【91】能力掌握【後】
深層心理とは前回死にかけて地竜達と会話した場所。
あの空間って凄い不思議な感覚なんだよなぁ。例えるなら夢の中を自分の意志で動かす感覚に近い。
夢って意味不明じゃない?それを意図的に動かせるって素敵じゃない?それにさ、目覚めると実現する。
だがまぁリスクも当然ある。
これは真理の扉を開き更にその奥まで進む行為だ。当然戻って来れなくなる者も居る。戻って来れない……つまり=死に直結する。真理の贄となる。
俺が真っ先に潜ることを決意したのにはもう1つ理由がある。
幾数年間と長い時間を費やしても何1つとして、能力を掌握できる兆しがなかったからだ。
言われた通りにやっている。
なぜできない。それも全く……
何か別の原因があるのでは?と考えだしていた俺には丁度良かった。
多分直接話さなきゃならないことがあるのだろう。
いいね!とことん話し合おうじゃないの!
「ザハル!準備はできた?」
「OKだよ」
「もう分かってると思うけど、あんたに力を貸してくれている主様と話をする事になると思う。
ちゃんとお互い納得するまで話しておいで》
「うん。ありがとう」
「じゃあ送るよ」
何やら難しい呪文のようなことを呟くセリーナ。次第に意識が移っていくのが分かる。そうして完全に深層へ移った俺の意識。ゆっくり瞼を開いた俺の目の前に衝撃的な、いやあり得ないとでも言った方がいいのか?いやなくはないのか?要するにどう判断したらいいのか分からない光景が目の前にあった。
じじいが温泉に浸かりながらキメ顔で俺を見ている。
何これ……全裸だし。
世の中で誰一人として見たくねー絵面。
きったねーな!顔から下はフルモザイクじゃ!クソじじい!
「ようやく来おったかい。あんまり爺を待たせるもんじゃないぞい。
初めましてだな、ザハル。
さてさて、よっこらせっと」
立ち上がろうとするフルモザイク。
「立つなじじい!!色々アウトだろうが!」
「ん?別に立ってないぞ。お前なぁ、わしは爺だぞ。そうそう立たんわい」
「そっちじゃないわ!というかそのくだりも今の時代アウトじゃ!やめれ!!」
「やかましい奴じゃのう。しょうがない、少し後ろ向いとけ」
じじいはバスローブのような物を身に纏い、一応は絵面セーフになった。
「改めまして、初めましてザハル。
来るのが遅すぎじゃ、大馬鹿者が」
「初めましてにしては、いい感じで罵声を浴びてるが、そうだな。初めまして、ザハル・ノクターンと申す。というかお前も名乗れよ」
「あ、すまんすまん。わしの名はドグザル。ドグザル・ブレインだ。かつては有名な名前だったんじゃぞ」
「そうなんだ。そいで遅すぎとは?」
「軽くスルーしおったな。遅すぎとは、ただそのままの意味じゃよ。
お前種子を貰って何一つとして古代種の力を制御出来てないじゃないか。全部その場凌ぎ。
それじゃあ、おめーそろそろ喰われるぜ」
「理解してる。だがあんたの要求と俺の願いは違う」
「たかが記憶を食わせろという要求ではないか。長く生き続けるには記憶を消していく必要がある。長寿種は皆そうして生きている。お前にわしが望んだことは至って普通の要求だと思うがね」
「お前が食いたいと要求している期間が問題なんだよ」
「何故だ?セリーナを妻にした以上、ヒューマンである前妻の記憶は必要か?」
「俺にとっては何物にも代えがたい大切な記憶だ!」
「ならば今後同化するにあたりお前の要求とわしの要求、お前の妥協点とわしの妥協点をすり合わせるしかないのぉ」
「つまり?話し合いでどうにかなる問題か、そうでないかを聞きたいのだが?」
「ザハルよ。戦ってもいいがお前はわしには100年経っても勝てんぜ」
「だろうな」
「ちっ!くそが!仮にもわしと同化しようとしてる世界最強の男なんだろ?
俯いてんじゃねー」
「記憶を食う以外にないのか?」
「あ?あるさ!そんなもん!それでいいのか?それは長い人生において記憶がショートすんじゃねーか?」
「大丈夫だ。俺の脳はキアの演算領域処理が発動してるから記憶は失わない」
「そういうの先に言ってくれる?
だったらお前の言う別の方法にするか。
ザハル脱げ。温泉に入りなおすぞ」
「は?」
「いいから風呂に入れ。話はそれからだ」
ザハルは渋々温泉に浸かる。懐かしい……いつ以来だろう、こんなに落ち着く風呂は。
「たまんねーだろ?」
「ああ。たまんねーな」
「どの世界でも温泉ってのはいいもんだ。その、なんだお前……そんなに愛してたのか?」
「ああ」
「そうか……わしにも昔、好いた奴がおった。良き女じゃった。寿命の違いとは虚しいものよ。僅か数十年の命。こちとら幾千年生きているというのにな。
そう思わんか?」
「分かって一緒に居たんじゃねーのか?
