40.天界の長ですけどなにか?
「謝るほどのことでもないよ、大丈夫、ボクがきみに向ける警戒心が少し強くなっただけだから気にしないほうがいい」
それはとても気にしてしまうではないか、とてもじゃない罪悪感が私を支配する。まあ、もう過ぎたことを後悔してもそれはもう遅いと思うから、気持ちを切り替えるか。
本当に私がその源というものなのならば、お兄ちゃんのせいで巻き込まれてしまったことよりも、もっと大変でめんどくさいことが待っていそうだ。さっき少し説明してもらったものの、やはりこの先不安というか、なんというか、やりたくないという気持ちが強くなってしまいそうだ。
私はじっとセツさんを見つめてみる。すると、私の不安な気持ちをを嬉しくもそれを察してくれて溜息交じりにセツさんは口を開いてくれた。
「言葉で言ってくれればいいのに」
説明より先に要望が出たが、それを私は笑顔で持論を述べる。
「だって、どうせ読まれるんだからしゃべらなくてもいいじゃんって思いまして」
「それはそうなんだけれど。まあいっか。大丈夫だって、さっき言った通り、魔族を守るだけだから、ヒーローと呼ばれている、あの逸れ者たちから何にも罪を起こしていない魔族を守ってくれるだけでいいんだよ。まあ、どちらかというと魔族の味方をしてほしいってことになるんだけどね」
「つまり、闇落ちしろと?」
だとしたらとても嫌だ。今すぐにでも全力でお断り願いたいという気持ちがもっと強くなっていく。あんなことをしてきたやつらに味方などしたくない。そうするぐらいならば、できるかわからないけれど自分の身を喜んで切り刻んで死んでやる。
が、それは私の思い違いだったことを知った。なぜならば、白髪の目の前の少女は首を横に振ってきたからだ。
「違うよ。さっきもさらっと言ったけど、魔族と言っても何も罪を起こしていない魔族だよ。人を殺したものは君は味方にならなくていい。寧ろ君の持っている異能でナイフを取り出して切り刻んでくれて構わない。
ただ魔族ということだけで自称ヒーローと名乗っている馬鹿な奴らから殺されたり、捕らえられたりしている、ましてはされそうになっている魔族の味方になってほしいんだ。
そう、例えば君の後ろにいるまっくろくろすけ君みたいな魔族をね」
「え?」
まっくろくろすけ君? それはどんな人なんだ……? あ、待って、なんか魔族の気配を感じるよ、私の後ろに何かがいるぞって、私のなんかわからないものが反応しているぞ。というか、この気配どこかで感じたことが……。
なんでだろう。とっても振り向きたくない。もう、体から拒否反応が出ている。もう後ろを振り向いた瞬間目が腐るのではないかと思えてしまうほど嫌な存在な気がする。
そんなことを軽く私が思っていると、後ろから男の声が聞こえてきた。
「凛和ちゃーん、お久しぶりーでもないか。ねえ、今昼間なのに出てきてあげてる俺の気持ちにもなって。あの怖い怖い鬼からここに行ってこいって言われたから、何事かと思って来てあげたんだけどさ、まっさか凛和ちゃんがいるとは思いもしなかったなー」
ああ、とても聞き覚えの声だ。私の首元に傷をつけたやつの声だ。とても嫌だ。話すのも嫌だ。マジでどこか行ってくれないかな。
私が虫を噛んでいるような顔をしていると、私の代わりにセツさんがあの吸血鬼に返事を返してくれた。
「なんかお前見るとムカつくな。というか久しぶりだな、元気にしてたか?」
「ええ、元気にしていましたよ。それに、マセツさんも元気でなによりですね。というか凛和ちゃん? なんで振り向いてくれないの?」
どうやら吸血鬼野郎はセツさんよりも私のほうに興味が沸いているようだ。
たとえるのならば、何も持っていない父親よりも、おやつを持っている母親に飛びつく子供みたいなものだろうか? とにかく、そう思ってしまうほど、吸血鬼のセツさんに対する応答はそっけなかった。
それに何かとてもムカついたようなセツさんはにっこりと笑いながら、やり返しとばかりに私の思っていることを勝手に吸血鬼に言ってくれた。
「吸血鬼くん、どうやら凜は君の体を見ると目が腐りそうと思えるほど君のことが嫌いみたいだよ?」
「え、ひどい。というか凛和ちゃんいいこと教えてあげる、背中ががら空きだよ」
セツさんの代弁で私の身の安全が安全されたと思ったつかの間、私の背中にはあの吸血鬼の胸板が付いていた。それに首元に腕がまわされている。
え、まって、これ何、これってなんていうんだっけ? バグっていうんだっけ? 抱き着かれたっていうんだっけ? どちらにしても私が驚いたと同時に気持ち悪くて顔色を青くして泣きそうになっているのは変わらない。
