第24話 何でもする
期末テストまで気づけば一週間を切っていた。
しかし最近は色々ありすぎて、勉強は全く捗っていない。
「終わった」
絶望感に打ちのめされていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫なわけねえだろ。赤点かも」
俺は机に突っ伏して、あからさまに落ち込む。
「仕方ねえ⋯⋯ いや無理だ」
「死ねよ」
何だこいつ。助け舟出す雰囲気だったろうが。
「まあ、その何だ。夜桜さんにでも教えてもらうといいさ」
「おい、悠斗。裏切る気か」
悠斗の助け舟が港に到着する前に、沈んだ。
しかし、助けてくれないのは珍しいな。
(何かあったのか? 妹関連か?)
そういや、白鷺美月に巻き込まれて、悠斗との買い物途中で放り投げてしまったが、あの日から少し様子がおかしい気もする。
「いや、今はテストが先だ」
俺はこの一週間で赤点回避を成し遂げる為、あの女に頭を下げるのであった。
────
「君が頭を下げるなんて珍しいね。今日は酸性雨でも降りそうだね」
「そこまで珍しくねえだろ⋯⋯ 多分」
昼休み、いつもの屋上で二人きりで過ごす俺と紫苑。
相変わらず美味しそうな手作り弁当だ。自分で作ってるのか?
「で、どうなんだよ。見てくれるのか?」
「見返りが必要かなー。勿論それ相応のね」
ニヤニヤしながら、悪魔の笑みを浮かべる夜桜紫苑。だがこいつ以外に頼れる人はいない。
「俺にできる事なら、何でもする」
「え!?」
突然固まる紫苑。急にどうしたんだこいつ?
「本当に、何でもするの!?」
「勿論、出来る事なら」
今更引き下がれない。赤点回避が最優先だ。
「それなら見てあげよう。一週間後が楽しみだね朔夜君」
「た、助かる」
嫌な予感はひしひしと感じるが、選択肢はこれ以外ない。
覚悟を決めるしかない。
「じゃ、早速放課後君の家に行こうか」
「真面目に頼むぞ」
「流石にふざけたりしないよ。約束がかかってるからね」
いつになく真剣な瞳の紫苑。
頼もしさ半分、恐ろしさ半分と言ったところか。
「ちなみにどの教科?」
「副教科と国語は大丈夫。それ以外を」
「事情は把握したよワトソン君」
「誰がワトソンだよ。そもそもいつから探偵になったんだお前?」
急なボケに対応するのが疲れる。
「頼んでおいて何だが、生徒会長の仕事大丈夫か?」
「問題ないよ。前倒しで終わらせてるから。簡単な仕事は副会長に任せてるし」
「そうか、ならいいんだが」
そう言えばこいつ、めちゃくちゃ優秀だった。
普段の素の性格のせいで、すっかり優秀さを忘れてた。
「じゃあ、よろしく頼む」
「任せてよ」
可愛らしいウインクで、右親指を綺麗に立てる。
それは紫苑の自信満々の現れであった。
放課後──二人きりで勉強が静かに始まる。
「最小値はこう。最大値はこんな感じ」
何て分かりやすい教え方。
正直舐めてたぜ。
「平方完成は覚えてる?」
「y = a(x - p)² + qの形にするやつだろ」
「大丈夫そうだね」
気づけば紫苑に勉強を見てもらって3時間以上が経過していた。アラームがテーブルの上で鳴り響く。
「数学は多分何とかなるよ。英語と理科も教えた感じ大丈夫そうかな。取り敢えず復習忘れずにね朔夜君」
「ありがとな。もう帰るのか?」
余りにもあっさりしすぎてて、つい引き止めてしまった。
しかし紫苑は真顔で予想外の返答をする。
「帰るよ。約束が最優先だからね」
どうやらテスト期間中は余計な事をするつもりはないようだ。
いつになく真剣である。
「いつもの私なら、泊まっていくと思った?」
「いや、そこまでは」
「赤点だと夏休みも補習になるからね。それはこちらとしても困るんだよね」
そう言えば夏休み連絡するとか言ってたような。
そっちが本音か。
「後6日頑張ろうね朔夜君」
そう言って帰って行く紫苑。
「まっ、期待に応えるとするか」
紫苑が帰った後も必死に勉強を続ける俺であった。
そして、気づけばあっという間に、期末テストの日が幕を開ける。




