第3章 謎の少女
悪魔憑きの黒騎士はカードゲームに敗北したことによって女神フリイヤの洗礼の光を浴び、黒い召喚板やクライカードのデッキを手放した。勝負が終わってからしばらく放心状態だったが、ヘルメットを外し自らの顔を露わにした。
女神フリイヤは洗礼の光を浴びせながら鎧の下の素顔にご満悦だった。
「おっイケメンね」
「イケメンかよ」
さらに耳のとんがりを見るからにエルフであった。
大和はどことなく突っ込みを入れて「もう心配いらねえな。顔もいいことだし」と言って敗者に対して心のケアになる言葉をかける。だが疑問は残る。
「にしてもあんたどこの配属の騎士なんだ?」
真っ黒い鎧に包まれた騎士の配属が気になる大和。それもそのはず騎士たる者が麻薬ではないが、法律で裁けない違法なカードゲームに手を染めていたのだ。鎧を身に着ける身分ということは国を守る立場なはずだ。少年の声で見た目もハンサムで年齢的にも十代というところだろうか。
「どこで手に入れたんだ? カードやら召喚板やら」
「魔王様から頂戴しました。僕は魔王様の騎士なので」
女神フリイヤが手に抱える黒い召喚板とデッキに目をやり大和は「君の名前と年齢は?」と質問する。
「僕はタートル・アール。17歳。魔王様の騎士たるエルフだ」
「君は俺にクライカードを見せて勝負を仕掛けてきたな?」
「勇者たる者なのだ、僕と同じく魔王様の騎士に相応しいと思った。世のため人のために健全たる力を使い女神にも魅入られる存在。魔王様は卑怯なものや卑劣なものが嫌いだ。だから相応しいと思った」
この話を聞いて女神フリイヤは不服な表情だ。
「でもだったらなぜ悪魔の力なんて遠回しに自己破滅する力を与えるの? あなたにも。愛がある選択とは思えないけど」
「僕は孤児からの騎士上がりだから。こねもないのさ。友達もいない。だからこういっちゃなんだけど、僕には失うものが何もない。だから悪魔の力でも僕としたら大した問題じゃないさ」
個人の人生観だが、それを認めるわけにはいかない。大和はタートルの肩を優しく掴んで正面から向かい合った。
「つまり、魔王様はそんな君を認めてくれたと?」
「存在していることを認知してくれる。そんな魔王様のところで働かせてもらえることが僕にはとても嬉しかった。これはまさに愛だ」
誰も自分を必要としないから真面目に生きてもしょうがないというように大和には聞こえた。確かに誰にも必要とされないのはずっとそれを実感し続けるのは苦しいことだ。だが、そこからどうやって人生を見る視点を変えていくかという難題が大事なのではないか。大和はそう思った。
〇
夜明けを迎え魔王討伐のため魔王城を目指すべく倉間大和と女神フリイヤは再び馬車へと乗り込むと予想を覆す同乗者がいた。それは昨日大和とデュエルし敗北したタートルだった。
「僕がご案内しますよ。魔王城まで」
タートルは黒い鎧を脱ぎ一般に紛れる私服姿でやってきていた。
馬車が出発しタートルを乗せて三人の旅が始まる。
「魔王様の説明をするよりも実際に会った方が早い」
大和は眉間に皺を寄せて反論した。
「それじゃあまるで魔王に会ったら弱った人の心を狙って悪魔の力を売りさばいていることを理解できるようになるみたいな言いぐさじゃないか?」
「実際魔王様は多くの人のことを考えておられる。実際、魔王様が生み出しているのは悪魔のみならず天使さえも生み出しているのだから」
タートルは腰に着けていたカードの束を取り出してカードを一枚引き抜いて見せた。
――セイントカメガールのカード。
「君に合わせてセイントカードで組んだデッキだ」
「年下が年上に向かって君っておかしいだろ。それにセイントカードに好みとか関係ないから。それから……」
大和は気になった。天使さえも生み出すとはどういうことなのか。
女神フリイヤはまあまあとなだめながらセイントカードのデッキをもっとよく見せてくれるように頼んだ。
「良いかな? ちょっとそのデッキ見せてほしいんだけど」
「あっ俺も見たい」
大和も興味ありげだ。タートルは「いいとも」と言いセイントカメガールがトップに飾られたデッキの束をフリイヤに渡す。デッキ内容を見てみるとウミガメアルファやゾウベータガメなどでクライカードは見当たらない。
「これが君たちの好みのカードだろ?」
「だから俺たちに君呼ばわりはおかしいだろ。闇堕ち騎士のお方」
知らぬふりか知ってか何も答えないタートル。
「二人ともいい加減にして」
フリイヤはデッキを返して馬車内のテーブルに肘をつき顎を手のひらに預ける。喧嘩をしても始まらない。言い方ひとつで何かが変わるわけでもなければ、会話の一つ二つで人生観は変わらないのだから。