「うわああああああああああああああああああ!!」
私は涙目になりながら絶叫に近い叫び声を上げて、キリトの体を振り払い、今度はセツさんに背中を見せる形にをとった。
本当最悪。もう無理。辛い。どんなにこいつを後ろに立たせていたのを後悔してもし足りないぐらいの失態を起こしたのかしれない。もうやだ、あの時の恐怖はまだぬぐい切れていないというのに。
悲しさに心を浸しているのも時間の無駄だと思ったので、私は涙目のままキリトの顔を見た。すると、彼はニヤリと不吉な笑みを浮かべながら、私に話しかけてきた。
「お久しぶり。凛和ちゃんの絶叫もなかなかいいね」
変態だ。というか、絶叫認定された。なんか悔しい。
「でもそんなに俺のこと嫌いなの?」
「嫌いだよ。大嫌い。そんな奴に抱き着かれたとかもう鳥肌もんだよ、というか、なんでここにいるの」
「うわあ、ひどい。ちょっと逆らえない人から命令されただけだよここに行けって、こわーい鬼婆に」
にししと吸血鬼が笑う。と、その陰に何やら黒い影が見えた。その影はとてもかわいらし気な声を出してくる。
「誰が鬼婆だ」
そんな声が聞こえたと同時に、キリトの顔がどんどん青ざめていった。どうやらキリトにここに来いと命令したのはその影らしい。とても逆らえるような関係にあるとは思えない。
キリトに顔を青ざめられた影……女の人はため息をつきながら、ざっざとどこか貫禄のある足音を鳴らして私のもとに近づいてきた。
その人はとても色気のある女の人で、長い前髪を右側に無造作に垂らし、長い黒髪を上半分だけ少し止め、あとは何も施していない、ハーフアップという髪形をしていた。とてもきれいで長い黒髪で、お尻ぐらいまではあるだろうか? それに、セツさんが白というのなら、この人は黒と言ったほうがいいのかもしれない。肌はセツさんとともにとても白いのだが、そのほかが全部黒い。髪、服、靴。すべてが黒かった。まあ、指し色は赤なのだが。
で、目の色は青かった。青というか、水色に近そうだが、まあ、どちらにしても見ていたら引き込まれそうにきれいなものには変わりはなかった。
そんな女の人が、キリトにかぶさる感じで私の前の前に来て、優しく、まるで天使のように優しく笑ってきた。
「初めまして、我の名はハギナ。もととなる種族は鬼。天界の長となるものをやっている、よろしくな」
鬼、感じるオーラのようなものもちゃんと鬼だった。ああ、だからさっきキリトに鬼婆と言われていたのか。というか、え?
「天界の……長?」
私が目をぱちくりとさせるとハギナと名乗った女性は一瞬ぷっと笑う。
「まあ、天界の長となるものっていえば普通のものならば神様を思い浮かべるからな、その反応をするのもしょうがないか。確かに、人間というものは天界というものは死後に行くものであって、神様がその世界では優しくもてなしてくれるという言い伝えが多く回っている。そしてそれを信じている。当たり前のように。でも実際は違うんだよ、あ、ちゃんと神様はこの世界には存在しているぞ? あそこにいるやつが神様なんだ」
「ボクは座敷童だ、ハギナ」
秒で否定してきた。というか、セツさんは神様なんだ。マジでさん付けで呼ばないといけない気がしてくる。
「ああ、ハイハイ、そうだな。あと、今のは冗談だ。安心しろ。まあ、天界なんて名前は建前で、本当は監獄って言ったほうがいい場所なんだけどな。どう言うことかって言うと、天界はのほほんとしてそうでしていない場所なんだ。ああ、でも大丈夫。天界は殺すことは許さないからそこらへんは安全だぞ」
え、監獄? いやだ、私のイメージが全て崩されていく。天界イコール物騒ということになってしまう。
そして、なんとなくわかった。
「ねえ、セツさん」
「なんだ」
私は少し後ろを向き、セツさんに尋ねてみる。
「もしかして、源というやつは厳密にいうと、天界に所属する刑事みたいなものなのですか?」
それを聞くとセツさんはニッと笑って、
「そーだよ」
と言ってきた。声とのギャップに驚くが、とてもかわいらしい笑顔だった。
それならば、それならばいいだろう。
「じゃあ、私引きうけますよ。その役目。本当に、もう言ったからには逃げ出さないから、どんなことがあってもやめるだなんていいませんから」
「そう、じゃあ、よろしくね。凜」
彼女はそのまま笑顔で私の返事を受けてくれた。
キリトを見ると、とても意外そうな顔をしていた。




