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冬の山賊討伐2

「行くぞ!」


「は、はい!」


何故、この村が襲われているんだ?偵察に行った人たちは?利持様も見ないし。何がどうなっているんだ!?正勝様も道成様も今はいない。利持様を探しに行った。飛び出た時、合わなかったということは直ぐには合流出来ないだろう。


「私もいく」


「お、成近様いたんですかい。助かりますよ」


流石に真面目な顔で、弓を担いでこちらに合流してくる。眠たそうな目はあまり変わらないが。屋敷にいた、女中さんには松五郎が屋敷からでないように伝え、屋敷から急いで出る。


「んだ、こりぁ……」


「も、燃えてる」


「何が起こってるの?」


村が燃えていた。屋敷は村の少し高所に立っているため広く見渡せる。木造が多いためか火が回りも早い。幸い、家が隣合ってはいないため、燃えている家はまばらだが暗くなった外を紅色に染め上げる位の勢いで炎が出て、黒い煙が空高く登っている。そんな中で、村人が慌てて家から出たり、燃えている家に取り残された家族の名前を叫んでいる人、逃げ惑っている人と、沢山いるが皆状況が理解出来ていない。3人も一瞬唖然としたが、松五郎がすぐに立直り、回りを注意深く見渡す。


「……あれはッ!?」


冬の乾燥した燃えやすい時期だ。火事を充分に警戒するだろう。それに、村人が住んでいる家は基本の素材は土壁だ、火には強いはずなのだ。それなのに、これ程燃えているのは…と、家の方を見ると屋根に矢が刺さっていた。屋根は茅葺き屋根なので火が燃え移るとすぐに物凄い勢いで燃え上がるのだ。矢が放たれているという事は完全に村が襲撃を受けている。屋敷があるのは村の中央だ。


ということは、離れた家はもう襲われているに違いない、村の人達が逃げて来ないのはもう殺されたか、山の方へ逃げたか、それとも敵が逃げる人を無視して屋敷を目指したか、分からないがどれをとっても元ただの村人が出来る判断ではない。統率者がいる。恐らく武士の。


「賊の襲撃だ!お前ら!逃げろ!屋敷に、集まれ!一旦纏まるんだ!」


松五郎がそう叫んだとほぼ同時に、こちらに向かってくる武装した集団を見つけた。20人ほどはいるだろうか?逃げ遅れた、村人達を槍で突き刺し、刀で切り倒す。それを見たこの村の人は恐慌状態になり、屋敷のある所まで逃げようとする。


「ひぃ!賊の襲撃だ!屋敷に逃げろ!利持様がいらっしゃるはずだ!逃げろ!」


「やめろ!こっちに来るな!待ってくれ、子供がい、ギャアァ!?」


阿鼻叫喚の嵐、この世の地獄とはこの事を言うのであろう。山賊は何処までも無言だ、機械的に人を殺す。目が澱んで、いるのだ。直家は初めて、この世の地獄を見た。空想の世界では聞いたことも、絵で見たこともある。そんなものではない、そんなものではないのだ、格が違う、本物の虐殺、人間同士の争い、その醜さに、糞尿を垂れ流す死体の悪臭に、人を殺す賊の目に、全てに圧倒された、動けないでいたのだ。成近様も立ち直り、冷静ではないが回りを見渡している。立ち直っていないのは、直家だけだ、現実を受け入れて行動出来ない、思考停止してしまっている。


「クソッ!動きの早い奴らだ、おい!行くぞ!あいつら止める!逃げる時間を稼ぐぞ!直家、直家!おい!しっかりしろ!」


「あ、ああ……」


「チィ!正勝様は何処に行きやがったのか。付いてこい直家!」


松五郎に急かされて直家も走り出す。考えがまとまった訳では無かった、ただ強い口調で言われたから付いてきただけ。逃げる村人とスレ違いながら、成近様が口を開く。


「あいつら、強くない。武器持ってるけど、普通の人と同じ」


「そうか、そりァ好都合だな、俺ひとりでも充分だったな」


そう喋りながら、腰の刀を抜き走る速度を上げる。成近は途中で止まり、矢を番える。直家は、松五郎に置いていかれる。


「直家、邪魔」


「は、はい!」


矢を放とうとした所に直家がいたのか、慌てて頭を下げる。山賊の方は向かって来る松五郎に警戒し武器を構えている。今に接触しそうな時に矢が放たれる。矢に何か妖術でも仕組んであったのか、凄まじい風を纏い目に見えない程の速度で山賊の3人を貫通し、4人めの肩に深々と刺さる。3人は当たった所の肉が抉れ、血を飛び散らせながら倒れ伏せる。4人めも刺さった肩以外も斬られたように血を飛び散らせ倒れた。たったひと矢で4人を殺した。いる速度も恐ろしく早かった。あらためて、直家とは格が違うということを再認識する。