タートルは悪魔の力をなんだと思っているのだろうか。クライカードを使い続けて衰弱したりはしていないのだろうか。その点を含めてもこのタートルという少年は不思議な存在である。魔王を信じるような素振りもある。人間の弱さに漬け込む悪魔の頂点である魔王は普通の人間からは嫌われているのだから。
〇
馬車に揺られて2時間、野原の一本道で休憩をとることとなった。馬車から降りて馬が水を飲んでいる様子を見ながら休憩がてら隣にいるタートルに提案する。
「休憩がてらデュエルどうだ?」
「君は好きだなあ、仕事でも休憩でも脳内カードなのだな」
「うるせえな。野原のお花がきれいですわなんて会話でもしていたいのか?」
「いいだろう。やってみよう。僕も役割的にこのデッキを使うのは久々だからね」
野原の中心でデュエルが始まる。
「「デュエル!!」」
勝負を仕掛けた大和からの先行となる。
白い召喚板を二人は構えデッキ40枚を装填する。デッキは自動でシャッフルされ白い召喚板に装着された魔法石が光る。フリイヤが見ているところで仕事外で女神の力を使ったカードゲームを始めようとしていることで少し不安げだったが、彼女はどうぞお好きにといった態度であった。
「よし、はじめるぞ」
「ああ、始めよう」
二人はデッキからカードを4枚引き勝負を始める。
「俺のターン! ドロー」
大和がカードを1枚デッキから引き抜き抜くのと同時にエンジンのような音が鳴り魔法石が回転する。
※現在のデッキ枚数。タートルのデッキ枚数36。大和のデッキ枚数35。
「俺は、柴犬鎧まるいちを召喚!」
コスト3枚がデッキから右側の休憩エリアへ流れていき草原に鎧を纏った一匹の柴犬が現れる。
「柴犬鎧まるいちの能力でデッキから犬カードまたはドッグカードを手札に加えるか召喚することができる。俺はこのまま柴犬鎧まるいちでセイントドッグガールを変幻召喚」
一部のカードには変幻召喚という召喚とは違う方法で召喚することができるカードが存在している。
柴犬鎧まるいちのカードに重ねてセイントドッグガールを変幻召喚する。さらにセイントドッグガールのコストは9だが、柴犬鎧まるいちの能力でこのカードを素材として変幻召喚する場合、召喚コストはかからない。
※現在のデッキ枚数。タートルのデッキ枚数36。大和のデッキ枚数32。
「俺はターンエンドだ」
ターンがタートルへと切り替わる。
「僕のターン」
カード1枚をデッキから引き抜きエンジン音のような音とともに白い召喚板の魔法石が回転する。
「僕も似たようなことをしてみようかな」
手札から一枚のカードを召喚板へと配置する。
「ウミガメアルファを召喚」
機械鎧が装備されたウミガメが現れる。海ではないので草原は不便そうだ。コストは3。
※現在のデッキ枚数。タートルのデッキ枚数32。大和のデッキ枚数32
「ウミガメアルファの能力発動! ウミガメアルファは召喚した時に他のカードが場にない場合にゾウガメベータをデッキから召喚することができる」
タートルはデッキから一枚のカードを選択し選択したゾウガメベータを白い召喚板に配置する。
「ゾウガメベータを召喚」
機械鎧を身に着けたようなリクガメが現れる。ゾウガメベータのコストは3。
※現在のデッキ枚数。タートルのデッキ枚数28。大和のデッキ枚数32。
「場にアルファとベータの二体が揃った。この場合ゾウガメベータの能力でミシシッピアカミミガメガンマをデッキから召喚できる」
さらにデッキから一枚のカードが白い召喚板に配置される。機械鎧を纏った緑亀が現れる。ミシシッピアカミミガメガンマのコストは3。
※現在のデッキ枚数。タートルのデッキ枚数24。大和のデッキ枚数32。
コストをだいぶ使ってしまい大和とのデッキの差が広がってしまっている。さらに大和の場にはセイントドッグガールという高コストのセイントカードが壁となり立ち塞がっており、さらに能力で相手の場のカードを手札に戻すこともできる。
「ミシシッピアカミミガメガンマの能力で、亀三体のフォーメーションを展開!」
「なんだそのフォーメーションというのは」
「相手が攻撃してきて防御する際、アルファ・ベータ・ガンマはお互いのコスト分をプラスする形でコストを上げることができる」
つまりアルファはベータとガンマ分のコストが上がる。コスト3が2体分プラスされ9となる。これがベータでもガンマでも起こるという防御専用能力だ。
「ターンエンド」
大和は「なるほど」と呟く。
「面白い戦術だな。でもなタートル。でも守っているだけでは勝てないんだよ。このゲーム」
〇
ターンは再び大和のターンへ回ってきた。
「俺のターン」
カードを一枚引きセイントドッグガールの下にコスト1のボーンソードを配置し装備させる。
「俺はボーンソードをセイントドッグガールに装備」
