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伝説の召喚士、禁断の召喚術を試す ・・・500匹のスライムどうする?  作者: てるるん
第3章 伝説の召喚士、貴族に目をつけられる(目をつけ返しました)
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第15話 王からの最後通告。そして、次の冒険へ

 数日後。


 冒険者ギルドに、一通の召喚状が届いた。


 差出人は、アルヴェリア王国国王。


 宛先は、フロウベルとリンナの二人だった。


「……行きたくない」


 召喚状を手にしたフロウベルは、開口一番そう言った。


「行きたくないって……あんた、前は呼ばれたら嬉々として言ってたじゃん?」


「私は、召喚士であり、冒険者です。冒険に行くならまだしも、仕えているわけじゃないのに、毎回呼ばれるとさすがに……」


「まぁ、気持ちはわかるけど……相手は国王陛下よ?」


「調査結果の報告なんて、ギルドマスターか、エバンさんがすればいいでしょ?なんで、私が呼ばれなきゃいけないんですか? 何か悪いことした?」


「心当たりがありすぎるから、困るのよ……」


「ひどっ!」


 リンナは頭を抱え、フロウベルは涙目である。


 確かに、フロウベル自身に後ろめたいことはない。


 ないはずなのだが、スライム五百匹の件、アラクネの件、男の衣服を溶かした件、さらには存在そのものを抹消しようとした発言まで……。


 どれもこれも、あとになって問題になりそうなことばかりである。


 本人に悪意がないことだけは、間違いなかった。


「とにかく、行くわよ」


「……お菓子、持っていっていい?」


「王城を何だと思ってるのよ!」


 結局、フロウベルはお菓子を一袋だけ持っていくことを許された。なんだかんだフロウベルには弱いのである。


 なお、スライムたちは冒険者ギルドに残ることになった。


「おい! その大群を置いていくな!」


「訓練所にでも置いててくださいよ。エルミドのシャンティさんは快く使わせてくれましたよ」


 いや、シャンティも仕方なくであったが、そこはあえて言わないリンナ。


「じゃあ、こいつら冒険者の訓練に使うからな!いいんだな?」


 ギルドマスターは、ニヤリと笑う。


「いいですよ! スライムさんたち死なない程度にコテンパンにしちゃっていいよ!」


 フロウベルが売られた喧嘩を即買いした。あと小声で、


「カーちゃんも残って、冒険者の傷を適度に治してあげて」


 全快にしろとは言わない。


 カーバンクルは、『きゅっ』と一言鳴いて、フロウベルの肩から離れる。


 ギルドマスターは『あれ、こんなはずでは……』という顔で、フロウベルを見るが、フロウベルはスライムたちにVサインを送り、それを見た、五百匹のスライムが、一斉にぷるぷると揺れた。まるで、『やったるで!』という感じで。


 ……その光景を見ていた受付嬢のイリアが、数匹のスライムに「お掃除手伝ってくださいね」と頼んでいたことに、フロウベルは気づかなかった。


 余談だが、フロウベルが戻ってきた時の光景は、カーバンクルがクタクタで倒れている多くの冒険者を治しているのと、スライムたちがガッツポーズしているかのように揺れている光景だった。数匹はイリアに抱かれていたが……


     ◇


 王城。


 謁見の間には、国王と宰相、エバンをはじめとする複数の貴族たちが集まっていた。


 フロウベルとリンナが入室すると、視線が一斉に集まる。


「……帰りたい」


「まだ何も始まってないでしょうが」


 リンナが小声でたしなめた。


 国王は二人を見て、穏やかに口を開いた。


「フロウベル、リンナ。まずは、冒険者たちの救助に尽力したこと、礼を言う」


「いえ。冒険者が冒険者の救助をすることは、当然のことです」


 リンナが答える。


 フロウベルも小さくうなずいた。


「それに、助けられた冒険者からも話は聞いている。君たちが危険を承知で救助に向かい、負傷者を保護したこともな」


 国王の表情が、わずかに引き締まった。


「だが、今回の件には看過できない問題がある」


 謁見の間が静まり返った。


 『やべ、ひん剥いて、置き去りにしたこと怒ってる?』と一瞬考えるフロウベル。


「冒険者に対して、真偽の確認されていない情報が流されたこと。危険な場所へ向かうよう誘導された疑いがあること。そして、救助された者たちから、魅了に似た魔法の痕跡が見つかったことだ」


