第8章 英雄であり魔王であり
魔王城の謁見の間の玉座に座る倉間大和。彼は今思い出していた。クライカードは元々幸福に困窮している者が使う証明として機能していた。そして救わなくてはいけない象徴として機能していた。
そのカードを魔王も使っていた。そして今は大和も使っている。
魔王城へと客人がやってきた。女神フリイヤと戦闘の神トオルである。久しぶりの女神の顔を見て安心感を覚える大和だった。
「……フリイヤ」
「久しぶりね、大和」
フリイヤとトオルは大和を救いに来たのだった。
「あなたの今の現状。つらいことでしょう。今から私たちは王国へ行って貴族たちと話をつけてきます。クライカードを作り続けること、そして権限の独占のため攻撃を仕掛けること。大和、あなたの貴族反逆の国家転覆の罪のことも。話し合いの実現のためにもあなたにはクライカードを使用することを制限します。いいですね大和。もうクライカードを使わないでください」
玉座の裏にいた女悪魔リーリが現れ「えーつまんなーい」と声をあげる。
「分かっていると思いますが、クライカードは悪魔の力です。その悪魔に魅入られているのもクライカードをあなたが使うからです。使わなくなれば自然と放れていくでしょう」
大和は首を縦に振る。
「分かった。ありがとう。助けに来てくれて」
大和は女神フレイヤから洗礼を受け光を浴び浄化されるのだった。
〇
馬車で王国へと向かうフリイヤとトオルの出発を魔王城から大和とタートルとホエールは見守った。
大和は一人呟く。
「みんなで冒険していた時は楽しかったな」
タートルも「そうですね」と言う。
「タートル。俺は魔王じゃない。敬語じゃなくていい。逆に困る」
「そうかもしれないな」
「タートル。魔王はずっと一人で俺が感じた苦しみを背負っていたのかもしれないな」
「魔王様は一人で背負いすぎる方だったから」
見送りが終わると大和は玉座の前であぐらをかいて座りデッキのカードを広げた。その様子を観察している女悪魔リーリが「えークライカード取っちゃうの? 寂しいー」と嘆く。
「お前が神聖な力に変われたならきっとまたご縁があるさ」
「それは遠慮しておきます」
リーリは神聖な力を持つ者に転生するのはごめんのようだ。
王国とのやり取りも神界の神々が対応してくれているようでなんとかなりそうだ。大和もクライカードを手放しこれで一件落着だ。
リーリは大和に問う。
「そんなに簡単にうまくいくと思っているの? 人間の欲とはそんな簡単なものじゃないと思うけど」
「フリイヤの洗礼を受ければ誰だってクライカードの執着はなくなるさ」
「ふーん」
〇
解決までは時間の問題かと思われたところ、一人魔王城へとやってくる者がいた。貴族の者でクライカード生産工場の責任者である。
その者がやってきた理由は当然クライカードが絡んでいる。タートルはメイドたちにその者を通し謁見の間へ案内するよう指示した。
謁見の間へとたどり着いた貴族の者は魔王代理として玉座に座る倉間大和を見て頭を下げた。魔王の位置に座る者に対しても敬意があるようだ。
「話を伺おうか?」
「ぜひ聞いてもらいたいのですが」
今度はクライカード生産工場で働く者たちのことだった。クライカードを作って生活している者がいる。故にこのままだと仕事を失って生活ができなくなる者が出てくるというのだ。
大和は思った。……こんなところまでクライカードの影響があるのかと。
「そして、セイントカードの生産に変更しようという案が出ているのですが」
セイントカードの製造にすればいい。それは単純な案だがそんな簡単な話ではなかった。需要と供給がある。作りすぎても売れなければ意味がないのだ。セイントカードもクライカードもそのバランスによって販売されていた。
「だがクライカードを作り続けるわけにはいかない。女神フリイヤ、戦闘の神トオルにも忠告されただろう」
クライカードを手放すとは作ることすらなくしていくということ。作るという依存も手放していかないといけない。
〇
世の中はよくなっていくだろうか。大和はまた玉座の前であぐらをかきセイントカードのデッキを広げて眺めながら考えていた。これから世間ではカードゲームもセイントカードのみとなる。クライカードを見る機会もなくなっていくだろう。
大和は思った。また旅をしようと。女神フリイヤとタートルとホエールで。また楽しい時間がやってくる。
立ち上がりタートルに提案するため魔王城を歩き回る大和。魔王城にはドラゴンの尻尾が生えた悪魔のメイドたちがいて、そのメイドたちにタートルの居場所を聞く。現在タートルはバルコニーにいるらしい。
バルコニーへ出るとそこには物憂げに浸るタートルの姿があった。
