第6話 王都帰還! 冒険者ギルドは今日も大騒ぎ(もう情報量多すぎてグダグダ)
盗賊たちを街の冒険者ギルドへ引き渡したフロウベルたちは、王都へ戻ることにした。
今回の依頼は、街道付近に出没する魔物の調査と討伐。途中でフェンリルの親子に出会ったり、盗賊たちに襲われたりと、いろいろあったが、依頼そのものは無事に終わった。
あとは王都に帰るだけ。
そう、帰るだけなのだ。
「何事もなく帰れそうですね!」
フロウベルは晴れやかな気持ちで空を見上げた。
「……その台詞、前にも聞いた気がするんだけど」
リンナが横からじっとフロウベルを見る。
「気のせいですよ!」
「そうかしら?」
「そうです!」
「……ミルファはどう思う?」
「そうですね。これまでの経緯を考えると、少し不安ではあります」
「ミルファまで!」
日頃の行いがものを言う瞬間瞬間でもあった。
フロウベルはただ、平和に王都へ帰りたいだけなのに。
「まあまあ。今回は本当に帰るだけですから。ね、みんな?」
フロウベルが後ろを振り返ると、そこにはスライムたちの大群がいた。
相変わらず、きれいに整列しているわけではない。先頭を歩く子もいれば、道端の草をつついている子もいる。何匹かは仲良く跳ねながら進んでいた。
「……ねえ、フロウベル」
「はい?」
ミルファがスライムたちを見ながら疑問を投げかける。
「スライムたち、あれでちゃんとついてきているの?」
「大丈夫ですよ。みんな、私の召喚獣ですから!」
「だからなのね、ずいぶん自由に振る舞っているのは……飼い主に似るのね」
「なにか悪意を感じますが……自由であることは、悪いことではありません!」
「いえ、問題があると思いますけど……」
ミルファはもう一度、後ろを振り返り、スライムたちを眺めていた。
「それにしても、これだけの数が個別に動いているのに、誰かが迷子になることもないのですね」
「そうなんです。みんな、とても賢いんですよ!」
「指示を出さなくても、ある程度は自分たちで判断しているように見えます。これは興味深いですね」
「でしょう?」
ミルファが感心してくれたので、フロウベルは嬉しくなった。
「ただし、全員が同じ方向を向いているとは限らないけどね」
リンナの一言で、フロウベルは後ろを振り返った。
……一匹、道端の石に乗って遊んでいる子がいた。
「こら! 遊んでいないで、ちゃんとついてきなさい!」
ぴょんっ。
その子は慌てて列に戻った。
「ほら、ちゃんと聞いてくれます!」
「怒られた子供みたいね……本当に自由ね」
ミルファは苦笑していた。
こうして三人は、何度かスライムたちを呼び戻しながら、王都への道を進んでいった。
「そういえば、今度は呼び出しないですよね……?」
フロウベルが不安の声を上げる。
「ああ、そうだな。……一番はフェンリルの件だから、あるかもね」
リンナが嫌そうに答える。それを聞いて、フロウベルも眉間にしわを寄せ、渋い顔をしている。
「なんですか、呼び出しって?」
「「王宮……」」
口を揃えて、元気無く答えるフロウベルとリンナ。
「王宮……ですか? 何故に?」
そのミルファの疑問にリンナが答える
「主に、フロウベルのせいだが、召喚獣や大物の魔物関係の事となると、王様から呼び出しがあるんだよ」
「完全に目を付けられました……」
フロウベルも俯いて呟く。
「でも、今回はミルファがいるから、呼ばれたらミルファに説明させよう!」
リンナがミルファを押し付ける。ミルファが叫ぶ。
「え、ええ!? い、嫌ですよ! 私は臨時のパーティーメンバーですよ!」
「毒を食らわば皿まで、というではないか? クフフ」
「おぬしも悪よのぉ。ふふふ」
悪乗りするリンナとフロウベル。
「ぜ、絶対嫌ですよ!!」
帰りの道中に、ミルファの叫び声が響くのであった。
◇
王都の門をくぐった頃には、すっかり日も傾き始めていた。
「ようやく帰ってきたわね」
「はい! やっぱり王都は落ち着きますね!」
「……私、嫌です、私は嫌です」
一人だけ何かをぶつぶつ言っているが、三人は無事帰ってきた。
そのまま冒険者ギルドへ向かう。
