十三話 狩人、二階層に挑む 其の弐
ツカサは解体した蜥蜴人の牙などを取り出し、解体した肉を焼くために必要な【安置】を探していた。
「前に居た場所よりも見当たらないな。休む場所を見つけなければ、今後の【狩り】に支障が出るから早めに見つけたいのだが、困ったな」
ツカサが辺りを見回す最中、彼の紅の双眸は小屋のような物を発見した。だが、その小屋は明らかに異様であり、大きな木の板が屋根に置かれており、大きな文字が刻まれていた。
「すし屋? 東?」
本来のツカサであればそんな怪しげな場所に足を踏み入れようなんて事は考えない。だが、今、近くにある【安置】とも呼べる場所はそこしか無く、覚悟を決めてその戸を開いた。
「たのもー!」
戸の開け方を何と無く理解して、横にずらして開くとそこには見たこともない光景が広がっていた。
見たこともない肉をネタケースに並べ、カウンターテーブルを挟んで真っ黒な板前法被に身を包んだ大男が立っており、異様な雰囲気を醸し出していた。
頭に黒い和帽子を被り、白髪混じりの髪を短く整えた筋骨隆々の大男を前にして、ツカサは初めて視線に身震いした。
その視線は忌諱などではない、純粋なまでに研ぎ澄まされた善意。
ツカサは本能的に戸を閉じ、その場を なら離れようとするも戸が再び開き、大男が彼を見ていた。大男と目が合うとツカサに近寄り始め、彼は本能的にこの人間は根本が違うと感じ、逃走を試みた。
次の瞬間、ツカサの腕はいつの間にか大男に掴まれており、彼はここに来て初めて動揺する。
(速い?! と言うよりもこの男、善意だけで行動していて、全く動きが読めない?!)
ツカサは自身の行動を止める程の力と一瞬にして目の前に現れた存在を分析しようとするもののそれをかき消すかの様に大男は叫んだ。
「寿司、作らせろー!!!!」
「?!」
「坊主! よく来たな! ここは二階層中立【安置】すし屋東だ! てな訳で寿司作らせろ!」
「い、いや、儂はそのすし? と言うのは知らないぞ」
「なーんだ! 寿司食べたことねえんだな! ガハハ! ならよし! お前の寿司童貞、俺によこせ! 鯖寿司な夢見せてやる! なーんちゃって! ガハハ!」
人の話を一切聞かない大男に引き摺られ、ツカサはすし屋東への強制入店が決定した。
***
「改めて、らっしゃい!!!! 【探検者】さんよ! 何握ろうか?」
ツカサは無理矢理カウンターテーブルの席に座らされるとメニュー表を手渡される。
(何を握る、何かを握るのか? 何をだ? と言うよりもこの男、相当に強いな)
ツカサは大男に敵意が無さ過ぎることで、獲物と認識が出来ず、【狩り】に移行出来なくなっていた。
「お客さん初めてだったな! それなら俺のお任せ寿司にしちゃうぞ!」
「ん、ああ、それではそれにしたい」
「お、お目が高いねぇ! 承知! 大将! おまかせ一丁! 大将はお前だろう? そうだった! ガハハ!!!!」
異常に高いテンションにツカサは戸惑い続けていたものの、大男が木に納まっていた巨大な包丁を取り出した瞬間、それは一瞬にして止まった。
「それは遺物と呼ぶ物か?」
ツカサが遺物であるかを問いた途端、男の手は止まり、空気が変わった。
「お客さん、いい眼だな。そうだよ、これは遺物さ。見たことでもあったんかい?」
空気が変わったがそこには敵意はなく、未だに善意のみで大男が問いかけるとツサカも正直に答えた。
「風雅と狩った時にな」
「風雅? 風雅ってあの三日月風雅か? ガハハ! 面白え男だ。お前さん名前は、なんて言うんだい?」
「ツカサ、ホシナミ・ツカサだ」
「ツカサってのか! 良い名前だな。俺の名前は東バサラってんだ! 風雅の知り合いってなら、話が弾みそうだな。今、お前に良いもん食わせてやるからよ!」
バサラはそう言うと木に納まっていた包丁、いや、遺物を取り出した。
木箱から出されたのは90cm程の刀身で、荒波によって生まれた渦潮の様な紋様が刻まれ、木製の柄を纏う、おろし包丁の形をした
【遺物】。
――――――名を【怒涛渦】。
本来であればこの場で使用する事などはあり得る筈のない遺物をバサラは使い熟す。見たこともない生物の肉を絶妙な薄さでスライスすると酸っぱい香りが立つ米を少しと緑色の何かを掌に乗せ、それらを合わせて握った。
(これは凄いな。すしというのはよく分からないが、このバサラと言う男がどれ程、このすしという物に全てを費やして来たのかよく分かる。【遺物】から断たれた肉、一切切られた事を分かっていない、肉が生きているかの様。そして、あの剛腕からは信じられないほどの繊細な手捌き。一体、何が出来るんだ!)
