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39.考察はほどほどに

 なんで私がここに来たのか。そんなの決まっている。


 私は彼女の質問の安易さに驚いてから、ふふっと少し耐えきることができなかったので笑いながら答えた。

「それは、私自身のことを知りたかったからです。悪魔にそそのかされたとか、母たちのことを悼みに来たとかはまあ、それもそうなんですけれど、二の次で、私の過去をここに来れば何か知れるのではないかと思ってきました」

「そっか、うーん、本当すぎてつまらないな。というか悪魔にそそのかされたのは認めちゃうんだ……。それに、お母さんたちを悼みに来るのが二の次とか親不孝な娘だね」


 それは私自身だって自覚している。でも本当のことなのだからしょうがない。それに、あの親たちは、なんか自分の殺された場所にずっと居たがるようなやつでもないから、ここに花を供えても無駄な行為だと思えてしまう。

 ここには、私のちゃんと血のつながっていた方の親はいないと思うんだ。


 第一あの事件の後にここから親の死体は見つからなかったらしいし。


 それに、今ここにきてだからこそ思うのだが、この家がある場所は本当にあの事件が終わった後に捜索が行われたのだろうか。ただ家が火事で崩れただけで、その後に誰かが捜索したとか、そんな雰囲気が一切感じられない。

 人が、この家の残骸に足を踏み入れたとは思えないのだ。第一、足を踏み入れたのならばここはもう更地になっているはず。ということは……

「そう、ここの家には人なんざつま先一つ踏み込んでいない。というか、踏み込めなかった」


 セツさんがご名答! というばかりに食い気味に私の考えに割り込んできた。とても楽しそうに、愉快そうに私の考えを肯定してくれている。

 その行動の答えに、私の頭には新たな疑問が浮かぶ。踏み込めなかったとは、どういうことなのだろうか。ということだ。


「そんなのは簡単、ボクたちが入れなかったんだよ。あ、ちゃんとボクがこの家に住む座敷童としてこの家の全部を捜索しといたから安心しといて。その証拠に写真立てが君の元に届いたでしょ?

 入れなかったのは人っ子一匹、というか、虫一匹とかだね。入ったものならば、ちょっと痛めつけていったんだ」


「ちょっととは?」

 私はなんだか嫌な予感がしたので、彼女に質問を投げかけてみた。すると思った通りの素晴らしい回答が返ってきた。


「ちょっとこの村からおさらばしてもらった」


 その回答の最後尾にはなぜだかハートマークがついていそうなとてもかわいらしい返事だった。見事な落差だ。私はその回答をさらに細かくする。

「おさらばとは」


「えっとね、凛がさっき上がってきた階段を上りきったときに、ちょっとした楽しい幻想を上りきった人に、おめでとう! ってことで植え付けるんだ。すると上りきった人たちは顔色を変え、急いで階段を駆け下りてくれるどころか、村から去ってくれるんだよ」


「…………ちなみに、どのような内容なのですか」


「死者というか、悪霊が足元から手と頭だけ出して自分を引きずり込もうとするさまを見せつけるのんだ。結構面白いよ」


 トラウマになるな。それは。彼女がとても楽しそうに笑っているのを見ると余計たちが悪い。

 というか、こんなのが私の家の座敷童って。不安でしょうがないのですが。


 あれ、そういえば。

「セツってどのくらい私の家に住み着いているのですか?」

 これはとても気になる情報だ。彼女の言い分では私の両親が殺されたあの時にはこの家に住み着いていたように思える。

 となると、彼女はこの家のことにある程度詳しい。となると、私のことにも詳しいかもしれない。ちょっと、興味がわいてきた。


 が、現実はそううまくいかないようで、彼女はニヤリと不吉な笑みを浮かべてきた。ああ、そういえば私の思考は彼女にまるわかりなんだっけ? 行動原理が割る分かりなんだ。


「それは、あることを条件に教えてあげるよ」


「あること? それはなんだかとてもめんどくさそうな感じがするのは気のせいでしょうか」


「うーん、めんどくさいことではないと思うよ。ただ、ちょっと体を張ることなだけだよ」


 体を張るとはどういうことだろうか、というか、どう考えてもめんどくさそうなことでしかないと思う。まあ、今私の身に起こっている状況も十分厄介でめんどくさいのであまり変わらなさそうだ。


「あはは、そう思うかい? しょうがないか。じゃあ、凜はどうやら長話が好きな子ではなさそうな感じがするから手短に話すとするか。手短に話すとするのならば一言で足りる。魔族を守ってほしい。それがボクがこの家に住み着いている年数を教える条件」


「…………へ?」


 私が……魔族を……守る? とは?