今回の依頼について報告しなければならないし、盗賊たちの件も伝えておく必要がある。
盗賊たちはすでに衛兵に引き渡してある。そのときも一悶着あったのだが……
◇
「なんで、全員裸なんだ?」
衛兵に聞かれたフロウベル。
「抵抗され逃げられるのが嫌だったので、スライムさんたちに溶かしてもらいました!」
当然みたいな顔で答えるフロウベル。後ろでリンナとミルファが苦笑している。
「なにか、問題ありましたか?」
「……いや、特に何にも。じゃあ、手続きしとくから、終わったらギルドに知らせる」
「お願いします!」
衛兵たちは複雑な顔をしていた。彼女たちは絶対に怒らせてはいけない、そう心に誓って。
◇
と、まぁ、こんなことがあったが、無事に冒険者ギルドに到着した三人。
それに、久しぶりにイリアにも会いたい。
ギルドの扉を開けると、受付にいたイリアがこちらに気づいた。
「あら、フロウベルさん。お帰りなさい!」
「ただいま戻りました!」
「リンナさんも、ミルファさんも。皆さん、ご無事で何よりです」
「ただいま……ほんと、よく無事に終わってくれたわよ」
「それはよかったです。ところで……」
イリアの視線が、三人の後ろへと移る。
そこには、いつものようにスライムたちがいた。
「みんなも、お帰りなさい!」
イリアが笑顔で手を振る。
すると、スライムたちが一斉に反応した。
ぴょんっ、ぴょんっ、ぴょんっ!
受付へ向かって、次々と集まっていく。
「……あの」
「ふふっ。みんな、今日も元気ね」
イリアは集まったスライムたちを優しく撫でている。
「ふふふ、スライムのみなさぁ~ん。そぉ~んなに、イリアさんがいいんですかぁ?」
沸点の低いフロウベル。既に激おこモードである。
「そりゃあ、良いですよねぇ~。イリアさんには、あなたたち同じスライムが2個もついてますからぁ」
それを聞いたイリアが、胸を隠し叫ぶ。
「違います!これはスライムじゃありません!!」
「どうでもいいことですぅ。ない胸の私には関係ありませんからぁ。で、スライムさんたちに一つ聞きますけどぉ。私よりイリアさんの方がいいというなら、強制解除を試してみますよぉ。全員まとめて、解除されるまでぇ」
スライムたちが、ふるふると、激しく震える。恐ろしいのだフロウベルが。ぞろぞろとフロウベルの元に集まっていく。
「わかればいいのよ。わかれば……次はないわよ。」
冷たい微笑でスライムたちを見るフロウベル。
その光景をリンナもミルファも黙って見てるしかなかった。
「あのぁ……」
イリアが済まなさそうにフロウベルに声をかける。若干震えてる。
「はい、なんでしょう?」
冷たい微笑みを浮かべて、答えるフロウベル。
「今までお借りしていたスライムさんを今後も借りたいのですが……」
「いいですよ」
即答のフロウベル。イリアは呆気にとられる。
「いいんかい!?」
思わずリンナがツッコんだ。
「ええ、貸してと言われたので、良いですよと。悪いのは勝手気ままに振る舞っているスライムたちですし」
「え、そうなの? それでいいの?」
「ええ、別に。何か問題でも」
フロウベルに問題なければ、問題はない。
「じゃあ、イリア専用スライムを認めるんだ」
「そんな専用枠、認めたくないですけどね……スライムたち、赤くならないでくださいよ。」
……何匹かは、フロウベルに脅されてもイリアのそばを離れなかったスライムに、
「……裏切り者」
小さくつぶやくと、スライムがぷるんと震えた。
反省しているのだろうか。
いや、たぶん違う。
◇
「おや、帰っていたのか」
奥からギルドマスターが姿を現した。
「ギルドマスター、ただいま戻りました!」
「無事だったようだな。依頼の報告を聞かせてもらおう」
「はい」
ギルドマスターに連れられて執務室に移動しようとする三人。
「そういえば、今回は二人だけじゃなく、ミルファを連れて行っただってな?」
「今回はお願いして、ついてきてもらいました!」
フロウベルはミルファを紹介した。
「そうか。ミルファも参加していたのか。以前、ダンジョンで救出された者たちの一人だったな」
