冬の山賊討伐1
翌日、正勝様、直家、松五郎さんが救援要請のあった村まで行く為に、村の玄関口当たりに集まっていた。ちなみに、道勝様は村に残って山積した仕事を片付けるため、行けないらしい。
「では、出立する」
正勝様がそう宣言し、正勝様を先頭に歩き進める。村に行くまでの道中で道成様達と合流して、一緒に向かうらしい。
「………………」
直家は無言で歩いている。人を殺すかもしれない事に対し、心の整理などそう簡単に付くわけない。もし、正勝様と鍛錬をしていない直家出会ったら、こんな事は考えていないだろう。自分が生き残る事に精一杯で相手を殺す事に恐怖を抱きはしないだろう。
ある意味、自分が死ぬ事を考えずに相手の心配だけ出来るほど強くなり贅沢な考えに浸れている。正勝様も、今のタイミングが直家変えるだけのショックを生み出す事が出来ると狙って、今回同行を命じたのだが。
そんな事を考えながら歩いていると、湯地城下町という所に向かう10人位の商人の集団と会った。正勝様が呼び止めて、何か話を聞いている。どんな事を話しているかよく分からないけど、
「時折聞こえて来る、湯地城って何処なんですか?」
「あぁ、この山城国は中央の立見城の他に要所に4つの城が構えてあるんだよ。そのうちのひとつが湯地城。規模は立見城にはかなわないが、ただの村よりは遥かにでかいぞ。もし、ここらで戦争が起きたら俺らは湯地城に逃げ込むって訳だ。ちなみに正勝様が仕えている中島様が湯地城の城代だ」
城代と言うのは、城主とは違って全てを任されている訳ではなく、あくまでも代理の立場である。なので、一応のリーダーではあるが他の地頭とあまり違わない。ちなみに、城代の仕事が忙しくて、山賊討伐に加われないでいた。自分の領地の事もやり、更に城の責任者となれば、一つの村を管理するだけでも道勝様が死にそうになっているのを見れば多忙なのはわかる。
話が終わったのか、正勝様と商人達が別れる。どうやら、湯地城の事と中島家の事を聞いていたらしい。
「では、私達はこれで失礼します」
商人達とすれ違う時、最初は気が付かなかったが皆何かしら武器を持っていた。全国を歩き回る商人は自分である程度戦えないと駄目なんだなと、元の世界との価値観が違う事に戸惑う。
考えれば分かることなのだ。しかし、何処かで考える事を放棄している直家がいる。価値観が合わなすぎる。そんな少し戸惑う直家を正勝様は横目でみる。少し、正勝様の歩く速度が早くなった。
計画通り道中、道成様達が見えて合流した。前と変わらず美人である道成様(年齢は正勝様と同じ位と聞くが)ともう1人、これも女性で道成様と良く似ている。娘さんかもしれない。眠たげな目に、無愛想な顔、正勝様とあった時もペコリと頭を下げるだけで口は開かない無口な人で弓を担いでいる。年齢は直家と同じ位に見えるが、女性は本当に分からないので多分年上だろう。今回は道成様とその女性の2人だ。年齢が分からないからな女性という表現にしているが、どちらも少女で通じる見た目だ。
正勝様も初めて会うのか、苦笑いをしていた。そんな様子を、道成様は少し苦い顔をして見て、頭を少し叩いた。叩かれた、女は不承不承ながら前に出て己紹介をした。
「土井 成近です」
そう言って、すぐに道成様の後ろに隠れて行った。それを見て道成様は今度は額を抑えている。
「おう、初めて会うの。俺は、出石正勝だ。よろしくな。道成殿いい娘ではないか。初めてお前とあった時よりはだいぶマシな挨拶だったぞ、あの時は」
「それ以上喋ると、ここで血を見る」
おお!こえぇ!マジトーンだった。正勝様すげえな。怖くないのかな。と思ってみたら、正勝様も冷や汗流していた、ただ口が滑っただけみたいだった。ちなみに、成近様は3人目のお子さんらしい。上に2人、兄がいるのだが、それに可愛がれて甘やかされているらしい。見れば分かるが、結構人見知りだ。
そんな中、ふと直家の方に目を向ける。ジーッとこちらの方に目を向けてきて、道成様の後ろから離れてこちらに歩いてくる。
「なんで、ここにいるの?」
何を言っているのだろうか?こちらを見て、直家に喋った事は分かるが、何故ここにいるのかと聞かれた事に関しては全く分からない。もしかして、道成様と同じように妖気を感じる事が得意で、1人だけ以上に弱い奴がいるなと言うことで疑問に思ったのか?
