第1話 新しい仲間と出発!
王都の冒険者ギルド。
朝のギルドは、いつも通り冒険者たちの声で賑わっていた。
その片隅で、フロウベルはテーブルに頬杖をつきながら、向かいに座るリンナを見つめていた。
「ねぇ、リンナ」
「なに?」
「文官さんが言ってた『街道の魔物』の件、あれ、私達への指名依頼なのかな?」
リンナがキョトンとした目で、フロウベルを見て、
「そういえば、そうね? なにも言ってこないし」
「ま、まさか……もう他の人が受注してたりして。わ、私の冒険が!!」
あ、慌てて騒ぎ出すフロウベル。
「落ち着きなさい。今、イリアさんに聞いてみるから。」
「う、うぅ……お願い……」
リンナは席を離れ、受付のイリアのところに行き声をかける。
「イリアさん、この間王宮に行ったとき、文官さんから、街道に魔物が出たからギルドに依頼出すって聞いてたんですけど、もう出てます? 出来れば受けたいんですけど。特にうちの暴走娘がですが……」
苦笑しながらイリアが受付伝票を見ている。
「街道の魔物の件ですね……あら、それなら既に、『無敵美少女ブルー&サファイア』で指名依頼で受領されてますが?」
「へ? いつ? 私たち聞いてないわよ!」
さすがにリンナもイリアに食ってかかる。
「そ、そう言われましたも……」
「誰が、勝手に受領したのよ!」
このまま依頼の存在を知らずに放置していれば、依頼は未達成となり、ギルドの信用にも関わる。場合によっては、受注した冒険者の評価にも影響しかねない。
「おいおい、俺たちも何か受領されてることになってないよな!?」
「マジかよ!?」
そこにギルドマスターが現れた。
「お前らに何騒いでんだ? うっせぇぞ!」
「実は……」
イリアが経緯を説明する。
「王宮からの指名依頼だったからな。断る理由もねえだろうと思って、俺が受領しといた。がはははは!」
「ありますよ!! 本人に確認したり必要でしょう!」
リンナの声がギルドに響いた。
「いいじゃねぇか、俺の独断だが、どうせ断らんだろう?」
笑いながら話すギルドマスター。全員、その言葉に固まっている。イリアに至っては般若の如く怒りをあらわにしている。低い声で、
「ギルドマスター……」
「何だ……よ……?」
イリアが怒っているとわかり、言葉が尻すぼみになっていく。
「正座」
床を指差し、ギルドマスターを威圧するイリア。
「な、なん……で……」
「せ・い・ざ!!」
「は、はい」
床に正座するギルドマスター。そこからイリアの小言が延々と続く。
ギルドマスターがイリアに怒られている時、事情が分かったフロウベルとリンナは、
「もう、受領されてるなら行かないとな」
「よかったぁ。私の冒険!」
フロウベルだけはギルドマスターにグッジョブと親指を立てる。
「はぁ、まぁ、受ける気だったからいいか。いつから行く?」
「そうですね。早めに行きたいですが……」
「あら、なにか心配事?」
イリアが聞いてくる。
「戦闘面って主にリンナに任せてますけど、結構負担ですよね?」
「まぁね……フロウベル自身に戦闘少ないし、召喚獣だよりだと、過剰戦力になるし……」
「そうなんです、バランスが悪いですよね。なので、わたしはカーちゃんを主軸の支援回って、後方援護の方を連れていきません?」
「心当たりでもあるの?」
「ミルファを誘いましょう」
「ミルファ? あの子、ルーランのパーティに入ってるでしょ?」
リンナは、手にしていた飲み物を置いた。
「ええ、だから、今回は臨時でお願いしようかと。」
「確かに昨日、これから一緒に冒険するなら、魔法使いがいたほうがいいって言ってたけど」
「そうです。前衛はリンナ、後衛の魔法はミルファ。私は召喚と回復です。完璧な布陣です!」
「自分で完璧って言うのはどうなのよ……」
リンナは呆れたように息を吐いた。
とはいえ、考えそのものには異論がない。
自分が前衛を務め、ミルファが後方から魔法で援護する。フロウベルは召喚獣による支援や、必要に応じて回復を担当する。