「イヤァアアァァァァ!!!ハァ!!」


「ガァ!?」


流石にあの矢には怯んだのか、さっきまでの無機質な目に感情がもどる。そこへ、松五郎が突撃し一瞬で3人の首をはね飛ばした。そのまま、返す刀でもう2人の胸と首を斬りあげる。あっという間に、5人の命を奪い取る。流石、戦いを生業とする人達は違う、ひとあたりで9人の命を奪った。


「直家!お前も来い。戦うのだ!」


「い、嫌……」


「ちぃ、オラァ!」


直家も参戦させようとしたが、恐怖で体が動かなくなっていた。

戦いに参加しない、直家に舌打ちをしながら、戦いを続ける。また、1振りで3人の首が飛んだ。あまりの強さに山賊は悲鳴を上げながら逃げ出す。その背中に更に矢が放たれ、2人。逃げる賊の背中に斬りつけ、4人。残り二人。完全に恐慌状態になった二人が必死に逃げる、が松五郎の速度には到底敵わない。


今まで逃げていた、村人達も松五郎の戦いで恐慌状態から回復し、屋敷の槍や刀を持ってこちらに駆けつけてくる、その数30人ほど。元々は自分達で村を守ってきたのだ、戦う気概のある人は沢山いる。相手の勢さえ止まってしまえば、後は応戦してくる村人も多い。今も続々と増えている、女性も武器を手に取っている。


松五郎の刀が逃げる二人を捉えようとした瞬間、1人の男が松五郎の刀を受け止めた。


「……だれだ、お前」


「開拓者風情に名乗る名などないわ!」


そのまま、松五郎の体を吹き飛ばす。松五郎は、中に投げ出されながらも体制を崩さず、着地する。相手は、利持様よりも歳がいってそうな感じの見た目で、顔にも深く皺が刻まれ、角刈りの白髪、体は大きく松五郎よりも少し大きい。あれほど、歳を取って見えるのは妖力が少ないからだろう。持っている武器は、刃に沢山の血を付けた刀。松五郎と同じだ。あと、肩に弓も背負っている、火矢を放ったのはこの男であろう。


「早く、逃げろ。次は助けられないぞ」


「あ、ありがとうございます」


そう言って、生き残った賊を庇い逃がす。この男が、この集団の頭目であろう。油断なくこちらを見据えている。


「逃さない」


「ふん!」


その瞬間、成近様から矢が放たれたが刀で弾き飛ばした。あの威力の矢を弾き飛ばすのは相手も多分武士クラスの人だろう。


「俺が、なんで開拓者だと思うんだ?」


「ふん、そんなもの決まっておろう!それは、武士の剣ではない。妖怪や知性のない獣を狩る剣だ」


「ふーん、そうかい。お前さんは、武士の剣が分かると」


「さぁな!ふん!」


一気に松五郎と距離を詰めて、刀でを振るう。松五郎は難なく刀を合わせてはいるが、守勢だ。多分相手は妖力は、少ないがそれでも強い。どういう相手か見極めている。


松五郎が賊の頭目と思われる人と、戦っている時直家は特に何をやる訳でなく、動こうとはしない。成近様も入れ替わり激しい戦闘で矢をいることが出来ないでいる。


そのまま眺めていていた時、左右から悲鳴と怒号が聞こえた。新手かもしれない。松五郎は手を離せないし、今動けるのは、直家と成近様、あと武器を取っている村人達。


「直家!お前は右に行け!敵を止めてこい!成近様は左を!」


「無駄口を叩いている暇があるのかぁ!」


少し、松五郎が押され始めた。体制を崩して、そのまま連撃に相手が入る。命懸けで、方針を伝えた松五郎の為に、素早く決断する、成近様。村人(40人に増えた)を半分連れて左の方に進んでいく。直家も、少し遅れてそれを見て右の声のする方に向かうが完全な思考停止だ。何も考えれていない。ただ、松五郎に言われたから、向かう。それだけだ。そんな、直家を見た村人は心配そうな顔をするが元は自分達だけで村のを守るのだ、直家に頼る気はない。














