62.水を……ください……
「――だぁ!! 一抜け!!」
そう言って倒れるように公園のベンチに座った優人を追いかけるように、左右に陣取った二人の少女がくたびれた男子の腕を勢いよく引っ張る。
「あ、優人さんそれはいけませんよ!?」
「そうだよ! 優人おにいちゃん!! 疲れたからって、勝手に終わるのだめぇ!」
「いや、本当に無理なんだって! 凛和と紀異ちゃんはわかってたけど、ぼたんちゃんもなんでそんなに足が速くて体力お化けなの!?」
「わかんない!」
「そっかあ!」
勢い良く、いいお返事をしてきた少女にもう太刀打ちできないと思ったのか、そう答えた優人は一拍間を置いた後、まだ彼女たちに腕を引っ張られている状態で私を見てきた。
いや、見られても困るんだけど。
本当に目で助けてと言われても本当に困るんだけれど。
「凛和ー」
「何」
私は二人を優人から引きはがしながら聞く。まあ、これができたとなれば、言ってくることとか大体予想ができるが。
私がため息混じりに二人で遊んで来てというと喜んで了承してきた。さっきの攻防はなんだったのだろう。もう思考回路がよくわからない。
体力馬鹿な魔族たちがいないくなったことを確認した優人は私に命乞いするようにすがってくる。
お前の顔ですがられると本当に怖いからやめてほしいんだけど。慣れないから。
「後で金渡すから水を……水をくれ……マジで干からびる。もうなんなんだよ……いろんな奴を頑張って捕まえても数秒後には鬼になるって……俺何か悪いことしたのか……? いや、してない。していないはずなんだ……頑張って走っていただけのはずなんだ。それなのに……なぜ……もう体力が限界を迎えすぎて無理……死ぬ……干からびて死ぬ」
「……わかったから、ちょっと口閉じて待ってろ。そして手を放せ。買ってこれるものも買ってこれないから」
私がベンチの隣にある自動販売機で水を買って優人の手にそれが渡って彼が生き返ったのを確認すると、私は少し申し訳なさそうな顔を作りながら彼に言った。
「ねえ、申し訳ないことこの上ないのだけれど、ちょっとお手洗いに行ってきたいから、少しの間ぼたんちゃんと3人で遊んでもらっていてもいい?」
「あ? いいけど、俺が倒れる前に帰って来いよ」
「……ありがと」
当たり前のように私の願いを了承してくれた彼が少し面白くて私は笑いながらトイレへとかけていった。
変なの。そんな言葉を彼がつぶやくのが聞こえた。変で上等。
でも、これからそこに戻るとき私がどうなっているのかわからないから。
個室についた私は深呼吸をして、あるものをイメージする。
すると私の足元に黒い水たまりのようなものが出来上がってきた。今からここの中に私は落ちる。はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。
でも聞こえてしまったんだ。
彼に水を買っている時に、確かにリンと異様に澄んだ鈴の音が。
もう後には引けないし、やるしかないとわかっている私は意を決してその水たまりの中に入った。しっかりと、執念深くあるものになりたいと願いながら。




