夏の別れ
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遂に来た。来てしまった。この世界に来てちょうど1年になる日、この村には滞在出来る最後の日である。
「1年か…長かったような、短かったような」
長いようで短い、そんな1年であった。ちょうど一年前は自分の部屋でいつか来る終わりに怯えながら暮らしていた時は1日は光の様に早く、そして薄っぺらい日々を送っていた。
しかし、この世界に来てからは毎日が今までの生活では信じられないほど濃く、厳しく、そして優しい日々が続いていた。初めて吐くほど殴られた、初めて伊吉に会った、初めて人を殺す所を見た、初めて武器を握った、初めて人を殺した、その他にも無数にある初めての思い出は一生消えはしないだろう。楽しく、辛く、嬉しく、悲しく、毎日が今までとは違う早さで通り抜けて行った。
「俺は短く感じたぞ。もっと長く一緒にいたかった、いい友人になれたのだから」
そう伊吉が言ってくれる。そういう事を照れてあまり言わない伊吉が急に素直になっているのを見て、危うく涙腺が崩壊する所だった。慌てて軽口を返す。
「ああ、俺もそんな友人と最後の日を楽しみたかったけど今日も稽古。しかも、3人一緒にやるフルコースだと聞いたよ。最高の友人と、最後の感傷に浸る事も出来ない」
「師匠達に好かれているんだろ?いい事じゃないか。頑張れよ。正勝様が熱心に面倒見てくれるのもこれが最後かもだろ?」
それもそうだが、成近姉さんはともかく正勝様と松五郎にあまり好かれてもなぁ、という思いがある訳でして。
「まぁ、そうだな。こんな俺に親切に教えてくれる人はもういないかもだしな。ちゃんと今日をやりきろう」
「明日出発する前に死ぬなよ?」
「はは、まさかァ。と言えないところがあの3人だな」
色々あったけど、正勝様の場合は結構打算がありそうで怪しい他人だけど何だかんだ言って甘い人だし、何だかんだで1番尊敬している。松五郎は元から面倒見が良いのだろう、日を追う事にどんどん積極的に教える様になってきた。鍛錬を厳しくしようと常に提案書していたのもこの人だ。
成近姉さんは……、暇潰しが多分1番だろう。そこそこ、愛着は持ってくれていると思いたい。何考えているのかわからない人だ。何も考えていないのなもしれないが。しかし、妖気について学べたのは大きい。そして、毎日の厳しい稽古が成近様が入ってからより頑張れるようになった。メッチャ強いけどやっぱり可愛いし。癒され、和むよ。モチベーションも上がるよね、むさいオッサンよりは。
「さて、今日はここまでだな。頑張れよ?」
「ああ、死なないようにな。伊吉も畑仕事がんばれよ!」
槍を担いだ直家と、鍬を担いだ伊吉がいつも通り分かれ道で、お互いを激励しあう。この分かれ道を一緒に通るのも恐らく最後だろう。感慨深く、悲しいような思いを胸にしまい槍を担ぎ直して山に向かう。いつより、周りに意識を向けながらゆっくりと。
「遅いぞ直家。今日は3人分やるのだ、早く来い。皆待ちくたびれたぞ」
「そうだぞ!あまり待たせるな!」
そうだと思って、いつもよりかなり早く家から出て来たはずなのだが。空をみてよ、まだ少し暗いよ?どれだけ張り切っているの?松五郎なんか、最初の面倒くさがり屋のキャラどこに行ったの?熱血漢じゃん。ていうか、成近様いなくない?寝てるか、こんな時間だし。
「成近殿なんか、待ちくたびれて木の上で寝ているぞ!」
「え!?木の上!あ、ホントだ!」
そう言われて上を見てみると本当に成近様は木の上にいた。少しだけここで3人で待っていたのだが、眠くなって来るまで寝ていると言ったらしい。横になって寝ているわけでなく、木の枝に座り木に肩を預けている。かなり危ない寝方だ。落ちても多分大丈夫だろうけど。