3人なら、それぞれの得意分野を生かせるはずだ。
「たぶん、これからも場合によっては、他の3人にも声かけることになると思うんですよ」
たしかに、彼女たちはDランク冒険者だが、Cランクに近いDである。
これからの付き合いを考えると、悪い話ではない。
「じゃあ、ミルファが今どこにいるか、聞いてみましょう」
「はい!」
フロウベルは勢いよく立ち上がった。
……その足元では、青いスライムたちがぷるぷると揺れていた。
「みんな、今日はまだ、出番がないので、あそこでイリアさんに怒られているギルドマスターを訓練所に連れて行って、ボコってきてください」
ぷるっ。
ぷるぷるっ。
「よし、いい返事です!」
その言葉に、一斉にスライムたちが動き出し、ギルドマスターを訓練所に運び去っていった。
カーバンクルも一緒についていったようである。
「ギルドマスター、ご愁傷様」
さすがにリンナもギルドマスターを擁護しないらしい。
フロウベルはギルドの受付へ向かった。
今まで怒っていた対象が、スライムたちに拉致られてぽかんとしていたイリアは、2人を見ると、いつもの柔らかな笑顔を浮かべた。
「なにか、御用ですか?」
「イリアさん、ミルファがどこにいるか、ご存じですか?」
「ミルファさんなら、午前中は魔法の研究所に顔を出すと言っていましたよ。そろそろ戻ってくる頃じゃないでしょうか」
「ありがとうございます!」
フロウベルはぺこりと頭を下げた。
その横で、リンナがふと受付の周囲を見回す。
「……今日は、イリア専用スライムがいないわね」
イリア専用スライム。それは、いつの間にかイリアに手なずけられたスライム数匹。
面白くないフロウベル。絶対に命令を聞かないわけではなさそうだが……
「あの、裏切り者たちなら、同じく訓練所です」
ちょっと、つんけんに答えるフロウベル。イリアが苦笑する。
「ギルドの訓練場でお仕事中です」
「お仕事?」
「冒険者さんたちの訓練です!」
「……何をさせてるのよ」
「いえ、前回、ギルドマスターが訓練に使うと言ったんで、そのまま、任せてたら結構好評で。」
フロウベルは笑いながら話続ける。
「死なない程度に、全力で戦ってもらっています!」
「訓練の意味、分かってる!?」
リンナの声がギルドに響いた。
受付の向こうで、イリアは困ったように笑っている。
「今のところ、大きな怪我はありませんよ。カーバンクルさんもいますから」
「そういう問題じゃない気がするんだけど……」
リンナは額に手を当てた。
フロウベルは、そんなリンナを不思議そうに見つめる。
「大丈夫ですよ。カーちゃんには、ほどほどに回復するようお願いしてありますから」
「ほどほどって何!? ほぼ全力でボコってるのに!?」
「あの冒険者たち、私のこと『顔はかわいいのにボリュームがなぁ……』とか、陰で言ってやがったんです。ほどほどで十分です。」
「あ、そりゃあ、あいつらが悪い……」
そんなやり取りをしていると、ギルドの入口から一人の女性が入ってきた。
淡いラベンダーシルバーのロングヘアを揺らし、魔法使いらしい装備を身につけたミルファだった。
「あれ? フロウベルさんにリンナさん。どうしたんですか?」
「ミルファ!」
フロウベルは、待ってましたとばかりに近づいた。
「一緒に冒険しませんか?」
「……え?」
あまりにも直球な誘いに、ミルファは目を丸くした。
隣でリンナが、軽く肩をすくめる。
「ミルファ、私たちが受ける依頼で臨時でパーティーに加わってほしいのよ。前衛は私、後衛の魔法はあなた。フロウベルは召喚と回復で支援する。どうかな?」
「私が……お二人と?」
ミルファは、少し驚いた様子でフロウベルとリンナを見比べた。
「はい! ミルファの魔法があれば、できることも増えます。もちろん、無理にとは言いませんけど」
フロウベルは、いつになく真面目な顔で続けた。
「一緒に冒険できたら、心強いと思ったんです」
ミルファは、しばらく黙っていた。
ダンジョンで助けられたときのことを思い出す。