※現在のデッキ枚数。タートルのデッキ枚数24。大和のデッキ枚数30。
「これだけでこの陣は崩れてしまう。いくぞタートル!」
ボーンソードはコスト1なのにも関わらず装備したセイントカードのコストを3上げることができる。
「いけ! セイントドッグガール! ミシシッピアカミミガメガンマに攻撃!」
セイントドッグガールはボーンソードを構え光の粒子を発生させてビームを放つ。
「こっちはフォーメーションでガードだ!」
コストがあがりコスト9となったミシシッピアカミミガメガンマはコスト12の攻撃を受け光の粒子となって消えていく。
※現在のデッキ枚数。タートルのデッキ枚数21。大和のデッキ枚数30。
「ターンエンドだ」
ターンはタートルへと回ってくる。
「やってみよう。僕も。僕のターン、ドロー」
カードを1枚引き手札から1枚のカードを選択してそのカードをウミガメアルファの上に重ねる。
「変幻召喚! セイントカメガール!」
ウミガメアルファの体が光り粒子となってその姿は変幻し甲羅の巨大な盾を持った美少女の姿へ。セイントカメガールのコストは9。変幻召喚の場合、素材となったカードのコスト3の差分6枚がデッキから休憩エリアへと運ばれていく。
※現在のデッキ枚数。タートルのデッキ枚数15。大和のデッキ枚数30。
「セイントカメガールの能力は場の亀カードの数、防御の時に上がる。そして相手の攻撃はセイントカメガールがいる限りセイントカメガールにしかできない」
防御に特化された亀デッキだ。そんな亀デッキを使うタートルに大和は言いたいことがある。
「タートル。お前は忘れている。防御してばかりだと勝てない」
「なんだと?」
「なぜなら、俺が攻撃しなくても俺はもう勝ててしまうからだ」
そう、タートルのデッキは15枚。大和のデッキは30枚。セイントドッグガールを超えない限りタートルに勝ち目はない。
〇
休憩時間が終わりデュエルも中断となった。フリイヤに手招きされて大和もタートルも召喚板に配置したカードを回収してデッキを取り出し一つの束に纏めながら馬車に戻っていく。
「勝負はまた今度だな」
「勝っても負けてもどちらでもいいのさ」
タートルは勝負云々よりも楽しむことが大事だと言うのだ。
「そうじゃないとみんな使うカードもデッキ内容も同じになっちゃうだろ? それが面白いのか?」
馬車の窓際にフリイヤが座っており、隣に大和が座り向かいにタートルが座る。
「じゃあタートルは敢えてこの亀デッキを使っているというのか?」
タートルは大和の質問に対して首を縦に振り肯定した。
確かにタートルの言い分は分かるかもしれない。勝負する上で勝利を目指すことは当たり前のこと。そのうえで強いデッキが周知されればみんな同じデッキを使いかねない。
「お前の言いたいことは分かったよタートル。確かにそうだ。カードゲームにおいてデッキの強さランクが存在するのは当然のことだ」
フリイヤも話に混ざり「そんなことになったらみんな犬デッキを使いかねないわね」と言う。
タートルは首を縦に振るう。
「いやもうそうなりつつあるかもしれない。そのセイントドッグガールは大会の優勝賞品だろ? 大会で犬デッキが優勝したことが周知されているはずだ。みんな犬デッキを使うようになりかねない」
大和はタートルの言いたいことを理解はしているが、特に重要なことだとは思っていない。
「言いたいことは分かるけど、別にいいだろ。カードゲームってそういうものだ」
タートルは首を横に振るう。
「分かってない。君は。魔王を倒す勇者の真似を誰もがしやすいということだ」
「だから大丈夫なんだってば。カードゲームってそういうものなの! それに他のいたるところで大会が開かれていてそれぞれの優勝者が使っているデッキも違うの。だからそんな考えるようなことじゃないんだよ」
何となく理解したようだが、まだ不服そうだ。
「それにタートルは魔王側の人間だろ? 魔王を倒す俺を気にしてどうする?」
「気にしてないさ。別に」
馬車が出発し三人は揺れる体を背もたれに預けた。
〇
馬車に揺られながら大和は。思考していた。タートルは黒い鎧を着てクライカードをわざわざ見せ勝負を仕掛けてきた。そして亀のカードにこだわり勝敗はどうでもいいという。つまり、――クライカードを持って俺が現れるのをずっと待っていたのではないだろうか。
タートルは馬車に揺られながら眠っていた。
もしそうなら今馬車に一緒に乗っていることも計算のうちなのではないだろうか。
タートル・アールとは、いったい何者なのだろうか。
「タートル、謎の男だ」
大和が一人呟くとタートルはぎろっと目を見開き言い返した。
「僕は女だ」
タートルは少年ではなく少女だった。