「……………ん、直家?来たの?」
騒いでいるうちに目が覚めたのだろう、眠たそうな目を開けて指で擦る。そんなに眠いのであれば屋敷で寝てくれば良かったのに。
「遅い、凄く待った」
「すいません。まさかこんな早くから始まると思わなかったので」
「今日は特別。最後だから気合い入れる」
「そういう事だ。今日中に終わると思わない方がいいぞ?」
「元開拓者として、試してやるよ。どれだけやれるのかを」
3人ともやる気満々だ。こんなにも親切に(?)教えくれる人がいるということは幸せな事であるが、流石に3人まとめてとなると少しヒビってしまう。だが、覚悟は決めてきた。今日は死ぬ気で、いや、何なら死んでもいいくらいの気持ちで3人の教えを受けると。
「では、早速お願いします!」
「じゃ、早速3人全員と模擬戦をやるぞ」
「へ?1人ずつではなく3人纏めて、ですか?」
「当たり前だろ、一人づつやっていたら時間がいくらあっても足りるものじゃない。この他にも予定が詰まってるんだ。さぁ、やるぞ。最後だから少し厳しめに行くぞ」
「いやいやいや!待ってくださいよ!?1人でも死にそうになってるのに3人なんて無理にきまっているでしょう!?」
「やる前から諦めるたァ、根性なってねぇなぁ。叩き直してやるよ」
「早く、時間無い」
「クッ!何か喋るたびに不利になっていく……」
ここは口を噤むしかないのか。地獄のような鍛錬の総決算だ、多少厳しくてもやるぞと思っていたがこれは予想外だ。大体この人達は自分たちがいいなと思えるまで、稽古を止めないで永遠と続ける人達だ。絶対こちらの体力が先に尽きる。いやまて、体力が尽きるのはいつもの事か。どうせ、やる流れには逆らえないだろうし、覚悟決めるか。
「わ、わかりました。やります。お願いします」
槍を握る。この1年間ずっと振り続けたもはや半身と言ってもいいくらいの相棒だ。元々は山賊共が使っていた槍を拝借して使っているのだが使う度に身体に馴染んでくる。そんな槍を構え、妖力を身体と槍に纏う。少しづつ纏える妖力の量が増えて来て妖力を操る技術も向上した。身体能力が強化され、その強化された膂力で壊れないように槍の強度も強化する。最初から全開で行かないといけなそうだ。
「では、始めよう。最後の稽古を」
そういい、構える直家に対して自然体でいる3人。これで十分なのだ、構えなくても十分に対応出来るだけの技量が3人にはある。胸を借りて、今日は借りる胸が3つに増えたが、一気に槍を構え突撃する。
そんな、いつもと少し違う稽古が始まる。そんな4人を完全に顔を出した太陽が照らしていた。
太陽が西に沈みかける時間。まだ、3人の鍛錬は終盤になる。妖力を操れる様に座禅を組み集中することは1人でも出来るので今回は無くなった。
「体力が尽きるまでってか……、妖力が尽きるまでまさかやり続けて、身体が持たなくなるまでやるとは思わなかった」
実際は、妖力も付きかけていた所に無理矢理妖力を流し込み復活させ、また永遠と妖力が尽きるまで戦わせるという、地獄のような事を永遠とやらされていた直家は、今度こそ身体が動かなくなって土に身体を任せていた。
「流石にダメか。やはり結構丈夫だの。これ程長時間戦い続ける事が出来るのはやはり凄いな」
「その代わり、他があまり良くありませんね。ゆういつ見る所というのは持久力以外では、防御力と防御の反射神経が早いことぐらいか?」
「しぶとい事はしぶとそうだけど、やっぱり弱いよ」
「これだけの頑張ったのにぃ!最後の評価が酷すぎる!」
身体が動かず、うわぁああと言葉の剣に胸を刺され慟哭する。最後なのだから少しくらいリップサービスしてくれよ!最後の最後で突き放されたら、心が辛いよ!少し体力が回復したので起き上がり、目を抑えて泣く。
流石に哀れに思ったのか、成近様が慰めの言葉を入れてくる。