フロウベルは突拍子もないことを言うし、リンナはそのたびに振り回されているように見える。
けれど、2人とも仲間を見捨てない。
そして、自分たちの力を誇示するためではなく、困っている人を助けるために使っていた。
それに、自分がこの二人にどれだけついて行けるか試してみたい。
「……私でよければ、ぜひお願いします」
ミルファは、笑顔で答えた。
「本当ですか!?」
「はい。私も、もっと魔法を使いこなせるようになりたいですし……お二人となら、いろいろな経験ができそうですから」
「やった!」
フロウベルは両手を上げて喜んだ。
リンナも、ほっとしたように笑う。
「これからよろしくね、ミルファ」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
こうして、フロウベル、リンナ、ミルファの3人パーティーが結成された。
……もっとも。
「ところで、パーティー名はどうします?」
フロウベルが、唐突に口を開いた。
「いらない!」
リンナが即答した。
「えー。無敵美少女ブルー&サファイアに、魔法使いのミルファが加わるんですよ?」
「だから、その通り名をやめろって言ってるでしょうが!そもそも、パーティー名は変更できない。悔しいけど……」
「ええ……無敵美少女ブルー&サファイア+1にしたかったのに……」
「増やすな!! あと、あんたもその通り名を気に入ってなかったでしょ!」
ギルドの中に、リンナの叫び声が響き渡った。
ミルファは、ぽかんとした顔で2人を見つめていた。
「……えっと。その名前って、いったい……?」
「聞かないほうがいいわ」
リンナは遠い目をした。
フロウベルは、満足そうに頷いている。
「もうここまで広まってるなら、受け入れて、いい方に切り替えようかと」
「受け入れるな!」
受付のイリアが笑顔で声をかけてきた。
「それでは、王都近郊の街道で魔物の情報及び討伐依頼にいかれるのですね」
フロウベルの目が、きらりと輝いた。
「はい!」
「まだ詳しいことは分かっていませんので、情報集めからになりますが、十分に気を付けてください」
「了解したわ」
リンナが答える。
「行きましょう!」
「まだ準備できていないでしょう。明日以降にするわよ」
リンナが慌てて止める。
「そうですね、私も身支度などの準備をしないと」
ミルファも真剣な表情になった。
街道は、商人や旅人が行き交う場所だ。
魔物が増えれば、被害が出る可能性もある。
「明日、朝一で街を出て、魔物が頻繁に出る街道を目指す」
リンナの言葉に、フロウベルは勢いよく頷いた。
「はい!」
3人は、出発の準備を整えることにした。
必要な道具を確認し、食料を用意する。フロウベルは念のため、いつものお菓子も袋に詰めた。
「……それ、必要?」
「必要です!」
「フロウベルには必需品なんだね……」
ミルファは苦笑した。
◇
翌日。
王都の門の前に集合した、フロウベル、リンナ、ミルファ。
スライムたちも、集まっている。
若干、不機嫌な顔のフロウベル。
「どうしたの、冒険を楽しみにしてたのに?」
リンナが声をかける。
「490」
「???」
謎の数字に、ハテナ顔のリンナ。
「あいつら、ホントに裏切ってイリアさんのところに残りやがった!!!」
スライムが10匹ほど、イリアのお掃除手伝いで勝手に残ったらしい。
「あのスライムたち、勝手すぎないか?」
リンナもあきれ顔である。ミルファも何と言っていいのかわからない。
「まぁ。いいです。とにかく行きましょう」
そして、王都の門を抜ける。
青空の下、街道が遠くまで続いていた。
フロウベルは、その先を見つめて笑った。
「さあ、新しい冒険の始まりです!」
「切り替え早いわね……今度は、ちゃんと普通の冒険にしてよね……」
「普通ですよ?」
「その返事が一番信用できないのよ!」
リンナの声と、ミルファの笑い声が街道に響く。
こうして3人は、王都近郊で増えているという魔物の調査へ向かうのだった。




