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65.なんで!!それで!!付き合ってないの!?

 私がトイレから戻って、外に出た時、一番に私に気づいたのはぼたんちゃんだった。


「あ! 凛和おねえちゃん帰ってきた! 遊ぼあそぼ! 優人おにいちゃんすぐ疲れてたのしくないの!」


 そんな嬉しそううに不貞腐れてるぼたんちゃんの後ろには、ぜーはーと息切れを起こしてる優人がいる。あの吸血鬼に時間を止めてもらっていたから、私がここを離れていたのって4分くらいのはずなんだけれど。うわあ……体力無……。


「いいよー! 遊ぼあそぼ―! 優人……この機会にジョギングでも始めたらどう?」


 時間が合えば私も付き合うからと付け足して言うと、彼は死にそうな顔でいや……お前が一緒だと死ぬ未来しか見えないから手毬(てまり)に付き合ってもらう……。と答えてきた。私が一緒だと死ぬとはよくわからないけれど、彼女さんと一緒にトレーニングをするのはいいと思うし、ジョギングをしないという選択肢を選んだのすごい。私だったら速攻で拒否しそう。


「じゃあおねえちゃん達! だるまさんがころんだしよう!」


 そう嬉しそうにぼたんちゃんがかわいい狐の尻尾と耳を揺らしながら言ってきた。


 うん、いいよ……と言おうとした私と紀異さんは彼女の姿を見て一瞬すべての動きをとめる。耳としっぽ?


「「ああああああああ!? 耳!! しっぽ!! 出てる!」」


「ひゃああああああ!?!?」


私たちは慌てながらも耳としっぽを仕舞うことに成功した。




 夕日も落ちそうになった時間になったとき、おーい、と誰かが誰かをやさしく呼ぶ声が聞こえた。

 ぴょんと再び狐の尻尾と耳がぼたんちゃんの体から現れる。


「おとおさん!」


 ぱあっとかおをあかるくしたぼたんちゃんはお遊び終わりにしたいい!? と言って私たちの了承を得ると、嬉しそうにその声の方向に向かってかけていき、そして、たんっととびはねたとおもうと、次の瞬間には先ほど優しい声を出していた男性の胸元に抱き着いていた。


 うおっといいながら飛び込まれた彼女の父、御朔(みさく)さんは愛おしそうに彼女を抱きしめてからぼたんちゃんに声をかける。


「はは、元気だなぼたん。でも元気すぎて耳としっぽを生やしたらみんなびっくりしてしまうぞ?」


 はっと今の体に気づいたぼたんちゃんは急いで耳としっぽを体内にしまう。その速さは見事なもので、それを見ていた私たちはおおと感嘆を漏らした。慣れってすごい。

 少しだけ感動していると、ふと、何やらとんでもないものを見てしまったような気がして、気のせいかと思い、何やらとんでもない圧を感じる場所に視線を向ける。すると、そこには静かに、でもはっきりと今見たものは誰にも他言するなと圧で訴える世にも恐ろしい御朔さんの形相が映し出されていた。

 私たちはこくこくと急いで頷き、彼の圧にひれ伏した。




 彼らを見送った後、いやーつかれた! と何か魂を出しているんじゃないかと思えるくらいの声音を出しながら優人が伸びをした。高い背がさらにたかくなる。


「……電柱みたい」


 あ、やば。声に出た。

 ぱっと優人が私を見てきたので、私も反射で顔をそらした。顔をそらした先には花壇が見えた。きれいな、色とりどりの花々が咲いている、レンガ調の整った花壇。夕日に照らされて少しオレンジ色が強調されていて暖かく思えた。