「正勝様に、良い経験になると言われ、同行を命じられたからです」
「ふーん、よく分からない人」
多分、これで回答はあっているはずだ。よく分からない人って言うのはどういう意味か分からないが。
「あぁそれはな、何処ぞの商家の男であろうとは思うのだが記憶を無くしてしまってな。記憶が戻らないのであればしょうがないと開拓者にしようとしてな」
「才能無いよ?」
遠慮というものを、知らないらしい。ズケズケと言ってくる女だ。人が気にしているところをよくもと思わないでもないが、苦笑いで留めておく。よく分からない人って言うのは、話からして素性の事だろう。農作業している痕跡がない、商人でも無さそう、元開拓者にしては弱すぎるし、今回同行する理由が分からない。そう考えてみると結構、観察力のある人間だな。というか、結構妖気を見る力って便利だな、才能のあるなしまで分かるのかよ。
「……そうでもないさ」
「そうなんだ」
しかし、正勝様はそれを肯定しなかった。直家本人が認めている才能の無さを、正勝様は否定した。それを聞いて、成近様が興味深そうにこちらを見てくる。ジーッと見てくるのであんまりいい気持ちはしないが。
「近、もう行く。早く」
「わかった」
トコトコと道成様の後ろの定位置にもどる。道成様が少し申し訳なさそうに、こちらを見る。親子というか、マイペースな妹を持った姉みたいな絵だが。苦労してそうだが、微笑ましい。
「正勝殿も、行こう」
「おお、そうだな。行くか」
時折こちらを見てくる視線に、居心地の悪さを感じながら道を進んで行く。ちなみに、会話に参加してこなかった松五郎は才能無い当たりのくだりから忍び笑いをしていた。いつか覚えておけよと、復讐を誓う直家だった。
救援要請のあった村が見えてきた。規模は正勝様の村より少し大きい村だ。その村の玄関口に、迎えの人がいてこちらを見ている。
「出石村から参った!出石 正勝だ!救援要請を受け駆けつけた!」
「土井村からきた。土井 道成。同じく」
「おお!来てくれたか。歓迎するぞ、正勝殿、道成殿。本当にすまんが偵察に行った者達が帰って来ないのですぐ出発は出来ない。少し、村で休んでくれ」
「問題ない」
「帰ってきて無い…。ここから遠いのか?賊が住み着いた場所と言うのは?」
「いや、それほど遠いという訳ではないはずだが…。もうじき帰ってくるとは思う」
そうか、とさして気にして無い正勝様はそこで話を切り上げた。出迎えに来てくれた人がこの上田村の主、上田 利持様である。正勝様のように中年男性ではなく、結構歳がいっているような見た目で、実際の所も正勝様より年上らしい。髪がほとんど白髪で顔も結構皺が寄っている。体は正勝様よりは少し小さいが、まだまだ丈夫な感じだ。歳を取っているように見える分、威厳がある感じがする。腰に刀を2本指している。なんでも、武士にしてはあんまり妖力が多い方ではないらしいので、老化も早い。
「ここで立ち話をするのもなんだ、村で休むといい」
「……情けない……」
直家より遥かに妖力が多くて体力も沢山あるはずの、成近が疲れて眠たそうにしている。利持様もそれを見て、話を切り上げた。道成様はここでも、額を抑えている。なんか、大変だな。
「母上、休憩大事」
眠たそうな目で道成を見て、微かに勝ち誇ったような顔をする。反抗期かな?なんか、本当に年齢変わらないじゃないかな、なんて思い始めた直家であった。
「……………」
本気で頭痛をしだしたのか、フラフラと頭を抑える。そのまま、成近様の方に歩き出し、肩を掴む。
「調子に乗るな。帰ったらお仕置きするから」
「ヒッ!」
凄まじい迫力だった。その迫力に負けたのか成近様が悲鳴をあげ、ガタガタと震え出す。完全に親子喧嘩というか、姉妹喧嘩に見えるが、流石武士、凄まじい迫力である。怒られている訳では無いのに直家も怖い。正勝様も少し冷や汗を書いている。ていうか、正勝様って道成様苦手なのかな?
「ほっほ、中の良い親子だ。羨ましいものだ」
そう言いながら、利持様は村の中央にあるお屋敷に向かう。正勝様の村のお屋敷と同じ位の感じだ。そのうちの畳敷きの部屋を2つ借りる。正勝様と直家、松五郎、で一部屋と道成様、成近様で分けた。偵察に行った人達はすぐに帰ってくるらしいので、そうくつろげないだろうが直家からすれば大事な休息の時だ。全力で休ませて貰おう。
「おかしい……。いくら何でも、遅すぎるぞ」
この部屋に案内されて、もう一刻になる。たいした距離でないのであればこれ程遅いのは以上だ。この村についた時は日が少し西に傾いていた時間だったので、日が落ちるのが早い冬だ、もう少し当たりが暗くなり始めている。
「道成殿と一緒に、少し利持殿に状況を聞いてくる。お主らは待っていろ」
念のために、すぐに動けるように準備をしておけよ。と言い、部屋から出ていく。それを聞いて、少し不気味なものを感じながら、槍の手入れをする。松五郎も武器の手入れ、鎧の留め具などを確認する。
「なんかあったんでしょうか?」
「分からん。しかし、何かあったと思っておいた方が良さそうだ」
そんな時屋敷の外、村から悲鳴が聞こえた。窓から慌てて外を見ると、火の手が上がって村人が逃げ惑っている。賊の襲撃だ。
ちなみに、この世界の人って普通の武器使っちゃうとすぐに壊れちゃうので、武器に妖力を纏わせて使っているという設定です。本当は刀なんて、3人も斬れば使えなくなりますけど、それじゃつまんないですから。そゆことで、よろしくお願いします。