ツカサはついさっきまでは無理矢理連れて来れられた事に戸惑いが見えていたが、今は、バサラの魅せる技の数々に惹かれて、彼が寿司を握るのを眺めていた。
「お待ち! これがおまかせ5貫盛りだ! 醤油はそこに置いてあるからな、小皿に入れて食ってくれ!」
バサラは見たこともない皿の上に五つのネタを載せた小さい握り飯をツカサに渡すと彼は目を輝かせながら尋ねた。
「バサラ、これは何の肉だ!?」
「右から白いのが魔王烏賊の握り、青とピンクの色をしたのが小青の握り、そんで炙ってあるのが大鯰の蒲焼の握り、その横が大鮭の魚卵の軍貫、そんで、最後に赤いのが影鰐の握りだ!」
「ほう! 幾つか聞いたことがあるな! 生では食べたことはない! して、どうやって食べれば?」
「箸が使えないのか? なら、手で食べろ! 醤油を少し小皿に垂らして、つけて食べろ!」
ツカサは言われた通りに小皿に醤油を注ぎ、小青の握りを手にして、それに少しだけつけて、口に運んだ。
ツカサにとって"未知"とは学ぶ物であり、蓄える物であった。故に、一切の躊躇いなく、異郷の物を口に放り込む。
ツカサの口に入った瞬間、口内で弾けたのはコクのある塩気と少しの酸味と鼻を刺すような辛味、そして、魔物が持つ脂の甘味、それらが一気に押し寄せ、彼はその旨みの爆発に目を丸くした。
「何だ! これは!!!!」
「ガハハ! いい反応するねぇ。そんなに美味かったかい?」
「初めてだ! 美味い! 美味すぎる! バサラ! こんな衝撃は儂が樹海で死にかけた時に食べた焼き魚以来だ!」
先ほどまで解かれていなかったバサラはの警戒を全て解き、ツカサは一心不乱に寿司を口に運ぶ。あまりの美味しさに一瞬にして5貫の寿司はなくなるとバサラは既に次の皿を準備していた。
「ほら、次も食べるだろ?」
「勿論!」
バサラの寿司を50貫近くを頬張り、ツカサは満足したのか両手を合わせると自身をもてなしてくれた彼と自分の肉となり、地となった食材達に感謝をした。
「いいっ食いっぷりだ。俺も久々に寿司を握れてようやく"寿司欲"を満たせた」
"寿司欲"とは? とツカサは考えるもそれを敢えて突っ込まず、続けてバサラに頭を下げた。
「美味い飯を食べさせてもらって感謝する」
「ガハハ! 良いってことよ! お互い満たされたし、少しお喋りでもしようや」
「ふむ、と言うと?」
ツカサが頭を傾げるとバサラは先ほどとは打って変わって冷静な口調で答えた。
「お前さんに二階層の現状について、教えておかなきゃ行けない」
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