「はい。今回は一時的に同行させていただきました」
「なるほど。今後も一緒に活動する予定なのか?」
「まだ決まっていませんが、しばらくは一緒に行動するつもりです」
「そうか。パーティの戦力が増えるのはいいことだ」
ギルドマスターはミルファにうなずいた。
そのとき、受付の方から声がした。
「あら? フロウベルたちが戻ってきたの?」
振り返ると、そこにはルーラン、カオリ、シェリルの三人がいた。
「ルーラン! カオリ! シェリル!」
フロウベルは手を振った。
「お帰りなさい。ミルファも一緒だったのね」
ルーランが笑顔でこちらへやってくる。
「お久しぶりです」
ミルファも笑顔で応じた。
「無事に戻ってきたようで何よりだ」
カオリが落ち着いた様子でうなずく。
「皆さん、お疲れさまでした」
シェリルも優しく微笑んでくれた。
「三人とも、元気そうでよかったです!」
「それはこちらの台詞よ。あなたたちの噂は、ギルドにもいろいろ届いているんだから」
「噂?」
フロウベルは首をかしげた。
「ええ。街道の魔物の調査に出たと思ったら、フェンリルに遭遇したとか」
「ええ? なんでその情報が出回ってるの? あの時三人しかしなかったのに?」
リンナが不思議そうな顔をする。その時フロウベルが気が付いた。
その言葉を聞いた途端、イリアがそーっと離れようとしていることを。
「……イリアさん。何か隠してますね、胸以外に!」
「な、何を言っているのかしら?」
「怪しい……?」
その時、イリアの傍でぷるぷる震えているスライムに目が行く。そこでフロウベルは確信した。
「なぞは解けた、真実はひとつ!カーちゃんの名に懸けて!」
なにやら、色々混じってのメタ発言だが、
「イリアさん、私のスライムと何故かはわからないけど意思疎通できてますね?」
「な、何のこと?」
その言葉を無視して続けて
「で、うちのスライム同士で情報伝達できますから、その情報を広めたんですね?」
「そ、そんな事してません! ギルドマスターに伝えただけです!」
イリアが反論する、が、これは口にしてはいけない言葉だった。
「へぇ~。やっぱり意思疎通はできるですね?」
フロウベルはニタリと悪い笑顔を、イリアに向ける。
「ひっ!?」
イリアが言葉にならない悲鳴をあげる。
フロウベルがギルドマスターを睨む。
「さて、イリアさんが得た情報はギルドマスターにしか伝えてないそうですがぁ? なぜ広まってるんでしょうか?」
ギルドマスターがごくりと唾を飲み込み
「つい、酔っぱらった時に冒険者どもにはなしちっま……」
「はい、ギルティ!! スライムたち、ギルドマスターを訓練所まで連れてってボコりなさい」
スライムたちが一斉に集まって、ギルドマスターを連れていく。
「こ、こらぁ!離せ!まだ報告があるだろう!」
「もう、イリアさんから全部聞いてるんですよね? 報告はいらないですよね。ご武運を」
にっこりと氷の微笑で見送るフロウベル。そこで、一緒に訓練所に行こうとしているイリア専用スライムを呼び止める。
「そこの裏切り者10匹、あんたたちは、ここに残りなさい」
ビクッとして止まるスライム。冷や汗を流しているようにみえる。
情報流したことへの説教が始まった。
◇
「それで、どうなったの?」
「ええとですね……」
フロウベルは今回の出来事をルーラン、カオリ、シェリルに説明し始めた。イリアも混じっている。
フェンリルの親子に出会ったこと。子供が迷子になっていたこと。親が探し回っていたせいで、周囲の魔物の行動にも影響が出ていたこと。
そして、親子と別れた後に盗賊たちに襲われたこと。
「……魔物の子供を捕まえて売ろうとしていたの?」
シェリルの表情が曇った。
「はい。逃げ出せたみたいですけど」
「ひどい話だな」
カオリが静かに言う。
「まったくね。魔物だろうと何だろうと、子供を商品扱いするなんて許せないわ」
ルーランも珍しく真剣な顔をしていた。
「無事に親と再会できてよかったけどね」
ミルファがそう言うと、シェリルもほっとしたようにうなずいた。
「ところで!」
フロウベルは両手を叩いた。
