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いきものたちの国〜生き物に変身できる国で、ラプトル少女とハチドリ少年が出会った話〜  作者: きろみりぐらむ
第二章 庭と渓谷

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第10話 校庭で水やり

 「おはよう!」

 「おはようっ、エメ!」

 「エメ、おはよー!」


 生徒達がすれ違うたび、エメに声をかけていく。


 「はーい、おはよー」


 それにエメはにっこりと手を振りながら答えている。

 まるでいつか見た舞台俳優のようだと、ナラは思った。

 エメが通学するようになってまだ久しいが、今ではすっかり学園に溶け込んでいる。

 溶け込んでいる、という表現は正しくないのかもしれない。

 エメがその場にいると、周囲がざわつき色めき立つ。

 女子達の黄色い声援、それにエメは輝かしい笑顔で答える。

 男子達の輪にも自然に入り込み、気がついたら輪の中心で盛り上がっている。

 この学園にも、華やかな存在は元からいたはずだが━━言ってしまえば、次元が違っていた。

 そのような存在が隣にいて、最初は居心地が悪かったナラだが、やがて諦めることにした。

 これは自分ではどうにもならないと思い、なるべく存在感を消すことに努めた。


 ━━しかし、それでもどうしようもない場面に遭遇する時がある。

 今まさに、目の前で複数の男子生徒が、ダンスを披露している。 

 縦一列になり、エメに向かって一人ずつソロダンスでアピールしては列の後ろに並び━━を繰り返している。

 ナラは猛烈に逃げ出したかったが、がっちりホールドされたエメの腕がそれを許さない。

 やがて、求愛ダンスで知られるマイコドリの『ギフト』の男子が、情熱的なアピールをしてエメの前に手を差し出す。


 「キミもぜひ、ダンス部に入部しないか!」

 「あ、いいです、間に合ってまーす」


 満面の笑みでエメは瞬殺し、膝から崩れ落ちたマイコドリの男子。

 「お前はよくやった!」と、他の男子に囲まれ、肩を叩かれながらその場を去っていった。


 「なんか、今朝は一段と激しいな……」

 「おー、ルゥおはよ」

 「おぅ」


 後ろから見ていたらしいルゥが声を掛けた。

 エメが挨拶すると軽く手を挙げて答える。

 その後ろにいたミアも、呆れたように話しかける。


 「おまえの周りはいつも騒がしいな」

 「仕方ないよー、みんなボクの美しさに黙ってはいられないんだから。ねぇ、ナラ」

 「え……うん」


 何と答えたものかとナラが困っていると、ルゥが「あんまナラ困らすな」と、くっつくエメを引っ剥がしてくれた。


 「ちょっとちょっと、出遅れたー!上から見てたけど、さっきの何、なに?間近で見たかったんですけどー!」


 後から遅れてやって来たカレアが目を輝かせて近寄ってきた。


 「あーもう良いから。早くしないと遅れるぞ!」


 ルゥがカレアを遮り、校舎へと促す。

 物言いたげなカレアだったが、遅刻しては元も子もないと、先を急いだ。


*****


 学園敷地内の一角に、よく手入れされた庭園がある。

 そこには芝生が敷き詰められたスペースがあり、昼休みになると変温動物系の『ギフト』保持者が日向ぼっこする憩いの場になっていた。

 人の形のまま、ベンチに座っている者もいれば、ワニやイグアナの姿で寝転がっている者もいる。

 ━━その様子が見える、近くの花壇で。

 ナラは花に水遣りをしていた。


 「こっちも終わったよー」

 「助かるよ」

 

 別の花壇に水を遣っていたエメが一仕事終え、近寄ってきた。

 

 「というか、クラスで花育ててるとか、珍しいねー。庭師も園芸部もあるのに」


 水で潤った花びらを、かがんでまじまじと見つめながらエメは言った。


 「『花まつり』っていうこの国でも大きな祭りがあるんだけど。そのお祭りで、お供えする花を各クラスで育ててるんだよ」

 

 ナラは続けて、カレアが所属している歌唱部でも、祭りで披露する歌を今練習してると説明すると、「へぇー」とエメは答えた。


 「それはそうと……手伝ってくれるのはありがたいけど、私とずっと一緒じゃなくて良いんじゃないの?他の人達とも仲良くなってるんだし……」


 ふと、ナラが思っていたことをこぼした。

 クラスの中でも、そこそこ話している相手がいるのを目にすると、四六時中自分と一緒じゃなくてもいいのでは、と感じてしまう。

 それにエメは最初、目をぱちぱちとさせていたが、やがて穏やかな微笑みを浮かべた。


 「確かに、他の子達とも話すようになったけどね」


 少し間を持って、エメはまた口を開いた。


 「ボクはナラと過ごす時間が好きだから、一緒にいるんだよ」


 心地良いんだ、と目を細めるエメの髪を涼やかな風がさらう。

 ナラは固まってしまった。

 何と言っていいか分からずにいると、エメは


 「ボクがただ、そう思ってるだけだから。ナラは何も意識しないで良いよ」


 と、笑うばかりだった。

 


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