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79.おもしろい。

視点が凛和→キイ となります。

「ううーなんなんですの! なんなんですのー」


「なんなんなんなん。どうしたの⁉」


 時の流れが戻り、急にどさりと地面に倒れてそう音を上げた女性に、毬さんは若干身をたじろぎながらも彼女に声をかける。あ、彼女にとっては前触れもなく急に目の前の弥生凛和をビンタした人間が倒れた形なのか。怖い。

 ていうかこの人、今なんていった? ですの?


 女性は起き上がろうともせずにまるで子供の用に手足をばたつかせていた。

 身長が160は軽く超えてそうな人がこんな姿晒してるの現実で見ることがあるなんて思わなかった。


「うあああ……。騙された感じがすごいんですの。なんでなんですの」


「なに、この、なんですのさん。一瞬にしてテンションが変わったんだけど。でもこの女の子に謝ってほしい。あと私の手を掴んでいいから起き上がってほしいかな。私たちよりも大きそうな人がそうやっているのなんかちょっと嫌だし!」


「うぅ……ありがとうございます」


 素直に礼を言いながら女性は彼女の手を掴み立ちあがる。

 それから軽く身なりを整えた。土ぼこりまみれでは気が引けるらしい。

 

「よし、起き上がったね。偉い偉い。それじゃあ、この子に謝ってほしいかな」


「それは嫌ですの」


 ぷくーという擬音が付きそうな態度をしてくるこの人はいったい何なのだろうか。

 いやでも、まあ、どうでもいいけれど。


「ああ、大丈夫だよ、毬さん。別に誤ってすむものじゃあないから。大丈夫。私は気にしてない」


「でもさ、言ってもいいこと悪いことくらいあるよ。あとその返答ってすごい根に持ってそうなんだけど」


「毬、こういうのってあまり突っ込まない方がいい。凛和がそれでっていうならいいし。それでいいんだろ」


「うん」


「でもさ「じゃあ、俺ら用事できたから行くわ。凛和、紀異さん、また学校で」


 そう言って、彼は言葉を遮られてぶーぶーいっている毬さんの手首をつかみ、そのまま道路の方に足を向けた。


「うん。また学校で」


 こういう時の優人って何も言わなくてもその場で察してくれるから助かる。ありがたすぎる。今度なにかあげよう。


「優人さーん、また図書館でー! 次会う時なんかいいもの持っていきまーす」


 そうして大きく手を振る紀異さんに見送られながら、優人は彼女を引きずるようにしながら去っていったのだった。 




「それでは、私たちも行きますか」


 彼等の姿が見えなくなった瞬間、彼女はいつもの場所へと歩き出した。



***


「いらっしゃい。おや?」


 ドアが開閉された合図に反応し、骸さんが私たちを出迎えてきた。けれど、すぐに意識は別のところに行き、首を傾げる。

 しかし、すぐに合点がいったようで、彼女に向けて丁寧に頭を下げた。


「これはこれは。白雪家の方ですね。お初にお目にかかります」


「え? ええ」

 

 ただ、この2人の反応を見るに、彼女は自分の家柄の周知度をあまり認識できていないらしい。

 白雪家は人間界に住んでいる魔族ならだれでも知っている。この家の当主は自分の命欲しさでかなりの投資をしてくれる。結構金払いがよい。たしか美容系の会社を経営しているのだったか。それと何かやっていた気がする。まあ、要するに、そこはいい顧客である。私はそんな認識であった。


「お好きなお座席へどうぞ。メニュー表は各席にございますが、気になるものがございましたら何なりとご質問ください」


「……わかりましたわ。ありがとうございます」


 やけに腰の引くに従業員に彼女は若干引きながら礼を伝える。あれ、もしかしてココがどういう店が分かっていないのかもしれない。骸さん、初めましてと言っていたし。


「キイちゃんたちはどうする?」


 話がひと段落したので、彼は私たちに話を振ってきた。そういえば、やけに白雪家の御仁の視線がチクチク刺さってくる。なんでそんな格好してんだ、って言っているかのよう。魔族が魔族の格好をして何が悪いのか。これが私のありのままの姿だ。あと、この姿の方が凛和ちゃんとの視線があう。

 とりあえず、私は道中で決めといた飲み物を彼に伝える。


「私たちはいつもの席で。とりあえず私はいつもの珈琲で凛和ちゃんにはアールグレイをお願いします」


「うん。わかったよ」


 一連の流れが終わり、私たちが席に着こうとした時だ。


「まちなさい!」


 どこか少し圧迫感のある声が部屋に響いた。

 …………うるさいなぁ。


「んー?」


 ああ、感情が表にでてしまった。

 まあ、別にいいけれども。


「あ、あの、わ、わたくしも一緒にお茶をしてもよろしくて?」


 そしたら先程の威圧感はどうしたのかと落胆するような、おどおどした態度が返ってきた。

 私の先程の声がそんなに彼女を委縮させたのだろうか。それともあの脅しが少し効いているのか。

 面白くなってしまった私は、少し圧をかけるように彼女に問う。


「なんで?」


「いや、あの、その。お話したいことがありまして」


「よかった。私もあなたとお話ししたかったんだ。それなら一緒の席に座った方がいいね」


 ああ、面白い。しっかり反応をしてくれた。でも立ち話はあまりしたくない。


「骸さんごめんなさい! 席なんですけど、カウンターではなくて、そこの青いソファーと赤いソファーの席しても良いですか?」


「ああ、構わないよ。三人でそこに座るってことでいいんだよね?」


「はい!」


「わかった。追加メニューが決まったらよんでね」


「ありがとうございます」


 優しく仕事をこなしていく骸さんに軽く頭を下げ、先ほど私が指定した席に白雪家の方にもわかるように凛和ちゃんを案内する。

 それから食べるものを決め、彼を呼び、それを伝えた。


 そしたらもういいだろう。

 本題を始めよう。


「さて、ではお話を始めましょうか」


 そう言って、私はできるだけ優しく微笑んだ。


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