いきなり放課後っ!?
僕と秋瀬が姉弟になって初めての登校は意外にも普段通りすんなりとしたものだった。登校していきなり秋瀬としょうもない喧嘩をしたものこそ、それ以降は特に話したりはせず休み時間などはお互い友達と教室内で軽く雑談したりしていた。
いつもと変わったことと言えば今日の母が作ったであろう弁当が劇的に不味かったことぐらいだろうか。あまりにも不味かったので一緒に昼食をとっていた蓮にも食べさせてみたところ、いつもお前の母ちゃんの飯ビミョーだけど今日は格別じゃーーーっ!と言って次の授業、彼は保健室に言っていた。
そして現在、放課後に至る。
帰りのHRがついさっき終わって、ぱらぱらと教室から出ていく生徒達と教室で着替えている野球部やサッカー部の面々。これも普段どお~りの光景。で、いつもならこの頃のタイミングで
「おーい、春市ー。お前部活まだ入ってないんならサッカー部に入れよー」
と、こんな具合にサッカー部の連中が僕を勧誘してきたりする。それを僕は
「めんどーい」
と、これもいつも通りの台詞を吐き捨てた後、僕も教室を後にする。
うん。いつも通りで何より!今日1日快調に乗り切った!なんて心の中で達成感に浸っていた僕。
・・・だったんだが、教室のドアを開いた直後に僕は誰かに後ろから肩をつかまれた。
あまりにも突然でしかも完全に気が緩んでいたもんだから僕は肩をビクッとすぼませてしまった。
だが僕は一瞬でこの状況を理解し、はぁ~とため息をついた。
本来なら僕に直接接触してくるのは村井 蓮くらいなのだがこの状況だとそれは違う。となると・・・
今日はサッカー部の勧誘がしつこいなー。
そう。この状況だと結論、こうなるだろう。
今、サッカー部は急激な部員減少によって10人しか部員がいない。近々行われる大会にも出場がままならないらしい。だから意地でも11人目の部員が欲しいのだ。しかしまぁ、そんなことなど僕には関係ないがね。僕の家庭は君達サッカー部よりも危機的状況にあるのだよ。こうして心の中で自己解決した僕は肩にある手を軽く払いのけ振り向きざまにサッカー部であろう後ろのやつに
「いい加減しつこいぞ!・・って・・・」
と、言ってやったぜ!なんて言いたかったが、後ろに居たのはサッカー部のやつでもましてや野球部のやつでもなかった。
「え?誰です?」
そこに居たのは1人の小さな女子生徒だった。
意外だった。というよりもなんか物凄く恥ずかしかった。
心の中で肩をつかんできのがサッカー部だと決め付けサッカー部の現状まで解説したのに全然見当違いで恥ずかしかった。
そんなことを思っている僕の内心をまるで分かっているかのようにサッカー部の連中が僕にその女子生徒の後方から野次を飛ばしてきている。
俺らと間違ってんじゃねーよ!女の子になに怒鳴ってんだよー!ヒューヒューこれってもしや告白!?etc・・・
まだ野次が飛び交う中、なぜか彼女は不満そうに自らを名乗った。
「あなたと同じクラスの日野 楓です。昨年はクラス違いましたけど席はあなたの後ろです。春市君、クラスの人の顔くらい覚えた方いいですよ?」
なるほど。だから君はそんなに不満そうにしているんだね。
「えっと・・日野さん?それで俺になんか用でもあるんすかね?」
当然の疑問だ。どうしてこの日野さんって人は僕をいきなり呼び止めたんだ?何1つ身に覚えのない僕だったがどうやらこの疑問が彼女の不満をまた増幅させたらしくさっきよりも冷めた口調で
「え?わからないんですか?」
この人なんか恐いんですけど~。わからないから聞いてんじゃん!わからないんですか?って言われてもわかりませんけど!?
「ごめんなさい。身に覚えがないです」
「・・・はぁ。じゃあ率直に伺いますけど春市君、あなた秋瀬さんと付き合ってるんですか?」
デジャブ?
あれ?朝にもこんなこと誰かさんに言われなかったっけ?
焦る僕。困惑する僕。2度目のこの質問を朝と同じように即答で返せずにいると彼女は何かを諦めたようにそれでいて将棋で詰みに入ったような表情でこちらに向かってゆっくりと言葉を発した。
「なにも否定してこないってことは・・やっぱり・・・そういうことなんですね・・・」
さっきまで彼女の後方から野次を飛ばしまくっていたサッカー部の連中が、そして僕と彼女のやり取りを黙々と着替えながら聞いていた野球部の面々がこの瞬間、何かを失った顔になり口々にまじかよ・・・、そんな・・・、嘘でしょ・・・、理解に苦しむ・・・、などと口にしている。
僕は少し考えてそれから無表情で彼女に言葉を返してやった。
「ありえない」
この言葉を言い終えた後、彼女の後ろの野次馬達がまるで希望を取り戻したかのような顔になったのは言うまでもない。
問題の彼女もどれだけ自分が馬鹿げた質問を僕にしたのか気付いたのかさっきの恐い様子とうって変わって急に笑顔を取り戻し明るい口調で長々語った。
「ですよね!!そうですよね!ありえませんよねー。いくらなんでもこんなに地味な春市君とあの秋瀬さんじゃ釣り合うわけありませんよね!!ごめんなさい変なこと聞いちゃって。なんか今朝、春市君と秋瀬さんが仲良さそうに話してたのを見たのでもしやと思っちゃって。私なんか恥ずかしくなってきちゃいました。春市君、私と話したこと忘れてください」
そして彼女はスキップをしながら教室を後にした。
”今日の出来事”
2年D組 春市 遊助
今日は意外にも普段通りの学校生活を送ることができました。(放課後は除く)
しかし僕は、
今日1日の学校生活を乗り切った変わりに心に大きな傷を負ってしまいました。
家に帰ってから今の心境をノートの隅に綴る僕である。
我ながらいろんな意味で痛いぜっ。