第81話「機械仕掛けの騎士たち」
街道に姿を見せた「機械騎士」たちは、道を外れて村を遠巻きに眺めながら進軍していると偵察役の報告があった。
私がいるのは村に数ある地下室の一つだ。立ち並ぶ家々の二、三軒につき一つは共有の地下室があるのだという。食糧庫だというけれど、もちろん有事の備えでもあるのだろう。
「警戒してるのか?」
「いや、意表を突こうとしているんじゃないか。街道沿いは一番守りを固めるだろうから」
意見が噴出する。焦ったい気持ちは私だけではないのだろう。機械騎士たちは動きを見せない。できることがあるわけでもない。狭い地下室の人いきれの中で待つことしかできないというのは、思いの外精神がすり減る。
「玄関先を行ったり来たり。色気付いたガキかってんだよ。頭冷やして出直してきなって誰か言ってやれよ」
場が小さく笑いで沸いた。
それに応えるかのように地面が揺れる。何度も、何度も。上階から見張りが息を切らして駆け降りてきた。
「あちこち爆発してる。砲撃だろうな」
アミリス・オナーの殺人機械と比べて軽装という話だったから、大砲のような重装備はないと思っていた。
これは何を意味するのか? 機械騎士が予想より大型で重装備、ということなのだろか。それとも、何かを犠牲にして重装備を実現しているのだろうか。記憶の端で引っ掛かるものがあるけれど、具体を思い出すことができない。まあ、いいや。考えていても始まらない。こういうときは現場に出るのが一番だ。
「現物を見たいです。上行ってきますね」
あれ? なぜかみんなきょとんとしてる。そんなにおかしなことを言ったかな。
「聞こえてなかったんですか。危険ですよ。爆発してるんです」
見張りの人が目を丸くしている。
「それは、そうですけど。ああいうものにこの場で一番詳しいのは私なので、正体を見定めるのは私の役目じゃないですか」
心配してくれるのはありがたい。けど、ああいうものを相手にしているなら、いたずらな安全策はかえって危ない。
「じゃあ、行ってきます」
「待ってくれ! おい、黒絹の鎧があったろ。着せてやるんだ」
ほぼ羽交い締めにされるような様子で足止めをくらい、仕立てのいい防弾着を着せられた。確かにこれはあったほうが良い。ありがとう、と伝えて地上へ出る。
私がいた村の中心部には人一人おらず、ただ寒風が道を吹き抜けていく。その寂しさを誤魔化すような破裂音があちこちで聞こえ、そのたび何かが破壊される音が続く。砲声はない。これは奇妙だ。アトミールの電磁投射砲だってかなり大きな音がする。見張り台に上がれたらいいのだけど。それがあった村の外縁に目を向けたら、そこには滅茶苦茶になった木の塊が転がっていた。うん。そんな気はしていた。見張りに立っていた人たちは避難できたろうか。警戒しながら村の外壁へと向かう途中、奇妙な足音がした。とるものもとりあえず小さな小屋を見つけて飛び込んだ。甲高い悲鳴のような駆動音と金属が土を蹴る音。思ったより動きが速い。機械音。多分機械騎士だ。隠れてよかったのだけど、すえた臭いが鼻をつく。どうやらここはお手洗いだったようだ。
扉が密閉式ではなくて上の方に隙間があるのは幸運だ。便器に足をかけるとちょうど外が覗けるし、外気が吸えた。よしよし。ここで奴をじっくり観察してやろう。あまり待つ必要はなく、すぐに機械騎士は現れた。
なんというか、すごい形だ。四つ足の獣の首から人間の胴体が生えたような姿をしている。機械だから違和感が和らいでいるけれど、これが生身だったら不気味なことこの上なかっただろう。背中にはごてごてと装置が取り付いていて、そのうち一つは人の背丈の半分ほどはある長い柱状の機材だ。なんだあれはと思っていたら、機械騎士は器用に腕だけを回してそれを掴む。と、柱の先端が持ち上げられた。
もう一方の腕が柱に何かを取り付ける。鋭い摩擦音、そしてやや間があって爆発。なるほど、これがあの砲撃か。わかってきた。
一旦目を離してスケッチをはじめた。この作業には慣れているので、やっているうち頭の一部は暇になる。と、自分自身を客観的に見ることができるようになってきた。想像してみて欲しい。野外に建てられた掘立小屋の中はお手洗いだ。そこには便器に足を掛けて外をのぞいている女がいて、手帳片手に何かを描いている。噴き出しそうになった。
無益なことに頭を使わないよう苦労しながらスケッチと観察を交互にしていって、私は外観から機械騎士の概要を推測することに成功した。
アミリス・オナーの殺人機械と比べたらやはり軽装備だ。殺人機械は全身を装甲板が覆っていたけれど、機械騎士のそれはまだらだ。きちんと装甲されているところもあるけれど、例えば足は頼りなくて、骨のような構造が露出している。あくまで、重要な部分だけを守るという考え方のようだ。
あの砲も、発射から爆発まで妙に間が開いているのが気になった。この村は端から端まで十分の一エミア(約二〇〇メートル)もない。なのに一秒近くも着弾に時間がかかっているということは、弾速はせいぜい毎秒十分の一エミア程度。大砲というより投石器に近いものなのではないだろうか。
最初の想定から大きくは外れていない。だから、当初の計画通りにやればいい。それはわかった。わかったけれど……。
ここから、どうやって戻ろうか。
空気の読めない機械騎士くんは、今も目の前に佇んでいる。