「大丈夫。1人じゃなんにも出来ない無能は沢山いる。仲間を作って群ればやっていける」
「うああぁあ!」
「………失敗した」
慰めの言葉が止めとなり、涙が止まらなくなる。流石に今の発言は悪いと思ったのか、他にどのような事を言えばいいかどうか考えて頭を捻っている。特に、何にも思いつかないが。
「難しい……」
「言葉は厳しいが、成近殿の言っていることに間違いはない。何でも1人で出来る人は少ない。ましてや元は只の村人だった人が多い所だ。最初は群れてその中から力を付けて行く物。恥じることではない。直家も良い仲間を見つけるのがいい」
「そう、なんですか?」
「ああ、それにだ。お前は攻撃力に乏しい。才能も無い、後進に越される時もだろう。それで、馬鹿にされたり、日の目を見ないこともある。だが、生き残れ、そうして数年もすればお前はそいつらを越している。生き延びた奴が上に立ち、更に強くなる。だがら、カッコ悪くても、望まない事をやらされても、泥に塗れても、生き延びろ。生き汚く、生き抜け。それをした者が本当に最後の最後に笑える勝者だ」
「――――っ!」
「生きていれば、また会えるのだ。俺はそれを楽しみにしているぞ」
死ぬ人が沢山いる中で、生き延びろ。生き抜いて、生き抜いて、泥に塗れても、生き抜いて、そして最後の勝者になれ。慰めでも気休めでもない、俺はそういった事に耐えることができる人間だと、最後に笑う勝者になれる人だと、そう断言してくれた。期待されているのだ。その上で、また会えるのを楽しみにしていると、会えると言ってくれた。その事がたまらなくうれしいのだ。
「は…い、俺も楽しみです。教えてくれたことを無駄にしないように、頑張ります……!」
「まるで、今生の別れのように言ったが直家よ、年に1回この季節に必ずこの村に1回は帰って来い」
「思ったより再開が近いですね……。なるほどわかりました」
まぁ、当たり前だろう。はっきりと言っていないが、俺を育てたのは開拓地の情報を得るためだ。物騒な噂は開拓地の人達の方が詳しいと聞いた。開拓地の人は戦いを生業とする者達だ、中央も人手不足なので、全国の開拓地に傭兵として参加を募っているため、何処でどのような戦いがあるのか、起きそうか分かるのである。
ちなみに手紙などの通信手段は一応あるが、直家は字が書けない為の断念した。読みはなんとか少し教えて貰ってできるようになったが。
「なに、同じ国だ。会おうと思えば直ぐに会える。ここから、歩いて4日位の距離だからな」
「そういう事だ、元開拓者の俺もそこでやっていた。知り合いもいる、もし困った事が会ったら俺の名前を出せ。なんとかしてくれるかもしれない」
「あ、ありがとうございます!た、助かります!」
「私の村にも寄ってね。途中にあるから」
「そうなんですか?じゃあ、成近姉さんに会いに行きますね」
「うん。楽しみにしてる」
では、そろそろ回復したであろう。もう暗くなる、早く森から出よう。と、正勝様が歩き始める。その背中は、最初に見た時と変わらず大きく、強く、人を安心させるような力強さに満ち満ちていた。それを見て、俺もこうなりたいと強く思ったのを思い出し、また胸に刻みつける。
こうして、出石村での最後の鍛錬が終わった。
朝である。最終日だ。今日をもってこの村から離れて新しい環境へと向かう。
今日の朝はいつもより豪華であった。量も多く、伊吉もその家族も皆励ましの言葉を投げかけてくれた。いままで、なんども遊んでいた与吉は泣き顔を堪えるので必死だったし、お母さんの方は悲しそうな気配を感じさせなかったが、この日のために準備をして、頑張ってきた。お父さんは次も会う約束をした。
