十五話 狩人、二階層に挑む 其の肆
ツカサが二階層に来て、十日が経った頃、それは唐突に訪れた。普段通りにワイヤーによる移動と狩りを行っていたツカサであったがその日、とある視線を感じた。
(ふむ? 何だ今の視線は。儂に視線を向けたと思いきや、一瞬にして興味を失った?)
視線の方向に行き先を変え、ワイヤー飛ばし、駆け付けるもそこには何も無かった。
いや、何かが不自然に抜け落ちたと言うのが正しい程にそこに居た生命も気配も何もかもが消失していた。
「視線すらも不自然に消えるとは、一体どんな奴が儂を見ていたんだ?」
ツカサはそう呟くとその顔は笑みを溢していた。自身を欺く程の何かが確実にこの階層にはいる事が分かり、どんな者なのか、自身に向けた視線の意味は何なのか、それら全てに興味が唆られた。
「狩りてえなぁ、もっともっと狩りてえなぁ」
そんなツカサを遥かに彼方の空中にて眺める者がいた。
それは先程、ツカサを見ていた眼と全く同じであり、その中に含まれるのは彼だけではなく、目に映る全てに対しての嫌悪があった。
「ふん」
ナチュラルピンクの色をした長い髪を一本の三つ編みで纏め、笠で顔を隠したそれはそう一言残し、姿を消した。
それに気付くことなく、ツカサは自身が住まう【安置】へと戻った。
すし屋東にて、ツカサは今日の【狩り】で得た物をバサラに見せていた。
「蜥蜴人ばかりだと思いきや、犬人までいるとはな! コイツらは群れで行動するから【狩り】が捗る限りだ!」
ツカサは蜥蜴人と犬人の牙を二階層で拾った樹脂で交互に接着し、まきびしを作っていた。
「すごいな! ツカサ! 普通は慣れていないと倒した魔物なんて解体しないぞ」
「それは何故だ? 儂達は皆、命を食らって生きている。それは【狩り】とも呼べる行為であろう? 生きることとはそれだけでも【狩り】を成立させると思うんだがな」
「ガハハ! その意見いいな! ツカサ、お前のその考えいい意味で古典的で人間的な思考だ。昔はな、生きるってのは蓋然的で生きることに必死だったんだ。でも、今は違う。生きるってのは必然で必然の中で必死になっている。そんな中で、古典的な部分、自分が命を頂いているって感覚が薄れちまってんだな。まぁ、迷宮が出てきてから少し変わった気もするけどな!」
バサラはそう言うとツカサから貰っていた幻狼の肉を炙り、寿司にした物を取り出してきた。
「そんな訳で試食頼むわ! 最近流行りの肉寿司って奴でよ! 食べてみてくれ!」
「ほう! それでは頂こう!」
ツカサは現在、すし屋東を寝床にしながら【狩り】を行っている。すし屋東は店として機能するほどに整備が整っており、ネタケースには冷蔵が効き、二階の住居スペースには風呂や、ベット、ましてやテレビすらあると言う始末。
ツカサはそれら全てに興味を示すとバサラに一通り操作を教えてもらい、現代が持つ利器を使いこなしていた。
「ふむ、儂は普通のすしの方が好きだな。肉と酢めしは確かに合うし、この上にかかっているタレも悪くない。だが、やはり、寿司は魚を乗せて食べるのが一番、儂はそう感じた」
「なるほどなー、ツカサには合わなかったかー。まぁ、これはこれで美味いからちょくちょく置いて改造してくかなー。そうそう、ツカサ、明日の【狩り】に行くなら気をつけて欲しいことがあってな」
包丁を拭き、肉を切るのをバサラが止めるとツカサもそれを聞くために身を整えた。
「ふむ、なんだ?」
「明日、【百年軍隊】と過激派一派で小競り合いが起きそうだ。もし、戦闘が行われていた際は近づくんじゃねえぞ」
バサラの警告に対して、ツカサは元気よく応える。
「了承、心得た!」
そう言うとツカサは自身の得物と【狩り】で得た戦利品達を抱え、二階へと上がって行くのであった。
***
【百年軍隊】、それは【副都心迷宮新宿】が【魔境】と呼ばれ始めた頃、最も早くこの階層に到着した大国の軍隊である。
WDG発足直後であったが、それよりも少し早いタイミングで【迷宮】に挑み、【開拓】を掲げ、多くの物を代償にしながらも、最も早く二階層の踏破と三階層への道を作り出した経歴を持つ。
大国が持つ軍事力を万全に使い込み、三階層すらも踏破も余裕と考えたその時、【魔境】の洗礼を受けた。三階層に潜った物達は一人を除いて殲滅、二階層に留まっていた者達はそれ以降、三階層に潜ろうとせず、二階層での【領地】を主張するようになった。
それは自らの栄光を守る様に。
一方の過激派は個人の武力による反発を繰り広げた。WDGに所属してはいるが彼らはWDG迷宮探索規違反ギリギリのことをばかりを行いながら個人での力で正規軍を負かせたいという理由で【百年軍隊】と対立していた。
そんな彼らが数ヶ月に一度、大規模な【安置】争奪戦を行う日、それが今日であった。
樹海の中を動き回る多くの影はいつ誰がその一歩を踏み切るかを今か、今かとその時間が訪れることを待ち望んでいる。ツカサは偶々それらを目撃すると自分から首を突っ込むことは無く、遠ざかろうとした。
"ゾクリ"と言う音が鳴ったかの様な死が自身をいや、そこにいる人間に対して目を向けたことにツカサはその場にいる誰よりも早く気付いた。
"パァン"と甲高い銃声が鳴り響いた瞬間、それを開戦の合図と受け取った者達が一斉に自らの得物を振るうためにかけようとしたその時、彼らの上空から檻が落とされた。
その場にいる人間全てを死が包み込む様に抱擁するとその檻の主人は短く呟いた。
「因果消失」
その一言で檻の上空には光が集まり、それはその場の人間全てに降り注がれようとする。
そんなことを二勢力は知る由もないし、知ろうともしなかった。何故なら目の前にいる敵を、【安置】を取ることだけに目を向け、自分達に降り注がれようとする災いに目を向けようとする余裕などある訳がなかった。
たった一人、狩人を除いては。
ウェブシューターから放たれたナイフが空を浮く、檻の主人の肩に突き刺さるとそれを頼りに彼に飛び付き、首元に一閃。
ナイフが檻の主人の首を切り裂くもそれは直ぐにくっつくと自身の首を切り裂いた者へと目を向けた。
一瞬、紅の双眸が檻の主人を捉えた瞬間、体にはいつの間にかワイヤーが引っ掛けられており、狩人が落下すると同時にそれによって地面へと叩きつけられた。
地面に叩きつけられた振動により、砂煙が立つとそれを切り裂く様に狩人は距離を詰め、手に握るナイフを振るう。
それに対して檻の主人は手に握る錫杖をぶつけると狩人は笑いながら声を上げた。
「儂の名前はホシナミ・ツカサ! 儂に殺意を向けたな! 狩猟は成立した! 始めよう! 儂とお前だけの狩りを!」
ツカサの言葉、檻の主人は応じることなく、睨みつけるとその様子を合成獣がカメラに捉えていた。
そして、配信のタイトルに変更を加えた。
『狩人、因果の信徒と相対する』
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