【82】ケント大人の階段上る(前)
ケントは産まれながらの特異体質だった。
祖父のエコーは妻に魔物を迎え、子を成した。子供達は魔物の血を濃く受け継ぐことなく、何の問題も無く順調に育ち子を儲けた。
ケントの兄弟や従兄弟達に変わった事は何一つなかったのだが、ケントには魔物の遺伝子がより濃く受け継がれてしまった。
当初よりエコー夫婦より危惧していたことでもあったが、隔世遺伝という事になり、その遺伝子はヒューマンなどが手に負える物ではなかった。
それゆえにケントは愛を知らなかった。
幼少期よりサイコパスな一面を見せ始める。両親は早々に育児を放棄し、エコー夫婦へ預けることになったのだ。
エコー夫婦の元で育ったケントは一貫したサイコパスではなく、影の部分が見え隠れするレベルに成長していった。
それはプラムの影響が強く、プラムはヒューマンとしてだけでなく魔物としても教育を重ねていった。
結果として分かったことは、ケントの行為は蜘蛛の生態と酷似しており、本能による物とプラムは判断付けるに至る。
しかしながら、蛮行を続けさせるわけにはいかなかった。それはシガレット家が国家の中枢に位置する家で、エコーが丞相という立場もあり国家に反する行為を続けるケントを見逃すことが出来なくなってしまう。
ケントはまた居場所を失うことになる。
祖父と祖母には懐いていた。
しかしもう味方はいない。
そして国王を交えての家族会議が開かれ、その場に居たのがジェンノ王国の英雄ザハルであった。
ケントは当初こう思っていた。
ザハルを倒すか認められれば、またあの居場所に戻れると……
しかし甘くなかった。
目論見は外れ、赤子の手を捻るかのようにフルボッコを喰らい殺される寸前の所まで追い詰められてしまう。
助けてくれたのはオスクリダドという凶悪な組織のボス。それとロウガンであった。
俺は寸前の所で命を永らえた。
その後はアサドにより悪さをしてる異分子を喰われ、俺の頭に永遠と響いていた悍ましき声は立ち消えた。
立ち消えたが、俺の帰る場所は既に失われた。もう何処にも行けない。
俺は何のために産まれてきたのだろう……
いっその事、あの時殺してくれればどれだけ気持ちが落ち着いたことか。
絶望を感じていたときオスクリダドのボスよりザハルさんとロウガンさんに指令が下る。
俺を死なせず一人前にし、オスクリダドに迎え入れろと。
俺は居場所をもらえた。
加入条件は邪念を全て消すこと。
俺は歪みに歪んでいたからだろう。大いに自覚がある。
そして俺はこの日を機会に邪念を消す鍛錬のみに全力を尽くした。時間は掛かったが、意外と皆さんは心優しく、ロウガンさんは隠れてやり方のアドバイスをしてくれたり、キアさんは食事を運んでくれたり、ザハルさんは常に俺の食事量や睡眠時間を記録に付けていたとか……暖かいなぁ。
俺はこうして、文字通りひと筋だけ降りてきた蜘蛛の糸を手放さないことを誓ったんだ。
邪念が消えてから晴れてオスクリダドに迎え入れられたときに、シャバの空気は美味いぜ!って言ったらザハルさんに踵落とし喰らって気絶したのを思い出した。脳ミソが鼻から出るかと思ったもん。
初任務は何と単独指名。
なぜか不思議と緊張はなかったんだよね。
それよりも皆に助けられた命を簡単に散らせない!っていう覚悟の方が大きかった。
結果としては大成功で褒められたのだけど、とてつもない、いびつな歪みに追われた時も焦りはなかったんだよね。
大丈夫!あそこまで行けば必ずザハルさんが助けてくれる!って思ったときに、予定地よりかなり手前で待っててくれた。
本当に流石だよ。あの人の勘は……
そんで苦戦することなくあっさりと倒しちゃうんだもんね。
全く……どうかしてるぜ!
それから正式にオスクリダドのメンバーに入り、皆と一緒に古代ダンジョンへ行くことになったんだ。
しかしまぁ、それが強いのなんのって……
よくあのレベルと平気で渡り合えるよ。あの人達は……いや正確には人ではないんだけれども。
俺も皆の力を借りて悪食でスキルとレベルを爆上げする事に成功したけど、なにあれ。古の魔物?ヴァンパイア姉ちゃん強すぎなんだが。
ザハルさんまでやられちゃうとは。
ほんで人の心配は余所にザハルさんは復活したらヴァンパイアになってるし。
なんでもそうしないと死んじゃう可能性が高すぎたからとか。
俺もなぁ精神体行動が出来るようになれればなぁ……
中々身につかないんだよねー。
「ケントー!ケントー!どこに居るの?
検査始めるよ」
「あ、はーい!今行きまーす!」
マイムさんに呼ばれたから行かなくちゃ。
これから色々調べてもらって、必要なことだけトレーニングしてくれるんだって。
本当に感謝しかないよ。このメンツには!
少し短いですが、何とか間に合いました。
自分に課したノルマ達成です。
良かったぁ……




