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25.わからないこと

 目を覚ますと、彼らが私を見ていた。私は彼らに向き直るように上体を起こしてから、身体の状態を確認した。さっきよりは傷は浅くなってはいるが、やはり完全に治ってはいない。命の危険にまでには及ばないが、放っておいたら面倒くさくなりそうというような傷の深さだ。

 それを見ていた吸血鬼はめんどくさそうにしながらも、こう言ってきた。


「まずはお前の治療から始めるか。それをしながらお前が知りたそうなことを教えてやる」


 なんだなんだこの吸血鬼。私の初対面の印象からは大分かけ離れていくよ。何を企んでいるのかわからないが、私に何かやってきたら銀のナイフで首を掻き切ってやると一応強がりというか、警戒しているとわかる言葉を掛けながらお言葉に甘えることにした。

 だって、吸血鬼だよ? どんなところをとっても危険要素しかないやつだよ? それに隣には悪魔がいるんだよ? 不安過ぎて怖いわ。


「わーってるって。俺は今のところ分かっている情報を提供しながら、俺の食料である凛和ちゃんの白く綺麗な肌と紅く美味しそうな鮮血を舐めまわすように見れるんだから、そんな状況で襲い掛からないから。大丈夫安全だから。にしても凛和ちゃん年齢にしては幼児体け……ぐわっ」

「……殺す……」

 今吸血鬼は私に言ってはいけないことを言った。よってこの場で処す。

 ということで私の手には銀のナイフが握られていた。吸血鬼にとってただならぬ被害をもたらすとされる銀のナイフ。

「今のはキリト様のほうが悪いと思います」

 私が血塗られた体のまま吸血鬼にナイフを向けていると、目で彼に助けを求められていた少女は呆れたように溜息を吐きながらそう言ってきた。そして彼女は楽しそうにからかうように言葉を続けた。

「よって今回は凛和ちゃんの味方をいたしますね」

「なん……だと……!?」

 これには予想外だっただろうか、吸血鬼は目を見開いて体を震わせる。おお、キイさんのお言葉は効果絶大だ。素晴らしいわ。

 ということで私はキイさんと共にキリトにじりじりの歩み寄る。

「分かった。分かったから! ごめんなさいごめんなさい! もう体型のこと言わないから、言わないから許して、許してください! あの、凛和さんの赤い眼光がなんかものすごく怖いんです! いや、銀のナイフも怖いけれども、あのホント、マジでごめんなさい!」


「ん? 赤い眼光? 私の目の色って茶色のはずだけど……?」

 彼の必死の訴えに引っかかるところがあったので私は歩みを止め、銀のナイフを消した。

 紅い眼って、確かさっきあの女の人にも言われたよね。それに確か私にはなかったものって言われた。どういうことなのだろうか。

 それを見て彼はほっと胸を撫で下ろし、説明を始めてくれた。話題転換をできる絶好の機会だからな。これを逃したらもう後は無いと思ったのだろう。

「そう、赤い眼光。今のお前の目は赤く染まっているよ。不気味な感じに光っていたりもするし。なんなら能力で鏡とか取り出して見てみればいい」


「……わかった」

 私は言われた通り能力で手鏡を取り出し、自分の顔を見てみる。すると、目が、妖しく、紅く、奇麗に光っていた。

「なに、これ」

 その眼はずっと見ていると、自分で言っていいのかわからないけれど、まるで操られそうな感覚になるほど綺麗で美しくて、見惚れてしまうものだった。

 私はそれを確認した後、手鏡を消し、彼に向き直った。それとともに自分の体の治療に入った。そろそろ血を止血しなければ貧血になってしまう。貧血で倒れてしまったのならば、彼らに助けてもらったのになんだか申し訳ないことになってしまいそうだ。

 それに倒れた隙に吸血鬼に血を吸われそうで嫌だ。

「それは俺らにもわからない。ただ分かっていることはお前は致死量の傷を負わされ、死ぬ直前になった時に目が紅く怪しく光りだし、死んで生き返って一定の時はそのまま紅く光っている。俺の屋敷で死んだときも確かそうなっていたぞ」

「まじか……」

 止血し終わり、身体にべっとりと付いた血を拭きながら私は落胆する。吸血鬼でもわからないとは何事か。私の体の仕組みはどうなっているんだ。

 そして、背中の血を拭こうとしたら、悪魔の娘が手伝ってくれた。なにこの子優しい。本当に悪魔なの?