まぁでも分かってても最後は辛いものだ。あれは言葉では言い表せない」
「そうじゃの。だからこそ分からん。そんなに辛い過去を一番最初に消したくないのか?」
「あれは彼女の生きた証だ。俺が死ぬまで大切な思い出として持っていく。
あんただってその事を覚えているという事は全部消せなかったからだろうに」
「うむ。だから忠告したつもりなんだがな」
「そうか。配慮に感謝はするが余計な世話だ。自分の記憶は自分で処理するさ」
「そうか。ならば好きにしろ。
しかしどうするつもりじゃ?対価に何を差し出す?」
「つーかよぉ。古代種ってものは何でそんなに偉そうなんだ?今俺と同化してる竜種とか、何も対価など望まなかったぞ」
「はっきり言おうかの。この世は弱肉強食じゃ。つまり竜種たちより既にお前が強かった。ゆえに対価を望まなかった。
じゃが、わしはお前より強い。よって対価を望む。理解できたかね?」
なるほど要するにコイツを倒しちまえば御せるという訳か。ふっ……何も闘いだけが全てではない。俺はそう考えていた。
「おいクソ爺。というかアル中野郎。
神と言われる酒をくれてやる。原価は半端じゃなく、そうそうお目に掛かることも叶わない酒だ。いるか?」
「お前!まさか!」
「御名答。陶酔・天の川!」
「いる!絶対いる!数千年も生きているのに1度も味わったことのない神の酒と言われる物!」
「譲っても構わないんだが、え?なんて?バトルで決着だっけ?偉く横柄な態度で口きいてくれましたよね?お爺ちゃん」
「ザハルよ何を言っておるのだ。
このような酒をくれてやるというなら、わしは最初から全面的に協力するよ。
して、わしの願いは叶うのかの?」
「じゃあちゃんと契約してくれ。
契約が完了したら譲ってやるよ……2本」
「2本!?嘘じゃ!なぜ2本もあるんじゃ!その2本を譲ってくれるのか!?本当にいいのか!?」
「いいって言ってるでしょ?早くしてくれる?」
「はい!」
爺は即座に契約してくれた。
マジでクソちょろい爺だった。
この酒で国が買えるとか、戦争をしてでも手に入れたいなど色々いわれている。
この酒は幻の中の幻。
何処かのダンジョンで少量取れることがある。しかし枯渇すればその場所から二度とと湧くことはない。見かけることも極めて稀。一滴飲めるだけでも天上の喜びとまで言われる酒。
とてつもない最高の名酒らしい。酒を飲まない俺には全く興味の無いものだったからこの対価で渡すことは全く惜しくない。それどころかラッキーだ。というのが本音であった。
こうして俗に言うワイロで爺と同化し、セリーナの元へ戻ろうと思うのだが、戻り方が分からない。
「じじい、あんたセリーナの元へ送ってくれんか?」
「ん?ああ。わしには送れんよ。ただ向こうと繋ぐことはできるからら、会話してみろ」
「セリーナ聞こえる?」
「うん!聞こえるよ!」
「戻りたいからどうにかして」
「え!?もう解決したの!?」
「うん。だから戻してくれ?」
「分かったわ」
術が解ける途中……
「そういや言い忘れとったけどの、わしヴァンパイアの始祖だから」
「そういうのさぁ言い忘れで済む話じゃねーからな。絶対大事になるぜ。クソが……最初に言っとけよ」
セリーナが術を解除するとザハルが、セリーナの元へ戻ってきた。
「ねぇ!何で!?何でこんなに早く戻って来れたの!?」
戻るや否やセリーナからガン詰めの質問を受けた。
「待って待って。順を追って説明するから。その前に、おい爺さん聞いてるんだろ?出て来いよ」
俺に呼ばれて、気怠そうに出てくる。服装はなぜか蝶ネクタイスーツ。
この爺……本当にぶっころ案件ですぜ。
「ザハルに呼ばれたから出てきてやったぞ」
「ありがとな。紹介するよ。俺に力を完全に預けてくれた、ドグザル・ブレイン。
ヴァンパイアの始祖らしいよ」
「始祖様!?あんたも軽く話してんじゃないわよ!とんでもない御方よ!」
「いやいいんじゃよ。ぬしがセリーナか。うん。凄いメストを纏っているな。そなたにならヴァンパイアを任せて安心じゃな」
「もったいなきお言葉です」
「よいよい」
「始祖様。お聞きしてもよろしいでしょうか?ザハルの帰還が、私の見立てより遥かに早いのは、いったい何が起きたのでしょうか?」
少しバツが悪そうな顔をするドグザル。
「何してんだ爺さん。俺達は正当な取り引きをした。つまりはビジネスだ。恥じることは何もない」
「取り引きですか?何を取り引きしたのザハル」
「幻の酒。これを2本譲渡」
「お酒?そんなもので?」
「セリーナよ。飲まぬ者には分かるまい。あの酒は一口飲むだけで天にも昇れると言われる極上品だ」
「それってワンチャン死んでませんか?」
「否!神をも超越する酒。それだけに何物にも代え難い。ゆえにわしは取り引きしたのだよ」
「そ、そうだったのですね……でもまぁザハルが無事で能力も掌握できたのであれば、私は言うことないわ。
お帰りなさい、ザハル」
「うん。ただいま。
セリーナ達には敬愛すべき始祖様なんだろうけど、アイツただの酒好きの爺だぞ」
「えーと……うん。そうなんだけどね……私の目にも今はあなたと同じ絵が映るわ」
「クソチョロかったぞ」
「言わないの!それだけは、せめてヴァンパイアの始祖様という威厳を保つために……」
「お、おう」
爺ではなく始祖様は、ちびちびと極上の酒を楽しんでいた。
浮かれ顔MAXで。
嬉しそうで何より。とでも言っておこう。
俺もお陰で始祖の力を掌握できた。
セリーナ曰く始祖の力は想像が出来ないほど強力な力が眠ってるとか。
ふむ。今から試すのが楽しみでならない。
しかしながら、まさかの幕切れであれだけ苦しんだ能力掌握の期間が一瞬で解決したのであった。
いやーチョロくて助かった。




