77.はじめまして!
「優人くんってホンットーっにサイテーだと思うなっっ! 別れる!? 別れる!? いいよ! いいよ!? 凛和ちゃん、君と付き合わないと思うけど!」
ここは三人が来たことがある公園。そう、あの花が綺麗だった公園だ。前に私が優人とあっついミルクティーでわちゃわちゃしていた場所に、今、優人は正座をして、目のまえで仁王立ちしている彼女さんにに叱られていた。
そしてそんな様子を私と紀異さんと遠巻きにだが見ている。なんかわからないけれど、近くに居たらいけないような気がしたんだ。
「いや、本当に、なんといっていいのか……」
「そこは素直に謝ってほしいかな! ていうか、私たちの思いを繋ぎ合わせるのに尽力してくれた子に対してそんなこと言うのってどうかと思うんだけど!?」
「はい。それはごもっともです」
「そんなことしてると優人くんが触手攻めにあって大変なことになっちゃう薄い話を書くよ!」
「妄想ではなく?」
「なんでいつもしていることをわざわざ進言しなくちゃいけないのさ」
「いつもしてるの!?」
「してるよ! でも妄想の中で納まらせてる! えらい! 私偉いよ!」
黒いポニーテールが体の動きと共に揺れているのが見える。
彼女の通っている学校は制服がないため、今着ている服は制服、ではないはずなのだが、白いシャツに少し明るい青色のリボンとスカート、と、何処かの制服か? と思えるようなものを身に纏っている。
そんな彼女を見ながら、紀異さんがぽそっと私に耳打ちしてきた。
「……凛和ちゃん」
「何、紀異さん」
あのさ、とどこか歯切れの悪い様子だ。どうしたのだろう。
「この子も誰にとは言わないけど、負けず劣らず……変わっているね」
彼女に傾けた耳をああ、と言いながら私は元に戻す。
「まあ、でも一緒にいて愉快だし、楽しいよ」
あの子がいると会話が途絶えることってあまりないんだよな。
なんか動作が大きいし、でも不愉快ってわけじゃなくて、見ていてとても楽しい。今だって優人に向かってなんか熱弁しているし。なんかスマートフォンを取り出して彼の前にドーンとか言いながら何かを見せ始めた。何やってんだろ。
「愉快の度を越えてない?」
「そう? 周りにいるものがあれだから基準がおかしいかもしれないけれど、一般的な人だと思うよ」
ただちょっと趣味に拗らせがあるだけで。
でもあの人たちと比べたら健全だよね。
と、そうしている間に話し合いが終わったらしい。
たたたっと音を立ててばんざーいっていいそうな雰囲気で両手を上げて軽快に、満面の笑みでこちらに向かってきた。
「凛和ちゃーん。今度優人が鑑賞会付き合ってくれることになったー!」
彼女は勢いはそのままに私に抱き着いてくる。なんとなくこうしてくるだろうなと思っていた私は彼女を抱きとめる。
「おおっと、そうなんだ。良かったね」
「鑑賞会、とは?」
彼女によく聞かされていることなのでスルーした言葉に紀異さんが首を傾げた。
その言葉を聞き逃さなかった彼女は私から離れ、同じくらいの背丈の少女の手を掴む。
……助けを求めるな。彼女はパーソナルスペースが狭いんだよ。
「あ! 初めましてだよね。私、燈林毬! 鑑賞会っていうのはね、推しジャンルの映像を見ながらキャーキャー言ったり、語ったり、拝んだり、泣いたりする会のことだよ!」
「あ、初めまして。月詠紀異です。泣く……?」
「尊いと泣く」
「ん? あ、あ~。なるほど」
「うん。まあ、そういう人類もいるって思っておけばいいよ。というか、つくよみってどう書くの?」
思考回路を放棄したことを察した毬さんが話題を逸らした。というよりも、気になったことがほかにできたという方があっているのだろうか。
紀異さんもそれをありがたく受け取って嬉々として説明をした。
「えっ、お月さまの月に、歌詠みの詠むって字を書いて、月詠です」
「めっちゃ雅な苗字じゃん。え、名前は名前は?」
「糸と己を組み合わせた字が紀で、異は奇異の異」
「最高じゃないですか」
「えっ、そうかな」
ものすごい褒めてくる毬さんに紀異さんがまんざらでもなさげに笑う。
ものすごい上機嫌だし、とぼとぼと毬さんの後ろから来た優人の雰囲気がすごい。まってこっち見るな。助けを求めるな。私は行かないからな。
「うん。めっちゃいい! 名付け親様センスありすぎでは……?」
「えっ、えへへ。そうかな」
「ウ゛ッ……」
優人と無言の攻防を繰り広げていると、毬さんが急に心臓を抑えてうずくまってた。えっ、何が起こった? 先ほど目の前の彼女はほほを指で少し触りながら微笑んでいただけ……あっ。
「えっ。どうしました!?」
事の原因であろう彼女があたふたしてしている。
その下で少し幸せそうな、何とも言えない表情をした少女が胸に手を当てる。
「美人のはにかんだ顔は……良い……世界を救う……」
「ちょっ……えぇ……?」
あー、やっぱこの子は愉快だなあ。
***
見るからに高級そうな車の中で流れる風景を眺めている女性がいる。
その女性の目元は隈があり、よく見ると肌も荒れているようだ。
と、なにかを見つけたのか、運転手に叫ぶように止めるよう伝えた。
彼が命令に従ったのを感じると開けられるのを待たずに自分で取っ手に手をかけ、外に出る。
彼女は車窓から何かを見つけていたらしく、迷うことなくある場所に向かって歩いて行く。
彼女が向かっていたのは公園らしい。花壇には色とりどりの花が咲きていてとても綺麗だ。
そしてその花々には目もくれず、麻木色の髪をした女性は金色の目を吊り上げて、薄茶色の触角がやけに長い髪をした少女に歩を進めていく。
だが、少女はその女性を見たことがないらしく、なぜ自分に向かってきているのだろうと目をぱちくりさせている。
だが、その少女の隣にいる黒髪の少女はその女性を知っているようで目を見開かせている。そして何を察したらしく、彼女を取り押さえようとした。が、結果的にそれは間に合わなかった。
女性が少女の目の前に着いた瞬間、なにかが叩かれたような、弾かれたような鈍い音が響く。
そして同時に――
――この、人殺し!
そんな悲痛な叫びが公園一帯に落ちていった。