「今日はみんなでお話ししましょう!」
「え?」
「せっかく全員そろったんですから!」
ルーランがにやりと笑った。
「いいわね。じゃあ、まずはフロウベルの冒険話をもっと聞かせてもらおうかしら」
「もちろんです!」
「それと、ミルファがこの二人と一緒に行動することになった理由も聞きたいわね」
「ええと……」
ミルファが少し困ったようにリンナを見る。
「話すと長くなるわよ」
「構わないわ。時間はあるもの」
ルーランは楽しそうだった。
……これは、長くなりそうだ。
◇ ◇ ◇
それからしばらく、ギルドの一角は彼女たちの雑談会場になっていた。
「それで、今回の戦闘ではミルファの魔法が大活躍だったんですよ!」
フロウベルはミルファを紹介するように話した。
「リンナが前衛で敵を引きつけて、ミルファが風魔法で体勢を崩したり、土魔法で進路を塞いだりしてくれたんです!」
「なるほど。剣士と魔術師の連携か」
カオリが興味深そうに聞いている。
「あれ? カオリさんとの連携はどうだったんですか?」
フロウベルが疑問に思う。今まで、一緒に冒険していたんだ、それなりの連携は取れていただろう。
「ああ、私の剣術だと、やりにくさが出てな。東方の剣術だから合わせづらいんだ」
「へぇ、そうなんですね。勉強になります」
フロウベルが素直に感心する。
「はい。リンナの動きを見ながら魔法を使うのは、なかなか楽しかったです」
「へえ。ミルファもそういうことを考えるようになったんだ」
ルーランがからかうように言った。
「どういう意味ですか?」
「だって、前は魔法の研究ばかりしていたじゃない」
「それは否定しませんが……実際に仲間と連携して戦うのも、いい経験になります」
「そうね。私も、ミルファの魔法があると助かるわ」
リンナが素直に認めた。
「ありがとうございます。リンナの剣技も、とても勉強になります」
「ふふっ。いい感じじゃない」
ルーランが二人を見比べる。
「これは、いいパーティになりそうね」
「え、別にミルファを引き抜く気はありませんよ?」
フロウベルが答える。
「それに、一時的な参加ですから」
ミルファが少し照れたように答えた。
「そうなの? でも、フロウベルは気に入った人を簡単には手放さないわよ?」
リンナがからかい半分で話す。
「そんなことありません!」
「そうかしら?」
ルーランがフロウベルを見る。
「ミルファがいなくなったら、寂しいんじゃない?」
「それは……もちろん寂しいですけど!」
「ほらね」
「でも、無理に引き止めたりはしません!」
フロウベルは胸を張った。
「本人の意思が大切ですから!」
ミルファが少し驚いた顔をした。
「……そうですね。私も、今のところは皆さんと一緒に冒険を続けたいと思っています」
「本当ですか!?」
「はい」
「やった!」
フロウベルは思わず両手を上げた。
「……まだ一時的な参加ですよ?」
「分かっています!」
「本当に分かっているのかしら」
リンナが小さくつぶやいた。
その隣では、シェリルがスライムを一匹抱き上げていた。
「この子、とてもかわいいですね」
ぷるん。
「ふふっ。気持ちいいです」
「……シェリル」
フロウベルはそちらを向いた。
「はい?」
「その子、私の召喚獣なんですけど」
「はい。知っていますよ」
「取らないでくださいね?」
「え?」
フロウベルがシェリルに話す。その目線は、シェリルの向こうにいるイリアだが。
「いきなり意思疎通ができて、あなたに付いていってしまう子になるような気がして……」
「まさか?ただかわいいだけですよ」
「……かわいいですか?」
「ええ、とても」
「そうですか……」
フロウベルは少しだけ胸を張った。
「そうでしょう! 私の召喚獣ですから!」
すると、シェリルの腕の中のスライムが、ぷるんっと嬉しそうに揺れた。
「ふふっ。喜んでいるみたいですね」
「……私が褒められたわけじゃないんですけどね」
リンナが笑いをこらえていた。
「フロウベル、あなたも抱っこしてあげたら?」
「もちろんです!」
フロウベルは近くにいた別のスライムを抱き上げた。
……あれ?
