、気になって猿吉は後ろを軽く振り向く。赤い、体が黒い分だけ赤く光っているように見える目と目が合う。


「やば!目が合った!」


「何してんだよ馬鹿吉!追ってきたらどうすんだよ!」


ゆっくりと捕食していた小鬼から顔を上げてこちらを向く。そして、猛然とこちらに向かって走って来てしまった。


「本当に来た!やべぇ!」


「馬鹿吉!死んだら恨むからな!」


「元はテメェが索敵サボったからこうなったんだろうが!」


「2人とも死にたいの!?黙って走って!大蜘蛛てそんなに足が早くないから頑張れば巻ける!」


あれだけ脚があるのに早くないのか…。あぁ、でも奇襲大好きな生き物だったな。強すぎてみんな逃げちゃうのか。でも、足は早くないけども八本ある脚をワシャワシャしながらかなりの速度で迫ってくる見た目は凄まじいの一言だ。妖力で限界まで脚力を強化し全力で走る。森の中で時速50キロを出して走っている。これも妖力で強化したからこそ出来る芸当だ。木に当たると怪我をするが。しかし、今はそんな事を言っていられない木々の枝や葉がが皮膚を切り裂き傷を増やしていき、すんでのところで木を避けて走る走る。


しかし、やはり森の中では大蜘蛛の方が走りやすいためか差が思ったより広くはならない。


「クソッ!あの蜘蛛しつけぇ!」


「なかなか巻けないね!直家くん!青海さんを担いだままで大丈夫かい!?」


「全然大丈夫だ。青海さんを降ろしたところで俺の走る速度はそんなに変わらないし気にする必要ない!」


体はまた最近少し大きくなって筋肉もついてきた。少しづつムキムキのプロレスラーみたいになってきているので青海を担ぎ上げて走る分には全然支障はない。力だけは玄武組の中で多分一番あるし、担ぐ分には安定しててよい。流石に少しだけ皆よりは遅れるが。


「そうかそのまま頼むよ直家くん!!青海さん!お願いしてもいいかな!?」


「な、な、なに」


「その体制で大蜘蛛に妖術を打てるかい?」


「わ、分からないけど。多分なんとか……」


「頼むよ!当てなくても怯ませるだけでもいい!」


「わ、分かりました!やって見ます!」


耳元で詠唱が始めり少しくすぐったい感じもするが無視して、足を動かす。詠唱が終わり、直家の周りには水球弾が3つほど空に浮かんでいた。


「行けぇ!水球弾!」


大きい水球弾を放った余波が背中の後押しとなり一瞬走る速度が早くなる。


ドオォ!ドオォ!という、水球弾が連続で着弾する音が聞こえて足を止めずに後ろを振り向く。2発は避けたのであろう。しかし、1発は当たったのか脚が1本吹き飛ばしていた。流石にこれには脚を止めざるおえなかったのか脚が完全に止まる。そのうちに全力で距離を取る。


「なんとかなったか?」


「姿はもう見えないよな…」


「ふぅ、死ぬかと思ったよ」


しかし、あの妖術を食らって足1本か。とことん化物だな。中層に行こうとしていた少し前の自分を殴ってやりたいくらいの戦力差だ。


「あの怪我だって少し時間を置けばまた生えてくるからね。嫌な奴だよ、本当」


マジかよ……。嫌になるような奴だな。なんでそんな奴が中層にいるんだよと思うが、深層にはあんなの小物らしい。この世界でやって行けるかどうか不満になるくらいの先の長さ。これで、1年位で他の拠点に移るというのだから恐ろしい。


「あ、あの!直家さん、そろそろは、離して……」


「あぁ!悪い!」


「い、いえ!助けていただいてありがとうございます」


慌てて抱き上げていた青海を地面に降ろして平謝りをする。顔を真っ赤にしながらこちらに頭を下げる。何とも気まずい雰囲気となるが、それを知ってか知らずかその雰囲気を一切感じさせない長貴が声を上げる。


「まずいぞ!」


「んだよ、長貴。もう大蜘蛛は巻いたろ?何がまずいってんだ?」


「気が付かないかい!?」


「あぁ?確かに知らねぇ場所に来ちまったけどよぉ、大したことじゃねぇだろ?」


ここで、直家が気が付く。


「長貴………ここもしかして」


「あぁ!ここは中層だよ!」


大蜘蛛に追いかけられて必死に逃げているうちに、どこだか分からない中層に来てしまった。どこに進めば出られるのか、まずここはどこなのかそういうのを一切分からない状態で、格上の相手をしなくてはならない。そういう危機的な状況なのだ。


「引き返すわけにも行かない……」


大蜘蛛に次会ったら今度こそ最後かもしれない。戻るのは危険だ、先に進むしかない。中層の奥に進むしかないのである。


「お、おもしれぇじゃねぇか!さんざん望んだ中層に来たんだ行こうぜ!」


「望んでいたのはお前だけだよ……」


「で、でも、先に進むしか無いんですよね。だ、大丈夫です。まだまだ妖術出せますから、あの、頑張ります!」


嘘だ。朝からかなりの頻度で妖術を連発しましてやさっきの大蜘蛛に放った妖術も限界に近い状態から出したはずだ。しかし、心配させないように嘘をついてまで励まそうとしている。大蜘蛛に一番怯えていた青海がである。こんなのを見せられて弱気でいるわけにはいかない。


「ふん!いらねぇよ!全部俺が片付けてやるよ!」


「猿吉に全部やらせる訳には行かないな。俺にも半分よこせ」


「はっ!俺から奪い取るんだな!」


「僕も忘れてもらっては困るよ。ここは、僕達に譲ってもらうよ青海さん」


「は、はい」


危うく弱気になって諦める所であった。状況は悪い。改善する策は無い。実力も足りない。だが、諦めるわけにはいかないのである。こんな所で死ぬのはゴメンだ。何としても帰るのだ。その思いを強く確かめた瞬間であった。



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