「ああ、やっぱり唖然としてしまった。まあしょうがないことか、君のその全体に及ぶ傷は魔族にやられたものだからね。

 大丈夫、君にそうした傷をつけた者は今までのように完膚なきまでに殴り倒していいし、ぶった斬ってもいい。守ってほしいのは何も罪を犯していないのに殺されたり、囚われそうになっている魔族だ。欲を言えばとらわれた魔族も救ってほしいかな」


 私の思考が追い付かないまま、よくわからないことを捕捉しながら彼女は話を進める。いや、よくわからないことではない、私の今後にとてもつながることだと思われる。

 でも、これって結構重要なことなのだろう。なんで私なんかにって、これどこかによくあるテンプレっぽいな。


「そうだよーテンプレだよー。言うならばそうだね、ボクと契約して魔法少女になってよ!」


 すごい聞いたことがある言葉だった。それを聞いての私の反応は決まっていた。

 私はこれでもかってぐらい顔をしかめはじめる。まるでセンブリ茶を飲んだ後みたいに。

 そして一言。


「うわあああ……」


「まって、超ドン引きするのだけはやめて。マジでやめてよ。言ったボクが傷つくよ、悲しくなるよ。で、返事は?」


 私の反応を見たセツさんは涙目になりながら私の言動に思った通り傷ついてくれた。

 ちょっと嬉しい。そして面白い。

 いたずらしてしまった代わりとばかりに、私は自分の本心と思えるものを無意識に口に出していた。


「……たぶん……いいよ。やる」


 私の視線は下に向いてしまったが、それでもそれは間違いなく、私の答えはそれだった。下を向いてしまったのは、私の考えが本当にそれでもいいのかと自分に強く訴え来てしまったからだと思う。

 でも、口から出た答えはそれだった。だから、多分それは私の本当に答えなのだろう。


 私は恐る恐る目の前にいる少女に見える何かに目線を向ける。完全に彼女の全体を私の瞳がとらえたとき、彼女の瞳は濡れていた。

 なにか、とてもきれいな真珠の玉のようにキラキラと光って、大きな水の塊が、その黒い瞳から流れている。


「え、なんで泣いているの!?」


 私は驚いて彼女に数歩駆け寄る。数歩で止まってしまった理由は私と彼女の距離が近かったからではない。彼女が制したのだ。私は何でもないと、そう制してきたからだ。

 彼女は着物の袖でその大粒の涙を拭きとる。


「だって、断られると思ったから。びっくりして。大概の源は自身が死地に追いやられてからこういう打診というか、誘いをするんだよ。そして大体それは断られてしまったんだ。どうせいつかなるとわかっているのに、それが掟であり、使命であることを知っているはずなのに、自分のことが怖くて、これから起こるであろう出来事が怖くて断ってしまう。それなのに、そんな掟も、使命も知らないはずの君が一発オッケーしてくれたことがうれしくてしょうがなかったんだよ」


 ああ、なんだか読めてきた。

 私の家庭はそもそもがやはりどこか特殊だったのか。そして、私はその一瞬聞こえた源というものなのだろう。


「ねえ、凛」


 すると、さっきまで泣いていたはずのセツさんが急に真顔になって私をとてもつまらなそうに、それでいて怒っているかのようにじっと見つめてきた。

 私はそのよくわからない行動に身を少し逸らせる。

「え、何ですか」


「察しのいい人はあまりかわいくないと思うんだ」


 彼女はとても抑揚のなくなった言葉を私にとても雑に投げつけてきた。

 どうやら私の考察はあっていたらしい。


「なんか……ごめんなさい」

察しのいい人は嫌いだよbyマセツ

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