三十九話 狩人、試験に挑む 其の拾伍
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「オッス、帰って来たぞ」
あまりにも自然な流れでWDG本部に帰って来たジーク・ヴァン・オルステッドに事務総長の椅子に座りながら、作業に追われていた久遠寺永遠は目を丸くした。
「ジーク?! え、あ、いや、え?! ゴホン、ジーク・ヴァン・アルステッド事務総長殿。急のご帰還、何用で?」
「永遠、そんなにかしこまんなくて良いぞ。ちょっと資料集めに帰っただけでな。明日にはまた、【迷宮】内に戻るし」
「そ、うなんだ。あ、いや、そうなんですね」
永遠がその言葉を聞いて、少ししょんぼりした。それに対して、ジークはそうなる事を察知していたのか、優しい笑みを浮かべて、頭に手を置き、ポンポンと撫でた。
「三次試験、俺が面接するから。それが終わった後なら時間が確実に空いてる。少しだけだが、お茶でも行かないか?」
永遠はその言葉を聞き、パッと表情が明るくなり、それに嬉しそう応えた。
「も、もちろん! 仕事、すぐ終わらせる! えへへへ、そっか、ふふ!」
普段の永遠とは比べ物にならないほど、嬉しそうな表情を浮かべるとジークもまた、同様に微笑むのだった。
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二次試験終了より、1日が経過し、合格者6人はWDG本部の一室に呼ばれるとそこでアルマンダインから最後の試験内容が告げられた。
「三次試験は面接だ。面接官はWDG事務総長ジーク・ヴァン・オルステッド殿が行う。1人1人呼んで行くから、呼ばれたら部屋に入れ。最初はゴトー・ミキヤだ」
「ッ、はい!」
ゴトーは最初に呼ばれると緊張しながらも以前とは違い、堂々とした足取りで部屋へと踏み込んで行った。
その部屋は少し広めの訓練場の様な場所であり、その真ん中にジーク・ヴァン・オルステッドは立っていた。
ジークの立っている場所には空間が歪む様な気配が見え、一歩でも近づけば押し潰されてしまいそうな死の空気をわざと出していた。
(面接って聞いたから座ってやるのかと思ったけど、もしかして、これ戦う感じか?!)
ゴトーはすくみそうになる足を何とか、奮い立たせると一歩ずつ前進させた。
以前のゴトーでは踏み込めなかったであろう一歩を彼は二次試験でツカサと過ごしたことで踏み込める勇気が生まれており、ジークの目の前に立った。
一歩前進する毎に死の神を前にするかの様な圧、それをただそこに立っているだけで全てを圧倒するかの様な力を見せつけるもゴトーは彼に向かってお辞儀をした。
「本日は、よろしくお願いします!」
60度のお辞儀はあまりにもなった所作に美しさすら感じるがそれに対してジークは笑いながら口を開く。
「ゴトー・ミキヤ、万年準一級なんて呼ばれるが【探索者】としてキャリアも長いベテラン。俺の知ってるゴトー・ミキヤはこの圧を感じ取れば、踏み出せずに立ち尽くしてしまう筈だった。よく踏み込んだ」
「あり、がとうございます?」
「うん、面接って言っても俺は別にそこまで面倒な事はしない。合格だ」
「…え?」
ゴトーは下げていた頭をガバッとあげ、目を点にするとジークはそれにニコッと微笑み返した。
「い、いや、面接は?」
「お前への面接は俺の圧に耐え切れるかどうか。元々、お前は実力共に一級に遜色無かった。足りなかったのは一歩を踏み出す勇気と恐れを跳ね返す胆力。今のお前はそれを示した。合格、別室に進め。そこで他の奴らを堂々と待っておけ」
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「次、アベル・パティンソン」
「うむ、さて、頑張るかな」
次に呼ばれたアベルが立ち上がり、部屋に入ると先ほど同様にジークが彼を待っていた。
(あれがWDG事務総長であり、原初の刃のリーダー、【竜皇】ジーク・ヴァン・アルステッドか。6人の特級【探索者】の中でも随一の戦闘力を誇ると聞いていたが。なるほど、ワシでは勝てないな)
アベルは部屋に立って早々、ジークが持つ底知れなさを理解し、勝つ事を諦めた。
「アベル・パティンソン、年長【探索者】でありながら、五年の間で準一級【探索者】にまで上り詰めた賢老。俺を見て、何を思った?」
「ふむ、勝てない。そう悟った」
「なるほど、なら、俺と戦えないってことか?」
ジークはそう言うと彼は剣を握り締めるとアベルは杖を構え、声を上げた。
「勝てない、と言う事実を知った。だが、戦えないとは思わない。どうせ、長く無い命だ。ここでやるなら全力を尽くす」
