冬の山賊討伐 後日談
「は!」
「ん?起きた」
なんだ?ここは何処だ?何故、胸が凄く痛いのだ?思い出した。何故飛び起きたのか。馬鹿か俺は。ああ、ヤバイ、痛い。
「クッ!」
「大丈夫?」
あれだけ深く斬られたのに、よく死ななかったな。と、思いながら、呼吸も落ち着いてきて、痛みが少し引いてきた。斬られたところに布が巻かれている事に気がついた。布も変えられていたのだろう、白かった布が急に動いた事で傷口が少し開いたのか、血が滲んでくる。
「あー、人呼んでくる」
布が血で汚れたのを見て、成近様が部屋からでる。ていうか、成近様いたんだ。ずっと、無視していたような気がする。気にしてなさそうだったけど。この部屋は、屋敷の中の部屋だろう。最初にあてがわれた部屋とは違う。少し狭いが上等な部屋だ。
「明るいな」
雨戸と障子が開いているので、外の様子が良く見える。もう、いい時間だろう。お昼になっているかなっていないかあたりだ。随分寝ていたらしい。死にかけたのだから当たり前か、逆によくこれだけである程度回復したものだ。
「おお!直家、起きたか!聞いたぞ!村人を率いて賊を討ったらしいじゃないか!八面六臂の活躍だったそうだな!鼻が高いぞ!!」
「……正勝様。今までどこにいたのですか?」
「ああ、それはな」
「正勝様、戻って。直家、あんまり無理出来ないから」
後ろから、成近様が戻って来たのか。正勝様を部屋から追い出す。正勝様が後でなといいながら大人しく出て行った。
「ごめん、皆忙しくて無理だって。傷口が塞がっているから大丈夫って言ってた」
「い、いえ。大丈夫です。わざわざ、ありがとうございます。そのお気持ちだけで、はい」
「そう」
「あの、成近様?」
「何故ここへ?」
疑問に思っていた事を口にする。あんまり、親身になってくれる事をした覚えが無いのだ。結構な時間ここにいたのだろう。
「部屋、無いから」
どういう事か話を聞くと、今回の山賊の襲撃に村人が沢山怪我をして安静な場所が必要であるらしい。その場所にあてがわれたのが、俺たちが最初に休んだあの部屋である。そこそこ広く、やろうと思えば10人ほども寝かす事が出来る。なので、そこの二部屋を使うので、正勝様や道成様たちが部屋を変えるように帰ってきた利持様が頼み込んだという。利持様の屋敷の狭い場所を二部屋借り、その一部屋がこの部屋である。流石に狭いのか、怪我人と成近様がこの部屋にいることになった。正勝様と道成様が朝方にどこかに行ったらしい。先程帰って来た見たいだが。ちなみに詳しく話は
「私もよく分からない」
らしい。松五郎は、夜通し家の破壊作業をやり続け、ただでさえ消耗した妖力がさらに削られ、正勝様出て行った部屋で少し休み先程帰ってきた正勝様に追い出されて、また、村で働いている。
「直家、何で開拓者なんて、やろうと思ったの?才能無いと大変だよ?」
「なんで……って、それしか無かったから?いや、それは無いか」
正勝様は、もしもの時の戦力が欲しいために直家を開拓者にするように仕向けた。それしか、道は無いと言うふうに。しかし、それしか無いはずが無いのだ。探そうと思えば、いくらでも探すことは出来るだろう。大工でもいい、料理人でもいい、1から少しづづ勉強して行くことも今の直家なら多分出来る。
正勝様の狙い通り、直家はこの世界の現実を受け入れた。本室的な所を自分の頭で考えるようになった。その代わり、正勝様の言っていた事に、少なからず嘘が入っていた事が分かる。
「才能が無くても、大変でも、これから必要になってくると思って。だから俺は、開拓者を目指しますよ」
嘘も言っていたが、本当の事も言っている。これからは争いの時代が来るかもしれない。そんな時代で生き残れるだけの力が欲しい。使えない人間を守ってくれるような、優しい時代はそろそろ終わりを告げるのだ。自分の身は自分で守れるようにならなければならない。そのためには、妖力と戦う開拓者はリスクも大きいが、今後の時代にあっている。
「ふーん、すぐ死にそう」
さっきから、もしかして喧嘩売ってるのでは無いのか?と思うが、全然その気は無いみたいだ。ある意味、本心からの言葉だろう。なのでよけい心に響く。
「ま、まぁ、頑張って死なないようにします」
「そうだ。妖気の感じ方とか見かたとか教えようか?分かると便利」
「ほ、本当ですか?俺はただの人より妖気を、感じる事が出来ないんですよ!」
「要修行。でも、大丈夫。時間かければ才能無くても大丈夫。多分」
