第6章 魔王の城
砂クジラの少女ホエールが仲間に加わったのはつい最近のことだが、魔王の城の近くまですでにやってきていた。
石造りの城が少し離れたところからでも確認できる。
魔王の配下であるタートルがいれば魔王のところまですんなり行けるという。まるで客人をもてなすかのようだ。
倉間大和は勇者となるために異世界グランドジービアへとやってきた。魔王と戦うためだ。話し合いで済むならば勇者なんていらないのかもしれないと魔王の城に向かいながら覚悟を決める。
女神フリイヤにも言われているように魔王は世界を救わなくてはいけない理由を作っている。それを止めなければいけない。
〇
巨大な城門の前に立つ大和とフリイヤとタートルとホエール。
タートルは目を瞑り何かをぶつぶつ唱えると城門が開いた。
城門の内側にはドラゴンの尻尾を生やしたメイドが立っており「ようこそおいでくださいました」とあいさつをした。後ろには黒騎士たちも並んでいる。
「魔王様と謁見を」
タートルによってスムーズに魔王に会うことができる。そういう手筈だった。
メイドに促されるように大和たちは魔王がいる謁見の間へとたどり着いた。魔王は鎧に身を包み巨大な角が生えておりどっしりと重そうな体を玉座に預けている。周りには尻尾を生やした悪魔メイドや黒騎士たちが立っていた。
「タートルご苦労だったな」
頭を下げるタートル。
「そしてそこにいる青年が勇者というわけか……」
勇者として頭を下げずに白い召喚板を構えて「あなたを倒しに来ました」と伝える。
「クライカードのせいで世界全体でみんな悲しい思いをしています。できることならば今すぐクライカードを作るのも配るのも止めてください」
「君はクライカードのせいだというんだね?」
「そうです」
魔王は「そうかそうか」と呟く。そしてさらに小さな声で「懐かしいな」と呟いた。
「では君は救いが必要な者をどうやって探す? 普通に生きているように見えたとしても心の闇は表に出ない限りは見えないのだ。クライカードはその証明となるのだ」
「でもそれが次の悲しみを生みます」
タートルとのやり取りのように話が噛み合わない部分がある。
「では質問です魔王よ。あなたはどうやって救っているのですか? クライカードを使っている者がいたとしてどうやって救っているのですか?」
魔王はどっしりと構えたまま答える。
「我が救ったのはそこにいるタートルもその一人。ここで働く悪魔のメイドたちもその通りだ。元は皆孤独だった人だ。人はなあ。居場所がないと生きていけないのだ。何かしらの理由で天涯孤独な者はたくさんいる。それを救うことが勇者にはできるのか?」
できるわけがない。カードゲームが得意で選ばれた勇者。ただそれだけの話なのだから。
「人はもっと強く生きていける。きっと」
魔王は首を横に振った。
「それは鬼の意思だ。つらいままで生きていけという鬼の意思となる」
ここで女神フリイヤが口を挟む。
「鬼はどっちよ。クライカードを使う人が増えて増えたらそのままのあなたが何を語れるの?」
深く息を吸い、ゆっくりと吐く動作をして大和は覚悟を決めた。
「デュエルだ。魔王よ」
〇
白い召喚板にデッキを装填すると自動でシャッフルが行われ装着された魔法石が光る。
もしカードゲームに勝てば魔王は浄化される。その時に一体何が起こるのか大和にもフリイヤにも分からない。だが、クライカードを利用して困窮した者を探すことに囚われているとしたならば、そこから自由になれるのかもしれない。
魔王も黒い召喚板を腕に装着し40枚のデッキを装填した。
「魔王、ここで負の連鎖を断つ!」
大和と魔王はお互いに初手の手札となるカードを4枚デッキから引き抜いた。
「「デュエル!!」」