「凛和…………」


 ゆらっとなにかが近づいてくる気配を感じる。私はぎぎぎとその方角へ顔を向ける。うわあ。眼鏡が光ってる。


「ごめん、今のは私が悪かった。いや、あの、背が高いなーって思って、それでちょっと優人がひょろっとしてるもんだからつい。あっはっは……」


「なんでそう、謝りながら墓穴を掘ってるの」


「なんでだろう……。自分に正直に生きているからじゃない?」


「嘘つけ。お前はほとんど嘘で生きてるようなもんだろうが」


 うわー。酷いこと言ってくる。でも本当のことだから否定しようがない。


「優人はほんとうにわたしのことをよく知ってるね」


 兄よりも、家族よりも。


「まあ、3年もつるんでりゃそんなもんだろ」


「そうかなー。私が間借りしてる家には11年もつるんでるのに私の本性に全く気付かない困ったさんもいるんだけれど」


 3年と11年。後者の方が圧倒的に長い時間のはずなのに、秘密を共有していることが多いのは前者の方なんだよなあ。まあ、出会ってからがとんでもなかったもんな。


「いい加減信頼してやれよ」


「やだ」


 あの人たちは私に良くしてくれるけれど、裏がありすぎる。敵を作りすぎている。

 はあー、と優人が大きなため息をつく。が、そのあとにまあ、しょうがないか。と呟いたとき、携帯電話の音が響いた。ごめんと言いながら優人がそれに出る。

 出た瞬間に、あ、母さん? と彼は言った。電話の相手は友見(ともみ)さんだったか。


「ねえ、凛和ちゃん」


「ん?」


 先ほどまで私と優人の会話を生暖かい目で見ていた紀異さんが何やら興味深々な感じで私に言葉をかけてきた。何だろうか。


「なんで優人さんと付き合ってないの?」


 は? と間抜けな声を出しそうになったのを抑えて、私は彼女に答える。


「優人は彼女いるし、なにより」


「なにより?」


「こいつと付き合うなら死んだほうがましだし、もし生まれ変わってであったとしても、絶対付き合わない」


 絶対に。なにがあろうとあいつとは、絶対に。何があっても、そう思う。そう誓う。

 そんな答えに、紀異さんは唖然とする。


「え? 凛和ちゃんって、優人さんのこと嫌いなの?」


「あはは。そうじゃなくて、ただただ信用できる人ってだけだよ。優人は。本当にただ心を許せるなーって思う人なだけ」


 中学の時、本当に互いにやらかしまくったからな。そして互いにその傷を癒しあった。痛みを共有した。共有してしまった。


「ソウナンダ……」


 あ、疑っ……じゃない、呆きれてやがる。本当にそうなんだけどな。まあ、どう思われたって別にいいんだけれど。

 私たち2人の話がひと段落したとき、狙ったかのように、なあ。と優人が私たちに声をかけてきた。


「ん? 何? どうした?」

「どうしました? 優人さん」


「母さんが2人といるって話したら、よかったらうちでご飯食べてかないかってとても嬉しそうに言ってきてるんだけど」


 少しめんどくさそうに、申し訳なさそうにしているところを見るに、ほとんど連れてこいと脅迫されたんだろうな。あの人に。うわー会いたいし、向こうも会いたいと思ってくれているってことか。嬉しい。


「今日私の家誰も帰ってこないからいいよ。私も友見さんに会いたいし」


「友見さんって誰?」


 あ、やってしまった。

 紀異さんの何気ない質問に優人は当たり前のように答える。


「俺の母さん」


「ああ、そう。ちょっと待っててください。今家族に連絡とるから」


 あ、声で反応するのも諦めやがった。あ、でもなんかすごい目で見られている気がする。まあ、いっか。

 私になんとも言えない視線を向けたあと、紀異さんは水色のカバーが付いた携帯電話を取り出し、誰かに電話をかけ始めた。誰だろうか。いやまあ、大体予想はつくけれど。


「あ、き……兄さん? 今日ね、お友達の家でご飯食べてくるから。うん? 凛和ちゃん家じゃないよ。でも凛和ちゃんといっしょー。えへへー。いいでしょー。ん、楽しんでくるー」


 そう言って電話を切った紀異さんは嬉しそうに、いいって!! と笑ってー言ってきた。電話の相手、キリトだったな。あいつも電話持ってんのか。そっかー。どうでもいいや。

 優人が私たちの返事を電話の相手に伝えて、やるせなくわかったと言って電話を切ると、


「じゃあ、そうと決まれば行くかー」


 と私たちに言ってきた。うーん。やっぱり顔が怖い。


「おー!」


 そんな怖い優人の合図に合わせて紀異さんが楽しそうにこぶしを上げる。楽しそう。もしかしたらこういうのは初めてかもしれないのか。あ、でもあの2人と一緒にいたときはどうだったんだろうか。まあ、今考えたってなにもならない。


「あ、ここから優人さんの家ってどれくらいかかるんですか?」


「ここから? たぶん10分くらいだと思うけど。どうしたの?」


「いや、あの、凛和ちゃんと優人さんすごく仲いいじゃないですか。だから昔、何があったか少し聞きたいなーって思っただけで」


「んー。なるほど」


「俺はいいよ。凛和は?」


「あたしもいいよー。別に紀異さんには話して嫌なことないし」


 あ、仲いいことは否定しないんだこの2人。

 そんな呆れを通り越して感心したような言葉が少しだけ耳を掠った気がした。

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