「クライカードによって争う必要はもうないんだ。自由気ままに旅をして物珍しいクライカード使っている人がいたらデュエルして洗礼をしていくんだ。以前のように旅をしようよ」
タートルは「楽しそうだな」と呟いた。
「だが申し訳ない。僕にはもう時間がないかもしれない」
「え?」
大和は時間がないというワードに冷や汗を流す。
「何が、時間がないんだ?」
「僕は天使といったけど、天使みたいなもので実際の天使とはまた違うんだ。天使の模造品みたいなものかな。天使は神の使いだから僕は本物の天使じゃない」
「どういうことだよ。それと時間がないって何が関係しているんだ?」
「クライカードが悪魔の力、セイントカードが女神や聖女の神聖な力、そして僕は魔王様の力によって存在している。つまり僕は魔王様によって天使として召喚された、そういう転生者の身分なんだ」
魔王に召喚された存在。だが大和自身もそうだ。女神フリイヤに異世界に召喚された存在。似たような存在だったのだ。
「魔王様はもういない僕もいつまでここにいられるか分からない。そしてここにいるみんな同じことさ」
黒騎士たちや悪魔のメイドたち。それは即ち異世界転生させられた存在だった。悪魔たちも元は人間だった可能性が高い。
「僕のように役職が天使の者もいる。そしておそらく悪魔も役職さ。僕たちは魔王様によって転生された者。でも、魔王様の力は魔王様が亡くられたことで失ってしまった。もしかしたら元の世界に戻ることになるかもしれない」
確かに白い召喚板も女神の力や聖女や天使の力で召喚される。その力がなければ召喚できない。実体化ができないのだ。
「俺が、魔王を倒したから……」
タートルは「気に病まないでほしい」と伝える。
「一緒に旅ができて楽しかったのは僕も同じさ」
〇
玉座の前で再びあぐらをかいてデッキを広げる大和。また大和の手元にはクライカードがあった。じっくり一人で考える。
……やはり俺が魔王になるしかない。
魔王になればここにいるみんな消えなくて済む。天涯孤独のつらい元の現実に戻されることもない。尻尾を振りながらリーリが寄ってきてご機嫌よさそうにあぐらをかく大和に背中から優しく抱きしめる。
「あたしたちのことまで考えてくれているのー? いやーだ。ちょーうれしい!」
「みんないろんな事情があると思うから。君もね」
「あーやだ。惚れちゃう。社員を想う新社長さんみたいな感じ」
社長だったらどんなに良かったことか。
デッキを組み直す大和にホエールも近づいてきた。
「魔王になるの?」
「魔王に、……なるのかな?」
魔王になるとすればクライカードとも関わらないわけにもいかないかもしれない。現状の王国との関係を思えば、できるならば使わないことが好ましい。
もし大和がクライカードを使う立場になるようであれば、人間たちがクライカードを作らなくなった時、今度こそ王国から狙われる立場になるだろう。
クライカードは悪魔の力によって実体化する。セイントカードは神聖な力、女神や聖女、そして天使の力だろう。
クライカードのために悪魔を作ったのかそれとも。……いや違う。
「転生する際に役職が悪魔になってしまった者がいるんだ」
理解が追いついた大和は気づいた。だとしたら悪魔の存在意義のためにクライカードが作られたんだ。悪魔は人間にとって不利益で健康にもよくない影響を与える。
突如目頭が熱くなり手で拭うと赤い血が指にねっとりと付着した。
クライカードを手に取ってリーリが近くにいる影響か。
「クライカード関係ないとか言ったけど。……実際違うようだな、悪影響はある。にしてもこれは困った状況だ」
ホエールは心配して「大丈夫?」と聞いてくる。
「大丈夫だよ。ありがとうホエール」
ホエールも砂クジラの群れから追い出された存在だ。彼女の今の居場所はここしかない。みんな消えたらまた独りぼっちになってしまう。そんなことにならないためにも何とかしなければならない。
〇
王国に呼ばれた大和はある提案をされた。そこには女神フリイヤと戦闘の神トオルの姿も。なぜ呼ばれたかというとクライカードの生産工場でクライカードを作らない代わりにセイントカードを作ることとなり、その際に魔王を倒した勇者として販売プロモーションをしてほしいという内容だった。
つまりイベントなどに出席したりしてセイントカードの商品の需要価値を高めるために消費者の認知度を上げたり欲しくなるようにイメージをよくしてほしいということだ。
大和にとってそれは都合の良い提案であった。
大和はここまで話をまとめてくれた貴族たちや女神フリイヤと戦闘の神トオルに頭を下げてお礼を言った。
「ありがとうございます」