※現在のデッキ枚数。魔王の手札36枚。大和の手札36枚。
先手は大和からとなる。
「俺のターン」
カードを1枚引き抜いてカードを白い召喚板に配置する。
「俺が召喚するのは柴犬鎧まるいち!」
コストの3枚がデッキから休憩エリア運ばれる。
※現在のデッキ枚数。魔王の手札36枚。大和の手札32枚。
「そしてさらに柴犬鎧まるいちの能力によりデッキから犬もしくはドッグカードを手札に加えるか召喚できる。俺はセイントドッグマンを変幻召喚!」
白い召喚板に配置された柴犬鎧まるいちの上にセイントドッグマンのカードを重ね変幻召喚。柴犬鎧まるいちは光の粒子となり犬の耳と尻尾が生えた美青年に変化した。柴犬鎧まるいちの能力によって変幻召喚のコストがまったくかからない。さらに変幻召喚されたセイントドッグマンは相手のカードの能力を一切引き受けない強力なカードだ。
魔王のターンがやってくる。
「我のターン」
魔王はデッキからカードを1枚引き抜いて短い思考をする。そして手札からカードが1枚選ばれ黒い召喚板に配置される。
「我はクライヘルプランツを召喚」
召喚され実体化したのは巨大な食虫植物のようだ。
「どういうことだ。植物。しかも巨大な」
見たことがないしかも植物のカードを前にして眉間に皺が寄る。
「お主が知らぬ世界の植物よ。異世界は無限にあるのだ」
クライヘルプランツのコストは2。
※現在のデッキ枚数。魔王の手札33枚。大和の手札32枚。
「クライヘルプランツで攻撃」
巨大な食虫植物のような植物から触手のようなつるが伸びセイントドッグマンに絡みつく。
「クライヘルプランツは攻撃する場合、相手のカードに装備される。そしてクライヘルプランツが装備されたカードは攻撃することも能力を使うこともできない」
「馬鹿な、セイントドッグマンは相手の能力をすべて受けつけない」
魔王は低いうなり声をあげ説明した。
「そう、ただの能力じゃない。これは装備されている時点で能力じゃなく装備カードとして機能する」
つまりクライヘルプランツは能力ではなく装備カードとして扱われていることとなっているらしい。ボーンソードを装備するのと同じ理屈がこの場合働いている。
「勇者よ。セイントドッグマンが最強だと思ったか?」
「いいや。一筋縄ではいかないとは思っていたさ」
そして戦闘を行っていないためセイントドッグマンのコスト8とクライヘルプランツのコスト2の差分の6枚が魔王のデッキから休憩エリアに運ばれることはない。
※現在のデッキ枚数。魔王の手札33枚。大和の手札32枚。
〇
再び大和のターンが回ってきた。
「俺のターン」
デッキからカードを1枚引き抜いて手札を見て次に何をするかを思考する。もし魔王のデッキ内容が相手のカードを無効化するカードがメインなのであれば、今この瞬間、何も場にない状態の時に攻撃を通すしかない。
「俺はミニチュワダックスフント鎧フレーキを召喚」
コスト3枚がデッキから休憩エリアに運ばれる。
※現在のデッキ枚数。魔王の手札33枚。大和の手札28枚。
「ミニチュワダックスフント鎧フレーキで攻撃!」
魔王は手札からカードを1枚選択し黒い召喚板に配置する。
「相手の攻撃宣言時、クライヘルプランツを召喚できる。我は2枚目のクライヘルプランツを召喚。ちなみに攻撃を受けた場合でもクライヘルプランツの相手のカードに装備する能力は発動する」
「なんだと?!」
ミニチュワダックスフント鎧フレーキにクライヘルプランツが装備され動きが封じられてしまう。だがクライヘルプランツの召喚コスト2枚がデッキから支払われ休憩エリアに運ばれていく。
※現在のデッキ枚数。魔王の手札31枚。大和の手札28枚。
「俺はターンエンド」
魔王のターンがやってきた。
「我のターンドロー」