ご飯を食べ終わったあと、4人の前に座り頭を深く下げいままで、この家で世話をしてくれた事にお礼を言った。お礼を言っている最中に涙が流て来てしまってほとんど最後の方は聞き取れなかったと思うが、全員なんにも言わずに聞いてくれた。
そうして、準備を整えて出発する時にも玄関でまたお礼をいい。今度こそ家を出た。全員これから仕事があるというのと、また会えるのだからそこまでする必要がないという事でここでお別れだ。
その道中で会った村人達からも応援の言葉を貰って屋敷へと向かう。正勝様に今までのお礼を改めて言うためだ。しかし、屋敷には女中さんしかおらず正勝様は村の入口の所にいると言われた。ここで挨拶しなければ失礼になると思うのだが、本人がそちらにいるのであれば仕方が無い。屋敷を後にし、村の玄関口まで来る。そこでは、正勝様と松五郎、道勝様と成近様が待っていた。
「遅いぞ直家。こんな暑い日に外で待たせるな」
それならば、屋敷で待っていて欲しかったけど。という言葉は言わないでおいておく。遅れた謝罪の言葉をいれて、頭を深く下げ屋敷で言うつもりだったお礼の言葉を述べる。
「すいません。伊吉達との別れが長引きました」
「む、なら仕方が無いな」
「正勝様、松五郎さん、道勝様、成近姉さん。いままで、ありがとうございました。何も出来ない俺にここまでしてくれて、感謝してもしたりません。1年という短い間でしたが、4人が俺にくれたものは絶対に無駄にはしません。今はまだまだなんにも出来ない俺ですけど、絶対に将来何かでお返ししたいと思っています。本当にお世話になりました」
堅苦しいとは思うが、これがケジメだ。言える時にちゃんと言わないと言えなくなってしまいそうで、簡潔にだけどもいままでのお礼を述べた。
それを聞いた、正勝様は元の世界の父親の様に笑っていた。松五郎は口を噤んで涙目になっていた。道勝様は、余り関われなくてすまなかったなと言った。成近姉さんは、寂しくなると言ってくれた。
「あんまり長居してもあれなんで、俺はもう行きます」
「そうか。頑張れよ……」
「じゃあ、行こ」
うん?成近姉さんも行くの?頭に?マークを浮かべていたら、言葉足らずだったと自分でも思ったのか説明してくる。
「私は自分の村に帰る。そこまで一緒」
「あ、ああ、ナルホド」
さっきの感動的な流れを少し返して欲しいなと思ったり思わなかったりするが、別れが少しでも伸びるのであれば嬉しい事だからと納得させる。
「では今度こそ…」
「まて、直家。お前道わかるのか?」
「…………………」
そうだった。道なんて分からなかった。何処に行こうとしたんだろうか俺は。松五郎の冷静なツッコミに何も言えなくなった。流石、元開拓者だな!抜け目ないぜ!……関係ないな、うん。
「おーい。直家!先に行って挨拶したいのはいいが、そんなに急ぐなよ!」
伊吉の声が聞こえる。まさか、道案内の人って伊吉か?なんか、大きい荷物を風呂敷の様なものに包んでいる、旅装束だし。マジかよ、家での別れの挨拶は…………もういいや。もう少し、伊吉と一緒だと思おう。
「ハ、ハハハ、伊吉待ってたぞ!さぁ、行こう!今すぐ行こう!」
正勝様達のさっきまでの感動的な雰囲気はとうに消え去り、大丈夫かコイツと言った目線が突き刺さる。あれだけ、離れたくないなぁと思っていた自分が嘘の様に一秒でも早く村から出たい気持ちになっていた。
「お、おい。挨拶は済んだのかよ?」
「ああ、もちろん!だから、もう行こう!」
何故こんなに、出発を急ぐのか伊吉は頭を傾げているが、直家に引っ張られて行く。正勝様達に慌てて頭を下げて村から出ていく。その後ろを成近姉さんも付いていく。
「………大丈夫何ですか、あれ」
「心配になってきた……」
正勝様と松五郎の呟きは遠く。騒がしい門出に消えていった。
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