ありがたい。確か妖気を見ることが出来ると何処に誰がいるか、その人がどれだけの妖力量を保有しているか、もっと良くなると攻撃する前の妖力の動きが見えて攻撃の前兆が分かったり、その人の適正まで分かってしまうらしい。それに、自分の妖力の動きもよく分かるので自分の鍛錬の効率化にも使える。これを極めるのには妖力量は関係ないらしく。たまに普通の人で凄い人がいるらしい。
「でも、なんでそこまで?」
「私より、歳が下な人が少ない。いても、子ども過ぎる。年上の人怖い。兄さんは最近構ってくれないし、暇なの。村にいても、やることないし」
「無いの?村の仕事とかは?」
「兄さんたちが全部やる。母上もたまにやる。私、やること何にもない、凄い暇」
理由がかなり酷い気がする。だが、教えてくれるのであればなんでもいい。どうせ、身体が動かないのだ、色々教えて貰おう。
「じゃあ、お願いします。成近様」
「お姉さん」
「へ?」
「堅苦しいの嫌い」
「いや、でも、それは」
「お姉さん」
「………………成近姉様で」
「………ダメ」
「成近姉さんで、ご勘弁を…」
「仕方ない」
結構頑固な人だ。何考えてるかよく分からないし。いや、何も考えて無いのか?お姉さん扱いしてくれる人が欲しかったという、扱く単純な理由だけではないと思うが……。
「早速。どこまで見える?」
「えーと、なんか頑張れば透明なモヤ見たいなものが見えたり見えなかったり」
「酷い、想像以上」
「は、ははは」
口はやはり結構悪い。わざとじゃないよなこれ。泣くぞ?でも、妖気を見ることに関してはこの世界に来て半年にしては結構悪くないと思うけども。
「私の1番古い記憶で、妖気で誰が誰だかわかった」
「流石です。成近姉様」
格が違ったわ。なんだそれ、何もしてないで普通に妖気を見れていたどころか誰だか区別していたのかよ。大人しく、頭を垂れて教えを請おう。いや、なんか元ががちうような…まぁいいや。
「普通。で、母上に後で習ったのが目に妖力を集める事。これやると、少し見えるようになる。だから、まず身体の中にある妖力を動かせないとダメ」
なんか、さっそく詰んだ気がする。妖力を全然動かす事が出来なくて四苦八苦している所だ。たまーに動くよ、体感数センチ。正勝様にも言われたな、循環させてそこから本格的な身体能力強化が出来るらしい。
「で、それでダメなら、強い妖気を浴び続けること。最初に身体が覚えて、その次に目に見えるようになる。だから、ほら」
なんか、目をこらして見てみると、成近様の身体から白いモヤの様なものが見える。それが、一気に増えこちらに迫ってこちらの身体がを覆う。正勝様もこんなに出せなかった。妖力量が凄まじく多いのだろうし、妖力の扱いにも慣れているのだろう。手足の様にとは言わないが、ある程度思い通りに動かせている。凄い技術だ。
「……ッッ!」
白いモヤに包まれて暫くいると、身体が熱くなってくる。白いモヤの様に見えていた、ものが少しづつ色が濃くなり緑色に見えてくる。
「はい、終わり」
「?終わるのですか?なんか見えて来ましたよ?」
「あんまりやりすぎると、直家の身体が持たない。妖気に慣れていないのに長時間やると気持ち悪くなっちゃうよ?」
「いや、気持ち悪くなるだけだったら大丈夫です」
「だめ、今は安静にする」
「じゃあ、これで終わりですか?」
「一朝一夕に何とかなる物じゃない。長い目でやるもの。それにさっきのは、荒療治過ぎる。ちゃんと、妖力を操れるようにならないと」
「そうですか。なるほど……。あれ?なんか眠い様な」
「荒療治だと言った。身体が持たないって。思った以上のに身体に負荷をかける。おやすみ」
ヤバイ、抗えないほどの凄い睡魔。身体を寝かせられ、目を閉じる。一瞬で、眠りに落ちた。
「おう、起きたか。直家」
「?松五郎さん?おはようございます?」
「バカ、もう夜だよ」
「えっ!?そうなんですか!」
ホントだ、外が暗い。部屋の隅に蝋燭が立って僅かな光が出ている。
「シーー!うるせぇ!皆起きたらどうする!」
「松五郎!うるさいわ!起きちまったろうが!」
「正勝様!元は直家が!」
気が付かなかったが、隣で正勝様も寝ていたらしい。正勝様も起きた。成近様は道成様の所に戻ったのだろう。両方同じ暗い凄まじくうるさい。元凶としては、注意しづらいが。
「うるさい、黙れ正勝」
襖が開き、道成様が凄まじい目で正勝様を見ている。それに対し、しどろもどろになりながら弁明する。
「い、いや、俺だけじゃ」
「うるさい」
「はい」
可哀想に、やっぱり正勝様って道成様苦手なんだ。昔、何があったのだろう?