デッキから1枚のカードを引くと次なる手を打ってくる。
「我はスカルドラゴンを召喚する」
全身が骨で組まれたドラゴンが召喚された。コストは10。
「スカルドラゴンの能力は休憩エリアに運ばれることはないこと。死なないドラゴンだな」
※現在のデッキ枚数。魔王の手札21枚。大和の手札28枚。
「いけスカルドラゴンよ。セイントドッグマンに攻撃」
「俺は手札から能力発動! ジャーマンシェパード鎧ララを召喚する」
ジャーマンシェパード鎧ララの分のコストがデッキから引かれて休憩エリアに運ばれていく。
※現在のデッキ枚数。魔王の手札21枚。大和の手札23枚。
「スカルドラゴンでジャーマンシェパード鎧ララに攻撃」
スカルドラゴンの紫色のブレスがジャーマンシェパード鎧ララに命中。転がるジャーマンシェパード鎧ララ。コスト10とコスト5の差分の5枚が大和のデッキから休憩エリアへと運ばれていく。
「我はターンを終了する」
※現在のデッキ枚数。魔王の手札21枚。大和の手札18枚。
「魔王よ、俺は負けることが許されない。なぜなら俺は勇者だから。そのためにこの異世界グランドジービアへやってきたのだから。俺のターン!」
気合を入れてカードをデッキから1枚引き抜く。
「俺はミニチュワダックスフント鎧フレーキを素材に変幻召喚! 来いセイントドッグガール!」
ミニチュワダックスフント鎧フレーキの体が光の粒子となって溶け人型の形を形成し犬の耳と尻尾が生えた美少女が現れる。コスト9とコスト3の差分の6枚が召喚コストとしてデッキから休憩エリアへと運ばれていく。
同時にミニチュワダックスフント鎧フレーキに装備されていたクライヘルプランツが解除され休憩エリアへと流れていった。
※現在のデッキ枚数。魔王の手札21枚。大和の手札11枚。
「セイントドッグガールの能力で場の犬もしくはドッグカードの数相手のカードを手札に戻すことができる。俺が戻すのはスカルドラゴンとセイントドッグマンに装備されたクライヘルプランツ。いけセイントドッグガール、セイントアセンション!」
セイントドッグガールが手のひらから光の粒子を放ちスカルドラゴンを手札に戻し、セイントドッグマンに装備されていたクライヘルプランツも装備が解除され手札に戻っていく。
「さらに手札からフォースカード、セイントスティールを発動!」
セイントスティールの能力は場にセイントドッグマンとセイントドッグガールがいる場合に発動でき、相手の手札から1枚を休憩エリアへと強制的に送ることができるというカード。
「俺が選択するのは当然、クライヘルプランツ!」
クライヘルプランツのカードが強制的に休憩エリアへと運ばれ、さらにセイントスティールの発動コスト5枚がデッキから休憩エリアへと運ばれていく。
※現在のデッキ枚数。魔王の手札21枚。大和の手札6枚。
大和のデッキ枚数が残り6枚となってしまったが、場には3体のドッグカードが存在し相手の場にはカードが残されていない。
「ジャーマンシェパード鎧ララで攻撃」
ジャーマンシェパード鎧ララが突進していき魔王へ体当たりしていく。
※現在のデッキ枚数。魔王の手札16枚。大和の手札6枚。
「セイントドッグマンとセイントドッグガールで攻撃!」
セイントドッグマンとセイントドッグガールは手のひらに光の粒子を集中させ両手のひらを魔王へ向け光線を発射する。
「ああああああああああああ!」
魔王は叫び声をあげ、魔王のデッキは尽きたのだった。
※現在のデッキ枚数。魔王の手札0枚。大和の手札6枚。
〇
魔王は敗北し女神の洗礼を受けていた。フリイヤの手のひらから光を浴び心ここにあらずといった具合だ。その様子にタートルは「魔王様」とおもたげに浸っている。