 『セーフ…』安堵するフロウベル。


 国王は、一度言葉を切った。


「現時点では、誰が何を目的に行ったのか、すべてが明らかになったわけではない。特定の人物や家門が関与したと断定することもできぬ」


 貴族たちの間に、わずかなざわめきが広がった。それはそうだろう。断定はしていないが、貴族がかかわっている可能性があると国王陛下が暗に言っているのだ。


 エバンは黙って国王の言葉を聞いていた。


「余はここで、もう一度宣言する」


 国王の声が、謁見の間に響いた。


「国民や冒険者の命を危険にさらし、他者の判断を不当に操るような行為を、余は決して許さぬ」


 その視線が、居並ぶ貴族たちをゆっくりと見渡した。


「これは、すべての者への警告である。爵位や家柄、国への貢献を理由に、責任を免れることはできぬ」


 誰も口を開かなかった。


「今後、同様の行為が確認された場合、余は身分を問わず調査を命じる。証拠を隠す者、調査を妨害する者も同様だ」


 国王は、最後にこう告げた。


「これが最後通告と思え」


 重い沈黙が落ちた。


 フロウベルは、隣のリンナを見上げた。


「……最後通告って、何か怖いね」


「今は黙って聞いてなさい」


 その一方で、エバンは国王の言葉を別の意味でも受け止めていた。


 国益のためであっても、本人の意思を無視して力を利用することは許されない。


 その警告は、他の貴族だけに向けられたものではない。


 自分自身にも向けられているのだ。


 エバンは、静かに目を伏せた。


     ◇


「さて、フロウベルとリンナ」


 国王が改めて彼女に向き直った。


「今回の件で、何か望むことはあるか? 褒賞でも、便宜でも、可能な範囲で応じよう」


「えっ? お菓子をいっぱい……」


「フロウベル!」


 リンナが即座に口を挟んだ。


「おなかがすいた……冗談です」


「本当に冗談だったのか?」


 宰相が思わず尋ねた。


「半分くらい?」


「半分は本気なのか……」


 国王は苦笑したが、すぐに真剣な表情へ戻った。


「では、一つ聞かせてほしい。君は、これからも召喚術を使って冒険者として活動するつもりか?」


「はい!」


 フロウベルは、今度は迷わず答えた。


「私は召喚術を、戦争には使いませんし、使わせません」


 その声は、謁見の間にいる誰もが聞き取れるほど、はっきりしていた。


「でも、人々が豊かに暮らせるようになることなら、協力してもいいと思っています。困っている人を助けたり、作物がたくさん採れるようにしたり、壊れた橋や道を直したり……そういうことなら、私にもできることがあるかもしれませんから」