この子、さっきまでイリアのところにいた子じゃないだろうか。
「あなたも、私のところに来てくれたんですね!」
ぷるん。
よし。少しは召喚主の威厳を取り戻せた気がする。
◇ ◇ ◇
「ところで、フロウベル」
ルーランがふと思い出したように尋ねた。
「あなたの召喚獣って、みんな愛称があるの?」
「はい! カーちゃん、グリちゃん、ワイちゃん、キュウちゃん、ボアちゃんです!」
「ずいぶんかわいい名前をつけるのね」
「ほんとにかわいいのは、カーちゃんとキュウちゃんだけだぞ」
リンナが茶々を入れる。気にせずフロウベルが、
「呼びやすいですから!」
「ベヒモスは?」
リンナが横から口を挟んだ。
「……ベヒモスは、そのままです」
「どうして?」
「かわいくないですし」
「本人に聞かれたらどうするのよ!」
「聞こえないところで言っていますから大丈夫です!」
「そういう問題じゃないでしょう!」
カオリが真剣な顔で考え込んだ。
「ならば、ベヒモスにも愛称をつけてやればよいのではないか?」
「えっ?」
「例えば、ベヒちゃんなどはどうだろう」
「……」
フロウベルは想像してみた。
巨大なベヒモスが、こちらを見下ろしている。
その姿に向かって、フロウベルは呼びかける。
『ベヒちゃん!』
「……無理です」
「なぜだ?」
「なんとなくです!」
「そうか」
カオリは納得したようにうなずいた。
「では、ベヒモス殿が自ら望む愛称を考えてもらうのがよいだろう」
「本人に聞くんですか?」
「当然だ」
「……それは、それで怖いですね。それにあれはめったに呼べませんよ? 大きすぎるので呼んだら、また、私、王宮行きです。」
リンナが額を押さえた。
「もういいわよ。ベヒモスはそのままで」
「そうですよね!」
フロウベルは元気よく返事をした。
「……あなた、最初からそのつもりだったでしょう」
「えへへ」
「褒めてないわよ!」
◇
「そういえば、カーちゃんは今どこにいるんですか?」
シェリルが尋ねた。普段肩にいるカーバンクルがいない。
「この間から、治癒能力を結構使っているので、帰還させました」
「そうですか、ぜひ治癒魔法のことお聞きしたかったんですか……」
シュンとなるシェリル。そんなシェリルを見て、フロウベルが一瞬目を閉じたかと思うと、
「カーちゃんなら、召喚して呼べますよ。念話で聞いたら、もう大丈夫だそうです。」
そのフロウベルの言葉に、シェリルの顔がパッと明るくなる。
「ぜひ、お会いしてみたいです!」
「分かりました!」
フロウベルは召喚の準備を始めた。
魔法陣が浮かび上がり、淡い光が広がる。
『きゅっ。主、召喚に応じてきたよ』
カーちゃんが現れた。
「カーちゃん!」
「きゅっ?」
「こちらがシェリルです。治癒術を使う神官なんですよ。この間助けた子の一人よ。下着の子」
「きゅっ。ああ、覚えているよ。よろしくね」
「な、なにを覚えているんですか?! よろしくお願いします!」
一瞬恥じらい、その後、シェリルは目を輝かせていた。
「とてもかわいらしいですね……」
「きゅっ?」
カーちゃんは首をかしげるように体を傾けた。
「あんた、さっきまで、スライム可愛いって言ってたわよね?」
リンナがツッコむ。
「それはそれ、これはこれです。カーちゃん、すごい治癒能力をお持ちだと聞きました」
「きゅっ。そうだよ」
「一度、治癒魔法についてお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「きゅっ? いいよ」
「ありがとうございます!」
シェリルはすっかりカーちゃんに夢中になっていた。