これからどうなるかだ。魔王が敗北し小売店の店長のようなことになればきっとクライカードはこの異世界グランドジービアから消えていくだろう。そうなれば倉間大和というカードで戦う勇者は必要なくなるだろう。
魔王は力なくタートルに「あとは頼む」と声をかけ、大和には「もうクライカードを作ることはない」と言った。
ドラゴンの尻尾を生やしたメイドの女悪魔たちが集まってきている。光を浴びる魔王は力尽きるように放心状態でありみな心配しているのだ。
〇
クライカードを作ることはない。そう魔王は言った。だが、――これで勇者の冒険が終わることはなかった。
魔王を倒したのちに大和たちがやってきたのは異世界グランドジービアの統べる王国だった。城へと通され倉間大和の今までの仕事に敬意を表され、褒美を与えられる。褒美とはお金のことだ。そんなことはどうでもよかった。重要なのはクライカードの生産が止まるかどうか。クライカードの生産をしていたのは魔王だけではなく、工場で人間が作っている事実があるから。
浄化された魔王は力を失いただの亡骸と化した。もう魔王が関連することはなくなる。それなのにクライカードが作り続けられている。
王に大和は問うた。
「これでクライカードの生産も止まるのでしょうか?」
王ではなく大臣の者が答える。
「クライカードの悪行は魔王が絡んでいたからだ。そうなればクライカードを生産し普及されることになんの問題もないだろう」
不思議なことに勇者としての責務を果たしたのに思った通りにならなかった。
〇
王との謁見が終わり城の中を歩く大和とフリイヤ。
魔王は浄化されもうこの世にいない。こんなにすっきりしないことがあるのかと大和は気持ち悪さを感じる。
フリイヤに問う。
「クライカードは魔王が利用していたのは事実だろう。魔王がいないだけで力の根本は変わらないんじゃないだろうか。これで本当にいいのか?」
その通りで答えることすらできない。
女神フリイヤも肌で感じ取っていた。人間たちが利益のためにまだ作り続けようとするのを。これでは大和が異世界へやってきた意味がない。
大和は一人呟いた。
「俺は、どうすればいいんだよ」
〇
魔王が滅び魔王城は王国から狙われることとなった。魔王城にはタートルや砂クジラの少女ホエールがいる。悪いことをしたわけでもなく、寧ろ人に寄り添ってきた者もいる。魔王だけではなく魔王城を叩くのは承知しかねるところだった。
〇
3人の貴族たちが謁見の間で話している。もう魔王がいないことで利益が全部入ること、工場の規模も広げて生産を拡大するなど。あとは魔王城にいる今は亡き魔王の残党狩りである。
「陰ではそんなことを話しているんだな」
急に勇者大和が現れびくっと体を震わせる貴族たち。
「そんなこと、俺がさせない」
白い召喚板にデッキを装填しカードを4枚引く。さらにカードを1枚引き、白い召喚板にカードを一枚配置した。
「来いっクライヘルプランツ!」
食虫植物のような巨大な植物が召喚され、つるが伸び貴族たちを拘束する。
「貴様! 我々に向かってこんなことをしてただで済むと思っているのか!」
「褒美だって返還を求める!」
大和は金の入った袋を無造作に投げ捨てる。
「これでいいのか?」
「貴様!!」
さらにカードを白い召喚板に配置。
「こい、スカルドラゴン」
全身が骨で組まれたドラゴンが現れ雄たけびをあげる。
……ッ!!
大和の脳裏で魔王に言われたことが再生される。……君はクライカードのせいだというんだね?
「仲間は俺が守る。クライカードなんてもう関係ない。悪魔の力も本当は関係ないんだろ? みんな必死になって生きているんだ! 魔王城だけは守り通す! 絶対に」
魔王城にはタートルもいて帰る場所を失った砂クジラの少女ホエールもいる。残党狩りなんて絶対にさせない。