 国王も宰相も、黙って彼女の話を聞いていた。


「もちろん、何でもできるわけじゃありません。私にも分からないことはありますし、頼まれたことを全部できるとは限りません。でも……」


 フロウベルは、少しだけ胸を張った。


「人が平和に暮らせるようになるなら、私も手伝いたいです」


 エバンの目が、わずかに見開かれた。


 彼はこれまで、フロウベルの召喚術を国のために活用する方法を考えてきた。


 だが、彼女は国のために働くことそのものを拒んでいるわけではなかったのだ。


 戦争や強制的な利用は拒む。


 けれど、農業や建築、災害からの復旧、人々の生活を支えることには、協力する意思がある。


 必要なのは、命令ではない。


 本人が納得できる目的を示し、相談することなのだ。


「……なるほど」


 エバンが小さくつぶやいた。


 彼の頭の中では、すでにいくつもの案件が浮かび始めていた。


 農地の改良。輸送路の整備。災害時の救助体制。


 そして、それらに召喚術をどう活用できるのか。


「エバン」


 国王が彼を見た。


「はい、陛下」


「今、何か考えていたな?」


「……いえ。今後の国政について、少々」


「フロウベルに何か頼むつもりなら、本人の意思を確認してからにせよ」


「承知しております」


 エバンは、穏やかに答えた。


 その表情には、先ほどまでとは違う、わずかな明るさがあった。


「フロウベル殿。いずれ、戦争とは関係のないことで相談させていただくことがあるかもしれません。その際は、話を聞いていただけますか?」


「都合と内容によります!」


 即答だった。


「もちろん、無理にとは申しません」


「それなら、いいですよ」


 フロウベルはうなずいた。


「人々の役に立つことなら、私も考えてみたいですから」


 エバンは、深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


 リンナは、その様子を見て少しだけ安心した。


 少なくとも、今回はフロウベルの意思を無視して話を進めるつもりはないらしい。


 ……もっとも、エバンが今後どんな相談を持ち込んでくるのかは、別の問題だった。


     ◇


 謁見が終わり、王城の廊下を歩く二人。


「終わったー!」


 フロウベルは、両手を上げて伸びをした。


「まだ事件そのものが解決したわけじゃないわよ」


「でも、私たちが調査を続けなくても、エバンさんやギルドの人たちが調べてくれるんでしょう?」


「そうね。私たちが見つけた情報も渡してあるし、今後はあちらの調査を待つことになるでしょうね」


「じゃあ、冒険に行ける?」


「……そこに戻るのね」


 リンナは、深々とため息をついた。


「私は冒険者ですから!」


「はいはい」


「次の依頼は何にしましょうか。森の魔物討伐? それとも護衛? あ、遺跡探索もいいですね!」


「少しは休もうって考えないの?」


「冒険者は、冒険してこそ冒険者です!」


「その理屈は分かるけど、あなたの場合は少し落ち着きなさい!」


 そんな二人の前に、王城の文官がやってきた。


「フロウベル殿、リンナ殿。少々お待ちを」


 呼び止められ、二人はハテナ顔になった。


「王様より褒美を渡しそびれたと」


 大きな袋をフロウベルへ、中くらいの袋をリンナに渡す。


「褒美ですか?」


「ええ、さすがに呼びつけて、ただで帰すのは体裁が悪いと……」


 文官が苦笑交じりに話す。つられてフロウベルもリンナも苦笑い。


「フロウベル殿には、王宮のお菓子を詰めこんであります」


「ほんとに!? 嬉しい!!」


 飛び上がって喜ぶフロウベル。文官は微笑みながらリンナに、


「リンナ殿には、金貨百枚とのことです」


「え? ええ!? 金貨百枚!? も、貰いすぎですよ!」


 慌てるリンナ。


「良かったじゃないですか、リンナ。当分、遊んで暮らせますよ」


 フロウベルは、まるで他人事のように喜んでいる。お金にはそれほど執着がないらしい。


「まぁ、今回の褒賞と調査報酬、それに依頼料も含まれているそうです」


「そういうことでしたら……。今回、手伝ってくれた仲間もいますので、その子たちにも分けます」


 リンナは、少し考えてからそう答えた。


「ありがとうございました、と王様、宰相様、エバン様にお伝えください」


「はい、お伝えしておきます。あとですね、次の予定って、もうお決まりですか?」


「いえ、まだですけど……」


 リンナが答えると、文官は一枚の書類を差し出した。


「実は、王都近郊の街道で魔物の目撃情報が増えておりまして。冒険者ギルドにも、討伐依頼が出される予定だそうです」


「魔物!」


 フロウベルの目が輝いた。


「行きましょう、リンナ!」


「まだ依頼内容も聞いてないでしょうが!」


「大丈夫です! きっと何とかなります!」


「その根拠のない自信、どこから来るのよ……」


 リンナは頭を抱えた。


 しかし、口元には小さな笑みが浮かんでいた。


 事件の調査は、まだ終わっていない。


 背後で動いている者もいる。


 それでも、彼女たちには彼女たちの冒険がある。


「……そういえば、ミルファさんも誘ってみましょう!」


「えっ、あの子を?」


「はい! 後ろから魔術で援護してもらえれば、きっと心強いですよ!」


「それはそうだけど……」


 リンナは、少し考えた。


 自分が前衛。フロウベルが召喚術と回復支援。ミルファが後衛からの魔術支援。


 確かに、悪くない構成だ。


 むしろ、普通の冒険者パーティーとして考えれば、かなりバランスがいい。


「……分かったわ。まずは本人に聞いてみましょう」


「やったー!」


 フロウベルは、満面の笑みを浮かべた。


 こうして、次の冒険に向けて、新たなパーティーが動き始めた。


 その名も――


 無敵美少女ブルー&サファイア+1


「だから、その名前はやめなさいってばあああああっ!!」


 王城の廊下に、リンナの叫びが響き渡った。

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