多分これはトドメだったのだろう。正面から村を焼き正面から攻め込み恐慌状態から回復した、村人達を両側面から突き完全に崩す。実に効果的な作戦だ。


しかしこれは、この世界の武士の戦い方ではない。文字通り一騎当千の武者達はそのような戦い方を好まない。正面から叩き潰すのを好むのだ。一騎打ちなんて言うのもあり、事実それが美徳とされている節がある。それはこの世界のこの国が平和だった期間が長かったからであろう。しかし、この山賊達は元は中央の京楽近くの村にいた普通の人達だった。それがここ最近の中央の戦乱に巻き込まれて、自分たちの村を焼かれ、米を奪われる、むらを追われた。


そんな土地では、もはや誰も正々堂々などとは言わなくなった。元々、陰湿で陰険な都の性格もあってかどの土地も虐殺と陰謀の香りのする、地獄に変わっていた。


昔の被害者が、今の加害者。因果は巡る。やられた事をやり返さないと気が済まないのだ。奪われたのだから、こちらも奪わないと行けないのだ。でないと、生きては行けない。


そんな土地から来たのだ。それほどの体験をしてきたのだ。ここらで、のほほんとしていた、村人とは違うのだ。もちろん、直家とも。覚悟が違う、命懸けでこの村を取りに来ている。それに、真正面から対抗出来る、直家では無かった。今のままでは。


同じく、20名程が武装して丸腰の村人を殺して回る。そして、屋敷に近づいて行く。それを見た、武装した村人が怒号を上げながら山賊に突撃する。同じ村の同胞を殺す、悪辣な山賊共を殺しに。皆、殺意に満ちている。


「ひ、嫌だ……。嫌だ!」


また取り残される、直家。足が動かないのだ。顔も恐怖に引きつっている。何が、人を殺すのが怖いだ。殺されるだろ、あんな所に行ったら。死にたくない、死にたくない……。


たちまち乱戦になる。勢いのあった村人が一瞬優勢だったがすぐに逆転した、村人より戦い慣れているのだ。瞬く間に、劣勢になってゆく。直家の目の前の武器を持ったおばさんが斬られて倒れた。血が直家にかかる。敵の1人が直家に近づいてい来る。


「く、来るなぁ!」


「ぐふっ。畜生!こんな所で終われるかぁ!!!死ねるかぁ!食らえ!てめぇが死ねぇ!」


胸に深々の槍が刺さり、口から血が出ているがそれでもなお、刀を振り下ろそうとする。焦って、更に槍を深く差し込み、小鬼にトドメを刺すように慣れた手つきで息の根を止める。


「アァ、死ねねぇ、松……すまねぇ」


「あ、ああ、ああああ!」


遂にやってしまった。人を殺してしまった。実に慣れたように、妖怪の小鬼のようにトドメをさしてしまった。違うのは溢れ出る血の量と、人間の執念じみたある人への言葉だ。だが、それだけだ、妖怪と人間の違いは、それだけだった。


簡単だった。なんでも良いのだ、正当防衛でも。相手が殺そうとしたから殺した、仕方が無かったでも、なんでも。心の整理はそれで付くのだ。つかなければ、死ぬだけだ、今は。


そうか、言い訳なんてこれだけあったのか。倫理観に縛られて、身動きを取れないでいたんだな。生き残る為に、やる行動全てに後付でいくらでも、理由など、言い訳など、付くのだ。なら、今やることはなんだ?


「ああ、なんだ簡単だった」


目の前の人を皆殺しにすればいいのだ。



直家の大事だと思っていたものが崩れていく音がする。現実を受け入れるのに邪魔だった物が、呆気なく。頭にこびり付いていた泥の様な物が取れた気分だ、重い何かを脱いだ気分だ。頭がクリアになり、体の震えが止まる。


後生大事に持っていたのは、元の世界の未練だ。戻れるかも知れない。価値観を失ってはならない。倫理観を乱してはならない。そんな思いを無意識に持っていた。人の死を恐れる自分は元の世界に戻るに当たって必要なものだった。


しかしそれは、もう無い。


吹っ切れ直家君です。ただ、別に強くなった訳では無いのです。

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