アベルの目には炎が宿っており、それは歳を取っても尚、衰えない力強さをジークは感じた途端、剣から手を離した。
「普通は、勝てないって思った時点で戦わない選択肢が浮かぶはずなのに、あんたの目からそれを選ぶなら死んでやるって覚悟が見れた。イカれてんな、そう言う奴は大好きだ。合格、次」
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「次、シルバ・ドラニアス」
「はーい」
シルバは呼ばれると伸びりと立ち上がり、部屋へと進んで行った。
部屋に入るとシルバは立っているジークを見て、彼が自分の天敵であると理解し、少し距離をおいた。そんなシルバの姿をジークは見て、笑いながら喋りかける。
「シルバ・ドラニアス。俺との距離感を分かってるな。その身構えと危機感知能力、三級【探索者】でありながらここまで来れたのは納得が行く」
「ん、ウィンのおかげだよ。私は何もしてないから落とされても良いよ」
「ははは!!!! 大した胆力だな! じゃあ、何で一級【探索者】試験を受けた?」
ジークの問いにシルバはハッキリと応えた。
「面白いから。一級になった方が、ウィンともっと面白い【探索】ができると思ってるから」
「面白い、か。良いね、最高だ。なら、これからはもっと面白い旅が出来るかもな。合格だ。次」
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「次、メーガス・モリガン」
「それでは先に参りますね。ウィンドベル様、ツカサ様」
2人にメーガスはお辞儀をし、部屋に入るとジークを前にして、メーガスは彼の心音に耳を傾けた。
(初めましてだな。ジーク・ヴァン・アルステッドだ)
(まぁ、この人、心音で挨拶して来た。面白い方ですね)
メーガスは予想外の方向で、自身の能力に反応を示した事に驚くと一方のジークは気にせず、口を開く。
「メーガス・モリガン。二級【探索者】の中でも指折りの実力者。俺を前にして何を思った?」
「そうですね。優しいですかね」
「あはは! 俺を前にして、優しいなんて言う奴、知り合い以外だともう居ないぞ。合格だ。次」
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「次、ウィンドベル・ヴォーダイン」
「最後、任せたよ、ツカサさん」
ウィンドベルは背を向けながら手を振るとその部屋の中に踏み込んだ。部屋の中心に居るジークに、ウィンドベルは彼の発する圧をモノともせず、目の前に立った。
「君の姉、ヴァルキュリア・ヴォーダインとは仲良くさせてもらってる」
「ああ、そうですか。姉がお世話になってます」
ジークが姉を出しても気にも留めず、ウィンドベルは動じなかった。
「ウィンドベル・ヴォーダイン、二級【探索者】でありながら基本的に戦闘での活躍はしない。【英雄の末裔】でありながら、その血が薄い。なぁ、ウィンドベル、お前はそれらの言葉に何を思う? 何を感じる? 応えてくれ」
ジークはそう言うとウィンドベルがどう出るかを待った。怒りを示すのか、それともそれらを認めるのか、彼が何を出すのかをジークは自身の【個性】で未来を見ずに尋ねた。
「そんなん、どうでも良いよ。英雄の血筋、落ちこぼれの弟、他人の評価ってのはたしかに俺の価値を決める。だが、それはそれだ。俺は俺の道を行くだけ。あんたも自分の道を進んだからこそ、そこに立っているんだろう?」
ウィンドベルの答えに、ジークは笑うと再び口を開く。
「なら、その英雄の力は何のために使う? その英雄の末裔として、何の義務を果たすためにここに立とうとする?」
「んだよ、ジークさん。あんた意外とおもんないな。俺はこの力を俺のために使うって決めたんだよ。英雄なんてもんには憧れないし、俺には果たす義務もない。なら、俺は最後までこの力を俺の目的を果たすために利己的に使うだけさ」
「そうか、ウィンドベル・ヴォーダイン。お前はそう言いながら二次試験で全員を活かすためにその力を使っていた。その矛盾を背負いながら、前に進むんだな。合格だ。すまんな、ウィンドベル、意地悪い事をした」
「いいよ、あんた、そう言うの向いてなさそうだって思ってたからな」
ジークが謝るもウィンドベルはそれを気にせず、合格者の集う、部屋へと歩き出した。
「さて、最後の受験者か。次、呼んでくれ」
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「最後、ホシナミ・ツカサ」
「儂が最後か! さて、行こうか!」
一級【探索者】三次試験、ツカサの最後の試験が始まる。
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