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明ける世界の夢見る機械  作者: 壕野一廻
第2部第2章「ケイレアへの道」
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第59話「車両重整備システム管制自律無人機」

「もう帰ったかな」

 ロムさんが部屋を出て行ってからも私は神経が落ち着かなかった。ああいうタイプの人だと出て行ったような顔をして隣の部屋で聞き耳を立てていたっておかしくない。ぶるぶる。

「大丈夫。私が保証する」

「また電波で調べたの?」

「それもあるけど……」

 アトミールがニヤッと笑った。

「ロムさんにはちょっと仕込ませて(・・・・・)もらったから。階段をさっと降りて、正面じゃなくて勝手口から足早に出て行ったね。そこから先は通信範囲外」

「あのさ……」

 流石に一言言いたくなった。

「何?」

「最初に会った頃のあなたは一体どこに? あんなに力をふるうことを恐れていたのに」

 大袈裟に抑揚をつけて口にすると、彼女は愉快そうに眉を動かした。

「さあ? 噂によると、悪いお友達にだいぶ影響されちゃったらしいね」

 面白そうに私の目を見つめてくる。え、なに、私のせい?

「冗談はさておき、ちゃんと限度は考えているつもり。問題なのは古代の技術を野放図に振り回して世界の安定を壊すことなんだから、このくらいなら影響は制御可能な範囲」

「一応考えてたんだ」

「心外な」

 腕組みをしたアトミールが私を睨みつける。

「これでも結構気にしてるんだからね。私という存在自体が世界の安定に対してはとんでもない危険物なんだから」

「まあ……」

 おもわず口をついて出かかった言葉を押しとどめようとしたが、アトミールがそれを見逃すはずもなかった。

「私に悪い、みたいなことは思わないで。この問題についてはディスコミュニケーションが1番危険」

「でぃすこ……?」

「お互いがお互いの事情をわかったつもりで全然わかってなかった、というようなこと。この件についてディスコミュニケーションを放置しておくと、決定的な時に咄嗟の判断が食い違いかねない」

 ああ、なるほど。アトミールのこういうところ、めんどくさいけど助かるな。めんどくさいけど。

「わかった。ええとね……。アトミールのいう世界の安定が本当に正しいのかな、とは思っちゃうんだよね。前崩壊時代みたいに平和で豊かな時代ならともかく、今は」

 今回の旅で私は世界のさまざまな(ひず)みを見てきた。だからこそ、なおさらそんな考えが頭を掠めてしまうことがある。

「二つの理由から、私はクロエの意見に反対します」

 いつになく真面目な雰囲気に思わず背筋が伸びる。

「一つ。砂場遊びではありません。向き合っているのは無数の人が息づく世界そのものです。その世界を変更しようとすることは人々の人生に直結すること。こうした行動の価値は急進的なものであっても決して否定できるものではありませんが、それでもなお最大限の慎重さが要求されます。特に、それが私、すなわち人類の外部者の介入によって行われるなら尚更」

「私もそんなに違う意見ではないよ。……きっとティンさんは手ぬるいって言うんだろうけどさ」

 肩を落とす私の隣にさりげなく立ってポンと私の肩を叩く。

「彼女にはそれを選ぶだけの理由があった。クロエも、もし必要だと信じる理由があるならそうすればいいよ」

「……そのときアトミールは協力してくれる?」

「今は決められないな。話を聞いて、協力するか、断るか、それともーー」

 きっと物騒なことを言おうとしているアトミールが、私の顔を見て怪訝な顔をした。

「どうして笑ってるの?」

「大したことじゃないよ。フェリもこんな気持ちなのかなって」

 私はフェリじゃない。自ら世界をどうこうできるような自信はない。けど、そんな私ですら間違った方向に進もうとした時に間違いなく止めてくれる人がいると思えるのはこんなにも心強いことなんだ。本気で世界を向こうに回そうとしているフェリがやたらと私を信頼したがるのも同じような理由なのだろう。

「こほん。早速だけど、協力をお願いしたいことがあってね」

「お気軽にどうぞ。私の予想では――快く応じると思うな」



 頭上では樹冠がざわめき、遠くでは小川のせせらぎが歌う。これがピクニックであればさぞ楽しかったろうけれど、残念ながら今回はそういう趣旨ではないので道もない場所を藪漕ぎしながら進んでいる。ロムさんの秘密兵器は侵攻を目的として配備しているものではないという言葉を裏付けるのが今回の目的だ。

「こっちで合ってる?」

 獣道を指差すとアトミールがうなずく。ときどき進路上で何かが弾ける音がするのは彼女が進路上の毒虫を電波で焼く音だ。

 アトミールがロムさんに仕掛けた装置は彼がどんな風に歩いたかを正確に捉えていた。翌日に回収した情報によれば、派出所から九十分ほど歩いたこんなところに足を運んでいたという。まさかお散歩というわけもない。そんな私たちの推測を景色の変化がだんだんと裏づけ始めていた。