〇
クライカードの問題はこれで片付いたが、問題は魔王の力によって天使に転生し召喚されたタートルや悪魔たちや黒騎士たちのことで、もしかしたらこのままだと元の天涯孤独な転生前の世界に戻ってしまうかもしれないということ。
つまりやはり大和が二代目の魔王になるしかないということだ。
この問題を女神フリイヤにも相談した。
タートルたちは異世界から召喚されし存在。魔王の力によって転生し新しい命として生きながらえてきた存在。
大和はタートルたちに頼んで新世代魔王の儀式を準備させた。
〇
二代目魔王の時代がはじまる。
謁見の間の中心地に倉間大和が立ちその周りを紫色の炎が囲む。さらにこの様子を悪魔たちや黒騎士たち、そして女神フリイヤも見守っている。
ホエールは聖杯を持ってきてタートルはナイフと魔王の契約書を持ってきた。
タートルはナイフで手のひらを切るように指示し大和は言うとおりに手のひらをまっすぐにナイフの刃で切った。血があふれ出しその血を握る大和。
そのまま契約書に血の手形をつけるように指示するタートル。だがどこか踏ん切りがつかなさそうな顔をタートルはしていた。
「本当にいいんだね?」
「俺たちの仲だろ?」
「ありがとう」
契約書のど真ん中に手形を押す。さらにホエールから聖杯を受け取り、タートルに聖杯の中にある魔王の魔力を飲み干すように指示された。大和はゆっくりと飲み干した。
飲み干した聖杯をホエールに手渡し、口元の水滴を右手で拭う。
「これで、俺が魔王だ。みんなここにいていいんだ」
目が紫色に光り体の中から今まで感じたことがない力が湧いてくるのを感じる。
〇
ある町のセイントカードのイベントで現魔王であり元勇者の倉間大和が出席した。
このお方が魔王を倒した英雄の倉間大和だとイベントの司会者が紹介する。集まった人だかりは声援を送り盛大に大和を歓迎した。さらに手に持つのはセイントカードの束でありデッキ。魔王を倒したセイントカードのデッキだ。
司会者はマイクを持って声をあげる。
「それではやってもらいましょう!」
大和は白い召喚板を構え40枚のデッキを装填し、4枚のカードを引き抜いた。
「俺のターン!ドロー!」
カードを1枚引き抜くのと同時にエンジン音のような音が鳴り白い召喚板に装着された魔法石が回転する。
大和のファンからの声援があがる。
ジェスチャーで司会者がさらに何か召喚するように促す。
「俺は柴犬鎧まるいちを召喚!」
尻尾を振って嬉しそうに大和に駆け寄る柴犬鎧まるいち。
大和が二代目魔王になったことはみんな知りもしない。そして勇者だった彼の仕事に感銘を受けて集まるファンの人たち。きっと二代目魔王だということは一般の人には知られることはないのだろう。
「さらに柴犬鎧まるいちの能力発動。犬カードもしくはドッグカードを手札に加えるか召喚することができる。俺はセイントドッグガールを変幻召喚する」
白い召喚板に配置された柴犬鎧まるいちのカードの上にセイントドッグガールのカードを重ねて変幻召喚する。
柴犬鎧まるいちの体が光の粒子に変わり人の形となり犬の耳と尻尾が生えた美少女が現れる。
みなこのカードで魔王を倒したのだと盛り上がる。
「こい!――」
ファンも大和と声を揃えて「セイントドッグガール!」と唱える。
無事セイントカードの販売イベントは成功に至ったのであった。
セイントカード「勇者の伝説」という大和が使っていたデッキがそのまま商品化され、大和が握手したりサインをして消費者に売り渡していく。
〇
魔王の城ではタートルが旅の支度をして待っていた。そこには女神フリイヤの姿も。ホエールもいる。
「待たせたな」
フリイヤは「イベントは無事成功したうようね」と言う。
「本当におかげさまで」
ホエールも「旅に出るんだよね。4人で」と意気揚々に聞く。
「そうだな。いこうぜ!」
タートルは「待ってたよ」と大和の到着を待っていたことを伝える。
「お前らも来ればよかったのに。かなり盛り上がったんだぞ?」
勇者のふりをする仕事を見るのはみんな遠慮していたのだが、心配の必要はなかったらしい。大和の言う通りセイントカードのファンや勇者大和のファンがかなり集まっていた。
大和は提案する。行く前に一回デュエルしようというのだ。
タートルは肩の荷を下ろすようにやれやれといった具合で言う。
「君は好きだなあ、仕事でも休憩でも脳内カードなのだな」
「うるせえな。同じ穴のむじなだろ? 亀使いタートル」
勝負を受けるタートルは「いいだろう。やってみようか」と返す。
魔王城の前で今デュエルが始まる。
「いくぞ!」
「ああやろう!」
「「デュエル!!」」
おわり