「……また一人、カーちゃんのファンが増えましたね」
フロウベルは少し誇らしくなった。
ルーランがシェリルとしゃべっているカーちゃんを覗き込んだ。
「ねえ、カーちゃん。あなたって、どんな傷でも治せるの?」
「きゅっ。できるものと、できないものがあるよ」
「なるほどね。じゃあ、疲れたときにも治してもらえる?」
「きゅっ。疲れを取ることもできるよ」
「それは便利ね!」
「きゅっ?」
ルーランがにっこり笑った。
「じゃあ、今度疲れたときにお願いしようかしら」
「きゅっ。いいよ」
「ちょっと待ってください!」
フロウベルは思わず声を上げた。
「カーちゃんは便利な道具じゃありません!」
「そうね。ごめんなさい」
ルーランは悪びれずに笑った。
「でも、お願いしたら治してくれるんでしょう?ふふ」
ルーランは楽しそうに笑った。フロウベルを揶揄って、絶対に面白がっている。
「それは……そうですけど、ルーランは有料にします。」
「えぇー!なんでよ!」
ルーランが抗議の声を上げていた。
◇
リンナが気になっていたことを聞く。
「フロウベル、あなたは念話で話せるの?」
「はい。パス(契約)は繋がっているので、こちらから呼びかければ遠くでも話せます。」
「へぇ、便利だね」
リンナが感心する。
「魔力の強い魔物、ベヒモスやフェンリルさん、カーちゃんみたいなのは、近くであればパスが繋がってなくても、自ら念話や会話が可能です」
「ああ、確かにそうだね。私たちも会話成り立ってたし」
「でもですね、最近、解せぬことが起きました」
「解せぬこと?」
フロウベルが一方を指差す。リンナ、カオリ、ミルファ、ルーランがその方向を向く。その先には、キョトンとした顔で、フロウベルを見るイリア。その手にはスライム。
「「「「ああ」」」」
四人は、理解した。フロウベルの説明が事実なら、これは異常だ。
「イリアさん、なんでスライムと意思疎通ができてるんですか?」
「えっと、ですね。別に会話してるわけでなく、私がしてほしいなぁと思うことをスライムが汲み取ってくれたり、逆にスライムからこう情報が流れ込んでくる?って感じなんですよね。」
「……私と同じですね。ということは。」
フロウベルはスライムたちを見つめる。
「あんまり、私の召喚獣だからとか、優秀だからとかで、片付けられなくなってきましたね……はぁ……」
フロウベルは思案する。
「みんな、イリアさん、すみませんがスライムの異常性については、当分秘密にしておいてください」
「……いいけど、何か困るの?」
リンナが聞いてくる。
「困るようになってからでは遅いから、黙っててほしいんです」
「ああ、そういう事ね」
「イリアさんも、スライムとのやり取りはしょうがないですけど、なるべく口外しないでください。特にギルドマスターには!」
「はい」
イリアが苦笑しながら答える。
「ちゃんと調べなきゃいけないかな、失敗から始まってるし……」
フロウベルは、スライムたちを見つめながら考える。
◇
「おい…… そろそろ報告を聞かせてくれないか」
ギルドマスターが、訓練所から戻ってきたばかりのボコボコの顔で声をかけてきた。
「いい顔つきになりましたね、ギルドマスター」
嫌味をいうフロウベル。スライムたちは親指を立ててにこやかにサムズアップ。
「ふん! それより報告だ」
「もう聞いてるんだから、いいですよね?」
リンナがギルドマスターに答える。
「直接、本人達から聞かないと真偽がわからんだろ。」
「ほぉ~? 審議がわからないのに、酔った勢いでペラペラ喋ったと?」
フロウベルのこめかみに怒りのマークが浮かぶ。