「そして、話題は変わるが、お前にいいことを教えてやろう」

「いいこと?」

 私は一瞬目を光らせながら疑い深い目でとてもうきうきとしながら話している彼の言葉に神経を集中させる。

「そう、いいことだ。それは――なぜ凛和ちゃんが襲われている時に誰も助けに来なかったか、だ」

「…………!! わかるの!? なんで来なかったのか」

 あたしは一気に彼の言葉に身を寄せてしまう。なんであんなに叫んでも誰も来なかったのか、なんでお兄ちゃんは助けに来てくれなかったのか、お兄ちゃんはなんで、なんで……。

 これは、私の頭を掻き乱すほどのことだった。

 彼は意気揚々と語ってくれた。それは、たった一言で足りるものだった。

「ああ、わかるよ。なんで来なかったのか、それはだな、時が止まっていたからなんだ」

「は……」

 時が止まる、時間の停止。それは、どういうことなのだろうか。

 私は拭き終わった身体を確認すると、血や斬られた後てボロボロになっている制服を元に戻した。その光景を見て二人からは感嘆の声が漏れたが、そんなことを拾っていては話が進まないので無視し、ガーゼなどで傷を覆っていく。


 彼は言葉を続ける。

「加えて付け足すのならば、動いているんだけれど動いていないという感じか?」

 …………? もっとわからなくなった。

 私が首を傾げると彼は頭をぼりぼりと掻き、眉を軽く八の字にしながら言葉の解説を始める。

「あああ、だからな、えっと……」

「凛和ちゃんと襲ってきた魔族の時間の流れだけ速まったんだよ。えっと時間で例えるのならば、一秒が十分程度になっていた。だからどんなに助けを呼んでも誰も助けに来なかったし、あなたのお兄さんも助けに来なかった。にしても矮小すぎる。そんなに位の高い魔族じゃないくせに時間を止めようとするだなんて。だからキリト様にとどめを刺されるんだよ」

 いい説明が思いつかなかった吸血鬼に代わり、キイが分かりやすく説明をしてくれた。そして、彼女の言葉から察するに彼女らはそれなりに高い魔族というものの位にいるらしい。というか、それってものすごく強いということなのではないだろうか。

 やばい、これは気張ってないとあっけなく殺される気がする。

 すべてに治療が終わった私は手伝ってくれた彼女に例を言いながら、本格的に吸血鬼たちに向き直る。

「というわけで、君のお兄さんが来るはずも来れるはずもなかったということだ」


「そうか、なんかそれならしょうがない気が……というかさ、聞いてもいい?」

「なんだ?」

 私はそれ以外に気になって、問い詰めたくてしょうがなかったことを彼に話す。

「私が約一週間前、あなた以外に初めて襲われた時あなたは助けてくれる前に言った言葉、あれは下心が有りすぎてはないですか?」

「…………なんのことだろうか」

「あ、それは私も思ってました」

「……なんの……ことだろうか……」

 彼の言葉は弱々しくなっていく。よし、もう一押しだ。

「え? 完全記憶能力という訳の分からない私があなたの言葉を忘れると思いですか? 『俺のものに手を出す奴は殺す。だから安心して寝な』だっけ? かっこよさげな台詞のように聞こえるけれど要約するとすごいことに……」

「だねー。キリト様要約した言葉言ってあげましょうか?」

「あああああああああああああああ! いうな! いうな! 恥ずかしい! 無理! 耐えきれない!!」

 よし勝った。

 吸血鬼は顔を赤く染め、当てどころのない恥ずかしさを胸に慌てふためいている。ああ、面白い。

 キイさんのほうを見ると声は抑えているものの、肩をぶるぶると振るわせ、腹を抱えて笑っていた。この子には忠誠心というものは無いのだろうか。


 少しして、二人の様子が落ち着いた後、彼らは言った。だから襲われた時は思いっきり対抗していいと。逃げなくていいと。でないと本気で後戻りできないことがやってくると。

 それの深い意味はよく分からなかったが、私は頷き、深く胸に刻んだ。


「よし、じゃあお前は走れ」

 話が終わると吸血鬼はそう言ってきた。

「なぜ?」

 私が首を傾げると彼は少し早口の口調で言ってくる。

「お前の兄貴がこちらに向かってきている。めんどくさいことが起きるうちに引く。お前も巻き込まれるのは嫌だろう。もう眼の色は戻っているから気にしなくてもいい。だから走ってこの場から逃げろ」

 おお、それは一大事だ。お兄ちゃんのうざさは私はよく知っている。そんなお兄ちゃんに私のこれまでのことが気付かれたのならば大変なことになりかねない。

 私は慌てて頷き、この場を後にすることにした。

「あの、本当にありがとう!」

 そんな言葉を置き去りにして。


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