「次はない」
そう言い残し、ピシャリと襖を締める。怖えぇぇ。
「おい!怒られたではないか!」
「もう辞めましょう、また来ますよ?」
「うぬぅ!」
というやり取りを、蚊の鳴くような小さい声で喋り出した。逆に凄いな、その声で強弱を付けるなんて。
「あ、そうだ。正勝様、自分は寝てしまったので事の詳細が分からないのですが、説明してもらえますか?」
「ん?そうか、まだ説明して無かったか」
腕を組み、胡座をかく正勝様が唸る。どこらから話したものか、と言いながら考えている。そんな正勝様を見て松五郎は、自分が話すことは無さそうだとゴロリと横になり目を閉じる。そのまま寝るつもりだ。
「正勝様が、いなくなった当たりからお願いします」
「成近殿には、何も聞いていないのか?」
「その話はしませんでした」
「ふむ、本当に最初から話すか」
話が長いのでまとめて話すと、利持様の息子が山賊の偵察に出ていたが山賊の中に元武士が3人ほどいたらしく殺されたらしい。それを偵察だと、勘づいた山賊共が先手必勝と村に攻め込もうとしたらしい。利持様は帰ってこない息子の様子を見てこようとして、山に上りそこで村へ攻め込もうと準備している山賊達に会ったらしい。
利持様も見つかって2人の元武士に追撃を受けて、逃げ回っていたらしい。残り1人の元武士の指揮の元村に攻め込んだ。ここは知っている。正勝様と道成様は、利持様を探し出し2人の元武士を討ち取った。正勝様達が現れた段階で相手が分が悪いと思ったのか、逃げ出したので時間がかかったらしい。それで、村に戻る事が出来なかったようだ。2人の元武士からすれば、ここでこの2人を釘付けに出来れば村の攻略が楽になるとでも思ったのかとしれない。
「とまぁ、こんな所か」
「……なるほど。利持様の息子さん、亡くなったのですか。よく、あれだけ気丈に振る舞えますね……」
「それが武士よ。自分の事は二の次だからな。年を取ってから出来た、1人息子だと言っていた。態度には出さずともかなり悲しんでいるだろう。俺も息子は1人だ、子を無くす事は自分の半身を失うよりなお辛い」
「村の人はどれだけ、亡くなりましたか?!
「………死人18人だ。半分が後ろから切られているので、逃げている時に斬られてでもしたんだろう。動けないほどの怪我人は36人程、ある程度軽傷なのは50人以上もいるらしい」
「そんなに……」
人口の2割もいなくなってしまえばこれから大変だろう。ただでさえ冬なのに家がなく、家を建てる所から始めないといけないので人手が必要だ。どうしても、手の回らない畑などが増えていくだろう。村の規模は縮小するしかない。暫くは、貧しい生活だ。
「仕方ない事だ。お前らがいなければもっと増えていただろう、胸を張れ」
「…でも、俺は、最初何にも出来なくて……もっと早く動けていたら、もっと減らせていたかも」
「そうかもしれん。だが、たかだか槍を握って半年のお前がそんな無茶をすれば死んでいたかもな。まだ、他人の心配をしている時では無い」
慰めの言葉としては酷いと思うが、笑ってしまった。確かに気が楽になったのだ。正勝様のように強い者の責任を負えなかったと今更ながら、随分偉そうな事で罪悪感を感じていたものだ。正勝様の言うことは何も間違っていない。だが、別の意味ではお前は弱いから助けることができなかったのだとも言っている。
「そう、ですね。まだまだ足りませんね」
「そうだな、まだ足りんな」
正勝様も少し笑いながら、直家の言葉に同調する。その表情の何処かに安堵が見られる。正勝様も心配だったのだろう、死んでいないか、心が折れていないか、ちゃんと倫理観、思考の致命的なズレが矯正されているか。何処か、噛み合わなかった会話がちゃんと噛み合うかどうか。ショック療法で賭けであった。どうなるか見当もつかなかったのだから余計に。
「帰ったら、お願いします」
「ああ、だから今日は寝ろ。明日には帰る予定だからな」
ならば、早く怪我を治さないといけないな。前の世界に比べたらかなり速い治り具合も、流石に昨日の今日では治らない。今は、休養が必要だ。どうせ、戻れば地獄の日々だ。休みを桜花しよう。まさか、帰ったらすぐに鍛錬を始める訳じゃ無いだろうし。
そんな事を考えながら穏やかに寝息立てている直家を見て、正勝様はこれなら帰ってすぐに鍛錬開始しても大丈夫だろうな。という、直家の望まぬ方に考えが固まっていった。
妖力のある程度付いてきた直家は怪我の治りが速いです。というか、体質的に治りが速い人という設定です。丈夫なんです彼は。