 遺跡だ。真四角な練岩づくり、無機質な建物が木々に埋もれている。足元の獣道もいつの間にかボロボロの舗装路へと変わっていた。

 知らぬ間に入り込んだ遺跡の先に、一箇所だけ綺麗に手入れされた建物が見える。

「あれだね」

 流石に小声だ。

 建物の陰に入って手帳を広げる。連邦内の主要な遺跡についてはメモを取ってあったけれど、こんな場所の遺跡は記録がない。とすると、ここは連邦が管理している秘密の遺跡ということになる。

 遺跡にある秘密兵器。だんだん想像がついてきたぞ。

「ある程度大きな国なら古代の大型兵器をここぞというときのために取っておいてるものだけど、こんなところに隠してたものがあったんだ」

 有名なものとしては「帝国の牙」と呼ばれる北辺帝国の機械式戦闘車や「ケイレアの火」と呼ばれる連邦の長距離古代砲がある。「アミリス・オナーの海峡砲」だって小ぶりだけれどその一種と言えるだろう。だけどそういうものはだいたい領土の奥深くに置いているもので、こんな国境付近には置かない。隣国から見たとき深刻な脅威に写るからむやみに緊張を高めてしまうし、隣国に奪われる危険だってあるからだ。

 じっと建物の方の様子を見ていたアトミールがこちらを振り返る。

「無人警備が入ってる。重要施設なのに人が見えないでしょ。電子光学装置がいくつも見える。通信もがんがん飛んでるね」

 そう言って自分の目を指差した。機械的な目がいくつも光っているということなのだろう。

「どうする?」

 私の質問に彼女は眉ひとつ動かさない。

「制圧したよ。多分崩壊戦争後に再構築したシステムなんだろうね。動いてはいるけど保全が甘すぎる。貸して」

 アトミールは受け取った手帳に素早く建物の内部を描き出していく。

「内部は平屋。シャッターのある部屋を取り巻くように三辺に別の部屋がある。こちら側の部屋は監視室兼兵員控え室。一般の兵員らしい人たちが九人、比較的身分の高そうな人が1人。隣接する辺は通路と倉庫になってる。日用品とか武器とかいろいろ。忍び込むなら多分ここからがいちばんいい。最後に反対側の辺。こっちは自動倉庫だね。多分中心部の部屋にある何かを自動的に保守するためのもの」

「なるほど」

 相槌を打ってすぐに気がついた。

「真ん中は?」

「それがね。多分ここは機械的な監視をしてない。あるいは建設当時の監視システムをそのまま使っているのかも。自動倉庫のシステムなんかは流石にこの距離だと侵入できてないから」

「近づくと入れるの? なんというか……電波の強さみたいなものが関係するのかな」

「そうじゃなくて。取れる選択肢が増えるの。基盤から漏れてる電波を拾うとか、侵入を警戒するための部品を焼き切るとか」

 いずれにしてももっと近づかないと秘密兵器の正体はわからないか。近づくのは怖いんだけどなぁ。

 アトミールの情報通り機械さえ静かにしてしまえば警戒は甘く、すぐに建物のそばまで近づくことができた。倉庫兼通路にあった勝手口には鍵がしてあったけどもアトミールの白い泥(・・・)を前にしては形なしだ。そのまま手はずどおり自動倉庫へ。ここにも見張りはいなくて、さほどの苦労もなく入り込めた。はずだったのだけど……。

 足を一歩踏み入れた瞬間にアトミールの表情がこわばるのを見て私も足を止めた。彼女の目が一台の机に向けられている。画像表示装置が置かれていて、お辞儀をする擬人化された機械の絵が見えた。

「クロエ。状況を説明するね。私たちは警備兵の監視はごまかせていた。でも、あそこにある自律無人機には気づかれていた」

「おっしゃる通りです」

 画面に文字が表示された。声を出して話すことはできないらしい。

「本機は連邦軍車両重整備システム管制自律無人機。管理下にある車両を制約条件のもとで健全に維持することにのみ関心があります」

 文字の代わりに一枚の絵が表示される。物を売る人、そして買う人。

「私たちは取引を持ちかけられている。重整備システム管制自律無人機は私たちを見逃して私たちの知りたい情報を与える。代わりに私たちはあちらに必要なものを与える」

「必要なものって?」

 再び画面の文字が切り替わった。

「電源です。予測可能な範囲において永遠にして、本機が想定する需要の範囲において無限の」

 この建物を表現しているであろう絵が大写しになり、絵の構図はそのまま天空を仰ぎ見る。四角く黒い翼を無数に持つ機械の塊が群れを成しているのが見えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] いわゆるトラクター工場かぁ… これは移せないわな
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