「いや、その、なんだ、悪かった!」
ギルドマスターが土下座する。威厳もひったくれもない。
「じゃあ、手短に話しますよ。」
「すまん」
「まず、街道付近に魔物が出没していた原因ですが――」
フロウベルはフェンリルの親子について説明した。
親が子供を探して森の中を広く移動していたこと。その影響で周囲の魔物が普段とは違う行動を取っていたこと。
そして、彼女たちが親子を再会させたこと。
「なるほど。聞いてた通りだな……」
「人間を襲う意図はなかったようです」
「それならば、今回の件はひとまず解決と考えてよさそうだな」
「そうですね」
「それで、盗賊の件は?」
「そちらも街のギルドに引き渡しました。フェンリルの子供の魔物を捕まえて売ろうとしていたようです」
「……そうか、一つ間違えれば、大問題だったな」
ギルドマスターの表情が少し険しくなる。
「その件は、こちらでも情報を確認しておこう。必要ならば、王宮にも連絡する」
「「「えぇ~!?」」」
フロウベル、リンナ、ミルファが嫌そうな声を上げる。
「なんだ、嫌なのか?」
「それやったら、呼び出し確定ですよ」
フロウベルが嫌そうに答える。
「報告しないと駄目なこともあるからな……なるべく呼び出ししないように言っといてやるよ。これで報告は終わりか?」
「はい!」
ようやく報告が終わった。
ギルドマスターも満足そうにうなずく。顔はボコボコだったが……
◇
「……本当に、賑やかなギルドですね」
ミルファが、少し呆れたように言った。
「そうでしょう?」
フロウベルは笑顔で答えた。
「いや、褒めているわけではないと思うわよ」
リンナがすかさず突っ込む。
「でも、楽しそうじゃない?」
ルーランは笑っていた。
「確かに、賑やかだな」
カオリも納得したようにうなずく。
「みんな仲良しで、いいですね」
シェリルはスライムを抱きながら微笑んでいた。
「そうですね。ここはいつもこんな感じですよ」
イリアも笑顔で答える。
「……そうか。これがいつもの日常なのか」
ミルファは、もう一度ギルド内を見回した。
受付ではスライムたちがイリアの手伝いをしている。
別の場所では、ルーランがスライムをつついて遊んでいる。
カオリはスライムの動きを観察し、シェリルはスライムを抱きながら、カーちゃんと治癒魔法の話をしている。
……どうやら、ミルファにはまだ理解できないことが多いらしい。
「ミルファも、これから慣れていけばいいわよ」
リンナが声をかける。
「何にですか?」
「全部よ」
「全部……ですか」
「そう。全部」
ミルファは少し考えた後、小さく笑った。
「分かりました。少しずつ慣れていきます」
「はい! 一緒に頑張りましょう!」
フロウベルは笑顔で答えた。
「……フロウベル」
「はい?」
「あなたが一番、普通ではないと思うのだけれど」
「ええっ!?」
ルーランが吹き出した。
カオリは真面目な顔でうなずき、シェリルは困ったように笑った。
イリアも口元を押さえている。
リンナに至っては、もう何も言わずに肩を震わせていた。
「みなさん、ひどいです!」
フロウベルは抗議した。
その声に反応したのか、スライムたちが一斉にぷるんと揺れた。
まるで、フロウベルを慰めてくれているようだ。
「ほら! みんなは私の味方です!」
……と思ったら、スライムたちはそのままイリアのところへ移動していった。
「えええっ!?」
ギルド内に、また笑い声が響いた。
こうして、王都に戻ったフロウベルたちの一日は、いつも通り騒がしく過ぎていった。
……次の冒険こそ、普通に始めたいものですね。




